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数多あるスポーツの中でも、人が動物と共に行うスポーツと言えば、その筆頭はホーススポーツ。中でも、世界で最も成熟し、巨大なマーケットを築き上げたのがホースレース(=Horse Racing / 競馬)です。

けれども、誰もが思い浮かべる現在の競馬が始まったのは”つい最近”のこと。実はその遥か昔、古代文明の時代から競馬は世界中の人々を熱狂させてきました。

古代ギリシャやメソポタミア、エジプトなどでは、神話や伝説の中に競馬が登場し、スカンジナビア地方に伝わる北欧神話でも競馬の記録が残されています。

また、古代ローマ時代ともなれば、チャリオットレース(=Chariot Racing / 戦車(馬車)競走)が人気を博します。ただ、文字通りチャリオット=戦車ですから、その勝負は非常に激しく、人馬ともに怪我や命を落とす事故が絶えない、危険な競馬でした。

それでも、紀元前680年に行われた古代オリンピックでは初めて、4頭立てのチャリオットレースが実施され、その後は2頭立てや1頭立て、さらには人が馬の背に乗るホースレースも行われたと記録されています。

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最古の競馬とも言えるこのチャリオットレースを今に伝えているのがハーネスレース(=Harness racing / 繋駕速歩競走)です。北米やヨーロッパ、南半球のオーストラリアやニュージーランドでは、各地にハーネスレース専用の競馬場があり、盛んに行われています。日本でも1971年までは公営競馬のレースの一つとして開催されていたので、ご覧になった方もおられるかもしれません。

ちなみに、読み方すら間違えそうな日本語の「繋駕速歩競走」ですが、駕とは馬につなぐ乗り物(駕籠)を表し、駕籠を繋いだ馬の速歩による競走を意味しています。今では英語の「ハーネス」の方が、ドッグハーネス、ベビーハーネスなど日本でも広く使われていますが、この「ハーネス」も元は馬車馬に装着する馬具を指す言葉でした。

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時代の変遷と共に馬を変え、形を変えながらも人々に愛され続けてきた競馬。そして、”つい最近”正式なルールに基づき、専用競技場での競馬が初めて開催されたのは16世紀の中頃、約400年前のことでした。今では、この起こりをそれ以前の競馬と区別するため「近代競馬」と称し、イギリスこそが近代競馬発祥の地として知られています。

その後、競馬に搔き立てられたイギリスの王侯貴族たちは挙って、アラブやトルコから優秀な馬を輸入するようになります。そして、勝負を重ね、優秀な馬の種を残し、交配を続けた結果、17世紀後半に誕生したのがサラブレッド。さらに100年の歳月を経て、1791年に初刊行されたジェネラルスタッドブック(=GSB / General Stud-Book)でサラブレッドの定義が確立され、瞬く間に世界へと広がりました。わずか200年余りで世界の競馬を支配したサラブレッド。彼らの物語はまたの機会に・・・。

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本来は馬と馬を愛するホースオーナーが主役だった競馬も、いつしか大衆によるギャンブルという側面ばかりが取り沙汰されるようになりました。特に日本では、その歴史的背景や文化的素養を窺い知ることも難しいのが現状です。

けれども世界に目を向ければ、馬好きで知られるイギリスのエリザベス女王、世界中で競走馬を生産するドバイのシェイク・モハメドなど、今なお多くの王族や貴族たちが馬に魅了されています。さらに、日本でも相撲やサッカーなど様々なスポーツで贈られる天皇盃が最初に下賜されたのは1880年に行われた競馬のレース”Mikado’s Vase”でした。

古くは古代ギリシャ時代から、馬や馬車は高価であり、競馬は王家や有力な名家同士が競い合うスポーツでした。かのローマ皇帝ネロは、自ら出場した67年の古代オリンピック・チャリオットレースで馬車から投げ出され、ゴールすることもできなかったにもかかわらず、レース終了後には勝利を宣言し、何よりも競馬での勝利に執着したと言われています。

名誉と威信をかけた勝負。だからこそ、競馬は「Sport of King=王のスポーツ」なのです。

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MILKY KORA

馬ジャーナリスト / Maraque編集長。京都生まれ。
幼い頃から馬術を嗜み、乗馬専門誌の編集を経て馬ジャーナリストとして独立。2010年に世界最高峰のホーススポーツを伝えるEquine Journal Maraqueを、さらに2014年にはより専門性の高いMaraque for Professionalを創刊。現在は日本で唯一のホーススポーツ専門誌として発行を続ける傍ら、ライダーのマネジメントや馬イベントの開催など馬に関する幅広い活動を行っている。