連載 GOLF Atmosphere No.121 / マスターズウィーク オーガスタからの便り。
ハリケーン「ヘレン」からの復興

*ハリケーンヘレンがオーガスタナショナルに残した爪痕
昨年9月米国南部を襲ったカテゴリー4のハリケーン「へレン」は、過去20年で最も強力なハリケーンであり、時速140マイル以上の暴風雨は、南部全体で44人もの人の命を奪いました。ジョージア州オーガスタはヘレンの進路の中心にあった為、多くの住民が食料、水、電気のライフラインの確保に困難を期しました。オーガスタ周辺地域のいくつかの町も同様に莫大な被害を受け、交通のアクセスもできなくなる事態でした。当時副大統領だったカマラ・ハリスがオーガスタ及びその周辺の街を訪れ、ボランティア活動に参加し、市民を激励した映像は記憶に新しいものです。
オーガスタ・ナショナルもハリケーン・ヘレンによって大変なダメージを受けました。「ゴルフコースに関しては、地域コミュニティと同じように大変なダメージを被りました。現在は多くの人々が2025年度マスターズに向けて、コースを再び稼働させるために懸命に働いています。私たちの復興への想いと祈りは、ジョージア州南東部で被害を受けたすべての人の気持ちと共にあります。」オーガスタ・ナショナル兼マスターズ委員会長のフレッド・リドリー氏は10月のアジア太平洋アマチュア選手権の壇上でそう述べました。
そしてオーガスタ・ナショナルが、セントラル・サバンナ・リバー・エリアのコミュニティ・ファウンデーションと提携し、ハリケーン・ヘレン・コミュニティ危機基金に共同で500万ドルを寄付したことを発表しました。また大会リリースには、オーガスタ・ナショナルが、アメリカ赤十字社やその他の地域社会のパートナーが主導する対応と復旧の取り組みを支援するために貢献している事も伝えていました。
1934年、球聖ボビー・ジョーンズ主催”Augusta National Invitation Tournament”が始まりとなり、大会名をザ・マスターズに改名し、今年89回目を迎えるに至るまで、マスターズを観戦に行かれた方ならば誰もが感じられるように、オーガスタの街はマスターズウィークの為にあるその街一体感が、ゴルフ界最大の祭典を創り出しているのです。
オーガスタ・ナショナルGCは最大300名をメンバーの上限とし、仮に不幸などでメンバーが脱会したとしても、新規にメンバーをすぐに補填するような事はしません。事実、女性に窓口を開放する前のメンズオンリーの時代は280数名のメンバー数でした。また入会金、年会費も一切公表はされていません。またどれだけの富裕層、ビジネスの成功者であろうとメンバーになれるというものではありません。
マスターズウィーク時にプレスルームに入る記者たちの話では、入会金は4万ドル~5万ドル、年会費は2万ドル~3万ドル程度だろうとの噂ですが、事実ならば年会費はリビエラやLA CCのようなカリフォルニアの名門よりむしろ安いくらいです。
オーガスタ・ナショナルはマスターズの為のクラブ組織である事から、メンバーがプレーできる期間は限られています。マスターズの為のコース改修は毎年のように行われ、その年のプログラムにもよりますが、通常は湿度が一気に高くなる5月中旬から9月一杯、コースは閉鎖されます。更にマスターズ前の1ヶ月、アパラチア山脈地帯からの寒気が流れ、雪を降らす1~2月の一時期はクローズになることから、メンバーがプレーできる期間は5ヶ月程度に過ぎません。それでもメンバーになればこれほど名誉な事はないでしょう。
オーガスタ・ナショナルはマスターズで得た収益ですべてを賄っています。その収益はマスターズに関わるマーチャンダイズ、チケット、海外への放映権料がメインですが、これらはマスターズ大会のためのすべての整備に費やされています。
メンバーの年会費はあくまでクラブハウス内、及び10ある宿泊キャビンの管理コストなどに当てられているそうで、地域とのコミュニケーションとしてのボランティア資金にも一部使われた年があったようです。昨年のハリケーンヘレンの危機基金に寄付された500万ドルの一部にも使われていたのかも知れません。
しかしハリケーンにより、オーガスタ・ナショナル自体も2025年度のマスターズが開催できるのか?と心配されるほど膨大な被害を被りました。マツを中心に1000本以上の樹木が根こそぎ倒され、16番グリーンを含む4つのグリーンが倒木の被害に被り、修復されました。3月末にメンバー役員のD氏の招待で、オーガスタ・ナショナルに訪れたローリー・マキロイは視察プレー後、「これまで日照や風を抑えた樹木が無くなった16番をはじめとする数ホールは午後のプレーのキーとなるでしょう。」と意見を述べました。12番の後方の樹木もかなり倒され、風の計算をトッププロたちはどう測るのか楽しみです。そんな中、復興に全力を注いだオーガスタから素晴らしい知らせが届きました。

*樹木がグリーン上に倒れた16番ホール

*3番グリーンと4番ティ かなりの数の樹木が倒れ、グリーンコンプレックスはかなりのダメージを受けた。
オーガスタ・ナショナルとタイガー・ウッズが、教育&コミュニティ・ゴルフ・パートナーシップを発表

*Augusta Municipal Golf Course “The Patch”
オーガスタ・ナショナル・ゴルフ・クラブ兼マスターズ委員会会長であるフレッド・リドリーは年次記者会見で、2025年に市との共同プロジェクトで、オーガスタ市営ゴルフ・コースの改修とその新しき施設の計画を発表しました。
市営コースは、チャーター機が離発着するオーガスタの民間空港ダニエルフィールド空港に隣接してあり、1928年からの歴史を誇ります。オーガスタ・ナショナルの南約5マイルほどの距離に位置します。
このプロジェクト、名称「The Patch」におけるレイアウトは上の図をご覧下さい。
コース改造にはこれまでAugusta Nationalのリノベーション作業に関わってきたコース設計家のTom FazioとBeau Willingが担当し、2026年4月のマスターズウィークまでの完成を目指すことになります。更にTiger Woodsの設計によるファーストティ向けの9ホールのショートコースも加えられます。
更にリドリー氏は5度のマスターズチャンピオンであるタイガー・ウッズと提携し、ジョージア州オーガスタでゴルフを中心にした高品質な教育プログラムを持つラボと誰もがゴルフを楽しめる手頃な参加費の設定で、より多くの人がゴルフに触れ合えるアクセスルートを強化すると発表しました。
まずウッズの非営利団体であるTGR財団は、このオーガスタ市と提携し、TGRラーニングラボを建設し、若者たちに科学、技術、工学、芸術、数学(STEAM)教育へのアクセス機会を提供します。
更にリドリー氏は「オーガスタにとって重要なマイルストーンであり、私たちのコミュニティが誇り高きマスターズチャンピオンの1人であるタイガーウッズとの繋がりを深めることは大変重要なことです。このプロジェクトがTGR財団と提携し、オーガスタのコミュニティに共同で投資できることに感謝しています。TGRラーニングラボでのこのパートナーシップは、高品質のプログラミングへのアクセスを増やし、次世代に強い影響を与えるはずです。」と述べています。
TGRラーニングラボは、リソース不足のコミュニティの学生に刺激的な学習スペース、つまり最新のテクノロジーへのアクセス、および専任サポートのコミュニティ環境を提供します。TGR ラーニングラボのプログラムは無料で、STEAM教育の充実、健康と福祉、キャリアと大学の準備に焦点を当てています。プログラムは学校のスケジュールに合わせ、週末、夏休み期間など、年間を通して提供されていきます。
タイガー・ウッズは「The Patchでの取り組みを中心に、ラーニングラボは次世代に力を与え、有意義な教育プログラムを提供し、楽しく手頃な価格でゴルフにアクセスするための改革の良き機会になります。プロジェクトパートナーとして協力出来ることを誇りに思います。」と述べています。
リドリー氏は「The Patch Project, LLCは、Augusta Technical College、The First Tee of Augusta、Masters Tournament Charities, Incがパートナーシップを組み、オーガスタコミュニティのパブリックゴルフを強化し、スポーツの普及と共にそれに関わる雇用も生み出す機会となるでしょう。オーガスタテックが持っているゴルフ管理プログラムには注目すべきものがあります。」と述べています。
TGRラーニングラボは、ラマー小学校の旧跡地にあり、リッチモンド郡のすべての生徒とその周辺のセントラルサバンナリバーエリア(CSRA)学区に利用可能なプログラムを提供します。オーガスタTGRラーニングラボの開校予定は2028年4月で、開校前にリッチモンド郡で校内カリキュラム、プログラム、コミュニティイベントが模様される予定だという。
名門オーガスタ・ナショナルGCが築いてきたマスターズ大会は、地元オーガスタ市民が一体となって世界一のゴルフの祭典にしてきました。
スポーツと教育の新しい環境を創り上げようとプロジェクトを立ち上げたオーガスタ・ナショナルに本当の名門クラブの意義を教えられたような気がします。
Text By Masa Nishijima
Photo by The Patch, Eurekaearth, GOLF.com.