晩秋のThe Masters

 

コロナ蔓延の中、1112~15日に開催が延期になった本年度のマスターズ、

晩秋のマスターズはその幕を開けます。

 

オーガスタナショナルは5月終わりから10月初めまでクラブは休館します。(これはシーズンにより多少異なる)、ジョージアの夏の暑さは湿度も高く、元々は避寒地として東部の富豪たちがやってきた南部のリゾートでした。従って昔からメンバー達も夏に訪れる事はなく、この間にマスターズ委員会はコースを来年度のマスターズに向けて改善していきます。その主なる仕事がバミューダ芝のフェアウェイを一度落としそこにライグラスをオーバーシードする作業です。

それと同時にマスターズでは定番となっているハザードラインを目的とした樹木の植樹が行われます。今年は紅葉となる多くの落葉樹が低地にあるアーメンコーナー付近から15番辺りにかけて植栽されたようです。

1933年に開設されたオーガスタナショナルですが、創設者の一人球聖ボビー・ジョーンズはどのような理由でアリスター・マッケンジーに設計を依頼したのでしょうか。それはカリフォルニアのマッケンジーの作品サイプレスポイント、パサティエンポの開発に携わった女性アマチュアゴルファー、マリオン・ホリンズ女史の存在が大きく関わってきます。

 

この話は以前、GOLF Atmosphere No.6 オーガスタナショナルの真実パート 1

で詳しく解説させて頂きましたので是非ご一読下さい。

 

オーガスタナショナルの真実PART1

https://tokyo-classic.jp/feature/golf-academy/1670/

 

又、オーガスタナショナルの設計理論につきましても

GOLF Atmosphere No.7 オーガスタナショナルの真実パート2 及び

No. 8 パート3も是非もう一度目お読み下さい。

 

オーガスタナショナルの真実PART2

https://tokyo-classic.jp/feature/golf-academy/1673/

 

オーガスタナショナルの真実PART3

https://tokyo-classic.jp/feature/golf-academy/1697/

 

ボビー・ジョーンズはプレーヤーとして技術、精神面を学ばせてくれたセント・アンドリューズ・オルードコースをバイブルのように慕ってきました。一方アリスター・マッケンジーは設計家としてオールドコースの神秘を追求し、自身の設計哲学をオールドコース攻略の愉しみに繋げます。彼の著「The Spilit of St.Andrews」にはオールドコースへの忠誠心が書き込まれています。盛り土した砲台状のグリーンが流行る中、グリーン造成は地面と同じ高さのグランドレベルに置くことを徹底し、オールドコースのグリーンをマンメイドの世界で作り出す手段として、スロープを活用するアイデアを思いつきます。芝の刈り高がまだ10mmが限界だった時代(現在は通常で3.3~3.7mm)、地盤が固く起伏あるオールドコースのグリーンの球の転がりを再現するにはその方法がベストと考えたのでしょう。坂を活用したスローピンググリーンの完成を目指します。

 

1931年ジョーンズに連れられて初めてオーガスタナショナルの台地に訪れた時、マッケンジーは何を感じたでしょうか。それは今まで米国の大地で描いてきた作品の用地とは異なり、ベルクマン(Berckmans)男爵家が所有していたその土地は、フルーツ農園で世界中から集められた珍しい植物が栽培された高低差55メートルの台地でした。クリークは至るところに流れ、低地の川に注がれていました。

 

しかしマッケンジーは高低差僅か7メートルのオールドコースリンクスのテイストをこのヒーリーな土地に描く決心をする。彼はジョーンズと共にここでスローピンググリーンを造れる箇所を探すことから始めます。

そしてそれらを線で繋ぎホールレイアウトし、18のルーティングを完成させていく。そんな中、マッケンジーはフェアウェイバンカーを無闇に造ることを避けました。それは地形の高低差によってティからはブラインドになってしまうからで、彼はそれをアンフェアと考え、ダウンヒル、アップヒルのショットにイマジネーションを抱かせ、そこからグリーンを多角的に捉えさせ、その一つのルートに最大のアドバンテージを与えた。そして一部のルートからはグリーンを狙うには厳しいバンカーやグリーンのスロープなどを活かしたグリーンコンプレックスの造成を描きました。つまりそこはバンカーや深いラフのハザードではなくともペナル的ルートとなります。

多くのメディアはオーガスタナショナルのコース紹介をする時、クラシックコースからモダンコース時代に移り変わる時のマッケンジーの戦略的コースと述べます。マッケンジーの戦略的設計については、彼が当時米国ゴルフ界の父C.B.マクドナルドに宛てた3本の攻略ルートを持つ戦略的パー4のスケッチ図面からマッケンジーの作品は戦略的クラシックコースとして紹介されていきます。英国リーズのムーアタウンGC, カリフォルニアのサイプレスポイント, 豪州のロイヤル・メルボルンGCウェストコースはまさにそれを極めた大作でしょう。ではオーガスタナショナルはどうでしょうか?

これまでマスターズの為に幾度も改造を繰り返してきたオーガスタナショナルですが、マッケンジーのオリジナルはグリーンフロントをスロープに正対させる事からそこへストレートに計れるアプローチゾーンに最大のアドバンテージを与えました。それは必ずしもフェアウェイのセンターとは限りません。しかしそのアドバンテージルートにない位置からのショットにはグリーンサイドバンカーを配置したり、またはスロープを斜めに捉えるポイントからはグリーン面でペナルを提供するかのように縦横の厳しい起伏を流し、賢者なプレーヤーにはグリーン手前にレイアップさせるか、または挑戦する者にはグリーン奥のポイントに打たせ、蛇行する下りのパッティングにイマジネーションを持たせるアイデアでした。

 

実は改造、改良を繰り返したオーガスタナショナルですが、このマッケンジーの哲学は今もコースの中にしっかりと継承されています。深いラフを持たないのもそれを実証させる為です。但し、用具と技術の著しい進化に対抗する為にはマッケンジーのグリーンへの多角的アイデアでは通用しなくなり、マスターズ委員会は植樹によってアドバンテージルートを示し、それに外れたショットルートには樹木によるペナルを与えました。つまり現在のマスターズにおけるオーガスタナショナルのコースは多角的戦略性を持ったコースではなく、むしろペナルタイプのコースに変化させられてきたのです。多くのコース専門家、史家たちはマスターズの為に失ったマッケンジーの財産とそれを批評します。オーガスタナショナルにおける樹木への議論は後に古い名門クラブに於いて「樹木を伐採しオリジナルのスケールに戻ろう」のテーマを流行らせるキッカケともなります。

 

11月のマスターズと通常4月のマスターズの違いを挙げるならば、まずフェアウェイがオーバーシードされたライグラスで軟らかく、4月よりも打球のランの度合いは低いでしょう。高低差あるホールでは2ndショットの番手は大きく変わるはずです。そのキーとなるホールは13番かも知れません。ティショットのランデイングゾーンが右から左に強く傾斜している事から通常ではこの傾斜を利用してセンター左に打った打球は傾斜を転がりクリーク近くの平地付近にいきます。しかし今回はこの転がりをあまり期待できないかも知れません。場合によってはかなり厳しいつま先上がりでのショットを強いられるでしょう。

更にティから傾斜のフェアウェイを捉えた時、その視界には新しい落葉樹が左サイドに植えられています。それはマスターズ委員会のデシャンボー対策だとも言われています。綺麗に見える紅葉の樹木も今大会ではハザードの効果となるものもあるかも知れません。次に風です。4月とはほぼ真逆の北東、北西からの冷たい風が吹く為、3,6,8,13,16,18番はアゲンスト、2,5,10,11,12番にフォローが予測されます。また早朝と2時過ぎからの寒さはプレーヤーを苦しめるでしょう。4月とは番手も大きく変わるはずです。

さあ晩秋のマスターズ、楽しみましょう。

 

 

Text by Masa Nishijima

Photo Credit by Society of Golf Historian, GOLF.com, Augusta National, Augusta Museum