連載 Golf Atmosphere #96/オーストララシアにおける話題の新設ゴルフコース
オーストララシア(Australasia)とはオーストラリア大陸、及びニュージーランド、ニューギニア諸島一帯までを含めた一帯をそう呼びます。
オーストラリア、エコツーリズムに人気が高い大自然のタスマニア州にはオーストララシアのTOP10コースであるBarnbougle Dunesと Lost Farm(タスマニア本島)、Cape Wickham GC(キング島)の3コースがある事でも知られています。
現在タスマニア州には65ものゴルフコースが点在していますが、2004年、Bandon DunesのCEOであるMike Keiser氏がディベロッパーチームに加わり、名匠Tom DoakによるBarnbougle Dunesを発表するとタスマニアは世界中のゴルファーから一躍注目を集める事となります。
更に2010年にはCrenshaw & Cooreの名コンビがBarnbougle Golf Resortの第2コースとなるLost Farmを発表、タスマニアの空港にはゴルフバッグを片手に持った外国人ゴルファーたちまでもが大勢押し寄せてきました。
そして2015年、人口僅か1,800人の牧歌的な大自然の島、オーストラリア・エコツーリズムのメッカとも言われるキング島に、Mike DeVriesとDarius Oliverの共作によるCape Wickham GLが誕生、続いて同じ海岸線の大地にOcean Dunesも発表され、ゴルフとは全く持って無縁だったこの島にも大勢のゴルファーたちがやってきます。
タスマニア州は人口54万人程度、タスマニア島にはオーストラリア最古のゴルフコース、1822年設立のRatho Farm Golf Linksもありますが、島の多くのコースはホリディコースレベルで、Banbougle Dunesが登場するまではゴルフで観光客を呼べるだけの条件にはありませんでした。
元来、自然保護を唱えるタスマニアでは州議会が大自然のエコツーリズムをメインとしてきた事から動物達が集まる海岸線は特に開発規制が厳しくとられてきました。しかしBarnbougle Dunes以降は徐々にその規制も緩和されてきます。
その一つに現在、南の玄関口、州都でもあるホバート(Hobert)の国際空港から僅か東に行った自然保護区だった半島にも、新設のモダンリンクスが造成中です。それは半島の南側になるセブンマイルビーチ(Seven Mile Beach)に沿ってClayton/DeVries/Pont のCDP設計チームによる作品で、現在18ホールのShapingはほぼ完了し、後は芝の養生、Grassingの最終作業の段階に入っています。11月には仮オープンを迎えられるでしょう。
そして更にもう一つ、半島の北側になるファイブマイルビーチ(Five Mile Beach)にも新たに18ホールが計画され、昨年暮に州議会からその開発許認可が降りたとの事。
アイルランドの男性的な荒々しいリンクスランドのセブンマイルビーチに比べ、ファイブマイルビーチはスコットランドの女性的な滑らかさのリンクスランドと表現されています。この2コースが完成すれば、タスマニアは一気にゴルファーズ天国となるでしょう。
ニュージーランドのゴルフ場開発
さてお隣の国、ニュージーランドにもクラシックコース時代からの傑作、Titirangi GCやParaparaum Beach GCなど名作が点在していますが、2000年に開設されたKauri Cliffsが3年後の2003年にTOP100コースにランクインし、一躍ニュージーランドが注目をされます。
オープンした当時は日本でも各メディアが取り上げただけに多分行かれた方も多いと思います。
オーナーがカルフォルニアのナパとニュージーランドでのワイン王と称され、ヘッジファンドの先駆者なんて一時言われた故ジリアン・ロバートソン氏。俳優の舘ひろしさんも常連客で世界中の著名人がオークランドからヘリを利用して訪問していたプライベートゴルフリゾートです。
海岸線の壮大なクリフと内陸に入った谷間とのランドスケープの構成の巧みさを持ったシーサイドコースです。ただ辛口コメントを述べさせてもらえるならば、シーサイドにありながら、グリーンのContourが単調でやや迫力に欠けることでしょうか。2003年に世界TOP100に突然入選しましたが2015年を最後にランキングリストからKauri Cliffsの名が消えています。
ロバートソン氏はワイン生産が盛んなネイピア郊外の切りだったCape Kidnappersの岸壁にニュージーランドでの第2コースを計画し、設計をTom Doakに依頼します。2004年にそのCape Kidnappersが誕生し、世界TOP100コースにランクされると、ニュージーランドでは新設コースの開発が一気に進み始めます。
ニュージーランド北島の中央に位置するロトルアは先住民族マオリの伝統文化が今も残り、沸き立つ泥火山や湧き上がる間欠泉など温泉保養地として有名です。日本からの旅行者は必ず訪れる観光地でしょう。
そのロトルアから国道を南に70kmほど南下するとタウポ(Taupo)湖へと注ぐワイカト川にはニュージーランドで有名なフカ滝(Fuka Falls)があります。毎秒22万リットルの水が流れ落ちるその大自然の光景は一見の価値があります。
タウポ湖は火山で生まれたニュージーランド最大のカルデラ湖ですが、ここの湖畔に2007年、Jack Nicklausの設計チームがKinloch GCを発表しました。高低差を巧みに操ったルーティングとニクラウス自身が描く戦略的PAR4, PAR5のモデルホールを集約したシグネチャーコースで、その評価は大変高いものです。
クィーンズタウンのある南島はニュージーランドの大自然をより満喫できるでしょう。
金鉱による開拓の面影が今も残るアロータウンの郊外にニュージーランド、オーストラリア、カナダで宝石商を営むMichael Hill氏が2007年に自身の家族と顧客のためだけに造ったプライベートクラブ、The Hills Golf Clubを開設しました。開発のパートナーとなったJohn Darbyは投資及びビジネスコンサルタントとして 20 年以上も不動産、リゾートプロジェクトに携わってきました。彼はハーバード大でランドスケープを学び、ゴルフコース設計にも関心を持つようになりました。
このThe Hillsも彼の設計によるものです。更にここでは2017年に豪州のコースコメンテーターで知られるDarius Oliverがメインコースの空いている土地にPitch & Puttのショートコース、The Farmを設計しています。
John Darby氏は2008年、The Hills GCの姉妹コースとして、自らがメインディベロッパーとなってクィーンズタウン郊外のワカティブ湖畔に当時ニュージーランドのTOP 5コースと称されたJack’s Point GCを設計しています。Jack Pointのリゾートビレッジも彼がリーダーとなって開発されたものです。
さて次のご紹介は首都オークランドがある北島に戻ります。
オークランドから北上し90分余り、マンガワイ(Mangawhai)を近郊の東海岸線のリンクスランドは開発規制さえ降りれば、名コース誕生の約束の地でした。周辺のビーチはサーファーズパラダイスでもある事からその条件は限られた箇所にもなりましたが、2015年10月、Cape Kidnappersの評価を大きく上回るTom Doak最大の傑作とも称されるTara Iti GCが誕生します。
2017年度GOLF Magazineの世界コースランキングでいきなり29位に初登場し、その後も27位、23位と評価を上げています。GOLF Digestの米国を除く世界コースランキングでは北アイルランドのRoyal County Downに次いで堂々の2位にランクされ、ニュージーランドNo.1の地位を誇っています。
厳格なメンバーコースで、ビジターはメンバー志望を条件に視察一回のみのプレーでしたが、豪華なロッジも完成し、そこに宿泊する条件であればプレーは可能になっています。
ニュージーランドの新設プロジェクトは更に進みます。Tara Itiに隣接する南のリンクスランドに、何と36ホールを所有するTe Arai GCの計画が立ち上がり、21年に第1コースとなるサウスコースは完成しました。
Coore & Crenshawの初となるニュージーランドの作品です。そして第2コースのノースコースはTom Doakの設計で今年の深秋には仮オープンを迎えるでしょう。
ニュージーランド、オーストラリアでは、東大の話題を誇るコース設計家たちが素晴らしい土地の素材を得て、名コースを次々と発表しています。ロイヤルメルボルン、キングストンヒース、ニューサウスウェルズなど古くからの名門も、英国同様に平日の曜日にはビジターを迎え入れてくれるだけに、今回ご紹介した新設の名コースと合わせ、素晴らしいゴルフの旅を満喫してほしいと願います。
Text by Masa Nishijima.
Photo Credit by Masa Nishijima, Larry Lambrecht, Gary Lisbon, Michel Lukas, CDP Designs, AirSwing Media, Darius Oliver, Kinloch GC, The Hills, Te Arai Links, REN Designs