ジ・オープン、68年振りに北アイルランド至宝リンクス、
ロイヤルポートラッシGCで開催。

 

さあいよいよ7月18日から21日にかけて、今年最後のメジャー大会、ジ・オープンが開催されます。
今年の最大の注目はタイガーやケプカ等、トップツアープロ達だけではなく、何と68年ぶりに北アイルランドの至宝リンクス、ロイヤル・ポートラッシュGCで開催される事です。
前回1951年の北アイルランド大会でも開催はこのロイヤル・ポートラッシュでした。ジャック・ニクラウスがアマチュア時代、初めてメジャーに挑戦した年が1957年の全米オープンですから、それよりも更に6年も前の事です。

首都ベルファストから北に約90km、火山活動で生まれた4万近くもの石柱群が海岸線に連なる世界遺産ジャイアンツコーズウェイ(Giant’s Causeway)があります。そこからブッシュミルズの村を経由して海岸線ルートを走り、ポートラッシュの町に着く3km程手前のカーブを曲がると突然視界にこの宝石のようなリンクスコースが現れてきます。
その時、誰もが「おー!」と叫ぶほどの美しさであり、それはリンクスマニアたちのゴルファーたちにとっては感動の瞬間でしょう。

※北アイルランドの世界遺産 Giant’s Causeway

さてここで少しロイヤル・ポートラッシュの歴史についてお話ししましょう。
ポートラッシュの街は19世紀当初から北のリゾート地として注目され、多くのセレブ達が訪れる中、街の東に続くリンクスランドにゴルフコースを求める声があがり、クラブは1888年、ベルファストの名士たちによって設立され、9ホールが完成した後、その噂を聞きつけた地元の名士たち含め70名のメンバーが入会をします。丁度その頃、ベルファスト周辺では球聖オールド・トム・モリスを設計家として招き、ロイヤル・カウンティ・ダウンGCの建設も進められていた頃で、ポートラッシュもこれを機会にトム・モリスに設計を依頼、コースを18ホールに拡張するに至ります。

※ リンクスの球聖Old Tom Morris

 

1891年にはメンバーの数も250名に増え、その予算から二つの18ホールを持つクラブに成長します。その後、ブッシュミルズ街道の北東部のリンクスランドを得たことから、1929年、名匠ハリー・コルトを招聘し、レイアウトの変更など大幅なコース改造計画がスタートします。ここで2つの18ホールコースはダンルースリンクス(Dunluce Links), ヴァレーリンクス(Valley Links)の名称を持つことになり、1932年に完成に至ります。ところが7年後の1939年にそれまで街中にあったクラブハウスをコース敷地内に移設する事から、それまでの1番と18番のホールを壊し、新たに現在の10番、11番ホールがコルトの指示のもと、ヘッドプロのP.G.スティーブソンにより増設されました。
戦後の1946年にコースは大きな修復作業を行いますが、コルトの設計とレイアウトは2015年、ジ・オープン開催に備え、マッケンジー&エバートの設計チームがコースをリノベーションするまで大きく変わることはありませんでした。

※ Royal Portrush GC #16番PAR3 Calamity Hole(災難) 後半のキーとなるホールの一つ。

※2015年までのレイアウト図 フェアウェイをグリーンに表しているコースがジ・オープン開催コースのダンルースリンクス

上の図は2015年に改修・改造が行われる以前までのレイアウトです。
ダンルースリンクスも7,143ヤードあり、PAR72を71にすればアイリッシュオープンまでは十分対応できる器にありました。しかしジ・オープンともなるとギャラリーの数は半端なく世界中から訪れます。スタンドの数、更には世界中からのメディアを迎え入れるセンターに、ショップなどの特設会場を設ける用地が必要となります。
主催のR&Aとクラブ側、更にコース担当の責任者であるマーティン・エバートとの協議の結果、17, 18番を使用せず、ヴァレーリンクスの5, 6番ホールのある用地に新しい7, 8番のホールを建設し、16番ホールを最終の18番にする事で決定しました。

 

※図 Valley Links 5 ,6番の用地に7, 8番を造成、海岸線に沿った低地となる。

しかし改造計画を発表する数週間前にまた大きな問題に直面します。それはR&Aに属するゴルフ史家達の苦言から起こりました。旧17番ホールのフェアウェイ右にあった巨大な名物バンカー通称「ビッグナリー(Big Nallie)」を失ってしまう事であった。コルトが残した遺品とも言われ、クラブメンバーたちからも愛されていたバンカーでありました。

※ 旧17番ホールに存在したBig Nallie Bunker

マーティン・エバートはこれと同じ規模のものを新しい7番ホールの右に造る事を提言、ティからダウンヒルラインでバンカーを捉える点がオリジナルとは異なるが、その出来栄えはオリジナルに等しい威圧感ある存在となっています。

※ 丸で記したところが7番ホールの新しいBig Nallie Bunker

※ 新しくなったダンルースリンクスのスコアカード

 

以上が、ジ・オープンの改造、改修によって行われたレイアウトの変更です。
Ebertの設計チームは、コルトのオリジナル性を生かした14のグリーンの改修、内、7, 8番を含む5つのグリーンはロケーションを変えて新しく造られました。新しく増設されたバンカーは10、それとオープンに備えた8箇所のティボックスを設けました。
2ホール分の用地をダンルースに提供したヴァレーリンクスのレイアウトは、
新しく#15, #17番をPAR3、そして最終18番をPAR3からPAR4に変更しています。

 

ロイヤル・ポートラッシュの特徴。

ポートラッシュの最大の特徴は、高低差23 mの地形の中にレイアウトされたドッグレッグホールです。2,5,8,9,10,11,15,18番の8ホールがドッグレッグラインにレイアウトされていることです。エバートはここに最大の注意点を払い、ティの移動、バンカーの増設を行いました。
北方のリンクスに吹く風は地面から吹き上がるもの、地面に叩きつけるもの様々です。この風の読みがドッグレッグホールには必要なようです。一つ間違えればペナルなハザードが待ち受けています。

 

#1番 432ヤード PAR4
オープニングホールのタフさではオーガスタナショナルに引けは取らないホールになるかも知れません。距離は無くとも2段状のグリーンはフロントの勾配がキツく、またサイドも同様です。的確なアプローチショットが求められます。ピンが手前に切られた日はボギースタートで良しと納得する選手たちが出てくるでしょう。

#2番 574ヤード PAR5
最初の浅いドッグレッグホールです。
ドッグレッグポイントの奥左手317ヤード地点に新しいバンカーが設けられ、
手前にレイアップするか、その右を狙うのか、2オン狙いのターゲットになるでしょう。フェアウェイは海に向かい縦のスロープが波のように流れ、エバードによって復元されたコルトのオリジナルグリーンもスロープが縦のコンターライン(Contour Line)を形成しています。

#3番 177ヤード PAR3
ハリー・コルトならではのサークルグリーン(円形状グリーン)は四方にスロープが流れる所謂馬の背グリーン、タートルバックグリーンと呼ばれるタイプの形状です。前後より左右に落とされないよう注意が必要です。

#4番 482ヤード PAR4
ホール名は1947年の全英を制した地元のFred Dalyに敬意を表したもの。リンクスマニアたちから最も人気の高いホール。その一番の理由が、グリーンが砂丘のマウンドに囲まれたセミブラインドのクラシックなパンチボウル状のグリーンコンプレックスであること。

#5番 374ヤード PAR4
クラブがアウトのシグネチャーホールと称するホール。グリーンは海岸に面し、コースの最も右端に位置します。オープンティからは90度右にドッグレッグするだけにラフの砂丘を越え、どのポイントまで近づけるか注目です。グリーンはアングルを持った縦長グリーンだけに風によってはドライバブルを狙う選手もいるでしょう。

#6番 194ヤード PAR3
内陸へのアップスロープに配置されたノーバンカーの美しいPAR3. グリーンは縦49ヤード、幅もあるが自然のコンターを絡めたアンジュレーションは複雑。
ホール名にはショートホールのミケランジェロと称えられた設計家ハリー・コルトの名が付けられている。

7番 592ヤード PAR5
マーティン・エバート設計のニューホール。ティショットは砂丘の谷間に向かって打ち下ろしていく。280ヤード地点に旧17番ホールにあったBig Nallieのレブリカ版バンカーがある。

8番 434ヤード PAR4
左ドッグレッグのこのホールは、ティからダイアゴナルラインでナチュラルサンドハザードとラフの谷間を超えていくショットが要求されます。どこまでグリーンに近づけるか、但しフェアウェイは300ヤード地点から先が狭くスロープが左右に流れるのでリスクを伴います。グリーンは砂丘の高台に配置されたプラトーグリーン。絵になるホール。

9番 432ヤード PAR4
ここも浅い左ドッグレッグラインがフェアウェイをダイアゴナル(Diagonal)に捉えさすタフなホール。右サイド310ヤード地点に新しいバンカーが設けられている。グリーン手前の二つのバンカーがコルトのデザインの特徴。

10番 447ヤード PAR4
ノーバンカーのホール(リンクスではけして珍しくはない)。凹凸のある砂丘地帯に囲まれたフェアウェイは340ヤード地点から右にドッグレッグし、縦44ヤードの細長いグリーンに正対する。ロングヒッターにアドバンテージを与えているが、このドッグレッグポイントへの風の計算、それよりも確実に手前にレイアップし、ハザード超えでグリーンを狙う攻略法を選択するか。選手たちの攻略法に興味尽きないストロングホール。

11番 474ヤード PAR4
ここも右へのドッグレッグポイントが攻略の鍵を握るでしょう。全英を二度制したパドレイグ・ハリントンはダイアゴナル(Diagonal=斜め対角線)に攻めるフェアウェイは狭く、グリーンを視界に入れるまでの距離を求められるティショットは世界中で最もタフな条件にあると述べています。更にグリーンは砂丘の一段上にある為、最終日、トップ争いをする中で折り返し点のキーとなるホールでしょう。

12番 532ヤード PAR5
全英に備え、オープンティを11番グリーンのすぐ左に設け、ホールは50ヤード伸ばしました。ポートラッシュでは珍しくストレートにレイアウトされたホールですが、300~330ヤード地点、フェアウェイ右サイドの2つのペナルバンカーは避けなければなりませんが、スロープが左から右に流れている為、転がり落ちる危険があります。また砲台状の台地に置かれたグリーンは、11番同様にフロント部分の勾配は厳しく、間違ってもGally(横長の溝)のある右手前には打たないよう細心の注意が必要。

13番 194 ヤード PAR3
縦長で斜めのコンターライン(Contour Line)が複雑なアンジュレーションを形成するグリーン。左右手前は4つのバンカーでガードされ、ここもピンが手前に切られた日は攻略が難しくなる。コルトの美感性が今も生きているホール。

14番 473ヤード PAR4
60ヤード後方にさげられたオープンティは、12, 13番グリーンの間に配置されています。フェアウェイのスロープが右から左へ流れる中、右310ヤード地点のバンカーの先のフェアウェイ左手335ヤード地点に新しいバンカーが設けられました。砲台状の36ヤードの縦長のホグスバック(Hog’s Back=雄豚の背)形状のグリーンは前後が厳しい傾斜となっている。左手に外せば、バンカーに転がり落ちるので絶対に注意。ポートラッシュで難度の高さはトップ3にランクされるグリーン。

15番 426ヤード PAR4
海岸線に向かう浅い左ドッグレッグホール。ホール左手の砂が露出したヴェストエリアが印象的なホール。フェアウェイ右サイド300ヤード地点に設けられたバンカーをターゲットに攻略ルートを考え出すホール、慎重にレイアップすれば、わずかな高低差であってもグリーンは確認できない。フォトジェニックなホールの一つ。

16番 236ヤード PAR3
谷越えでしかも打ち上げとなる236ヤードのPAR3、距離が足らなければ谷間へ下る崖の深いラフにはまる。アイリッシュオープンでは多くの選手たちがグリーンセンターから左サイドにターゲットを置き、吹き荒れる風に対抗してきた。ホール名のカラミティ(災難=Calamity)はティに立った瞬間にそれを感じさせる。世界のTOP10 PAR3ホールに選ばれ続けている名ホールだ。

17番 408 ヤード PAR4
砂丘のアップヒルなラインから打ち下ろし、300ヤード地点から更にダウンヒルなスロープがグリーンに向かう。打球のランによってはバンカーに転がり落ちるケースもある流れのスロープ。ティショットにミスが出やすいホール。

18番 474ヤード PAR4
最終18番もドッグレッグラインで締め括る。フェアウェイ右手280ヤード地点のバンカーを境に右へドッグレッグする。左はOBラインがスタンド手前まで続くが、フェアウェイ右サイドからだと砂丘がグリーンをブラインドにするケースもある。これまでは16番ホールであったが、タフなPAR4が最終ホールに設定された。

さて大会4日間のチケットはすべてソールドアウト。この間、237,750人の観客が予想されます。それはタイガー人気で239,000人のギャラリーを集めた2000年のセントアンドリュース大会に次ぐ数字です。
68年ぶりの北アイルランドでのジ・オープン。
これまでIRAなどの政治的問題も絡み、ジ・オープンは見送られてきましたが、それらも全て払拭され、北アイルランドでのメジャー大会復活、さあいよいよ始まります。

Text by Masa Nishijima
Photo by Larry Lambrecht, Mackenzie & Ebert, R&A, GOLF.com
Royal Portrush GC.