今年のAIG Women’s Open(全英女子オープン)は世界ランキング304位、ドイツのソフィア・ポポフが圧巻のゴルフを披露し優勝(ツアー初優勝)、昨年の渋野日向子同様にシンデレラストーリーで幕を閉じました。

そんな中、予選をギリギリで通過し、決勝ラウンドでステディなゴルフを展開したのが全英10回目の挑戦を果たしたベテラン上田桃子でした。

日本人選手がスコアを崩していく中、上田だけは風と自然の大地たるリンクスを悟ったかのような攻め方で、「勝てなくともコースに負けないゴルフ」を魅せてくれました。会場となったRoyal Troon GC Old CourseSt. Andrews Old Course同様に、Going Out Coming In1ループのルーティングで、このリンクスの最大の特徴はコースの高低差が10m程度でも、フェアウェイは砂丘の凹凸の中、18ホール中、11ホールにいくつもの窪地が存在していることです。

そしてそれらはフェアウェイの右サイドに多く点在し、この窪地からはグリーンは視界に入らず、合わせて強風が吹き荒れる中、多くのプレーヤーがイマジネーションショットを強いられます。もちろんリンクス特有の90度の壁を持つSod-Wall Bunker(解説ではポットバンカー)に入れば、それはウェッジで出すだけが精一杯のペナルとなります。上田は更にその11ホールの想定するランディングエリアが右よりも左サイドの方が高く、そこを攻略ルートの糸口にすれば、グリーンをブラインドで打つ事は避けれると判断したのでしょう。彼女の三日目からのティショットは徹底した左サイド狙い。もちろん彼女の球筋がドロー系であった事も幸いでしたが、フォローであろうと高弾道は打たず、定めたランディングゾーンに運ぶクラブ選択をしていました。最終日はなんと3バーディ、ボギーフリーのゴルフを展開し、見事+1オーバーでT6位に入りました。

 

 

 

前半の難関の一つ、その小さなグリーンからポステージスタンプ(郵便切手)の名称を持つ8番パー3では見事バーディを獲り、そこからのゴルフはリンクスの定義「オールドマンパー」のボギーを叩かないゴルフを披露しました。

彼女はリンクス特有のグリーンの固さから一度としてグリーン奥に打たず、手前から攻めるゴルフに徹していました。

 

 

上田桃子の決勝ラウンドで見せた完璧なるゴルフは、今後日本人がリンクスでどのようにして戦うか、その一つのヒントを提供したかと思います。

それは「結果としてトーナメントに勝てずともまずはリンクスに負けないゴルフ」に撤すること。自身が描いた攻略ルートを信じて最後まで集中力を保ち続けるゴルフです。

下の15番ロングパー4の写真と図は左サイドからの攻めがベストであることがはっきりと解る一例です。

グリーンは3/4が土手で囲まれたセミパンチボウル状にあり、風がアゲンストのケース場合、2打目をレイアップした際も、グリーン右サイドへの攻めが絶対条件になります。

 

 

 

コースのルーティングについて学んでみよう。

 

R&A 資料室長だったロバートソン氏のユニークなお話。

 

 

皆様たちもゴルフコースのアウト、インの語源は既にご存知の事と思います。

昔、R&Aのロバートソン資料室長がこんな事を述べられていました。

 

「リンクスとは家畜動物が1日で周遊してくる砂丘地帯をリンクスランドと呼ぶ。牛や羊は朝日を求めて厩舎を出て、夕日を求めて家路につく。このルーティンを日々繰り返す。しかし太陽が1日に2回空を回らない限り、動物たちはリンクスを2周することはない。私が何を伝えたいかわか李ますか?Going Out Coming Inは私たちがリンクスランドで作った言葉ではなく、家畜動物のルーティングを意味する言葉なのです。つまりエジンバラの高貴なゴルファーたちが作ったコースは用地を2ループするルーティングだからリンクスランドではない事となる。」

 

彼が皮肉って述べたエジンバラの高貴なゴルファー達のコースとは22年に全英女子オープンを初開催するメンズクラブ、キングオブリンクスと称えられる名門Muirfieldの事である。しかしGoing Out Coming Inが成立しないのならば、キングオブリンクスは全英が開催される中ではSt.Andrews Old Course, Royal Troonだと述べる史家達もいます。ゴルフ史は常にユニークで、ゴルフを崇める人達によって歪められた歴史があります。リンクスは朝陽に向かってGoing Outし、西陽に向かってComing Inしてくるわけではないからです。それでは眩しくてゴルフになりません。笑。ロバートソン氏の話は家畜動物たちのルーティンと同じように人間もリンクスランドの砂丘地帯を周遊し、そこにGoing Out Coming Inがあるという意味なのでしょう。彼はMuirfieldを造ったクラブ組織The Honourable Company of Edinburgh Golfersをただ皮肉りたかっただけなのかも知れません。

ここに海岸線に沿ったオールドリンクスのレイアウト図を幾つかご紹介します。

リンクスランドに沿ってホールを描きながら戻ってくる1ループの構図がお分かりになられるかと思います。この1ループの構図の原点はSt.Andrews Oldコースで、かつては行ったきりでスタート地点に戻ってはこない12ホール時代がありました。これをスタート地に帰ろうとして22ホールの構成になり、やがて18ホールになります。Oldコースが一つの巨大なグリーンを2ホールで分けて使用するダブルグリーンはこのような理由から誕生したのです。

 

まずはSt.Andrews Old コースから。ダブルグリーンは二つのホールナンバー数の合計が18になり、従って1, 9, 17, 18はシングルグリーンになります。

古くはこのルーティングの流れが真逆(Reverse)だった時代、1, 17番のグリーンは共有されていました。

 

 

 

 

Royal Troon GC Old コースは9番を終えると折り返すように戻ってきます。見事に100% Going OUT,  Coming INの見本のような構成ですが、St.Andrew Oldコースを初めてする多くのリンクスは必ずしもそうではなく、折り返す地点のホールは8番であったり、10番であったりそれはリンクスランドの土地条件によって異なります。スコットランドの秘宝リンクスとも称されるCruden Bay GCは途中からリンクスランドの砂丘地帯を抜けてかつての牧草地に入りそしてまた戻ってくる八の字のルーティングを描いています。しかしこれも一度出たらスタート地点には戻らない1ループの構成になっています。

 

 

 

 

 

*Cruden Bayの八の字ルーティング

 

 *名匠Harry Coltによって改造された2ループ構成のMuirfield GC。フロント9は時計回りに流れ、バック9は反時計回りにルーティングに構成されています。

 

 

さて次回はゴルフコースが内陸に出来るようになった時代に見る1ループ構成の変化、及び5月に発表されたAsian Top100コースのランキングについて解説してみたいと思います。

 

 

 

Text by Masa Nishijima

Photo Credit by Brian Morgan, Gary Lisbon,  Masa Nishijima, 

               Royal Troon GC, R&A, Society of Golf Historian’s