「馬の目は綺麗ですね!」

馬の話になると、必ずと言って良いほど目に注目が集まります。

なんとも言えない深みのある馬の目。本当に魅力的だと思います。

彼らの目は草食動物の中でも広い視野角をもつことで知られ、「馬の後ろに立たない」というのは、馬の死角となるのは真後ろだけであることを意味しています。

一般に、人の視野角がおおよそ200度であるのに対して馬は350度。犬が250度、羊は270度、牛は330度ほどと言われるのと比較しても、馬はさらに広い視野で周囲を見渡しているのがわかります。

もちろん、肉食動物などの敵から逃げられるように、というのが進化の過程ですが、実は敵との距離を測るのは苦手なことをご存知でしたでしょうか。

浅学ですが、対象との距離を正確に測るのは両眼視野の広い肉食動物の方が圧倒的に得意です。両眼視野とは文字通り、両目で見ることのできる範囲。対象を立体的に捉え、距離も測ることができます。顔の正面に目のあるネコ科の肉食類は120度の両眼視野で獲物を狙います。

これに対し、馬の両眼視野は前方の65度。残念ながら、これでは敵が真正面から襲ってこない限り、逃げ切ることはできないでしょう。

その代わりに得たのが、285度もある単眼視野。左右に離れたそれぞれ一つの目で見るため、平面的でぼんやりしているそうですが、常に広い視野を確保することで生き延びてきたのです。

また、馬は色盲ではありません。人が三原色であるのに対し、馬は二原色。人ほど鮮明ではなく、赤色を識別できないとされています。馬が大好な「赤リンゴ!」と思っているのは人だけで、馬にとってはいつも「青リンゴ!」なのかもしれませんね。

この馬の性質を取り入れているのが、馬術競技の一つジャンピングです。例えば、飛び越える障害物が地面の色調と似ているほど、馬にとっては識別が難しくなります。また、バーの色は単一色より複数色の方が認識しやすく、特に対象的な色調で塗り分けられているほど、ミスが少なくなると予測されているのです。

美しく、時に優しく、時に勇ましく、人の心を惹きつける馬の目。

ぜひ一度、じっくりと目を合わせて見てください。

 

 

 

MILKY KORA

馬ジャーナリスト / Maraque編集長。京都生まれ。
幼い頃から馬術を嗜み、乗馬専門誌の編集を経て馬ジャーナリストとして独立。2010年に世界最高峰のホーススポーツを伝えるEquine Journal Maraqueを、さらに2014年にはより専門性の高いMaraque for Professionalを創刊。現在は日本で唯一のホーススポーツ専門誌として発行を続ける傍ら、ライダーのマネジメントや馬イベントの開催など馬に関する幅広い活動を行っている。