No.17 名コース散訪。コース設計の匠を求めて
ゴルフコースの骨格は18ホールのルーティングと構成にある。
World Cupが行なわれたKingston Heath GCは、1ループのGoing out, Coming inのルーティングだけに、オーストラリアンマスターズが開催された2009年、1番グリーンと2番ティ、12番ティの後ろの土地に、エキストラホールを設け、以下の2 ループを形成しました。
Front nine: 1-19-12-13-14-15-16-17-18
Back nine: 7-8-9-11-2-3-4-5-6
この19番ホールは後に、1ホールが修復の為、使用できない状態の際にも活用され、18ホール構成に役立っている。
写真のスコアカードは、18番ホールが修復改造の為に、長期間使用出来なかった際に使われたものです。この時も19番は役立っています。
今回のワールドカップは、全組が1番からスタートするので、通常のレイアウトでも問題はないのですが、大勢のギャラリーウェイの確保などもあり、1番と2番の間に、19番PAR3を入れ、それを2番に。2番が3番にと一つずつずらし、オリジナル10番PAR3を外し、18ホールを構成しています。ではKingston Heathは、何故にこのような離れ業ができるコースなのでしょうか。
Kingston Heathは、13年、全米オープンが開催されたMerion Eastと、メンバー同士が姉妹クラブの提携を結んでいます。
結成したその理由の一つに、両クラブともコース用地が狭い中、専門家たちを絶讃させたルーティングの特徴があげられます。どちらのコースもクラシック時代の作品でありながら、120~125エーカーしかない。しかしながらルーティングに関しては、どちらも満点。クラシック設計の模範とも称されています。
地形にユニークな高低差のスロープを持つMerionに比べ、Kingston Heathの地形の高低差は僅か10m弱、ほぼフラットに近いその中で生まれるスロープラインを、的確に活用し、18ホールが壮大にレイアウトされている。通常アマの技術と飛距離に限って言えば、用地がこれだけ狭いと隣のホールへの打ち込みなんてことも考えられるが、レイアウト構成が完璧なKingston Heathでは聞いた事がない。実際は狭いのに、アベレージゴルファーには視覚でアドレスミスをさせないバンカリングもその効果を上げています。つまり打ち出すべき方向へのターゲット効果があるのです。
18ホールのレイアウトが描かれたマップをご覧ください。
14番と15番とホール間に配置されたコネクテッドバンカー(両ホールに共有する)などがその例で、隣接するホールを隠すのではなく、何気なくバンカーの奥に見せる事で、プレーヤーはそのバンカーの方向を避けようとする意識が生まれます。狭い土地において、人間の心理をついた巧みなアイデアです。又、視界のスケールを壮大に見せる事にも繋がり、ランドスケープも高く評価されるでしょう。
1925年に開設されたKingston Heath GCの凄さは、改造修復を重ねるごとにコースが良くなっていくこと。元々の素材が良いとはいえ、クラブコミッティーのコースへの見識も高い。
日本はたとえ戦前からの名門とされるゴルフ倶楽部であっても、その逆が多い。東京クラシックのメンバーは、ゴルフコースを学んで欲しい。そして時代と共に、コースを進化させていく義務があると思う。
Photo credit by Gary Lisbon, David Scallettii and Masa Nishijima and other
MASA NISHIJIMA
ゴルフコースコメンテーター&コースアドバイザー。東京生まれ。
明治大学卒業後、米国留学。
ドン・ロッシーの元でゴルフコースのクラシック理論を学ぶ。
現在まで世界56カ国2300コース以上を視察。
1989年より、米ゴルフマガジン誌世界トップ100コース選考委員会に所属。
1991年から2015年までは同委員会の国際委員長を務める。
「ゴルフコース好奇心」,「ゴルフコース博物誌」「The Confidential Guide 」などの著書もある