1995年モダンコース時代からクラシック時代のローコストな建設費をテーマにしたモダンクラシックコースがブームを呼び、更に未開発だった海岸線や河川敷にモダンリンクスが登場する時代になると、メジャー大会が開催される戦前からの古い名門コースは長年かけて植栽されてきた樹木を伐採し、開設当時のスケール、コースの風貌に戻そうとするクラブが続出しました。

伐採し、大会が終われば植栽し、更に次のメジャー大会にはコースをオリジナルの姿に復元、又はリノベーションしたところでまた違う箇所を伐採する、2006年、2020年に全米オープン開催したWinged Foot GCはその代表的な例であり、同じく2007年、2018年に開催したOakmont CCも同様でありました。

又、メジャー大会はもちろんPGAツアーも請負わないニューヨークのロングアイランドの超名門National Golf Links of America(以下、NGLA略)も15年前に数千本の樹木を伐採し、昔の姿に戻す試みをしています。

Winged Foot GC #7番(上) 、Oakmont CC #18番(中)、National Golf Links of America #17番(下)

かつてはホール間が樹木ではっきり分かれていたコースは、昨今ではホールからホールへと風が吹き荒れるほどの伐採をし、ホールに横幅を持たせバライティある攻略ルートを構成しようと試みます。

OakmontやNGLAは開設当時リンクスの定義をベースに設計された作品だけに樹木はコースを囲むその周囲だけで、ホール間はほとんど樹木を持たないコースでした。これらの定義にあるコースは伐採により昔のスケールを取り戻した良い例でした。当然コースランキングも上げています。

しかし全てのコースがそのリンクスの定義に当てはまる設計理論で完成されていたわけではありません。

名匠Albert.W.Tillinghastが手掛けたWinged Footは全米オープンに備え、コースをレストレーション、3千本の樹木を伐採したと報道されましたが、ホール間に樹木は配列され、戦略的Tree Lineを形成しているホールもあります。

樹木の本数が減り、隣接するホールとの地形の高低差まで写し出しているオリジナルのランドスケープを蘇らせています。自然のスロープラインを活かしたクラシック設計の耽美性を追求した1920年代の代表作です。しかし一部の伐採箇所はコースがスケルトンになったとの不評を受けています。

昔からクラシックコースは林間地でも必要以上に樹木を伐採し、18ホールのレイアウトが構成されると今度は景観性、コース管理上から必要な箇所に樹木を植栽する方法をとっていました。植栽はコース設計の一つのテーマでもあったのです。当時伐採された大量な木材は拡張する鉄道路線の枕木や住宅資材に活用されたのです。

日本でもこの方法を旧東京GC朝霞コースや広野GCを設計したC.H.Alisonがその図面に表していました。彼はそこで内陸コースのランドスケープにおける樹木の重要性、その箇所を記していました。

例えば二つのホールが並んで同じ方向に進む場合、アプローチからグリーンまでのホール間、ネクストティまでのルート間などです。クラブハウスからコースを一望させながらも必要とされる箇所には樹木を残し、更には植栽箇所も提示していました。

東京GC旧朝霞コース 1932。ティーボックスと同方向に向かう隣接ホールとの間に置かれた樹木帯。

グリーンを保護する為の西陽避けの樹木はクラシックコース時代から推奨されていた。

戦後、世界中どのゴルフ場も復興をかける中、多くの樹木が植えられました。その理由をかつてR&Aの日本人メンバーで JGAの理事も務められていた広野GCメンバーの故佐藤功氏は以下のように説明しています。

「戦後、焼け野原にされた日本は木材を必要としました。戦前の広野はコースから雌岡山、雄岡山が眺望できましたが、植栽が進み樹木が高く成長していく中、その雄大な景色は樹林によって隠されていました。日本のどのゴルフ場もそうでした。住宅建設など復興の為に樹木は必要とされ、ゴルフ場でも伐採と植栽を繰り返してきたのです。伐採される度に日本人の心は木々への愛着、親しみを覚え、そしてまた植栽を始めるのです。」

コース設計家上田治は若かりし頃、広野でコース管理に従事し、後に支配人となって戦後の復興を担いました。その中で彼が広野で魅せたコース設計家としての才能はAlisonや造成現場を指揮した伊藤長蔵氏から引き継いだランドスケープの重要性でした。樹木によってもコースに格式を持たせようとしたその発想は戦後焼け野原からの復興精神がそうさせたのでしょうか。

レストレーション前の広野GC (撮影2010年) 現在の広野と比較して見てほしい。

このような復興への精神から生まれた戦後の名門コースのランドスケープは樹木が被写体のフレームとなる独特な伝統の美を醸し出していました。

今回のテーマはそこにスポットを当ててみたいと思います。樹木よる伝統美、伐採して地形のスロープラインを映し出して生まれるコースの本質。訪問するゴルファーにコースが放すオーラはどのようにして生まれるのか。ゴルフ場にとっては大事な永遠のテーマなはずです。

森のオアシスをテーマにColtとAlisonが設計したUtrechtse GC De Panコース。レストレーションをしたFrank Pontはその意義を大事に継承し、樹木の伐採はできる限り控えた。2019年には見事に世界TOP100入りを果たした。

川奈富士コース7番Hog’s Back

上の写真は川奈富士コース7番Hog’s back Holeの伐採前と伐採後、プレーヤーには大海原が視界に入ってくる。そして吹き上がる風はショートPAR4をタフに演出します。

15番は海岸線の樹木が台風の被害でかなり倒れ、それを機に海がはっきり視界に入るよう周辺の樹木も伐採した。ここまでは良かったが12番、13番などアリソンが図面で解説した樹木の必要性と配置箇所まで伐採してしまっているのはいかがなものか。ランドスケープに才覚を持たない方の判断であったことが一目瞭然にわかります。

シーサイドコース川奈を強調したいのは理解できますが、川奈をSan DiegoのTorrey Pinesのようなテーブルロックなパブリックな景観にしてならないはず。川奈もパブリックではありますが、戦前からの歴史とそのクラシックコースの質、地形はTorrey Pinesとは比べものにならないほど優れています。

同じシーサイドコースでも持つべき景観性は180度異なる日本の至宝、Alisonの図面をもとに大谷光明、藤田欣弥、丸毛博士が完成に導いた日本最大の傑作コースなのです。川奈大島コースも同様で、伐採一つで川奈が放すホールのオーラを消してしまう事にもなりかねません。Torrey Pinesの景観性を参考にされるならば、むしろ川奈の隣にあるサザンクロスリゾートではないでしょうか。

サザンクロスリゾート。レイアウトの構成などから日本のTerrey Pinesと評しても良いのでは?

マスターズが開催されるAugusta National GCの樹木への議論。

1932年開設以来、マスターズ大会の為に、コース改造、改良、植栽、伐採を繰り返してきたAugusta Nationalの樹木への取り組みは、GCA(GOLF CLUB ATLAS)など専門家たちのソサイティで常に賛否両論を呼んでいました。

元々はベルギー人のBerckmans男爵家が所有していた土地で、フルーツ農園の丘に世界中の植物を集めた庭園を持ち、それを南部中心に出荷するビジネスをしていました。男爵が他界され、長く放置されていたその土地にBobby Jonesが目をつけ、東部の名士達の協力をもとにゴルフ場計画を考案します。

そしてAlister Mackenzieを設計家に迎え入れ、Augusta Nationalは1932年に開設されます。Mackenzieの設計コンセプトは神が創ったと言われるSt.Andrews オールドコースの特徴を人間の手で造りあげる事でした。彼は高低差55mあるフタコブラクダのような谷間を持つ地形のスロープラインを100%活かすアイデアを18ホールの中に取り入れます。

完成当時のAugusta National. 右上にクラブハウスとマグノリアレーンが見えます。一番手前の巨大なバンカーを持つホールは14番、その上が15,17番です。この辺り一帯は樹木がありませんでした。

Sitwell Park GC12番のスローピンググリーン。オーガスタナショナルのグリーン設計のアイデアがこれである。Mackenzieはオールドコースの起伏あるグリーンの球の転がりを傾斜の中で表現した。

それはかつて英国のSitwell Park GCで試みた自然の傾斜を取り入れたスローピンググリーンをオーガスタの台地で設計する事でした。

地盤の硬いオールドコースの起伏あるグリーンの球の転がり、その愉しみを伝えるには傾斜を活用したグリーン面に人工的起伏を入れて完成させます。

そして1934年には第一回のInvitational Tournament(現在のマスターズ)が開催される事となります。しかし大会前にMackenzieは64歳の若さで他界してしまいます。

その後、招待選手たちからの意見も踏まえ、Bobby JonesはMackenzieのパートナーだったPerry Maxwell指導のもと、コース改良に踏み切っていくのです。

その中で植栽が行われ、月日が経つ中、樹木の存在はプレーライン、攻略ルートを定める目安となっていきます。Mackenzieが地形のUp & Downの中、多角的攻略ルートを愉しませるアイデアは、樹木によって厳しいショットルートを提供する事になったのです。ここにAugusta Nationalの樹木について、マスターズの為にMackenzieの哲学が薄れているとの意見が専門家たちから議論が交わされるようになります。

現在のAugusta Nationalの樹木群、1932年当時と比べてみて下さい。

Augusta Nationalに行かれた方ならばお感じになられたであろう。全てのホールのスポット、スポットにオーラが漂います。保守派の方たちはもしこの樹木群が開設当時のオリジナルの姿に復元しようと伐採した時、スケルトンにされたAugusta NationalにオーラのAtmosphereは残るだろうか?との意見を出します。

紅葉する樹木も見え隠れする深秋のAugusta National.

樹木が作り出すオーラはしっかりとした横のホール幅を持つことが第一条件となります。それが樹木によって無闇に狭いならば、そこにオーラなどは漂わないものです。その良き例がフィラデルフィアの砂質豊かな松林に設計された世界ナンバー1コース、Pine Valleyです。

Pine Valleyを訪れると松林が砂地でセパレートされたフェアウェイをうまく囲み、ホールのフレームになっていることがわかります。よほどのミスショットでない限り、打球は林の中には入らないほどのスケールです。それでもレンズに写る被写体には樹木がフレームとなってコースの伝統美、オーラを醸し出しています。

Pine Valley GC #18番

さてここまでの解説で、ゴルフコースのランドスケープにおいて、樹木が醸し出すオーラのAtmosphereをご理解頂けたかと思いますが、次回は更にその検証を現代のモダンクラシックコースの中で解説してみたいと思います。

Text by Masa Nishijima

Photo Credit by Masa Nishijima, Larry Lambrecht, Gary Lisbon, GOLF.com.

Alister Mackenzie Institute, ANGC, TGC資料室. Southern Cross Resort.