GOLF Atmosphere No.81 2021/22年度ゴルフマガジン世界TOP100ゴルフコースの発表
隔年で発表される世界TOP100ゴルフコースと全米TOP100コース。
今年は世界ランキングの年で、この程それが発表されました。速報でお伝えいたします。
昨年から今年かけてのパンデミックは、世界中を飛び回り、ゴルフコースを評価するパネリストたちにとって大きな痛手となりました。
その最中でも2019年から今年にかけて話題となった新設コースは次々と誕生していきます。欧米に関しては今年の初夏辺りからパネリストたちが行き来できるようになり、彼らの投票は大変貴重なものとなりました。ただ感染が収まらないアジア及びオセアニア方面への旅は投票締め切り日までの訪問が不可能であった為、それらのコースの評価は前回とほぼ変わらないものとなりました。
例えば日本の広野と川奈は、前回39位、56位でしたが、今回は37位、62位でした。しかし世界のパネリストたちは訪問できずに大半が前回と同じ評価でした。ランキングの上下移動は、欧米のコースの評価結果に左右され変動したもので、けして広野が前回より高く評価され、川奈の評価が落ちたというものではありません。アジアの新規のコース評価は次回2023年になるでしょう。
それではTOP10コースから解説します。
TOP10
1. Pine Valley 米国
2. Cypress Point 米国
3. St. Andrews (Old) スコットランド
4. Shinnecock Hills 米国
5. National Golf Links of America 米国
6. Royal County Down 北アイルランド
7. Royal Melbourne (West) オーストラリア
8. Oakmont 米国
9. Augusta National 米国
10. Sand Hills 米国
1位から9位までは前回と変わらず不動のままでしたが、10位にRoyal Dornochに代わり、ネブラスカのSand Hills GCが初めてTOP10入りを果たしました。
Crenshaw & Cooreが1995年に発表したモダンクラッシックコースの先駆けとなった作品です。
TOP 11-25
11. Muirfield スコットランド
12. Royal Dornoch スコットランド
13. Merion(East) 米国
14. Pebble Beach 米国
15. Royal Portrush(Dunluce) 北アイルランド
16. Fishers Island 米国
17. Pinehurst #2 米国
18. Trump Turnberry (Ailsa) スコットランド
19. Chicago 米国
20. Los Angeles (North) 米国
21. Friar’s Head 米国
22. Kingston Heath オーストラリア
23. Tara Iti ニュージーランド
24. Ballybunion(Old) アイルランド
25. Winged Foot(West) 米国
ここではリノベーションで期待が持たれたRoyal Portrushでしたがランキングダウンをしました。
一部のソッドウォールバンカーをエコバンカーにしたり、サンドフラッシュに変えた事が期待を外した原因かも知れません。
Pebble Beachが更にランクを落としたのとは逆に、Fishers Islandが遂に16位までにランクアップしてきました。
Crenshaw & Cooreの傑作Friar’s HeadとTom Doakのニュージーランドの大作Tara Itiが初のTOP25入りを果たしましたがDoakの出世作品であったPacific Dunesは24位から28位に、MackenzieのCrystal Downsも25位から29位にランキングダウンしています。
この2コースはTOP15前後に長く君臨していた作品だっただけに気なるところです。
TOP 26-50
26. Prairie Dunes 米国
27. Riviera 米国
28. Pacific Dunes 米国
29. Crystal Downs 米国
30. Sunningdale(Old) イングランド
31. Oakland Hills(South) 米国
32. Seminole 米国
33. Royal St. George’s イングランド
34. San Francisco 米国
35. North Berwick(West) スコットランド
36. Lahinch(Old) アイルランド
37. Hirono 日本
38. Barnbougle Dunes オーストラリア
39. Carnoustie(Championship) スコットランド
40. The Country Club Brookline(Clyde/Squirrel) 米国
41. Morfontaine フランス
42. Royal Birkdale イングランド
43. Somerset Hills 米国
44. Cabot Cliffs カナダ
45. Garden City 米国
46. Southern Hills 米国
47. New South Wales オーストラリア
48. California Club of San Fancisco 米国
49. Shoreacres 米国
50. Swinley Forest イングランド
ここでの注目はTOP100コースランキングが始まった1985年当初から常にTOP30位以内にはランクされていたミシガンの名門Oakland Hills South CourseがArthur Hill、Rees Jonesの修復改造以降ランキングダウンを続け、前回は遂に72位まで落ちました。
クラブ側はDonald RossのオリジナルをテーマにGil Hanseにレストレーションを依頼し、その結果、見事31位にまで復活しました。
かつてはUS Open開催コースのリノベーションを担当していた事からOpen Doctorとも称されたRees Jonesですが、この10年、彼のリノベーション、グリーン改造には疑問や批評が集まっていました。しかし今年80を迎えたReesは常に現場には入れず、彼のスタッフや彼の名声につけ込んだ施工業者のビジネスライクからのミスがあったのでは?と考えたくなります。
TOP 51- 75
51. Cape Kidnappers ニュージーランド
52. Bethpage(Black) 米国
53. Portmarnock(Old) アイルランド
54. Ballyneal 米国
55. St. Patrick’s Links * アイルランド
56. Maidstone 米国
57. Baltusrol(Lower) * great return 米国
58. Camargo 米国
59. Royal Troon(Old) スコットランド
60. Kiawah Island(Ocean) 米国
61. Woodhall Spa(Hotchkin) イングランド
62. Kawana (Fuji) 日本
63. Cruden Bay スコットランド
64. Sunningdale(New) イングランド
65. Inverness 米国
66. Rye イングランド
67. Royal Lytham & St.Annes イングランド
68. Winged Foot(East) 米国
69. Prestwick スコットランド
70. Cape Wickham オーストラリア
71. Sleepy Hollow 米国
72. Myopia Hunt Club 米国
73. Ohoopee Match Club 米国
74. Ardfin * スコットランド
75. Casa de Campo(Teeth of the Dog) ドミニカ共和国
前回のランキングではTillinghastの名作BaltusrolやDonald Rossの大作Oak Hill East Courseのリノベーションで、Rees Jones設計チームの発想は二つの大作を前回TOP100から滑り落とす結果となりましたが、復活への大役をBaltusrolはGil Hanse, Oak Hillは設計家ではないがこれまでShaper & Project Managerとして数々の仕事をこなしてきたAndrew Greenがそれぞれに大役を引き受け、今回見事にTOP100復活を成し遂げました。
アイルランドではロサペナの第3コースとして今年オープンされたばかりのTom Doakの新作、St.Patrick’s Linksがいきなり55位で登場しました。
コロナ渦の中、この話題の新作発表に14名もの欧米のパネリストが駆けつけました。
スコットランドの旅でもJura島に行く人はカーリングの選手かハンターなど自然派アスリートくらいだとよく言われていましたが、大自然のこの島に2016年モダンリンクス、Ardfinがオープンされ、今回見事74位で初の100選入りを果たしました。
設計はGreg Norman設計チームのメイン設計家だったBob Harrison。Normanの作品の大作と評価されたコースは大体彼が設計していた。リーマンショックの後、独立し現在に至っています。
気になるのはPete Dyeの大作、ドミニカのCasa de Campo (Teeth of the Dog)が75位とランキングを落としている事です。かつては常にTOP25位圏内に君臨していたコースです。
TOP 76-100
76. Oak Hill(East) * great return 米国
77. Castle Stuart スコットランド
78. Cabot Links カナダ
79. Royal Liverpool イングランド
80. Bandon Dunes 米国
81. Kingsbarns スコットランド
82. Whistling Straits(Straits) 米国
83. Ellerston オーストラリア
84. Rock Creek Cattle Company 米国
85. Muirfield Village 米国
86. Royal Hague オランダ
87. Quaker Ridges 米国
88. St. George’s Hill(A&B) イングランド
89. Yeamans Hall * great return 米国
90. Peachtree 米国
91. Bandon Trails 米国
92. Old Town Club * 米国
93. Nine Bridges 韓国
94. Royal Melbourne(East) オーストラリア
95. De Pan Utrechtse GC オランダ
96. Olympic Club(Lake) 米国
97. Les Bordes (New) * フランス
98. Diamante(Dunes) メキシコ
99. St. George’s カナダ
100. The Golf Club 米国
この76~100位のクラスは世界中から最もワールドランキングを賑わす作品が登場してきます。
オランダからはRoyal Hague(Haagsche)とDe Pan(Utrechtse GC), カナダからはCabot Links, トロントの名門St. George’s、韓国からはNine Bridgesが93位にランクアッブされています。
フランスでは名門Morfontaineに続き、Gil Hanseの新作Les Bordes New Courseが見事97位にランクアップされました。ロワール地方の玄関口ともなるオルレアンの近郊にあり、パリのセレブたちが集まるプライベートクラブです。高低差僅か15mの地形を巧みに活かしたそのルーティングは見事です。ここも20~21年にかけて14名のパネリストが視察訪問しています。
米国の二つの名門Oak HillとYeamans Hallは見事100選に返り咲きました。
92位につけたOld Town ClubはAlister MackenzieのパートナーだったPerry Maxwellの作品で、これをCrenshaw & Cooreのコンビがレストレーションし今回見事100選入りを果たしました。
メキシコのDiamante(Dunes)が98位と年々ランキングを落としているのが気になります。メキシコからはかつてNicklaus設計チームのCabo del Sol、1949年に開設された名門Club de Golf Mexicoが100選入りを果たしていましたが、Diamanteはメキシコの代表として踏みとどまってほしいものです。
かつてはTOP50位内にランクされていたSFOの名門Olympic Club(Lake)は全米オープンでのフレームを超えたコースリノベーションが災いしてか遂に96位まで落ちました。 Muirfield Village, Whistling Straitsのランキングダウンもトーナメントへの過剰な意識が原因かも知れません。
Olympic Clubは所有するLake Course, Ocean Courseをレストレーション、リノベーションする計画があるようです。
それをGil Hanseが担当するとの噂を耳にします。Oak Hillのレストレーションを担当したAndrew Greenは現在やはりRees JonesがリノベーションしたCongressional Blue courseのオリジナル復元へのレストレーション作業に入っています。
ここからは私の私感も含まれますが、世界中のクラシックコース、リンクスコースがオリジナルの姿に戻ろうとする中で、オリジナルの粗図面と当時の古い写真からそれを再現しようとする発想は大きなリスクを背負うことにもなりかねません。
例えばCrenshaw & Cooreが行ったPinehurst#2コースのレストレーションですが、彼らは開設された20世紀初頭の頃のコースではなく、1948年の頃の姿をベースに復元作業に入りました。開設当時はノースカロライナの松林の丘陵地帯には芝が根付くのに時間と手間を要し、30年まではサンドグリーンの時代が続きました。それは復元の対象にはなりません。
Royal St.George’sは21年度のThe Openに向けて、Martin Ebertの設計チームがオリジナル回帰を唱え、クラブもそれを承認し、その作業に入りましたが、枕木が縦に立つあの有名な4番のヒマラヤンバンカーは開設当時のサンドフラッシュバンカーに戻されました。また有名なサハラ地帯など古い写真にも見られる砂丘地帯の芝が生え揃わない箇所の再現などもされていましたが、これは正しい選択だったのでしょうか? 少なくともRoyal St. George’sが評価の対象となったのはヒマラヤンバンカーに枕木が設置された時代からのものです。
Ebertの復元作業では日本の広野がやはり同様の方法で開設当時の姿に戻る事をテーマに行われました。
パンデミックの最中、完成後に訪れた海外からのパネリストは僅かに2名で、もし来年以降大勢のパネリストたちが訪れ視察プレーをされた時、今の広野と以前の広野をどう比較されるでしょうか?
少なくともGOLF Magazineが高く評価してきた広野は戦後上田治によって復元された時からの広野の姿です。Tom Doak, Gil Hanse, Crenshaw & Coore, Andrew Green達と比べるとレストレーションへの意識、思考の違いを感じてしまいます。
オリジナルへの復元とは何なのか。そこには時間を巻き戻してはいけないコースへの掟なるものもあるかと思います。
古き名門コースのオーラはいつの時代からのAtmosphereなのか、古い写真に見る芝が生え揃わない砂地の存在の再現、それらを新設の作品で求める設計思考、土地の素材にはない砂地を活用するのは正しい設計と言えるのだろうか? それらはコース設計家達にとって今後の大きなテーマの一つになるはずです。
世界TOP100コース 国別コース数
米国 51コース
スコットランド 12コース
イングランド 10コース
オーストラリア 7コース
アイルランド 4コース
カナダ 3コース
北アイルランド、ニュージーランド、日本、フランス、オランダ 各2コース
メキシコ、韓国、ドミニカ共和国 各1コース
Text by Masa Nishijima
Photo by Larry Lambrecht, Golf Architecture, Renaissance Golf Design,
Golf.com, Les Bordes, Links Magazine.