GOLF Atmosphere No.60 ゴルフマガジン 2020/21 年度世界トップ 100 コースを発表
米国ゴルフマガジン誌(GOLF.com)が隔年に発表する世界 TOP100 ゴルフコ ースのランキング、例年はその年の 9 月に発表するものが、今年は 2 ヶ月半ほ ど遅れた 11 月 20 日発売号(12 月号)となり、12 月号と翌 1 月号を合併し、トー タル 140 ページ、その中でコースランキングは 51 ページを占める特集となりました。実はここに至るまで編集及び関係者たちの苦労は計り知れないものでし た。どの国でも紙媒体は低迷しており、創刊 60 年を誇るゴルフマガジンとてそ の数字は年々低下の一途でした。Web-site で GOLF.com を誕生させ、ネット社 会で地位を得たことが大きな原因かも知れません。かつては 189 ページで構成 されていたものが 12 年ほど前から年々ページ数は減り始め、17 年度は遂に 116 ページにまで薄くなり、予算削減から紙の材質までも落とされました。
2018年、創刊から長くオーナー権を持ち続けていたタイムグループ(Time Inc) は起業家 Howard P Milstein 氏に売却し、ゴルフマガジン(GOLF.com)は現在彼 の配下にある 6 つのゴルフ事業「8 AM GOLF」に所属されている。 尚、この中にはジャック・ニクラウスをパートナーとした Nicklaus Companies も含まれており、Milstein 氏はそこの CEO も兼ねています。
コースランキングの歩み。
ゴルフマガジンがコースランキングを発表したのは 1983年の事で、それまでは 世界 TOP50 コースを選出するだけでランキング付けはしておりませんでした。 83年のランキング作業も TOP50 からスタートしましたが、当時編集長だった George Peper は、85年にランキング枠を 100 に拡張し現在に至っています。 ライバル誌である GOLF Digest もその年から全米コースランキングをスタート させます。この頃、米国のゴルフ人口は 2 千万人に達し、ゴルフコースの数は 12,384 コースに達していました。その中の TOP100 の枠ですから 1/100 以下の 限られた名コースに与えられる名誉でした。
2015年には 15,372 コース、2006 年のピーク時には 16,000 を超えるコース数 にも達しましたが、リーマンショックなどの影響から 700 以上ものコースが倒 産閉鎖に追い込まれ、新設も増えるが閉鎖されるコースも同等以上の数を記録 しています。 そんな中、コースランキングは世界のゴルフ産業を発展させる役割を果たして いきます。日本ではチョイス誌などが毎年日本 100 選コースを紹介しています し、アジアでは韓国、中国なども自国の TOP100 コースを選出しています。 欧州ではゴルフワールド誌が欧州大陸ベスト 100 を紹介していますし、豪州で も本場英国でも米国に並行して TOP100 コースが紹介される時代になりました。 TOP100 の価値、特にアジアのゴルフ場ではビジネスステータスと考えられる ようになり、著名な PGA ツアープロを監修者に国際的に活動するコース設計家 チームは競うようにいくつものプロジェクトを抱える事となります。 しかしそこにゴルフコースを学術的に捉える文化論は存在したでしょうか? ゴルフコースについて語り合う時、そのランキングについて議論するのではな
く、そのコースのどのホールがどのような理論をもとに設計され造られたのか を語り合う、それこそがホームコースを名コースに導く一歩である事を我々は 忘れてはなりません。名門とはコースよりもそのメンバーたちがゴルフに見識 を持つ名士であるかが重要です。
2007年度から 2017 年度まで、ゴルフマガジンはコースランキングに投票する パネリストの数を大幅に増やし、17 年度には 125 名の数に達しました。しかし ながらコースランキングは、特定のコースを過大評価する一部のパネリストグ ルーブの仕業によってその信頼度を大きく失っていきました。 新しく就任した編集長はその責任から 40 年近く続いたコースランキングを一時 取り止め、PGA ツアーをメインに再生を図ろうと考えます。しかし CEO の Milstein 氏の発想は全く別で、コースランキングと編集を切り離し、コースラ ンキングの分野に新しい CEO を就任させ、大改革に踏み切りました。結果、ゴ ルフコース研究ソサイティ GOLF CLUB ATLAS の創設者の一人である Ran Morrissett 氏を編集長に迎え、特別委員 3 名を含めたチームでまずパネリスト の選定からやり直しました。 過去の投票データから過大評価に参加していたパネリストたち全員を選定の対 象から外し、更に活動範囲が狭いパネリストを外し、残された者に対しても厳 しいアンケート調査を行い、結果 60 名を切り、残った 65 名に GOLF CLUB ATLAS からコース見識の高い人材をパネリストに迎え入れ、計 77 名で再スタ ートをしました。この中には著名で活動的なコース設計家が 10 名も参加してい ます。投票にノミネートされたコースは 430 足らず、これは前回の 500 近い数 からは大幅に減り、過去のデータをもとにより相応しい作品だけを選考基準と しました。
その結果、過去に類を見ないほどの完璧とも思えるコースランキングが完成す るに至ったのです。更に創刊以来、初めてとなる 12 月,新春 1 月号の合併号を 組み、トータル 140 ページ中、コースランキングに関して何と 51 ページもの特 集となりました。そして同時に発表していた世界と全米のコースランキングを 2 回に分け、全米コースランキングは 21 年度夏に改めて投票を行う工程とした のです。
コース採点法
ゴルフマガジンの採点法はいたって単純です。TOP3, TO25, TOP50 など、10 のバケット枠を設け、それぞれにポイントをつけています。そのポイントの合 計数を投票数で割ったアベレージの結果がそのコースのランキングとなります。 但し、投票数が 10 に満たないものは次点となり、ランキングの対象にはなりま せん。ゴルフダイジェストなどはパネリストが個々にショットバリュー、ビュ ーバランスなど 8 つの項目にそれぞれ採点をつけ、その合計をコースの評価に していますが、ゴルフマガジンではそれはパネリスト個人がそれを査定できて 当然と判断し、更に距離が長い、タフがベストコースの条件であるような風潮 は一切評価の対象外としています。従って、7,000 ヤードはもちろん 6,500 ヤー ドにも満たないオールドリンクスやインランドコースにもその設計の価値を後 世に伝える意味でも高い評価に繋がっています。
2020/21 年度世界 TOP100 コースランキング
Pine Valley の評価は世界 TOP100 コースがスタートした 85 年から今日まで ナンバー1 の地位を揺るぎないものにしています。2 位の Alister Mackenzie の 大作 Cypress Point も 1991 年から今日まで 2 位の地位を保ち続けています。こ の 2 コースはアベレージポイントが 90 を超える抜きん出た存在であり、77 名 のパネリストの大半が TOP3 のバケットに投票したことがわかります。 オールドコースの 3 位には深い意味があります。ゴルフ史の発祥の地という事 ではなく、1920 年代に繁栄を極めたクラシックコース設計の定義がここの 18 ホールから生まれている事です。つまりオリジナルの元祖たるものがオールド コースであり、Alister Mackenzie はオールドコースの起伏あるグランドレベル グリーンをテーマに Augusta National を設計したのですから、その模範となっ たオールドコースが上のランクを付けて当然の事なのです。
その Augusta National が過去最低の 9 位にランクダウンしました。80 に満たなかった 79.31 のアベレージポイントは、投票した 1/3 のパネリストが TO4-10 ではなく、次の TOP11-25 に評価していた事を示す数字です。もちろん TOP3 に評価するパネリストもいますが、Ran Morrissett は解説の中で、樹木の伐採 によって、コースのオリジナルスケールを戻すのがトレンドの中、マスターズ 大会のルール規定の為に、横幅のスケールを出すための樹木の伐採ができない 事がランクダウンの原因かもしれないと述べています。そもそもコース設計家 にとって、改造、改良を繰り返してきた Augusta National への不満は多かった のです。PGA ツアープロとコース設計家たちの評価がはっきりと分かれていた のも AugustaNational の特徴でもありました。今回 77 名のパネリストに PGA ツアープロは一人も含まれていません。しかし Augusta National の真髄とはそ んなレベルのものでしょうか? どれだけ改造を繰り返し、形は変えども Alister Mackenzie の哲学は残されています。彼の The Spirit of St.Andrews を我々は もう一度に探求する必要はあるはずです。
TOP11-25 位のバケットで注目したのは全英オープンが開催された Royal Portrush でした。開催に向けてルーティングそのものから大きく改造されたか らです。しかし TOP10 への壁は高かったようです。
またスコットランドの名門 Muirfield が TOP10 から落ちたのは意外でした。 Pebble Beach, Merion(East),Ballybunion(Old)もかつては TOP10 の常連でし た。そんな中、1995 年以降に開設された二つのモダンクラシックコース Crenshaw&Coore の Sand Hills と Tom Doak の Pacific Dunes は新設コースで も上位ランクの古き名門に対抗できることを証明しました。
TOP50 以内と TOP51-75 ではそのランキングの価値も大きく違うでしょう。
26 位の Friar’s Head の 63.85 ポイントから 50 位 California Club の 48.20 ポ イントでは 15 ポイント以上の差がありますが、55 ポイント以上を出していれ ば次回も TOP50 内は確実なコースと予測出来るでしょう。逆に 50 ポイントに 届かなかったコースは TOP50 位からいつ滑り落ちてもおかしくありません。そ れほど 50~45 ポイント内は僅差で名コース達がひしめき合っています。 Crenshow & Coore の Friar’s Head は開設当時から 30 位台のランキングでした が、今回初めて 20 位台にランクアップ。17 年に開設してすぐに 29 位のランク を付けた Tom Doak の Tara Iti は今回も 27 位とこのバケットを確実なものにし ています。オクラホマの Southern Hills は 1936 年に開設された Perry Maxwell の傑作ですが、今回 Gil Hanse の造成チームによるリノベーションによって、 ランキングを 69 位から 49 位へと大きくジャンプアップしました。
Hanse は LA CC North のオリジナルへの復元作業、Merion(East), Winged Foot のリノベーション、更に今回、10 年前に手掛けたセス・レイノーの名作 Sleepy Hollow のリノベーションが高く評価され、TOP100 の仲間入りをしました。 Hanse の名門のリノベーション作業には、C.B.マクドナルド研究家の第一人者 故 George Bahto 氏をチームに参加させた Sleepy Hollow がそうであったよう に、そのオリジナル設計の研究家、専門家を交え、彼らと綿密に議論した上で 作業に入ります。古き名門の作業はもちろんですが、新設で TOP100 に入って くるような作品の多くは、設計家だけでなく、コース論説家、史家など専門家 たちを交え、彼らがワンチームになってプロジェクトを形成しています。これ は欧米では昔から常識となっています。例えばカナダの Cabot Links は海外で は無名に近いコース設計家 Rod Whitman を雇いながらも、そこにコース専門 家でゴルフマガジンのランキングエディターを勤めた Ran Morrissett を中心に、Golf Club Atlas の代表者たちが設計に参加し完成されました。現在はワールド ランキング 82 位のカナダを代表する名コースとなっています。
39 位にランクされた日本の至宝コース広野 GC は、オリジナル復元をテーマに Martin Ebert のチームがリノベーションをしましたが、今回の投票前にそれを 視察したパネリストは 2 名のみで、この結果は次回 2022 年に持ち越されます。 果たしてどう評価されるか。次回注目しましょう。
フロリダの名門 Seminole の 23 位から 34 位のランキングダウンが気になりま すが、リノベーションの評判がどうもよろしくないようです。 スコットランドの North Berwick が 51 位から 37 位と遂に TOP50 入りを果た しました。これは今回のパネリスト達の大半がクラシック設計に精通した専門家たちであり、コース史への拘りも強い。レダン、ダブルプラトーなどそのオ リジナルホールがあることから、North Berwick は彼らにとって至宝コースと なっているのでしょう。
今一度バケット別のポイント表をご覧ください。TOP51-75 には 50 のポイント が与えられますが、アベレージで 50 に達しているコースは一つもありませんで した。つまりこのバケットのコースに TOP75-100 またはそれ以下と評価したパ ネリストたちがいたことを意味します。51 位の Royal Troon の 47.95 から 75 位の Prestwick の 42.50 は僅か 5.45 ポイントの差しかありません。 そんな中、イングランドの名門皇室が役員を務める Swinley Forest、Ballyneal,Winged Foot(East)、Prestwick が大幅にランクを上げました。Prestwick は前 回 100 位と久しぶりに TOP100 復活を成しました。第一回全英オープンが開催 されたトーナメントの聖地でもあり、パネリストたちはそれを伝え残したい想 いもあるのでしょう。オールドリンクスにありがちなメインテナンスの問題も ここ数年大変な進化を遂げています。
Winged Foot(East)はやはりここも Gil Hanse によるリノベーションの成果が 出ています。それとは逆にリノベーションがモダン過ぎると批評されたミシガ ンの名門 Oakland Hills は 53 位から 72 位にランクダウンしています。 メキシコの David Love III 設計チームの傑作 Diamante は TOP50 位に入って いましたが、なんと 34 もダウンし、70 位。このコースの砂丘のスケールは確 かに素晴らしいが、戦略的な観点から捉えるとこの辺りが妥当なのではないか と考えます。
TOP76-100 のバケットには何と 10 コースもの新顔 New Comer*が登場しまし た。注目したいのはクラシック設計界の巨匠 Harry Colt & C.H.Alison の作品 イングランドの St.George’s Hill とオランダの Utrechtse GC De Pan が入ってきたことです。オランダからは Royal Hague についで 2 コース目で、どちらも オランダ人設計家 Frank Pont のリノベーションによる功績でしょう。
St. George’s Hill はスタートがアップヒルなショートパー4 でスタートします。 誰もがそこにコースのオーラを感じると述べます。更に 8 番のパー3 は世界のベ ストパー3 ホール 50 選にも選ばれています。De Pan は狭い土地ながら巧みな ルーティングで、そのデザインバランスの美しさは自然との調和を図っている かのようです。ゴルフをせずとも 18 ホールを歩きたくなるまさに森の中のオア シスです。今回のランキングでパネリストたちの誰もが強調したのはコースに どれだけ Walkability があるか。つまりゴルフプレーの基本である歩行をポイン トにしていた事です。ジョージア州の砂質豊かなコブタウン郊外に 2018 年開設 された Gil Hanse の新作 Ohoopee Match Club がニューカマーとして登場して きました。彼にとって新設の作品ではスコットランドの Castle Stuart に次いで 2 作目です。またボストン近郊でありながらゴルフと狩りとポロが楽しめる名門 Myopia Hunt Club が 1882 年クラブ創設以来、初めて TOP100 の仲間入りを果 たしました。1898, 1901, 1905, 1908 年と過去に 4 回全米オープンが開催されて います。このコース、今でもトータルヤーデージは 6,500 ヤード足らずのコー スです。コースの価値は距離ではないはずです。
このバケットには Jack Nicklaus の傑作 Muirfield Village が 85 位にランクさ れていますが、かつて TOP50 位の常連だったこのコースもメモリアルトーナメ ントの為の改造、改修の繰り返しで、年々ランキングが落ちています。コース がランドスケープのフレームを超えてしまっているとの意見も耳にします。 サンフランシスコの名門 Olympic Club Lake Course もかつては TOP30 位台の コースが、前回の全米オープン以降、年々ランキングを落とし遂に 79 位にまで下がりました。オープンの時の距離を伸ばす為のリノベーションは明らかに失 敗したと言えます。オリジナルへの修復を怠るならば、このコースは数年後に は 100 選から落ちる可能性はあります。
94 位の Nine Bridges, 100 位の Trump International Golf Links は前回まで TOP50 に入っていたコースで、その過大評価した組織票が懸念されていました。 現在そのグループは排除しましたので、その結果がこのプレースとなったよう です。彼らが同じように組織票を持って 100 選に入れていたタイの Ayodhya Links(2017 年度 76 位)とポルトガルの Oitavos Dunes(2017 年度 56 位)は落選 どこから TOP150 位にも入っておりません。
世界 TOP101-150 コース アルファベット順。
TOP101-150 に入ったコースをランキングをつけずに紹介するのは今回が初め ての試みでした。@マークが付いているコースは前回まで TOP100 に入ってい たコースです。ここでは Baltusrol GC Lower Course, Oak Hills East, 東京 GC、 Shanqin Bay, Ganton, Royal Porthcawl, Valederrama , Yas Links などです。 Baltusrol と Oak Hills は明らかにリノベーションの失敗と言えるでしょう。 Baltusrol は担当設計家を Rees Jones から Gil Hanse に変更し再生を図る計画 のようです。Shanqin Bay は中国政府により海岸線の 17 番ホールが植栽され 現在はテンポラリーのパー3 を設け、18 ホールを何とか構成しています。中国では 2 年前に政府の政策から 101 のコースが破壊、または運営停止の処置が取 られています。この国から TOP100 選コースが誕生することはしばらくないで しょう。日本の方にとって残念なのは東京 GC の落選ではないでしょうか。2005 年から 2017 年まで 90 位台をキープしていましたが、こちらの Hanse のリノベ ーションは評価の高いものではありませんでした。東京はご存知のように Dual Greens, 2 グリーンシステムを取っていますが、朝霞グリーンをリノベーション したまでは良かったのですが、もう一つの知々夫グリーンの改造とオリジナル をベースにコース全体の改造を行ったことで、コースが持っていた伝統の美、 オーラが消えてしまった感はします。パネリストからは「Hanse の個性が出す ぎてしまったのでは?」の意見も聞きます。先ほども述べさせて頂きましたが、 歴史ある名門、名コースのリノベーションで設計家ひとりの判断に委ねること は時に危険を伴うものです。オリジナル設計家を探求されたコース専門家、コ ース史家たちの意見は、設計家の判断ミスを救う大きな役割を果たす事もあり ます。かつてはレコード盤に例えるならば A 面と B 面を持っていたコースでし た。それは時に B 面が隠れた名曲としてヒットする事もあります。しかし今は どちらも輝き過ぎ、CD 化してしまったようにも感じます。古き名コースには枯 れた箇所がいくつも隠れたように存在し、それがオーラを放すのです。
Honorable Mention (TOP101~150)
(@ Top100 courses in the World 2017-2019)
Text by Masa Nishijima
Photo by Masa Nishijima, Brian Morgan, Larry Lambrecht,
Frank Pont, Hanse Golf Design, Tom Doak, GOLF.com