欧米のプライベートクラブにお邪魔すると、プロショップとクラブハウスが別棟にある例が多い。これにはクラブに所属したプロゴルファーたちの深い歴史がある。英国で始められたゴルフではあるが、クラブやボールなど用具の開発は、米国がゴルフ産業のイニシアチィブを握る時代がすぐに訪れた。クラブに所属するプロたちは、トーナメントの遠征に出かける度に、メンバーたちから新しく開発されたクラブやボールの購入を依頼される。そして彼らがそれらの品を荷物に詰めて帰国し、手数料を頂戴しているうちに、それを自分たちプロゴルファーの特益とした。中にはトーナメントなどどうでも良い、買い付けに走るプロたちも多くいたという。この歴史から、クラブ側がヘッドプロに、ショップの運営権を与え、用品の買い付けはもちろん、レッスンなどのプログラムもすべて委ね、彼等は、ゴルフにおけるメンバーの相談窓口的役割も果たすようになります。プロショップの名称はこのような理由から誕生したのです。つまりそこはクラブ運営とは別物となるヘッドプロたちの職場なのです。従って、メンバーたちの多くは、信頼あるヘッドプロに、クラブのフィッティングの調整はもちろん、ボールなど用品の購入まで、クラブのプロショップで購入する方たちが多いのです。プロショップは、ヘッドプロとメンバーたちのコミュニケーションの場でもあるのです。メンバーの紹介で訪れたビジターが、まず向うところは、ヘッドプロが居るプロショップです。そこでメンバーと合流し、クラブハウスのロッカーに行くか、又はそのままコースへ出向くことも少なくありません。欧米ではクラブハウスの施設は使えない、プレー権オンリーのメンバー制度もあります。彼らはプロショップ奥のビジター用のロッカールームで着替えをし、そしてスタートします。つまりクラブハウスとゴルフコースをまったく別物のステータスに置くブライベートクラブです。
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Lavenstein ROYAL BELGIQUE

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Utrechtse GC

日本のプロショップはどうでしょうか?そこに行けど、ヘッドプロはいない、売り子の可愛いお嬢さんが、プロショップとは関係のないはずのご当地産の土産物まで販売している。日本のヘッドプロたちは、自分たちが何をするべきかを考えなければならない時代にあると思います。景気が悪化すれば、「申し訳ないが、ヘッドプロを雇う余裕はございません。」となる。ならば欧米のように、自分達の職場をゴルフ場の中で開発させて頂く必要性を求めるべきではないでしょうか。クラブハウスはあくまでメンバーだけの空間であり、アトモスフェア(Atmosphere)は、その舞台にあわせ、メンバーたちが個々に感じ、作っていくものである。そこにビジターが羨むプライベートクラブ形成の正しいフィロソフィー(哲学)があるはずです。日本のプライベートクラブのあり方、ヘッドプロから、グリーンーキーパー、支配人に至るまで、その意識、存在価値は、メンバーによるメンバーのためのクラブ形成として、日本のプライベートクラブは改革が必要な時に来ているはずです。
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Chicago Club house

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Shoreacres Club house

欧州の名門に多く見られるドライビングレンジ。シーズンによっては芝から打てる。マットから打つ。更にブライベートな個室レンジがその後ろにある。これなんか、冬場や真夏には絶好だし、ヘッドプロからプライベートレッスンを受けるには最高の環境設備です。個々にドアがあってそれを開けるとレンジボックスがある。日本のゴルフ場経営者たちが英米の名コース巡りしても、スケールの違いから参考にできることは少ないと思う。もう20年くらい唱え続けていますが、同じようなスケールにある欧州の名門を旅されると、これは使える! と思える文化圏のアイデアが沢山ある。クラブハウスはもちろんですが、練習場なんかまさにそれだ。日本はどこに行ったって同じような練習場ばかり。「うちのは良いでしょう。ネットなしで300ヤード、距離にあわせていくつもグリーンがありますから。」なんて自慢されても、そこがハイソサイティな名門クラブならば、余計にピンと来ない。個性がなく、ゴルファーの目線、メンバーズ目線になっていないんですね。プライベートレンジ、予算がないと言うならば、仮に3ボックスでもいい、作ってみれば、ヘッドプロの仕事は増えると思う。つまり彼らの価値が生まれる。

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海外のゴルフ場に行かれた方ならばプロショップのあり方をご覧になられていると思う。つまりビジターにとってはフロントデスクです。メンバーにとったらそこは相談窓口です。そしてそこにはPGA認定のヘッドプロの名刺が置かれている。JPGAが会員のプロの雇用の場として、プロショップ改革を何故推進しないのか。不思議ですね。フロリダやカリフォルニア辺りのゴルフ場に務められ、プロ活動されていた日本の方たちならばわかるように、欧米のヘッドプロたちやその下のアシスタントスタッフは、一時も遊んでいません。ビジターの受け付けやシップの店員役はもちろん、メンバーのためのレッスンプログラム、更にはプロの立場で、グリーンキーパーとのミーティングや管理の手伝いもする。名門のメンバーたちにとって、日頃の相談役って、事務方の支配人ではなく、ヘッドプロやグリーンキーパーなのです。クラブハウスとプロショップの分離。明日の日本ゴルフ界にとって、物凄い大事なことです。ビジターは何も畏まってクラブハウスに入る必要などない。プロショップで受け付けし、バッグ担いで、Come and goすればいい。こういう環境を整えた時、ゴルフ税なる馬鹿馬鹿しい二重課税は消えていくのではないでしょうかね?ゴルフは野球やサッカーと同じスポーツなのですから、新しいことに挑戦していかなきゃダメです。

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masa-nishijima-photo-by-brian-morgan_sq-320x320MASA NISHIJIMA

ゴルフコースコメンテーター&コースアドバイザー。東京生まれ。
明治大学卒業後、米国留学。
ドン・ロッシーの元でゴルフコースのクラシック理論を学ぶ。
現在まで世界56カ国2300コース以上を視察。
1989年より、米ゴルフマガジン誌世界トップ100コース選考委員会に所属。
1991年から2015年までは同委員会の国際委員長を務める。
「ゴルフコース好奇心」,「ゴルフコース博物誌」「The Confidential Guide 」などの著書もある