ホームコース、ホームクラブとは。

 

真のプライベートクラブとは? それを欧米のゴルフコースマニアやゴルフ見識者たちに尋ねてみると様々なコメントが寄せられてきます。日本では自らがメンバーになっているコースやゴルフクラブを、ホームコース、ホームクラブ等と言いますが、米国でのちょっとその意味合いが違うようです。

自宅からゴルフ場への移動に首都圏などは1時間以上かかる事が当たり前の日本と比べ、米国では長くても1時間、平均で40分前後である事から、メンバーにはラウンドせずとも練習だけに来り、クラブハウスに飲食するだけにやってくるメンバーたちもいる。一人で酒一杯を楽しみに来るならば、彼らの話相手は多くの書籍が置かれたライブラリーの一室となる。そして彼らが最も求める環境は家族が楽しめるゴルフ以外の施設、例えばテニスコートやスウィミングプールなどでしょう。つまりゴルファーにとっての地元ではゴルフクラブよりも他の施設を整えたカントリークラブに関心が集まるようです。コースのクオリティは高いに越した事はないが、それほど重要ではないという家族第一主義のコアゴルファーも多くいます。つまりこれが彼らにとってのホームコース、ホームクラブとなります。

 

 

 

 

PGAツアーを賑わせるツアープロたちの多くはそのような環境の中で育まれてきました。日本では遠方であっても、メンバーになられ、HC申請するクラブをホームコースと呼ぶ方も多いようです。まさに日米のゴルフ環境の差かも知れません。

どのカントリークラブでも家族の誕生日会はもちろん、ウェディングを含めた各種パーティは日常のごとく開催されています。

古くからの歴史あるカントリークラブではこれまで多くのメジャー大会なども開催されてきただけにコースの質は全米でもトップクラスのものが多い。例えばイチローが結婚式を挙げられたカリフォルニアのRiviera CC、及び写真上、ミネソタのInterlachen CCなどは80%が地元の名士たちでクラブは構成されています。

そこには一定の知識人たちによるメンバーソサイティがあり、その中のリーダーたちによるリーダーシップ委員会(日本では理事会)が設けられ、クラブの規定からクラブの財産であるコースとクラブハウス及び他の施設についての資産管理が行われています。それはコースやクラブハウスの改修、またはハリケーンや干ばつなどにおける自然災害が起こった時、メンバーたちの年会費で賄えきれない支出が出た場合、メンバー達でそのマイナス分を補填するキャピタルチャージ制度(これは前回GOLF Atmosphere No.65のコーナーで解説させて頂きましたのでご参照下さい)の実施などです。

 

 

ステータスクラブとは

 

古くからの名門クラブでは定款にメンバー数が記されているケースが多く、18ホールに対し280~300名のメンバー数が通常です。例えば年間$240,000ドルのマイナス支出が出た場合、それを300名のメンバーで割れば、一人辺りのキャピタルチャージ額は$800ドルになります。

これらの名門クラブへの入会には厳しい条件が求められていますが、それでもウェイティングリストには100名近くのメンバー志望者がいます。つまりこれらのクラブのメンバーになることはホームコース、ホームクラブというよりも彼らにとってはステータスクラブと呼ぶに相応しいものでしょう。

米国の三大名門クラブ、Augusta NationalPine ValleyCypress Point、これらのゴルフクラブのメンバーたちは90%以上が地元住人ではありません。最低でも2時間近くかかる遠方の都市圏からやってきます。つまり他の州に居住されているメンバー達も多く、従ってオーガスタナショナルのメンバーであってもホームコースと呼ぶ人はまずいないでしょう。彼らにとってそこのメンバーになることがゴルファーとしてのステータスなのです。

  

  

クラブソサイティのあり方、施設があくまでゴルフコースだけのゴルフクラブにおいてその定款は厳守されますが、スウィミングプールや乗馬、ポロ、テニスコースなど家族が楽しめる複合施設を設けているカントリークラブでは、メンバー数の規定はその時の運営状況によりメンバー枠を10~30数名増やすなどして彼らの入会金でキャピタルチャージを賄うクラブも多くあります。

 

リーマンショックの頃はそれまで僅か220名のメンバー数(全てファミリー会員制度)だったカントリークラブが50名の枠を新たに設けメンバー募集をかけたクラブもありました。しかしそれは経営上の問題だけでなく、コースのリノベーション、練習場に家族向けのピッチ&パットやPAR3コースを加え、厳しい社会情景の中、メンバーには僅かな時間でもクラブで過ごしてもらおうというリーダーシップ委員会のアイデアでした。

 

 

 

  

今回、真のプライベートクラブとは?の問いを、世界TOP100コース、全米TOP100コースを全てプレーした者たちが集うGlobal Golf Centurions Club(以下略 G2C2)の名士たちに尋ねてみました。

まず5つものゴルフクラブのメンバーになっているダーラム氏は「最高のプライベートクラブとはリーダーシップ委員会がメンバーのニーズや希望に応えることでしょう。しかしながら多くのクラブは、会員の過半数の欲望を無視するインサイダーなグループが生まれます。常にメンバーを納得、喜ばせることは出来ませんが、それでもクラブ運営はスムーズに運ぶことは経験ある賢者なメンバーたちは悟っています。」と述べています。

 

 

 フロリダ在住のヘンドラー氏はホームクラブとステータスクラブをはっきり分けた意見を述べています。「私がホームクラブにしているAdios GC(写真上)は、70年代にアーノルドパーマーチームが設計したコースで、レイティングは決して高くはありませんが、会員制度のシステム、クラブの雰囲気はメンバー同志が友情を分かち合え、人生の中で特別な場所となっています。マッサチューセッツのOld Sandwich GC(写真下)はクーア&クレンショウの傑作の一つとして全米TOP100コースに君臨しています。年に20~30日の訪問しかなく、ここではメンバーの交流はさほど重要ではありませんが、私のゴルフライフにとってのステータスクラブであることは間違いありません。

若い世代のゴルファーにとってメンバーとしての意識を高く持つことは、クラブにとって素晴らしいAtmosphereを醸し出すでしょう。ゴルフの楽しみ方は世代によって違いはあっても、コースを楽しむ、クラブライフをエンジョイする上で、お互いが尊重し合える空間が生まれます。」

 

 

 

LA時代から名門LA Country Club(写真上)のメンバーであったラボーワ氏はプライベートクラブについては名コースである事を第一のプライオリティに上げています。過去2度ほど日本のゴルフクラブにも訪問しているので彼の意見は非常に面白いものがあります。

 

「日本の名門を初めて訪問した時、都心からの長いアクセスの問題は、ゴルフをするためにメンバーたちは1日費やしている事を知りました。またハーフを終えてのランチ休憩にも驚きました。決して健康的とは言えないそのシステムですが、質の高いコースならば私はまた日本に戻ってプレーしたいと願うでしょう。プライベートクラブとは私にとってコースのクオリティの高さ、それらは素晴らしい高低差のある地形を生かしたルーティングと設計理論に基づいていなければなりません。ドォークやクーア、ハンス、三大巨匠と言われる彼らの作品はそれを正しく伝えているでしょう。同様にプライベートクラブには素晴らしいゴルファーの創造性を極める練習施設が絶対に必要です。

更にLAカントリークラブのようにメインのノースコースの他に、家族が楽しめるサウスコースのような2ndコースがあることは最高の贅沢でしょう。もちろん家族にとってプールやテニスコースはメンバーシップのカテゴリーを上げるものでしょう。

もし私がゴルフクラブのオーナーであるならば、私はメンバーでないゲストのための宿泊施設を設けることを考えます。そして宿泊者にはプレーする権利を与える事も考えるでしょう。日米の悲しいゴルフ社会の環境は最高のゴルフクラブを訪問しプレーするには何かしらのエリートな地位が必要です。2003年に私が世界TOP100コースを全てプレーした時、57コースが米国のゴルフクラブで、その内45コースがプライベートクラブでした。79%がアクセスする為にはメンバーを知り、親交を持つ必要がありました。ヘッドプロや支配人の紹介だけではプレーは出来ないハイソサイティなクラブです。

それとは対照的にUK及びアイルランドの名コースは誰もがアクセスできます。つまりメンバーズクラブであって、米国のようなメンバーズオンリーのプライベートな空間に仕切られていません。しかしゴルフクラブはその国の社会性と歴史感な魅力によって異なって当然なのです。ジ・オープンが開催される名リンクスコースだって高額なグリーンフィを払えばプレーできるチャンスを提供している。それもUKの魅力です。」

 

 

 

サンディエゴ在住でThe Farms Golf Club創設以来のメンバーであるディームス氏は「プライベートクラブの本質は貴方にとって何が重要なのかにより異なります。質の高いゴルフコース、クラブを通しての慈善活動の社会的役割、ティータイムの容易なアクセス等、私は地元のThe Farms(写真下)30年在籍し満足しています。リーマンショックの時の財政再建からメンバーシステムは一新され、メンバーをリリースする者も出たり、新たに若い世代のメンバーのソサイティも誕生しようとしています。お互いに共通する事は真面目にゴルフに取り組む者に相応しいコースの質と挑戦です。財政を優先させるのか、クラブリーダー達が望むキャラクターのメンバーを入会させるかの挑戦は続きます。サンディエゴ周辺の新しいプライベートクラブは成功する前に少なくとも1つの重大な危機を経験しているのです。」

 

 

 

G2C2の理事でもあるマッサチューセッツの名門The Country Club Brookline(写真下)のメンバーでもあるルドフスキー氏は「人にはそれぞれに優先順位があり、クラブに何を求めているのかも異なるでしょう。多くのクラブは素晴らしいゴルフコースを求め、メンバー達はそれを第一の優先順位にあげるかも知れません。反面、ゴルフコースや食事、楽しいイベント等ではなく、プライベートクラブのあり方を重要し、より独占的、閉鎖的クラブを求める人もいます。また様々な施設を持ったカントリークラブでメンバー数に拘らず、年会費の安いクラブを探す人たちもいます。」

 

 

 

確かに米国東部の戦前からの古き名門としてリーマンショック時には財政破綻し、メンバー達が新規に再生を図り、入会金ではなく、年次会員制度など様々なメンバーシステムを導入するクラブも数多く登場しました。3年間年次会員を続けた後、入会金を納め、正規のメンバーになるシステムです。

 

そんな中、G2C2メンバーであるブルース氏の意見は全てを総括するようなゴルフ文化人、見識者らしい内容でした。ご紹介します。

「私は幸運なことにゴルフだけがフォーカスされない、しかしながらプールなどの付帯施設もない僅か225名のプライベートクラブにいます。我々はクラブ運営の成功はゴルフゲームへの愛を中心とした特別な文化が重要だと信じています。このクラブのAtmosphereは、メンバーの意識をリーダーシップ委員会が戦略的に強調することによって達成できます。トーナメントのスケジュール行程などでもメンバー同士の新しい友情が芽生え、メンバーのリリース(脱会)率は非常に低くなっています。私はこれまで信頼できる友人をゲストに招き、そして彼らのゴルフへの熱意は志を同じくする新規メンバーとなりました。これは2001年に新しく結成されたリーダーシップ委員会が求めたゴルフ文化の証であると考えます。ゴルフコース自体の質も非常に重要ですが、質の高いコースは他にも沢山あります。しかしそこに私が文化と呼ぶに相応しい特別な要素は多く存在しません。」

 

ゴルフの見識者たちのご意見はいかがだったでしょうか。

真のブライベートクラブとは?と考えた時、世界中の名門にも起こっているようなクラブ側やリーダーシップ委員会(理事会)に厳しい要求を突きつける個人的言動は決して正しいとは言えないでしょう。その前にゴルフ文化人としてクラブのソサイティとその環境から更に成長し、世界中のプライベートクラブを歩き、そこのメンバーたちを観察し、メンバーとクラブ側との信頼あるコミュニケーション作り、今後の繁栄には何を申し伝えるべきかを学び考えていく必要があるかと思います。

そしてリーダーシップ委員会には所属ヘッドプロ、そしてコース管理責任者であるスーパーインテンデントの参加は不可欠です。彼らのプロとしての意見、存在なくして真のプライベートクラブは成り立ちません。

 

戦前からの歴史を誇る日本の名門クラブにおいてもリーダーシップ委員会を仕切ったキャプテンの独断によって、先代から引き継いできた日本のクラシックコースの歴史は途絶え、米国のフロリディアンなパブリックコースに化してしまった例もあります。メンバーがそれぞれにゴルフ文化人とは?を正しく捉え学んでいたのならば、メンバー同士に上下関係は生まれず、このような悲惨な事は起こらなかったはずです。

 

 

 

 

さあ名門への扉を開けましょう。

 

 

 

Text by Masa Nishijima

Photo Credit by Masa Nishijima, Golf Digest.com, Interlachen GC,

Rees Jones Design Inc, The Farms GC, G2C2, The Society of Golf Historians.