連載 Golf Atmosphere/2023年度第44回ライダーカップ特集
さあいよいよ9月29日から10月1日にかけて伝統ある欧米ゴルフ対抗戦、第44回ライダーカップがイタリア、ローマ郊外(17km)のMarco Simone G&CCで開催されます。
1927年、米国vs英国チームの対戦として始まったこの大会、第二次大戦を挟んで、隔年ごとに開催されて今回で4回目を迎えます。
記念すべき第一回大会は、米国マサチューセッツの名門、ドナルド・ロスが設計をしたウースターCC(Worcester CC)で開催され、ウォルター・ヘーゲン率いる米国チームが圧倒的勝利を収めました。場所を英国に移した29年第二回大会は、アリスター・マッケンジーの初期作であるリーズのムーアタウンGC(Moortown GC)で行われ、今度はジョージ・ダンカン率いる英国チームが7-5で米国を下しました。
ライダーカップは今でこそ米国チームvs欧州チームの対戦ですが、実は1971年までは、米国vs英国だけで行われ、73年からアイルランドチームが英国に加わり、79年からはスペインのセベ・バレステロスの登場などもあり、欧州大陸の選手が加わって現在の米国vs欧州チームの対戦になりました。
ライダーカップは前回米国ウィスコンシン州のウィスティングストレイツ(Whistling Straits)で開催され、前大会まで米国が27勝14敗2イーブンと勝ち越しています。しかし79年欧州大陸の選手を含めた欧州連合チームになった以降は、欧州連合が11勝9敗1イーブンと善戦しています。
97年にはライダーカップの会場が初めて欧州大陸に渡り、スペインのヴァルデラーマ(Valderrama GC)で開催されました。セベ・バレステロスをキャプテンとした欧州チームが激戦の上、勝利をしています。
18年にはフランス、ル・ゴルフ・ナッショナール(Le Golf Nationale)での開催され、やはり欧州連合が見事に勝利したのは記憶に新しいところです。そして今回イタリア、ローマ近郊のマルコ・シッモーネG &CC(Marco Simone)の大会は欧州大陸では3回目の開催地となるわけです。
1978年、都会の喧騒を逃れ、自然に囲まれたカントリーサイドに定住を考えていたイタリアセレブ界のファッションデザイナー、ローラ・ビアジオッティ(Laura Biagiotti)と彼女の後の夫となるジアン二・チーニャ( Gianni Cigna)は、ローマからティボリに行く街道の途中にあるマルコ・シッモーネ(Marco Simone)の城館に魅入られます。
このマルコ・シッモーネ城は、3世紀にローマを囲む城壁に沿って建てられた要塞を起源とし、11世紀にはサン・ピエトロドームが建築され、枢機卿の夏の離宮として現在見る城館の一部が増築されていきました。その後も代々の貴族たちによって増改築が繰り返されますが、塔と城館の外壁は中世時代のままに補修されています。
150ヘクタールにもなる荘園とその城は長くテバルティ家の所有として歴史を刻み、16世紀に城主となったシモン・デバルディは、息子の名マルコ・シッモーネを城の名にしました。その後、荘園は18世紀にはボルゲーゼ家王妃の所有財産となり、その後、マッシモ家のブランカッチオ王子に引き継がれました。
ボルゲーゼ家、マッシモ家は、教皇領を抑えイタリア王国の王家になったサボイア家(仏.サボワ)に忠誠を誓わず、教皇側につき、1929年ラテラノ条約によりバチカンとの二重国籍持つAristocrazia nera、所謂「黒い貴族 」たちでした。ちなみにイタリア史で王政が廃止されるのは1946年の事です。
黒い貴族たちの歴史を調べていくと、小説家ダン・ブラウンの「天使と悪魔」「ダビンチコード」に登場するイルミナティやフリーメイソンの世界に迷い込んでしまいそうな逸話も登場してきます。
イタリアファション界をリードしたローラ・ビアジオッティが城主になっても、マルコ・シッモーネ城は国の有形文化財であり、彼女が望む修復はすべてイタリア政府が公認する芸術家団体によって行われました。そして彼女は2011年、亡くなるまでこの城で余生を送ります。
ゴルフコース建設へ。
かつては狩りの森だった城を囲む150ヘクタールの敷地をより有効活用する為に、一部を農地とし、オーガニック野菜や果実を菜園しますが、80年代半ばには将来的に城の維持管理費の負担を抑える意味からゴルフコース建設の提案が浮かび、それはローマ市に伝えられます。
そして市の北50kmの丘陵地スーテリ(Sutri)に建設中だったラ・クエルチェGC(La Querce)を設計したジム・ファジオ(Jim Fazio)とイタリア人設計家ダービッド・メッツァカーネ(David Mezzacane)を紹介され、彼らにコース設計を依頼します。二つのコースの造成はほぼ同時進行で行われ、マルコ・シッモーネG&CCは、ラ・クエルチェより一年遅い1991年に完成を迎えます。
尚、ラ・クエルチェGCは91年にはワールドカップが開催され、それを機にイタリアゴルフ連盟の本部が置かれたことから、名称をゴルフクラブ・ナッツィオナーレ(Golf Club Nazionale)に改名しました。マルコ・シッモーネでは94年にイタリアオープンが開催されています。
マルコ・シモーネのコースで見る設計家ジム・ファジオ(Jim Fazio)のデザイン性は彼を知る日本の方ならば驚かれるでしょう。アメリカンなモダンコースを設計コンセプトに置く彼にしては、それはあまりにもクラシック調に造り上げている事です。しかし元々彼の師であるジョージ・ファジオ(George Fazio)の作品にあるように地味なクラシックな一面も持ち合わせていました。
イタリアにおけるライダーカップの展望とは。
欧州大陸でのライダーカップ誘致には、旧貴族界の財閥グループのパワーに守られた連盟と国との総合力を感じるでしょう。
韓国のプレジデンツカップも同様でした。 今回の開催はグリートブリテンではなく、欧州大陸からドイツ、イタリア、オーストリア、スペインが競合し、イタリアが勝ち取り、開催コースをマルコ・シッモーネG&CCに決定しました。2015年12月にその発表を知らされた時、誰もがドイツのベルリンだろうと想定していましたが、それがイタリア・ローマです。関係者は唖然とされたでしょう。
イタリアのゴルフ人口、欧州ではクラブメンバー及び連盟に加盟するコアゴルファーをその対象としていますが、イタリアは全土に280コースを持ちながらも、ゴルフ人口は未だに10万人を僅かに超えた程度です。
イタリアはR&Aが出すゴルフ場の数とそのスケールと国民人口比率からしても下から数えた方が早い方です。
ちなみにフランスは国内に665コースを持ち、ライダーカップが開催された2年後、コロナ禍の中、感染率の低い野外スポーツとして急激にその数字は伸びました。なんとその数字は14%の伸びを示し、現在コアゴルファーの数は44万人を超えています。日本と違ってクラブメンバー及び連盟に加盟する100%コアゴルファーの数字です。
一昔前までフランスやイタリアではファション界とゴルフに新しいソサイティーを築いていきました。
18ホールをプレーするより、数ホールを遊んでは、クラブハウスでワイン片手に雑談する事に意義があったのです。しかしながら欧州で躍進する女性ゴルファーの数は全体の25%近くに達し、イタリアもほぼその平均値にあります。ちなみに英国は12.5%と低く、全体のゴルフ人口の比率は英国が最も高いことから、英国を外し、欧州大陸だけならば、欧州大陸の数字は30%近くに達するでしょう。
そして驚くのは16歳以下のジュニアゴルファーたちの数が平均して10%近くを記していることです。ここでも英国は7.3%と遅れをとっています。PGAはこれらの数字を見てライダーカップ会場を欧州大陸により多くチャンスを与えようとしているのかも知れません。
イタリアはライダーカップ開催を機にフランス同様国内のゴルフ人口を伸ばし、更にEU及び海外から数多くのゴルファー達を迎え入れる事でしょう。
ライダーカップ開催決定後、コースはマッチプレー用に大きく改造された。
Marco Simoneはオーソドックスなプライベートコースでしたが、ライダーカップ開催が決定すると、マッチプレーをベースにトーナメントに相応しいコースに改造されました。改造を担当したのはEGD社(European Golf Design)とJim Fazioの息子トム・ファジオ2世(Tom Fazio II通称Tommy)です。
トム・ファジオ2世と言ってもあの名匠Tom Fazioとは血縁関係にはありません。デザイン性も全く異なります。ちなみにTom Fazioの息子は霞ヶ関CC東コースを改造した故ローガン・ファジオ氏(Logan Fazio)で残念ながら昨年他界されました。
改造は2018年8月から始まり、2020年10月に仮オープンし、2021年3月にグランドオープンを迎えました。改造のテーマは1オン可能なドライバブル4を含むリスクと報酬、ヒロイックを演出できるホール構成、トッププロ達のドライバーに対抗するべきバンカリングの配置、グリーン全体のスローピングの数値を上げる等です。そしてラスト4ホールはマッチプレーのドラマに相応しい戦略的ホールとなっています。
大会のセッティングはPAR71 , 7,181ヤード、1日五万人のギャラリーも収容可能というから驚きです。通常のメジャー大会とも違う個人ではあるがチーム戦の特別な雰囲気の盛り上がりを見せるライダーカップ、まさにゴルフの醍醐味を感じさせてくれる歴史ある大会です。
Text by Masa Nishijima
Photo credit by Marco Simone G&CC , La Federazione Italiana Golf、Masa Nishijima, GOLF.com, US GOLF Digest