隔年で発表される世界TOP100ゴルフコースと全米TOP100コース。

今年は世界ランキングの年で、この程それが発表されました。速報でお伝えいたします。

昨年から今年かけてのパンデミックは、世界中を飛び回り、ゴルフコースを評価するパネリストたちにとって大きな痛手となりました。

その最中でも2019年から今年にかけて話題となった新設コースは次々と誕生していきます。欧米に関しては今年の初夏辺りからパネリストたちが行き来できるようになり、彼らの投票は大変貴重なものとなりました。ただ感染が収まらないアジア及びオセアニア方面への旅は投票締め切り日までの訪問が不可能であった為、それらのコースの評価は前回とほぼ変わらないものとなりました。

例えば日本の広野と川奈は、前回39位、56位でしたが、今回は37位、62位でした。しかし世界のパネリストたちは訪問できずに大半が前回と同じ評価でした。ランキングの上下移動は、欧米のコースの評価結果に左右され変動したもので、けして広野が前回より高く評価され、川奈の評価が落ちたというものではありません。アジアの新規のコース評価は次回2023年になるでしょう。

それではTOP10コースから解説します。

TOP10

1. Pine Valley 米国

2. Cypress Point  米国

3. St. Andrews (Old)  スコットランド

4. Shinnecock Hills  米国

5. National Golf Links of America  米国

6. Royal County Down  北アイルランド

7. Royal Melbourne (West)  オーストラリア

8. Oakmont  米国

9. Augusta National  米国

10. Sand Hills  米国

 

1位から9位までは前回と変わらず不動のままでしたが、10位にRoyal Dornochに代わり、ネブラスカのSand Hills GCが初めてTOP10入りを果たしました。

Crenshaw & Cooreが1995年に発表したモダンクラッシックコースの先駆けとなった作品です。

*Sand Hills GC 米国 設計 Crenshaw & Coore

TOP 11-25

11. Muirfield  スコットランド

12. Royal Dornoch  スコットランド

13. Merion(East)  米国

14. Pebble Beach  米国

15. Royal Portrush(Dunluce) 北アイルランド

16. Fishers Island  米国

17. Pinehurst #2  米国

18. Trump Turnberry (Ailsa) スコットランド

19. Chicago 米国

20. Los Angeles (North)  米国

21. Friar’s Head  米国

22. Kingston Heath  オーストラリア

23. Tara Iti  ニュージーランド

24. Ballybunion(Old)  アイルランド

25. Winged Foot(West)  米国

 

ここではリノベーションで期待が持たれたRoyal Portrushでしたがランキングダウンをしました。

一部のソッドウォールバンカーをエコバンカーにしたり、サンドフラッシュに変えた事が期待を外した原因かも知れません。

Pebble Beachが更にランクを落としたのとは逆に、Fishers Islandが遂に16位までにランクアップしてきました。

Crenshaw & Cooreの傑作Friar’s HeadとTom Doakのニュージーランドの大作Tara Itiが初のTOP25入りを果たしましたがDoakの出世作品であったPacific Dunesは24位から28位に、MackenzieのCrystal Downsも25位から29位にランキングダウンしています。

この2コースはTOP15前後に長く君臨していた作品だっただけに気なるところです。

* Fishers Island 米国 設計 Seth Raynor

TOP 26-50

26. Prairie Dunes  米国

27. Riviera  米国

28. Pacific Dunes  米国

29. Crystal Downs  米国

30. Sunningdale(Old) イングランド

31. Oakland Hills(South) 米国

32. Seminole  米国

33. Royal St. George’s  イングランド

34. San Francisco  米国

35. North Berwick(West) スコットランド

36. Lahinch(Old)  アイルランド

37. Hirono   日本

38. Barnbougle Dunes  オーストラリア

39. Carnoustie(Championship)  スコットランド

40. The Country Club Brookline(Clyde/Squirrel)  米国

41. Morfontaine  フランス

42. Royal Birkdale  イングランド

43. Somerset Hills  米国

44. Cabot Cliffs  カナダ

45. Garden City  米国

46. Southern Hills  米国

47. New South Wales  オーストラリア

48. California Club of San Fancisco  米国

49. Shoreacres  米国

50. Swinley Forest  イングランド

 

ここでの注目はTOP100コースランキングが始まった1985年当初から常にTOP30位以内にはランクされていたミシガンの名門Oakland Hills South CourseがArthur Hill、Rees Jonesの修復改造以降ランキングダウンを続け、前回は遂に72位まで落ちました。

クラブ側はDonald RossのオリジナルをテーマにGil Hanseにレストレーションを依頼し、その結果、見事31位にまで復活しました。

かつてはUS Open開催コースのリノベーションを担当していた事からOpen Doctorとも称されたRees Jonesですが、この10年、彼のリノベーション、グリーン改造には疑問や批評が集まっていました。しかし今年80を迎えたReesは常に現場には入れず、彼のスタッフや彼の名声につけ込んだ施工業者のビジネスライクからのミスがあったのでは?と考えたくなります。

*Oakland Hills (South) 米国 設計 Donald Ross, Renovated by Gil Hanse

TOP 51- 75

51. Cape Kidnappers  ニュージーランド

52. Bethpage(Black)  米国

53. Portmarnock(Old)  アイルランド

54. Ballyneal  米国

55. St. Patrick’s Links * アイルランド

56. Maidstone 米国

57. Baltusrol(Lower) * great return 米国

58. Camargo  米国

59. Royal Troon(Old) スコットランド

60. Kiawah Island(Ocean)  米国

61. Woodhall Spa(Hotchkin) イングランド

62. Kawana (Fuji)  日本

63. Cruden Bay  スコットランド

64. Sunningdale(New) イングランド

65. Inverness  米国

66. Rye  イングランド

67. Royal Lytham & St.Annes イングランド

68. Winged Foot(East)  米国

69. Prestwick  スコットランド

70. Cape Wickham  オーストラリア

71. Sleepy Hollow  米国

72. Myopia Hunt Club  米国

73. Ohoopee Match Club 米国

74. Ardfin *  スコットランド

75. Casa de Campo(Teeth of the Dog) ドミニカ共和国

 

前回のランキングではTillinghastの名作BaltusrolやDonald Rossの大作Oak Hill East Courseのリノベーションで、Rees Jones設計チームの発想は二つの大作を前回TOP100から滑り落とす結果となりましたが、復活への大役をBaltusrolはGil Hanse, Oak Hillは設計家ではないがこれまでShaper & Project Managerとして数々の仕事をこなしてきたAndrew Greenがそれぞれに大役を引き受け、今回見事にTOP100復活を成し遂げました。

アイルランドではロサペナの第3コースとして今年オープンされたばかりのTom Doakの新作、St.Patrick’s Linksがいきなり55位で登場しました。

コロナ渦の中、この話題の新作発表に14名もの欧米のパネリストが駆けつけました。

スコットランドの旅でもJura島に行く人はカーリングの選手かハンターなど自然派アスリートくらいだとよく言われていましたが、大自然のこの島に2016年モダンリンクス、Ardfinがオープンされ、今回見事74位で初の100選入りを果たしました。

設計はGreg Norman設計チームのメイン設計家だったBob Harrison。Normanの作品の大作と評価されたコースは大体彼が設計していた。リーマンショックの後、独立し現在に至っています。

気になるのはPete Dyeの大作、ドミニカのCasa de Campo (Teeth of the Dog)が75位とランキングを落としている事です。かつては常にTOP25位圏内に君臨していたコースです。

* St. Patrick’s Links Rosapenna アイルランド 設計 Tom Doak

TOP 76-100

76. Oak Hill(East) * great return 米国

77. Castle Stuart   スコットランド

78. Cabot Links   カナダ

79. Royal Liverpool  イングランド

80. Bandon Dunes  米国

81. Kingsbarns  スコットランド

82. Whistling Straits(Straits) 米国

83. Ellerston  オーストラリア

84. Rock Creek Cattle Company  米国

85. Muirfield Village  米国

86. Royal Hague  オランダ

87. Quaker Ridges  米国

88. St. George’s Hill(A&B)  イングランド

89. Yeamans Hall * great return 米国

90. Peachtree   米国

91. Bandon Trails  米国

92. Old Town Club *  米国

93. Nine Bridges  韓国

94. Royal Melbourne(East) オーストラリア

95. De Pan Utrechtse GC オランダ

96. Olympic Club(Lake) 米国

97. Les Bordes (New) *  フランス

98. Diamante(Dunes)  メキシコ

99. St. George’s   カナダ

100. The Golf Club  米国

 

この76~100位のクラスは世界中から最もワールドランキングを賑わす作品が登場してきます。

オランダからはRoyal Hague(Haagsche)とDe Pan(Utrechtse GC), カナダからはCabot Links, トロントの名門St. George’s、韓国からはNine Bridgesが93位にランクアッブされています。

フランスでは名門Morfontaineに続き、Gil Hanseの新作Les Bordes New Courseが見事97位にランクアップされました。ロワール地方の玄関口ともなるオルレアンの近郊にあり、パリのセレブたちが集まるプライベートクラブです。高低差僅か15mの地形を巧みに活かしたそのルーティングは見事です。ここも20~21年にかけて14名のパネリストが視察訪問しています。

米国の二つの名門Oak HillとYeamans Hallは見事100選に返り咲きました。

92位につけたOld Town ClubはAlister MackenzieのパートナーだったPerry Maxwellの作品で、これをCrenshaw & Cooreのコンビがレストレーションし今回見事100選入りを果たしました。

メキシコのDiamante(Dunes)が98位と年々ランキングを落としているのが気になります。メキシコからはかつてNicklaus設計チームのCabo del Sol、1949年に開設された名門Club de Golf Mexicoが100選入りを果たしていましたが、Diamanteはメキシコの代表として踏みとどまってほしいものです。

かつてはTOP50位内にランクされていたSFOの名門Olympic Club(Lake)は全米オープンでのフレームを超えたコースリノベーションが災いしてか遂に96位まで落ちました。 Muirfield Village, Whistling Straitsのランキングダウンもトーナメントへの過剰な意識が原因かも知れません。

Olympic Clubは所有するLake Course, Ocean Courseをレストレーション、リノベーションする計画があるようです。

それをGil Hanseが担当するとの噂を耳にします。Oak Hillのレストレーションを担当したAndrew Greenは現在やはりRees JonesがリノベーションしたCongressional Blue courseのオリジナル復元へのレストレーション作業に入っています。

ここからは私の私感も含まれますが、世界中のクラシックコース、リンクスコースがオリジナルの姿に戻ろうとする中で、オリジナルの粗図面と当時の古い写真からそれを再現しようとする発想は大きなリスクを背負うことにもなりかねません。

例えばCrenshaw & Cooreが行ったPinehurst#2コースのレストレーションですが、彼らは開設された20世紀初頭の頃のコースではなく、1948年の頃の姿をベースに復元作業に入りました。開設当時はノースカロライナの松林の丘陵地帯には芝が根付くのに時間と手間を要し、30年まではサンドグリーンの時代が続きました。それは復元の対象にはなりません。

Royal St.George’sは21年度のThe Openに向けて、Martin Ebertの設計チームがオリジナル回帰を唱え、クラブもそれを承認し、その作業に入りましたが、枕木が縦に立つあの有名な4番のヒマラヤンバンカーは開設当時のサンドフラッシュバンカーに戻されました。また有名なサハラ地帯など古い写真にも見られる砂丘地帯の芝が生え揃わない箇所の再現などもされていましたが、これは正しい選択だったのでしょうか? 少なくともRoyal St. George’sが評価の対象となったのはヒマラヤンバンカーに枕木が設置された時代からのものです。

Ebertの復元作業では日本の広野がやはり同様の方法で開設当時の姿に戻る事をテーマに行われました。

パンデミックの最中、完成後に訪れた海外からのパネリストは僅かに2名で、もし来年以降大勢のパネリストたちが訪れ視察プレーをされた時、今の広野と以前の広野をどう比較されるでしょうか?

少なくともGOLF Magazineが高く評価してきた広野は戦後上田治によって復元された時からの広野の姿です。Tom Doak, Gil Hanse, Crenshaw & Coore, Andrew Green達と比べるとレストレーションへの意識、思考の違いを感じてしまいます。

オリジナルへの復元とは何なのか。そこには時間を巻き戻してはいけないコースへの掟なるものもあるかと思います。

古き名門コースのオーラはいつの時代からのAtmosphereなのか、古い写真に見る芝が生え揃わない砂地の存在の再現、それらを新設の作品で求める設計思考、土地の素材にはない砂地を活用するのは正しい設計と言えるのだろうか? それらはコース設計家達にとって今後の大きなテーマの一つになるはずです。

 

* Oak Hill East Course 米国 設計Donald Ross Restoration by Andrew Green

世界TOP100コース 国別コース数

米国 51コース

スコットランド 12コース

イングランド 10コース

オーストラリア 7コース

アイルランド 4コース

カナダ 3コース

北アイルランド、ニュージーランド、日本、フランス、オランダ 各2コース

メキシコ、韓国、ドミニカ共和国 各1コース

Text by Masa Nishijima

Photo by Larry Lambrecht, Golf Architecture, Renaissance Golf Design,

Golf.com, Les Bordes, Links Magazine.