勝者が天皇から賜る杯=賜杯(しはい)と聞いて真っ先に思い浮かぶのは大相撲でしょうか?!

その賜杯を掛けた国内最高峰の一戦、天皇杯といえばサッカーでしょうか。

いいえ。今や数ある「天皇賜杯」の中でも、最初に下賜されたスポーツこそ、実は競馬でした。

1880年6月9日。根岸競馬場で行われた「The Mikado’s Vace」において、歴史上初めて勝者に銀製の花瓶が授与されたのです。

当時は馬力=国力。明治天皇もまた馬匹改良にはとても熱心に取り組まれ、この後も「The Emperor’s Cup」や「The Emperor’s Gift」として、様々な形で天皇から賞品を下賜される競走が全国各地で実施されていました。

また、今でこそ日本の競馬は「大衆競馬」だと言われていますが、その歴史を紐解けば、日本の近代競馬もまた欧州同様、皇室や貴族、政財界の実力者など紳士淑女の社交場でした。だからこそ、半世紀もの間、「The Emperor’s Cup」には賞金は無く、「天皇賜杯」の価値が重んじられてたのです。

ところが、1899年を最後に、明治天皇は競馬場へは巡幸せず、次に天覧競馬が実現したのは、なんと106年後。あらゆるスポーツに先駆けて誕生したはずの天皇賞に、天皇の姿は無かったのです。

時代の変遷と共に様変わりしたのは、何も日本の競馬ばかりではありません。特にお話したばかりの英国・エリザベス女王を思うと、日本の競馬は大切な歴史を隠してしまったのかもしれません。

 

 

MILKY KORA

馬ジャーナリスト / Maraque編集長。京都生まれ。
幼い頃から馬術を嗜み、乗馬専門誌の編集を経て馬ジャーナリストとして独立。2010年に世界最高峰のホーススポーツを伝えるEquine Journal Maraqueを、さらに2014年にはより専門性の高いMaraque for Professionalを創刊。現在は日本で唯一のホーススポーツ専門誌として発行を続ける傍ら、ライダーのマネジメントや馬イベントの開催など馬に関する幅広い活動を行っている。