ベスページステートパークゴルフコース(ブラックコース)

Bethpage State Park Golf Course Black Course

 

米国にはPGAツアーを迎え入れることができる市営及び郡管轄のパブリックコースがいくつもある。その中でも世界的に知られるのが過去に全米オープンを開催した南カリフォルニアのトーリーパインズゴルフコース(Torrey Pines)、ワシントン州タコマ郊外のチェンバーズベイゴルフコース(Chambers Bay Golf Course)、そしてニュヨークロングアイランドにあるベスページステートパークゴルフコース(Bethpage State Park Golf Course)です。

ベスページにはグリーン、ブルー、イエロー、レッド、ブラックのコースがあり、メジャー大会が開催されるのはその中のブラックコースです。 更に面白いのは1,477エーカーを誇る広大なこのステートパーク内にはポログランドもあり、毎年6月から10月にかけてニューヨークポロシリーズが開催されています。駐車場にはポロクラブの標識があるにも関わらず、早朝からここにやって来るゴルファーたちは意外にそれに気が付きません。

ブラックコースは、1935年名匠アルバート・W・ティリングハスト(A.W.Tillinghast 1876—1942)の設計により完成しました。ティリングハストはフィラデルフィア出身で東部を中心に全米で200以上もの作品を手がけ、デザインだけではなく、コース造成に必要な土木技能から全てを兼ね備えた設計家でした。彼の設計アイデアで、今日も活用されているクラシック理論があります。それがホールをストレートに捉えながらもフェアウェイを蛇行させるダブルドッグレッグ理論、湿地帯及び砂地でフェアウェイを幾つかに分割させレイアウトしたステレオタイプ理論、後者は松林の砂質豊かな大地に設計された世界ナンバー1コース、パインヴァレーGC(Pine Valley GC)の設計段階において、創設者ジョージ・クランプ(George Crump)に提供したアイデアでもあり、後のモダンコース時代でもアリゾナなどの乾燥地におけるゴルフコース設計では水不足を補うことからこのステレオタイプは活用されています。

パー5の設計では、ダブルドッグレッグ理論とグレートハザードでフェアウェイを分割させたこのステレオタイプ理論をコンバインさせ、1打、2打目のプレールートからフェアウェイを常に斜めに捉えさす戦略的ダブルダイアゴナル(Double-Diagonal)の設計アイデアも発案しました。これは2打目地点から登り坂となるブラックコースの4番ホールに活用され、用具が進化した今日、2オンを狙うもグリーンが見えないイマジネーションショットを楽しむホールに進化しています。

※ Bethpage #4 517 yrds PAR5 Double-Diagonal Hole フェアウェイを斜めに捉えさすと、プレーヤーは風を読んでどの攻略ラインで攻めるかを考える。このホールはそれが2度経験することになる。

※Bethpage #4 グリーンサイドからFWラインを望む

※ Pine Valley #18 大半のホールがフェアウェイを分割したステレオタイプである。

ティリングハストはクラシック設計の定義にもあるサハラホールを最も多く活用した設計家でもありました。それはフェアウェイを分割させるかのように広大なもので、ゴルファー達は自らのショットがそれを超えていく事に喜びを感じたりました。

※ Baltusrol GC Lower #17 Sahara bunker

 

ティリングハストはブラックコースでは、ティからフェアウェイを捉えるためのターゲットバンカーとしてサハラエリアを5番と7番に設けています。 これらのサハラバンカー、開設当時は今よりもはるかに広大なバンカー群でした。 更に彼はフェアウェイの左右にも広大なバンカー群を設け、クラシック時代では出すだけが精一杯のペナル的要素の強いものでした。

これらのバンカー群は、2002年初めてUSオープンを迎えるにあたり、設計家リース・ジョーンズがタイガー・ウッズを標的に、更に拡大し、深いラフと共に現代のクラブでもミスショットにペナルを提供する内容に改造されました。そこを狭く蛇行するフェアウェイはトップゴルファーたちにプレッシャーを与え続けました。しかし当時絶頂のピークにあったタイガーに勝利への流れを変えさすほどの効果はなく、結局−3アンダーで優勝、しかもアンダーパーを出したのはタイガーだけでした。

※ Bethpage #5 478 yrds Par 4 Sahara bunker

ベスページでは2009年にもUSオープンが開催されましたが、99年に東部地区で初めてパブリックコースからパインハースト#2コース(Pinehurst #2)が開催コースに選ばれるまで、USオープンコースと言えば、ペブルビーチ以外は全て全米の名門中の名門がローテーションを組んで開催していました。しかしUSGA側がコースをオープン用に大幅に改良し、多くのギャラリーが観戦に訪れる事から、開催後のコースの芝のダメージは想像を超えるものとなり、バルタスロール始め、幾つかの名門はオープン開催を拒否する様になったのです。そこで誰もがプレー出来、深い関心が持てるパブリックコースを加えることに方向転換し、その効果はパインハーストでオープン史上最大のギャラリー数を記録し、その前で人気者ペイン・スチュワートが優勝した事で絶対なものになりました。以降、2008年にはトーリーバインズ、2015年チェンバーズベイ、2017年エリンヒルズとパブリックコースでもUSオープンが開催されるようになりました。特にチェンバーズベイやエリンヒルズはオープン開催を目的として造られた新設コースでした。タイガー効果によってPGAツアーの人気が絶頂を迎えた頃、USGAはパブリックコースでの開催によって、若いゴルフ人口を増やす事をテーマに挙げました。

※ ペイン・スチュワート勝利の瞬間、誰もがこのシーンを忘れない。ペインはこの4ヶ月後に飛行機事故によっ て帰らぬ人となった。

※ 今度は初のPGA Championshipを迎えるベスページブラックコース、2024年にはライダーカップも開催される。

※ キーなるだろう8番と17番のパー3

 

今回のベスページは全長7,459ヤード、パー70に設定。ゴルフコースに最も適した言われる地形のユニークな高低差の中、ティショットに飛距離と正確性を求めるコース、ドッグレッグライン、クロスバンカー群によるダイアゴナルラインへの攻略

ルートの判断、イマジネーションは勝つための絶対条件となる。4つのパー3は、それぞれに#3 207ヤード、#8 210ヤード、#14 161ヤード、#17 207ヤードともうメジャーでは当たり前だが200ヤードを超えるホールが3つある。池越えの#8番は僅かでも距離が足らなければ球は池に転がり落ちる。#17番のバンカー群にガードされた横長グリーンは絶妙な配置アングルにある。ブラックコースのパー3は攻略を間違えればとんでもない落とし穴が待っている。

今回の大会では最終4ホール、15~18番がキーと言われているが、やはり5番~12番を無難にイーブンパーで終えられる者にチャンスは与えられる。

 

Text by Masa Nishijima

Photo by Masa Nishijima, Larry Lambrecht, Jon Cavalier. GOLF.com

 

フォトグラファー紹介

左 Larry Lambrecht   右 Jon Cavalier.