英国では雄豚の背のように丸みをもつ起伏な地形をホッグバックと呼びます。そのようなことからリンクスコースでも尾根のような起伏を持つホールや、丸みを帯びた形状のグリーンに、ホグバックの名称をよく付けます。日本では馬の背グリーンと表しますが、英国では豚の背中になるわけです。米国では亀の甲羅をよくそれに例えます。米国コース設計の父C.B.マクドナルドはリンクスに多く見られるホグバックホールの特徴を彼の代表作ナショナルゴルフリンクスオブアメリカの5番ホールで設計しました。それは広いフェアウェイに尾根のようにのびるマウンドを超えると起伏あるダウンスロープによってボールは様々な転がりをみせ、次のショットに大きな影響を与えるものです。まさにリンクスの固い土壌にみられる打球のランの度合いをマンメイドの世界で表現したマクドナルドのアイデアで、後に彼の設計パートナーであったセス・レイノーやチャリー・バンクスによってホグバックホールは地形を活かした様々な設計に取り入れられ、本場リンクスのテイストとして全米中に広められていきます。但し、80年代にブームを呼んだスコティシュアメリカンタイプのコースに多く見られた奇抜な人工的マウンドでローリングしたフェアウェイはホグバックの設計理論とは異なるもので、その多くはリンクスのルックスだけをモチーフした作品に過ぎません。マクドナルドと同じくクラシック時代の巨匠と称えられるドナルド・ロスは、フェアウェイではなく、ホグバックをグリーン上で表現しました。但しこれも日本の馬の背とは異なり、二つの起伏を組み合わせた形状で、彼の名作パインハースト#2コースのグリーンにもそれをみることができます。それらは縦の起伏によってグリーン奥がフォールアウェイの傾斜にあることから、全米オープンでも多くの選手たちがグリーンには乗せたがボールは転がりおちていく悲劇にあったことは記憶に新しいことです。

 National Links Of America #5 National Links of America #5-GJPG

National Golf Links of America #5PAR4 名称Hog’s Back

キャプチャ hogback (1)

日本にもこのホグバックホールの理論を持ったコースがあります。それは世界中のゴルファーたちが憧れる川奈富士コースの7番、フォローの日にはドライバブルも挑戦したくなるショートパー4です。丸い雄豚のような形のフェアウェイは、まさにホグバックホールを象徴し、その狭いフェアウェイに乗れば、グリーンとほぼ同じにエレベーションになり、アプローチに最大のアドバンテージを与えています。この7番は世界ベスト500ホールの一つにも選ばれています。

Kawana-#7 Kawana Fuji#7

さて東京クラシックにもホグバックホールはないだろうか?

完璧なホグバックホールではないが、その要素を持ったホールがあります。

9番ホールです。ティーショットは正面に見えるやや小高く見えるフェアウェイのフロントを越えていかなければならず、もしティーボックスを今よりも右に、そしてやや低い位置に移動させるならば、フェアウェイのフロントは小高い丘のように見え、ホグバックは完成するでしょう。

この9番ホールは賛否両論の評価です。スクラッチゴルファーでも攻略性に愉しさを感じると語る者もいれば、狭く、ルーティングの行き詰まりを感じさせるホールと評価する者もいます。中には現在の練習場と9番の位置を逆に入れ替えれば、9番ホールもハウスに向かって打つゴージャスさが生まれるだろうと語るコースマニアたちもいます。それは確かに正しい視点です。しかしもし練習場が9番の位置になるならば、道路沿いに防御ネットは不可欠なものになるでしょうし、第一にゴルフ場としての景観性を大きく損ないます。

東京クラシックの場合、ゴルフだけでなく、厩舎、乗馬トレイルとの併用が、カントリークラブとして高い評価を得ているだけに、ネットの存在は自然との融合性を失う何者でもありません。ならば、9番を完璧なホグバックホールとして完成させることが、東京クラシックの評価をより高く上げるポイントになるのではないでしょうか。

9番ホールのティーボックスに立った時、ちょっと想像してみてください。

 TCC-9

 

Text by MASA NISHIJIMA

Photo by MASA NISHIJIMA, GARY LISBON