世界中の名コースを廻って、自然の地形を活かす優れた設計にあるコースは、ゴルフをせずとも楽しめるまるで遊歩道かのようにも感じます。世界には大勢のリンクスコースファンがおられます。ゴルフの古典主義者のようにも思われる彼らが、何故リンクスを巡礼するかのように旅するのか、それはきっと人間の素朴な心が持つ自然との調和を感じ、歩いてみたいからではないでしょうか。彼らはそこにゴルフコースがなくともそのリンクスランドを歩きたいと願うかも知れません。

Cruden Bay GC Scotland

Cruden Bay GC Scotland

 

若い頃、コース設計家のTom DoakやGil Hanseとスコットランドの名門クルーデンベイGC(Cruden Bay GC)の18ホールのルーティングについて話し合った思い出がある。クルーデンベイは、砂丘地帯の高低差をうまく活用し、八の字のループでレイアウトが構成されています。砂丘の中を縫うように歩く中、ループが交差する地点に行くと、人間はきっとゴルフコースがなくとも砂丘の上に登る方向に進むだろう。そろそろ高いところに登って海岸線を眺めてみたいと願う人間の持つ感性かも知れない。そして自然を遊歩するかのように人間は冒険心から違う道を選択し、元の場所に戻ろうとする。クルーデンベイの八の字のループはまさにそんな人間の心理をうまくついてくる。

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Cruden Bay Original Routing

 

ゴルフコースのルーティングには2つのタイプがあります。アウト、インの2ループに分かれているルートプラン、セントアンドリューズ・オールドコース(St.Andrews old course)に代表されるGoing out Coming Inの1wayルートです。クルーデンベイはその1wayの中でルーティングが交差しています。
もし交差するルートにあるならば、そこに行き着くまでの景観のシチュエーションから、まったく別の景観性の世界に導くルートが望ましい。高低差がない平地で同じ特徴にある土地ならば、人間は自然の中でどちらのルートに行くべきか道の選択に悩み、迷子になってしまうような心理に駆られるでしょう。ゴルフコースを遊歩道のように感じさせるには、そのようなポイントに変化を齎す事が重要となってきます。
しかし、人間がゴルフコースに対し、ゲーム性を強く求めてくると、PAR5とPAR3が各4ホール、残りはPAR4のトータルPAR72に拘るならば、そこに地形の流れに沿った歩行ルートにそぐわない歪んだレイアウトプランが登場してきてしまう。これでは自然のランドスケープを活かしたルーティングは完成に至らないでしょう。
古くからの名門コースに行くと、グリーンと次のティインググランドまでの距離が短いことからか、何ら道標もないコースが多い。もし距離があったとしてもNEXT TEEと小さく書かれた表示版があるに過ぎません。
「名門はビジターを迎え入れても、メンバーが常に同伴しプレーするので、道に迷うことなどないからだ。」と語ったコース設計家がいましたが、私はそのコース設計家とはまったく違う観点からルーティングを捉えているます。
もし、メンバーがいなくとも、自然に自分たちの足はNEXT TEEの方向に向かって歩くケースも多々あります。
重機のない時代に手作りで造られたコースは、自然のあるがままの地形やスロープにそのルート取りを委ねるしか方法は無かった。しかしそれが幸いにも人間が持つ自然を歩く感性とを一致させたのです。
設計家がもしトータルヤーデージやトータルパー数に拘らず、ルーティングを自然の流れのままのコンセプトで考えられたならば、そのコースはランドスケープの優れたコースとなる。あとはグリーンの配置をどこに置くかが、次の設計の匠へのステップとなります。

 

セントアンドリューズ・オールドコースのルーティングプラン

コース設計家たちにとって、オールドコースのグリーンは神秘に包まれています。あらゆる古書、文献からオールドコースの情報を集積し、まだ11ホールしかなかった時代から22ホールになり、18ホールへと至るまでの変化を事詳細に研究した設計家及びコース史家たちも数多くいます。
1832年、現在のダブルグリーンの原型が完成された時代、オールドコースは今とは真逆のルーティングでした。つまり一番グリーンが現在の17番グリーンだったのです。しかしその後、現在のルートも面白いではないか、との意見も出て、二つのルートプランを併用する時代がしばらく続きます。

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1870年、スウォルカンバーンの奥に、現在の一番グリーンが出来て、現在のルーティングが確立されました。しかしR&Aでは、今日でも年に一度、昔の古典的逆ルートでのトーナメント大会を開催しています。かつてアーニー・エルスが、17番で、2打目を18番ティも近い、グリーンの左サイドに打ち、そこからチップインバーディを奪ったのを覚えておられる方も多いと思います。しかしそれはかつての古典的ルートでは正しいフロントラインからの攻めであり、エルスはオールドコースの逆ルートを存じていたのかも知れませんね。もう一人、我々に逆ルートの歴史を存じていたのかな?と思わせた男がいます。タイガー・ウッズです。彼が初めてオールドコースでジ・オープンを制覇した時、彼は大半のダブルグリーンホールでグリーン奥、更に併用するホール側のピンにも近い箇所をターゲットにし、グリーンフロントに並ぶすべてのバンカーを逃れる戦略をとりました。しかしタイガーのその戦略は、風の影響ではリスクも兼ねた選択でしたが、これも逆のリバースルートならばフロントラインから攻めたことになります。

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この図をご覧になってお分かりのように、2番グリーンは現在の16番(左側)になり、17番ティは3番ティになります。この2番はグリーン全体も含め、パーセーブすら困難なとてつもなくタフなホールになります。そして現在の1番グリーンは17番グリーンになり、18番グリーンは現在と同じまま、1番と18番は、古典リンクスに多く見られるクロッシングするルートとなります。

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ダブルグリーンの神秘について、私は若い頃、かつてR&Aの役員だった老巧紳士から貴重なお話しを頂戴しました。
コース研究に没頭しはじめた若かりし頃の自分にとって、彼のオールドコースの解説は大変貴重であり、且つ衝撃的なことでした。
そのひとつが左右どちらのルートでも対応してきたダブルグリーンのグリーンコンプレックスの在り方でした。私は彼の説明からはじめてグリーンコンプレックスの重要性を学び、更にそれが360°の攻略性をモーラするならば、そのグリーンへのアプローチ取りはあらゆる手段が考えられる。まさにオールドコースのダブルグリーンがそれであり、タイガーはまさにそこに挑戦したことになります。

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更に衝撃だったことは彼が近代設計のバイブルとされるアリスター・マッケンジーの著書を否定したことでした。マッケンジーはご存じのようにオールドコースのグランドレベルグリーンを生涯の設計テーマにした人です。
オーガスタのオリジナル設計がその良い例です。
しかし彼はマッケンジーに対し、強い口調で論説し、最後を締めました。
「アリスターのグリーンは、オールドコースと比べれば、大人と子供の差だ。米国に住む者は、アリスターの作品に感銘を受けているが、では彼のグリーンを逆から攻めることを考えてごらんなさい。その配置からしても形状からしても考えられないことだろう? 正面180°範囲でしか捉えられないだろう。
つまりグリーンコンプレックスのレベルはオールドコースの半分でしかないのだよ。ゴルフは人間の高慢な心と小心こそが最大のハザードだ。それを教えてくれるオールドコースこそが、永遠に世界ナンバー1のゴルフリンクスなのだ。
またいつの日かここで会おう。その時、君はオールドコースの本質を設計から理解できる大人になっているだろう。それを約束してくれ。」
あの日から30年もの歳月が過ぎましたが、オールドコースは、私にとってまだまだ神秘に包まれています。

 

東京クラシックも一度は遊歩してみよう。

さて東京クラシックのルーティングは、アウト、インの2ループで、アウトでの特徴は3番と7番でループをクロスさせていることです。又、インでは15番と18番、16番と17番が、それぞれ真逆の方向に進むレイアウトは、トーナメント時の展開に大変興味を持たせるものになるでしょう。そんな事を想い、想像を描きながら、コースを遊歩されると、その18ホールの流れはこのコースの良さを更に伝えてくれる事でしょう。現在、コースの評価の中に、ウォーカビリティ(Walkability)という項目があります。これは歩行可能がどれだけ高いか?を問う評価ではなく、どれだけ歩いて、コースの価値が発見できるかを評価するものであります。東京クラシックは北海道クラシックと比べると、ウォーカビリティの数値はかなり高いでしょう。
皆さん、一度クラブを置いて、ゴルフコースを歩いてみてください。
新しい発見がきっとあるはずです。
厩舎の馬たちにコースを歩かせたら、きっと1番から18番まで迷う事なく、我々を乗せてくれるかも知れません。笑。

Text by MASA NISHIJIMA
Photo by G.C.A & MASA NISHIJIMA