連載 GOLF Atmosphere No.138 / 市民憩いの場のパブリックコース、その行方。PART 2

*East Potomac Golf Links Washington D.C
ワシントンD.Cの市民が集うEast Potomac Golf Links、19世紀末、軍により埋め立てられて完成したこの中州の島は、後に議会により市民のための公園に指定され、国民の休養と娯楽のための公園として永久に保持する法律を制定されました。そして1902年の「マクミラン計画(都市美運動)」に基づき、市民のレクリエーション場としての開発が進められてきました。
その長きに渡る法令に基づき、グリーンフィ$48ドル以下、市内で昼食をとるのとほぼ同程度の料金でゴルフが楽しめるだけでなく、毎日のようにサイクリング、ジョッギング、釣り、週末にはBBQにやってくる市民も大勢います。
今年6月、トランプ大統領はそんな市民の憩いの場を見境もなく、PGAツアー、ライダーカップなどメジャー大会が開催できるトーナメントコースに改造する計画を立ち上げました。ゴルフ場の運営管理を任されているNational Links Trust(以下 NLT 略)に対し、もし従わなければ50年のリース契約を解除すると強引にディールを持ちかけ、NLTはとりあえず現状を踏まえ、それに服従せざるを得なくなりました。そして9月1日より工事を着工すると地元メディアを相手にアナウンスしたのです。
しかし9月25日に現在、コース内及び島の樹木(14番ホールの桜の木を含む140本)の伐採が行われた以外、工事はスタートしていません。もちろん工事に必要な重機の搬入もされておらず、ゴルフ場は普段通りに運営され、ティタイムの予約も通常通り行われているようです。
ではそもそも何故トランプ大統領はEast Potomac Golf Linksの改修予定を、PGAツアーやライダーカップが開催できるコースに改造する案を持ち出したのか、その動機はどこから生まれたのでしょうか。
それは2025年3月の「コロンビア特別区を安全で美しい場所にする」と題した大統領令に署名し、首都ワシントンD.Cの景観を一新する大規模なキャンペーンを開始したのが事の始まりでした。ワシントンDCに存在する3つのパブリックゴルフコースの改修はもちろん、総工費6億ドルのボールルーム新設を含むホワイトハウスの拡張工事まで多岐にわたるものです。
リンカーン記念堂前の人工池(リフレクティング・プール)を青く塗装すること、メモリアル・サークルに建国250年にちなんだ高さ250ft(約76m)の凱旋門を建設する計画、そして首都各地にある連邦政府管理下の噴水やブロンズ像の塗り替え・修復なども含まれました。
ここで内務省法務官の弁護士ウィリアム・ドッファーマイヤ(William Doffermyre)という人物が登場し、トランプのゴルフコース計画に彼の存在がクローズアップされていきます。イースト・ポトマックを含むD.C.の3つの歴史的な公営ゴルフ場は、もともと非営利団体「ナショナル・リンクス・トラスト(NLT)」が国立公園局(NPS)から50年間の長期リース契約を結んで管理・改修を行っていたことは前回お伝えいたしました。ドファーマイヤは内務省法務官に就任する前の大統領顧問時代から、NLTの創設者マイク・マッカーティン(Mike McCortin)とウィル・スミス(Wil Smith)に接触し、NLTの歴史を重んじる改修計画に興味を示していました。彼はもともとゴルフ界で影響力持つ人間になることに関心を持っていたのでしょうか、NLTにはコース設計の責任者はトム・ドォークではなく、ビル・クーアとベン・クレンショウのコンビを推奨し、自身の意見を述べ始めました。ここからNLTはドファーマイヤを注意深く見守る姿勢に変わります。しかしドファーマイヤは法務官になると同時に、トランプ大統領を巻き込んだ「アメリカ250ゴルフ・プロジェクト」という政府主導の共同再開発(パートナーシップ)を持ちかける交渉役を務めるようになります。ドファーマイア氏はトランプの意向を汲み、当初NLTが計画していた設計家トム・ドークによる一般市民向けの控えめな改修案を白紙に戻しました。そしてトランプ氏お気に入りの設計家トム・ファジオによる大規模な改修計画へと変更させ、内務省の立場から必要な許可の発行などをコントロールし始めたのです。 つまりトランプが述べるEast PotomacをPGAツアーやライダーカップなどメジャー大会が開催できる改造計画のスタートは、もともとトランプの発案ではなく、ドファーマイヤが持ち込んだアイデアの一つだった説が強いのです。彼はトランプに現在のEast Potomac Golf Linksの名称を、首都ワシントンD.Cに相応しいようにWashington National Golf Courseに変更してはどうか?とまでトランプに持ちかけたとの噂が出ています。
ドナルド・トランプというゴルフ好きで、幾つものゴルフ場を所有する男にとって、当初本人は、勝手にワシントンD.C社会に貢献しようとその使命感に燃えたのかも知れません。その感情の経緯は、ニューヨーク市の生ごみを集積した埋立地の上に建設されたフェーリーポイントゴルフコースにあったのかも知れません。開発半ばで市の予算も底をつき、その開発を市から引き継ぎ、官民が持つ最高級パブリックコースとして成功に導いた実績がトランプにはありました。しかし不動産王トランプは、軌道に乗せて直ぐにカジノの大御所バリーズグループに運営権を売却します。ニューヨーク市が求めた市民のためのゴルフ場は、一定の階級のゴルファー達が、ニューヨークの摩天楼を眺めながらゴルフを楽しめる場になったのです。ワシントンD.Cの市民ゴルファーたちはそれを強く懸念します。

*Bally’s Golf Links at Ferry Point
カリフォルニア州選出の下院議員ジャレッド・ハフマン氏(最高位のパネル民主党員)は、委員会の公聴会で、国立公園局(NPS)が、歴史的な公共ゴルフコースの工事を開始するために土木工事会社を雇ったことに、議会への告知も行わずに行われたとし、トランプのゴルフコース改装計画に異議を唱える訴訟を唱えました。政権が行おうとしている再開発事業は、100年以上前に公園を創設した議会法に違反すると主張しています。「これは単なる古いゴルフコースではありません。歴史的意義が非常に大きい、愛されている公共空間です」とハフマン氏は述べています。
また「トランプ大統領はこの歴史的で公共にアクセス可能な資源を超富裕層のための金箔が施されたプライベートゴルフクラブに変える恐れがある!」と述べ、同プロジェクトを「公共公園を人々から奪うための計画的かつ意図的な試み」と呼び、米国の納税者が費用を負担している事実を政府は見極めるべきだと指摘しました。
現在、こうした抜本的な変更は、法的な面から厳しく批判されているだけでなく、世論の激しい反発も招いており、ほぼすべてのプロジェクトに対して中止を求める連邦訴訟が提起されています。
トランプ大統領の登場にゴルフメディアも強いアレルギー反応を起こしました。
特にGolf Club Atlas, Fried Egg Golfなど、ゴルフコース研究家たちから強い支持を持つPodcastサイトでトランプ批判は集中しました。
Fried Egg Golf のPodcast番組「Designing Golf」 のMCの一人、Garrett Morrison氏は、トランプのEast Potomac Golf Links再開発計画について、D.Cの国立公園関係者及び地元の著名ゴルフライター、GCSAA(全米ゴルフコース管理者協会)の役員等をゲストスピーカー迎え、真っ向から反対の意見を述べ続けています。

*Fried Egg Golf Podcast “Designing Golf” MC Garrett Morison(左)
Morrison氏は全米中の視聴者が深く理解できるように、この中州の人工島の埋め立てがどのような理由から始められたか、その19世紀からの歴史を紐どくかのように解説し、1902年マクミラン計画のもとこの島が永久に市民の憩いの場、娯楽の場であり続けることを前提にウォルター・トラヴィスによるリバーシブル設計のゴルフコースが誕生した事を紹介します。この歴史に尽きましては前回のGOLF Atmosphere No.137 PART 1でも詳しく解説致しておりますのでご参照ください。

*East Potomac Golf Linksにて Photo by Washington Post
上の写真はトランプ大統領が6月にNPC及びトム・ファジオ氏を引き連れ、現地を訪問した時にワシントンポスト紙のライターが撮った一枚のようです。メディア関係者はこの時にファジオ氏から完成図面を見せられ、唖然としました。
彼は大統領から話を持ちかけられ、了承した翌日に、極秘でスタッフの名を代表名に使って現地を訪問していました。そしてトーナメントコースとしてのレイアウト図を持参し、設計のコンセプトからすべてを説明しました。Fried EggのMorrison氏達が驚いたのは、18のメインコースと9コースの27ホール分の用地が、新たなチャンピオンシップコースとして18ホールに改造され、すべてのゴルフ施設がこのトーナメントコースの為に付随する案で設計されていたのです。そこに100年を超える歴史的遺産は残されていません。米国最古の歴史を持つミニチュアゴルフ(パターゴルフ)コース、初心者向けのエグゼクティブ・トラックなどが廃止され、1つの広大な高級コースへ統合される計画が浮上しているのです
しかしここは法的に歴史に基づく改修でなければならないはずです。

*Tom Fazio氏とEast Potomacの改造プラン図。
これを見たMorrison氏はPodcastの中で嘆きます。「ここは市民の為の憩いの場として埋め立てられた人工島であり、必ずしもゴルファーだけのものではない。ジョッギング、サイクリング、釣りなどを楽しめる一般市民の場がゴルフコースの一部になっているように見えます。更にゴルファーでいうならば、階級やカラーの隔たりもなく、初心者からベテランまでがゴルフを楽しめる環境が法令に基づく絶対条件であったはず。これは市民が納得できるものではありません。」
トランプ大統領に就任以来、推進する首都ワシントンの「美化」計画をめぐり、連邦政府の所有地に生えている数十本の樹木の伐採を強行する事さえ、市民との間で物議を交わしてきました。East Potomac Golf Linksを改造するトランプの野心的な計画をめぐる論争は、いまや公共空間と自然保護を争点とする広範な論戦へと発展しています。ワシントン・ポスト紙の報道によるとゴルフコース内では、ここ数週間で140本以上の樹木が伐採され、歴史あるゴルフコースからの眺望に深刻な影響が及んでいるとの非難も出ています。
この樹木伐採計画には外来種の樹木の伐採が記されており、それは1912年、日本から贈られた桜の木々の末裔も同じ扱いでしょうか。これがEast Potomac Golf Linksを世界規模のトーナメントコースに生まれ変わらせたいと願うトランプの計画の一環だとするならば、有名な桜並木の遊歩道さえ、ゴルフコースに変えられてしまうと市民達は心配しています。


自然保護活動家や環境監視団体は今回の伐採について、連邦政府の標準的な審査手続きに違反していると主張しています。
ちなみにトランプが2期目に入って伐採した樹木はこれが初めてではありません。
ホワイトハウスの北庭(ノース・ローン)と南庭(サウス・ローン)に沿って生い茂っていた木々も、警備区域の拡大やトランプの進める新しいボールルーム(大宴会場)建設のためのスペース確保を理由に伐採されたり、大々的に剪定されたりしています。
ワシントン・ポストは今年7月、ホワイトハウスの正面に位置するラファイエット広場の改修計画について、トランプが広さ7エーカーの同公園に第47代大統領である自身の象徴としてお気に入りのカエデの木を47本植えることを望んでいるとの情報を伝えています。なんと馬鹿げた発想、自己権威欲の表れでしょうか。
すでに初期工事で既存の樹木の一部が撤去されており、最終的に何本が伐採されることになるかは不明です。
ご存知のように、ホワイトハウスの敷地内では、112年の歴史を持つ芝生の庭園「ローズガーデン」が舗装され、花々の咲き乱れる花壇や植木が石造りのパティオに敷き替えられました。現在のヘリポートがそれでしょう。トランプのこの決定にも批判が相次ぎました。

*ホワイトハウスの東棟の解体で出た有害物質を含む土砂は議会及び環境保護団体の許可なく無断で放置された。

*14番ホール内にある桜の木々も残念ながら伐採された。
裁判の進捗、司法VS政権の攻防の行方は激化しています。2026年現在、D.C.保存連盟(DC Preservation League)や地元のゴルファーたちがトランプ政権を相手取った連邦訴訟を展開しています。 彼らは政権側がホワイトハウス東棟(East Wing)の解体で出た有害物質(鉛やクロムなど)を含む大量の土砂や瓦礫をイースト・ポトマック・パーク内に無許可で不法投棄(高さ3階建て相当の山を形成)していることが発覚し、クリーンウォーター法(水質浄化法)違反にあたるとしてさらに追求を強めています。
トランプの再開発への最大のネックは、この島自体の地盤沈下及び気候変動による水位の上昇などによる冠水対策に、周辺一帯も含め、浸水を防ぐための防波堤再構築に約6億ドルもの予算が必要とされる事です。これを先送りにしてゴルフコース再設計に大統領自身が首を突っ込むことからして「馬鹿げている。市民の生活圏を無視している」と非難されています。おそらく米国の主要放送メディア5社が揃ってこの問題に立ち向かう事でしょう。
首都の公園を舞台にしたこの計画は、単なるレジャー施設の話ではありません。巨額の公費と相次ぐ法廷闘争が注目を集めています。
トランプがワシントンD.Cに提案しているEast Potomac Golf Linksのリデザイン計画の予算は最大で4900万ドルもの負担をもたらす可能性があると文書首でその試算が示されました。内務省の管轄下にある国立公園局は、2027年1月に工事の入札受付を開始する予定で、プロジェクトの概算費用は2000万~4900万ドルとなっています。
ワシントンD.Cでは凱旋門建設など、ほかの構想をめぐる法廷闘争も続いています。
East Potomac Golf Linksの改造についての纏めとして、メディアの一番の懸念は、仮にトランプ政権後に、コースが完成されたとしても、National Links Trust以外に管理運営を担う非営利団体が登場するとは考えにくく、ニューヨークのFerry Point同様にトランプオーガナイゼーション(The Trump Organization)が運営を引き継ぎ、一定の富裕層相手にビジネスを展開する、もともとがそのような構想だったのではないか。つまりメジャー大会やライダーカップの誘致など、この島の規模は到底開催できる器ではないのです。島へのアクセスルートは数本の出入り口しかありません。大会に必要する台数の駐車場、TVコンパウンドを設置する場所も、メディア関係者用テンポラリー施設、大会グッズ用のテントはどこに配置するというのでしょうか? ギャラリーはワシントンD.Cのダウンタウンを通り、政府機関の立ち並ぶルートを通り、島に入るならばどれだけのセキュリティ対策用の検問所が必要となるでしょうか? 空港のある対岸にはアーリントン墓地、ペンタゴンなど重要な軍施設があり、こちらの一部に駐車場を設け島への送迎ルートを計画する案などはセキュリティの関係から不可能でしょう。
これまで世界中に18ものゴルフリゾートを建設してきたドナルド・トランプという男が、それを理解していないわけがありません。
Text by Masa Nishijima
Photo Credit & Map, National Links Trust, Washington Post, Fried Egg, NPS, NCPC, GOLF.com, Masa Nishijima.