No.36 アジアTOP100コースの発表。
アジアTOP100コースの発表。(UK TOP100 Golf Courses of the Worldより)
https://www.top100golfcourses.com/golf-courses/asia こちらのサイトよりご覧下さい。
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広野GC 7番 ホール名称Devil’s Divot
かつてゴルファーたちのディスティネーションは、スコットランドリンクスと言われた。日本人にもこれまでその聖地たるリンクスコースをくまなく巡礼する方たちが大勢いる。その彼らの最大の目的はリンクスコースに挑戦するだけでなく、聖地の歴史、文化、風習、そしてそこに生まれるゴルファーたちのAtmosphereな歴史空間を旅することかも知れません。
世界中のコースをくまなく旅するゴルフコースマニアたちの数は、2万とも3万人とも言われている。彼らは一年に100コース以上を訪問、その中には自らブログやSNSを通し、コース評価をされているマニアたちも多い。
ゴルフコースランキングでは、40年もの歴史を誇るGOLF Magazine, GOLF Digest(Planet Golf)が有名であるが、昨今、そのランキング結果には、過大評価されているコースがあると、コースマニアたちからの厳しいコメントも多々聞こえてくる。
そんな中、ゴルフコースへのロマンの旅を支えるのが、世界中のゴルフコースマニア、及び、ゴルフコース研究家たちからも信頼を受けているゴルフコースランキングサイトがある。それが2003年から本場英国に発信の起点を置くUK TOP100 Golf Course of the World(https://www.top100golfcourses.com)で、コースへの見識に洗練された数十名のトップクラスの評議委員だけによる採点で、世界コースランキングだけでなく、各国別、地域別に分けてのランキング、各コースの評価、情報が詳細に紹介されている。
ゴルフツーリズムの世界では、クールジャパンブームに添ってか、日本を中心としたアジアのゴルフコースが注目を浴びています。彼らにとっても、このUK TOP100 of the Worldからのアップデイトな情報は必要不可欠なものとなっており、本年度初めての試みとして、日本を含めたアジアだけのTOP100コースのランキングが発表されました。
リーマンショック以降、米国では何と1,000コース近くが倒産、消滅、再生に追い込まれましたが、それに反するかのように、中国、韓国、タイを中心としたアジアのゴルフ場開発の勢いは止まることを知りませんでした。その中心的役割を果たしてきた中国ですが、習近平が下した地方政府に命じたゴルフ場に関わる賄賂問題を一掃する政策から、中央政府が開発許認可を出したゴルフ場以外は、徹底した審査が行われ、600を超えた国内のゴルフコースの内、111コースは崩壊、更に運営を許可しても、プレーを拒むように水位問題として調整池付近への無意味な樹木の植栽、これによってPAR4やPAR5がPAR3になるなど、数ホールがレイアウトの変更が余儀なくされたのです。
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ゴルファーたちはフェアウェイに植栽された樹木の中をプレーしている。数年後にはプレーは不可となる。
中国から初めて世界TOP100コースに仲間入りしたシャンシンベイ(Shanqin Bay GC)は、フォーブス誌が紹介する世界のセレブたちがメンバーに名を連ねる別格のゴルフクラブ。彼らは共産党員のトップでさえも押さえられることができる中国経済界の大物たちです。
設計はクーア&クレンショウのコンビであることから、造成中から注目され、世界中からのコース評議委員たちが訪れました。
しかしこのクラブでさえ、中央政府は容赦なく厳しい処置を仕掛けてきます。
それは海岸からの防風林を理由に、植栽が行われ、現在、PAR5がPAR3に変更さぜるを得ない状況になっています。
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中央政府によるShanqin Bayの意味もない植栽
昆明から車で1時間半、世界遺産石林(シーリン)の奇岩地帯の中に造られたストーンフォレストG&CC(Stoneforest G&CC)は、世界中から注目され、多くのゴルファーたちが訪れました。PAR3の12番は奇岩に囲まれたアイランドグリーンかのように、オールオアナッシング(All or Nothing)の条件を愉しみ、ゴルファーたちは、ティからグリーンまで奇岩地帯の迷路のような細い通路を抜け、グリーンへと向かう。そんな世界が注目したユネスコ遺産の中のこのコースでさえも、中央政府により崩壊されたのです。
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世界遺産の景観の中のゴルフコース。もうプレーすることも見ることもできない。
中国のゴルフ界は、今後どのように歩んでいくのでしょうか?
香港は除き、1985年にスタートしたゴルフコースの歴史はまだ浅く、北京からの情報では、今後は誰もがプレーできるパブリックコースの開発が進むのではないか?との話もあります。
他のスポーツ競技同様に、国家の威信にかけてナショナルチームを結成し、マスターズをはじめとするメジャー大会、またはオリムピックで中国選手たちの活躍がクローズアップされた時、もう一度中国のゴルフコース開発に注目が集まるのかも知れません。それにはもう少し時間が必要です。
そんな中国のゴルフ事情は、他のアジア諸国の開発に大きな影響を与えています。華僑グループからの投資は、べトナム、カンボジア、マレーシアなどの開発に移行しつつあります。
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The Bluffs Ho Tram Strip
ベトナムはこの10年間、最もゴルフ場開発が進んだ国でしょう。その最大の理由は、全長1,000キロとも言われる海岸線に広がる大砂丘地帯です。ワールドTOP100, アジアンTOP10コースに君臨するグレッグ・ノーマン設計チームの作品、The Bluffs Ho Tramは、高低差50mの大砂丘地帯にレイアウトされたメンバー&リゾートコースで、海岸線に建つグランドホテルには、ベトナム初のカジノ施設もあります。
ハノイを起点とする総合商社FLCグループも2013年以降、ホテル、別荘を中心としたゴルフリゾート開発を進めてきました。クイニョン市郊外(Quy Nhon)の海岸線の砂丘地帯に、ジャック・ニクラウスアジアン設計チームのオーシャンコース、第二コースとしてブライアン・カーリーのマウンテンコースを完成させ、そのどちらもがアジアのTOP20コース内にランクされています。FLCは、更に世界遺産のハロン湾を望む丘の上に、FLC Ha Long Bayゴルフ&リゾートを今年オープンさせます。彼らは今後もベトナムの砂丘地帯に20ものプロジェクトを計画しているのです。
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FLC Ha Long Bay Golf & Resort
しかしベトナムの開発でやや疑問に思う点があります。それは美しいビーチ沿いのコーストラインは、ホテルやビッラなどの住宅地に与え、ゴルフの用地は次に考えられていることです。ゴルフコースはあくまで不動産販売やリゾート客を呼び込むためのものであり、そこにゴルフ文化論は見当たりません。ハノイの富裕層やアジアの華僑をターゲットにしたこれらの開発ですが、ややバブル感は否めず、いずれは供給過多となる危険もあるでしょう。
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Royal Bangkok Sport Club
タイのゴルフ史は長い。英国人によって造られた競馬場ロイヤルバンコックスポーツクラブのレーストラック内には、1905年にゴルフコースが誕生しています。現在、300を超える数のゴルフコースが国内に点在していますが、アジアでは外国企業の在外進出の歴史も長く、南部リゾートの開発と共に、それに伴いゴルフ場の数も増えていきました。タイに国際的トーナメントコースができたのは、1970年代初頭、ロバート・トレント・ジョーンズ設計によるナワタニゴルフコース(Navatanee GC)が始まりとも言われている。以降、ブルーキャニオン、タイCC、アルパイン、アマタスプリングス、ブラックマウンティンなど、アジアンツアーの舞台となるゴルフコースを誕生させました。アジアではタイは韓国、中国よりもゴルフ史の長い先進国とも言えます。
2015年にはアニタヤゴルフリンクス(Ayodhya Golf Links=アユタヤと読みます。)が、GOLF Magazine誌の世界TOP100コースに仲間入りを果たし、今後、タイではコースをリノベーションしてワールドクラスのコースに進化していく作品も誕生していく事でしょう。但し、タイのコースはその土地柄の条件からか、ウォーターハザードを活用した水際の戦略性を持ったコースがあまりにも多く、リカバリーの妙味を奪い取るウォーターハザードがあまりにも活用されるとコースの評価は自ずと下がっていきます。アニタヤリンクスの評価が過大であると議論されたのはそこに原因があります。
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Ayodhya Golf Links
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Club at Nine Bridges 8番 Sky Hole
戦後になってスタートした韓国のゴルフ史ですが、当初は日本のゼネコン指導によるコース開発が進みました。その為、韓国の古いゴルフ場では、今もベント、高麗芝、又はベントの2グリーンシステムを保っているところもあります。しかし韓国の第二期ゴルフ場開発ブームは、1997年に起きたウォンの通貨危機からIMFの救済を受けた直後から始まります。それまで韓国人にとって癒しの島に過ぎなかった済州島を、財閥グループのパワーによって、東洋のゴルフアイランドにする計画が持ち上がり、ここから韓国財閥のマネーパワーが済州島でのゴルフ場開発をリードしていきます。その先駆がサムソン系列のCJホールディングスによって開発されたナインブリッジス(Club at Nine Bridges)です。CJはあらゆる手段を用いては、このナインブリジッスの名を世界に広めることに努め、一時期、異常とも思えるほどの会員権相場の値をつけたほどです。財閥グループとしてメディアを動かすほどのそのパワーは、ナインブリッジスをGOLF Magazineの世界TOP100コースに伸し上げていきます。しかしそのランキングの異常な上がり方に、欧米のコース専門家たちの中には、1グループの組織票による過大評価の結果であると訴える者たちも出てきました。
では何故、ナインブリッジスを訪問した専門家たちが、過大評価だと述べたのでしょうか? それはコース設計への発想、オーナー側の意識が、見かけのリンクス回帰論にあったからです。かつて日本もバブル期、その用地が山岳、丘陵地にも関わらず、海岸線の砂丘地帯にあるリンクスコースのルックスの特徴を真似たような作品がメディアで称賛された時代がありました。日本には可笑しなマウンテンリンクスがあると失笑する著名な欧米ゴルフジャーナリストたちもいました。本場のリンクスでは昔から風雨によってバンカーが崩れないように、壁に芝土(ソッド)を重ねて造る技法が流行りました。これをソッドウォールバンカーと名称します。皆様たちもジ・オープンの映像などからそれをご覧になっている方も多いはずです。このソッドウォールバンカーが何故、内陸のしかも丘陵地のコースに必要なのでしょうか? その時点で設計におけるデザインバランスはマイナスの評価となります。丘陵地にはプレーにフェアで、それに相応しいバンカーの形状があるはずです。
韓国は日本同様に長く環境問題から海岸線に接する用地にゴルフコースを造成することは出来ませんでした。2009年、その規制が緩和されると同時に、いくつものプロジェクトがシーサイドに計画されました。その極め付けがサウスケープオーナーズクラブ(South Cape Owners Club)です。設計家がスコットランドのキングスバーンズやサンフンシスコのカリフォルニアGCの改造で知られる名匠カイル・フィリップス(Kyle Phillips)であったことも注目された大きな要因でした。18ホールから海が望めるレイアウトと巧みなルーティングの流れ、クラシック設計理論に基づいた攻略法には、レダン、ケープ、ショートなどプロトタイプホールも愉しめる。多くの専門家たちはサウスケープを世界TOP100にランクされるに相応しい作品と絶賛します。
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South Cape Owners Club
新設が話題を呼ぶ韓国ですが、改造によって大幅にランクを上げてきたコースもあります。岩盤が露出する山岳地に、テッド・ロビンソンJRによって設計されたウィストリングロック(Whistling Rock)は、2016年から2年かけて、トム・ドォークのルネサンスデザイン造成チームにより、クラシック戦略に長けたコースに改造されました。山岳コースは厳しいルーティングの流れから絶対に不利と言われる中、ウィストリングロックは韓国第3位、アジアのTOP10コースへと躍進し、近い将来、世界TOP100コースへの期待も抱かせています。最終ホールのPAR3は、世界ベストパー3の100選と絶賛する専門家たちもいます。
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Whistling Rock #18 (Temple #9)
Asian Top 10 コース
- Hirono GC (Japan)
- Kawana Fuji (Japan)
- South Cape Owners Club (South Korea)
- Shanqin Bay GC (China)
- Yokohama CC West (Japan)
- Naruo GC (Japan)
- The Bluffs Ho Tram Strip (Vietnam)
- Tokyo GC (Japan)
- Club at Nine Bridges (South Korea)
- Whistling Rock (South Korea)
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川奈富士コース #7 Hogs Back
バブル崩壊以降、話題性に乏しかった日本のゴルフコース界ですが、2016年に発表されたビル・クーア&ベン・クレンショウのコンビによる横浜CC西コースの改造は、あっという間に世界中に知れ渡り、これまで多くの専門家たちが視察に訪れ、絶賛の評価を与えています。世界に向けて久しぶりに日本からも話題性あるコースが誕生しました。また鳴尾GCがここに来て高く再評価されているのも嬉しいことです。用地が狭いとは言え、鳴尾のユニークな地形を活かしたレイアウトと18ホールのルーティングの構成は、世界でもトップクラスのものです。
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横浜CC 西コース
改造の話題では、東京五輪の会場となる霞ヶ関CC東コースの改造は、その評価点を見る限り、専門家たちの期待をやや裏切る結果となったようです。霞ヶ関はコースランキングがスタートした83年から03年にかけて世界TOP100コースに君臨していただけに、ベテランの専門家たちのファンも多く、2グリーン(Dual Greens)のグリーンコンプレックスは、設計の匠を感じさせるほどの見事な構成でした。ローガン&トム・ファジオの親子によって1グリーンに改造された今日、90年のコース史とその面影は消え去り、訪問した専門家たちの口からは「フロリダなどに見られるモダンなファジオデザインのコースに変貌してしまった感がする。」との意見もありました。何れにしてもTOP10のうち、半数の5コースが日本から選出されていることは嬉しきことです。
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東京クラシッククラブ #13
久々の新設コースとして登場したのが、都心からも近い東京クラシッククラブです。アウト、インのはっきりと分かれた2ループスの構成は、ホールの質に問わず、ルーティングでのメモラビリティーを高めているようです。
アジアでの31位のランキングは、ニクラウスチームの作品としては及第点というところではないでしょうか。驚くのは、同じニクラウスチームの作品で、プレジデンツカップが開催された韓国のジャック・ニクラウスGCよりも高く評価されていた点です。理由は二つあるかと思います。一つは後者が大会後のコース管理上の問題点、もう一点は東京クラシックが日本では初となる乗馬施設を兼ね備えたユニークなカントリークラブである点ではないでしょうか。
名門に向けてスタートした東京クラシッククラブが、今後どのようにして世界からも注目をされるカントリークラブに成長していくか、それにはまだ幾つもの課題が残されています。
次回はそれらを検証してみたいと思います。
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名門バトラーナショナルの素朴なゲート
マサ・ニシジマ、アジアンTOP100コースを語る。
https://www.top100golfcourses.com/news-item/top-100-golf-courses-of-asia-2018
Text by Masa Nishijima
Photo credit by Masa Nishijima, Gary Lisbon, Joann Dost, Schmidt & Curley, Hideki Takahashi