連載 GOLF Atmosphere No.122 / PGAツアー初開催を迎えたフィラデルフィアの名門クラブ
全米プロの一週間前に開催されるTruist Championshipは、フィラデルフィアの名門Philadelphia Cricket Club Wissahickon Courseが会場となっています。Philadelphia Cricket Club(以下、PCC)は1854年にPen大の卒業生たちが有志となってフィラデルフィア郊外チェスナットヒル(Chestnut Hill)にクリケットクラブを設立した事から始まります。同時に9ホールコース(現在のSt.Martins Course)も開設され、1907, 1910年には全米オープンも開催されました。1920年クラブは更に5マイルほど北のフローアタウン(Flourtown)に広大な土地を所得し、1922年に今大会が開設されるWassahickon Courseを誕生させます。実はこのコースは100年を超える長い歴史を持ちながら、PGAツアーを迎え入れるのは今回が初めてです。設計は名匠A.W.Tillinghastによるもので、フロント9が複雑なルーティングで、2番グリーンと10番グリーンが高低差で向かい合うユニークなレイアウトにもなっています。7番はTillinghastがクラシック設計の定義として伝えたバンカー群を持つグレートハザード地帯がフェアウェイを分割しています。(著。ゴルフコース好奇心P191でも紹介しています。)

*Tillinghastのグレートハザード

*手前2番グリーン(大会13番)PAR4, 奥10番グリーン(大会3番) このレイアウトの発想や数ホールを円周するルーティングプランは、 プレストン大に留学しゴルフ部に所属していた赤星六郎氏によって日本にも伝えられました。
このグレートハザードのアイデアを何故用いたのか、または誕生するキッカケとなったのかは定かではありませんが、ジョージ・クランプが全財産を投じた世界No.1コース、Pine Valley GCの造成中、共同設計者だったTillinghastは、クランプの予算が底をついた事からこのグレートハザード論を用いて、Pine Valleyの名物ともなったフェアウェイを分割させた戦略的ステレオタイプのホールを完成させました。
このTillinghastの遺作Wissahickon コースですが、フロント9の複雑でタイトなルーティング及び、長い間コース改良されて来なかった事からか、2014年Keith Fosterによるレストレーションが完了されるまでけして高い評価にはありませんでした。しかし2024年度GOLF Magazine誌(GOLF.com)が発表した全米TOP100コースで見事98位にランクされました。
クリケットクラブからスタートしたPCCですが、全米オープン開催後、ゴルフ人気が高くなり、Wissahickonコースが完成した1922年から1990年に至るまで、クリケットはあまり行われず、セレブたちから人気を誇っていたテニスがそれに変わって登場してきます。しかし90年以降、St.Martinsコースがあるチェスナットヒルのキャンパスにあった旧クリケットコートは復活をします。
PCCはPen大の卒業生の有志たちが開設したそのクラブ史を重んじ、チェスナットヒル、フローアタウンの二つのサイトをそれぞれチェスナットヒルキャンパス、フローアタウンキャンパスと呼んでいます。

*図上オリジナルルーティング、図下大会用のルーティング
クラシックコースが黄金期を迎えた1920~30年代ですが、当時のクラシックコースは練習場を造る意識がまだ薄かった時代でした。ヘッドプロからのレッスンはコースで学ぶことが当たり前だった時代でした。従ってフィラデルフィア周辺ではPine ValleyやMerionに代表されるように、この時代のコースは練習場がクラブハウスから離れた箇所に設けられている例が多く、PCCも同様に練習場は後になって4,5,7番グリーンに並行する形で設けられました。
2002年この練習場を挟むように3番目のコース Militia Hill CourseがPf. Michael Hurzan, Dana Fryの共同設計により完成します。これによりPCCは19世紀、20世紀、21世紀の3世紀においてコースを誕生させた世界で唯一のクラブとなったのです。大会ではその練習場に大会施設を設ける事から、オリジナルのルーティングではなく、8番からスタートし、9-10-11-12-13-14-15-16-17-18-1-2-3-7-5-6-4のルーティングに変更されています。グレートハザードのある名物ホール7番は大会15番になります。グリーンが高低差を持って向かい合う大会3番,13番(オリジナル10番2番)、戦略的クリークが絡むホールなど、 見どころは満載です。
長きに渡るPCCのメンバーであるGOLF.comの編集委員ジャック・ハーシュ氏(Jask Hirsh)は、今大会は8番(オリジナル15番)240ヤードPAR3のレダンホール、10番(オリジナル17番)449ヤードPAR4, 11番(オリジナル18番)487ヤードPAR4, 15番(オリジナル7番)555ヤードPAR5, 16番(オリジナル5番)215ヤードPAR3, 17番(オリジナル6番)498ヤードPAR4がトーナメントのキーホールだと述べています。
尚、PCCにはカントリークラブとして、ゴルフ、テニス、パドルテニス、スカッシュ、スイミングプール、フィットネス、トラップシュート、クリケット、ブリッジ、ピックルボールなどのアクティビティがあり、スイミングプールに関しては、戦前オリムピック競泳選手育成を目指して造られた歴史があります。さまざまなスポーツでメンバーに最高の施設、プログラム、インストランターを提供している東部の名門中の名門クラブです。現在二つのキャンパスには1,636人のメンバーにその家族を含めると4,072人が施設を利用しています。
翌週には全米プロ。

*Quial Hollow Club 18番
Truist Championshipの翌週には、第107回全米プロがノースカロライナ州シャーロットのQuail Hollow Clubが開催されます。
1961年に開設されたQuail Hollow Clubですが、PGAツアーコースに相応しい進化を見せたのは1997年Tom Fazioによる改造からです。ここから数年ごとに数ホールの修繕を繰り返し、2017年に第99回全米プロを迎えるまでの骨格あるトーナメントコースになりました。
2017年の松山英樹はツアープロとして絶頂期を迎えていました。全米プロでも2位に入り、ここでの全米プロも三日目終了時までトップに立っていました。誰もが今度こそ松山が初のメジャー大会を制すと期待していました。
4日目朝の練習ではいまいち調子が悪く、開き直ってスタートしたそうですが、案の定、バック9に入り崩れてしまいT5位に終わりました。ホールアウト後、人目を憚らず悔し涙を見せていた松山を思い出される方もいらっしゃると思います。松山にメジャーの厳しさを伝えるそのトドメを刺したようなホールが最終の18番でした。
このパー4はコースで最も難しいレイアウトでしょう。ティーショットはダウンヒルラインで、右側にバンカー、フェアウェイの左側にはグリーンまでクリークが流れています。最終日何人のプレーヤーがこのクリークに捕まったことでしょうか。2ndのショットは僅かなアップスロープのラインに、グリーンは右に2つのバンカー、左はクリークと厳しくガードされています。グリーンはファジオの設計の特徴を色濃く出す分割型のサーフェイスで、正面と中央の起伏によりタフなラインを形成しています。松山英樹のリベンジに期待したいところです。
Text by Masa Nishijima
Photo credit by GOLF.com, SI, PCC資料室, PGA Tour, Quail Hollow Club,
Masa Nishijima.