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なぜ人は馬に惹かれるのでしょうか。

 

美しく気品に溢れ、可愛らしく、時に強く、逞しく勇敢な馬。長い長い人類の歴史の中で、私たちは彼らと『特別な絆』を築き上げてきたのです。

 遡ること約5,000年。人は人類史上最高とも謳われる馬銜(ハミ)を発明します。そして、このハミこそが、人と馬が『特別な絆』を結ぶ第一歩となりました。

ある日、人は馬の口の中には他の家畜とは異なる特徴があることに気づきます。それは、草を器用に噛み切る前歯と、草を磨り潰す平らな奥歯の間にある空間(=歯槽間縁)でした。左右に存在し、上下共に歯がなく、歯茎も平らで、もちろんその間では物を噛むこともできません。そして、人は左右の空間に棒を渡し、端に縄を結び、馬を制御することに成功したのです。これがハミの始まりでした。

 Skull of domestic horse on a white background (Equus caballus)

 

 

その後、ハミは人の暮らしに劇的な変化をもたらします。馬を正確に操り、複雑な制御が可能になると、人はより速く、より遠くへと移動するようになりました。さらに、交流や物流も活発になり、人類は飛躍的な進化を遂げたのです。まるで「ここに置いて!」と告げたような馬の口の中の奇跡。人々はこれを「神様からの贈り物」だと喜び、賞賛したと伝えられています。

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同時に、人と馬との関係も一変します。これまでは家畜の一種であった馬が、共に働き、新天地を切り開くパートナーへと姿を変えたのです。そして、人は馬を慈しみ、労い、信頼を築き、『特別な絆』を深めます。反面、より速い馬を求め、より強い馬を求め、駿馬こそが富と権力を象徴したこともまた、人と馬の『特別な絆』でもありました。 

残念ながら今日、これらの『特別な絆』を感じる機会は日常的ではありません。それでも馬に惹かれるのは、数千年もの間、脈々と受け継がれてきた馬への想いが、今も人々の心に残っているからでしょう。

そして、もう一つ。

今も変わらずに残っているのが、実はハミなのです。素材は改良を重ね、用途に合った多種多様なハミが存在しますが、その基本的な使い方は変わりません。これは、人類史上あらゆる発明の中でも非常に珍しく、唯一無二の存在。まさに人と馬との『特別な絆』を象徴しているのです。

Life with Horsesでは、これからも様々な馬物語をお届けして参ります。人と馬との悠久の歴史に思いを馳せ、日々の生活の中でほんの少し、馬たちとの『特別な絆』を感じて頂けると機会となれば幸いです。

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MILKY KORA

馬ジャーナリスト / Maraque編集長。京都生まれ。
幼い頃から馬術を嗜み、乗馬専門誌の編集を経て馬ジャーナリストとして独立。2010年に世界最高峰のホーススポーツを伝えるEquine Journal Maraqueを、さらに2014年にはより専門性の高いMaraque for Professionalを創刊。現在は日本で唯一のホーススポーツ専門誌として発行を続ける傍ら、ライダーのマネジメントや馬イベントの開催など馬に関する幅広い活動を行っている。