ドックレッグにおけるスケール観

コース用地の条件から、数ホールがドッグレッグにならざるを得ない、もちろん、ティーからもグリーンが望めないようなホールは、実は世界の名コースでは当たり前のように存在しています。自然の地形に変化をあまり加えずにレイアウトするならば、パー3やよほど短いパー4でないかぎり、ホールはプレーライン上のどこかで左右どちらかにショットルートが振られて当然なのです。
ショベルカー等、土地を動かす重機がまだ造成に使われていなかった戦前のコースでは、これらのルート取りは当たり前のようにして行なわれていました。セカンドショットは右に折れ、アプローチは左に折れる等のルート取りは、砂丘の合間を縫うようにレイアウトされた古典的リンクス及び、世界の名コースにはよく見られます。

Hirono GC #14

Hirono GC #14

日本の至宝コース廣野GC14番は、クラシック時代によく見られたティーショットにおけるドッグレッグにスケール観を持たせた代表的ホールのひとつです。ドッグレッグするポイントに、右から左への傾斜のある用地を選ぶ事により、ホールと自然の景観とに一体感を持たせているのです。地形上、ティーとランディングエリアが同じ等高線レベルにある場合でも、フェアウェイが左右どちらかに多少傾斜しているならば、プレーヤーの視覚からは、高い位置に豪快に打っていくイメージを与えます。しかしこれが谷間に打っていくような打ち下しのドックレッグになると、視界よりもプレーゾーンはやや狭く感じるでしょう。後者では、アプローチが右にやや折れる川奈富士コースの1番がその例です。

Kawana Fuji #1

Kawana Fuji #1

名匠テリングハーストのダブルドッグレッグホール。

全米オープンの開催コースであるバルタスロールやベスページのオリジナル設計者でも知られるアルバート・W・ティリングハースト(1874-1942)は、1920年代、所謂クラシックコース黄金時代を代表する米国人設計家でありました。リンクス志向の強かった時代、その中でも彼の設計理論は一風変った趣が隠され、当時の米国人設計家では最もバライティーある感性の持ち主とも称されました。そのデザイン性はグリーンの形状やハザードのサイズに大きな変化をもたらす事で、各ホールにイマジネーションを抱かせる。つまりプレーヤーのコースに対するメモラビリティー(印象度)を強く意識した発想でもありました。

そしてそれは後に、戦後のモダンコース時代への進化に大いに役立つのです。

Albert Warren Tillinghast(1874-1942)

Albert Warren Tillinghast(1874-1942)

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彼は世界ナンバー1コースで知られるパインヴァレーGCの設計において、メイン設計者のクランプに、砂地を活用したステレオタイプのフェアウェイを分離させるアイデアを提供した人物でもありました。7番のフェアウェイを跨ぐ地獄のハーフエーカーと呼ばれる自然のハザード地帯はその代表的なもので、又、13番ではレダンタイプのグリーンをパー4で活用するアイデアも提供しました。

彼は自然のハザード地帯の活用方法がプレーヤーの挑戦意欲と攻略の的確さをいかに生むものであるか、またそのルートが、ショットにイマジネーションを作り出せるものであるならば、自然美のハザードと人工的ルートプランのあり方がゴルフゲームをより楽しいものに出来る事を証明しました。ダブルドッグレッグ手法は、まさにその代表的なものでした。

Double Dog-Leg Hole

彼のダブルドッグレッグ手法は、主にセカンドショットで、ブラインドのショートカットルートを選択できる、所謂イマジネーションの世界を演出したりしました。そして後に、グレートハザードとして使われた自然の湿地帯等が、後に美観性ある水際の戦略的設計へして変化していくのです。つまりダブルドッグレッグの理論は、ヤーデージバランスの中で、自然の宝石のように美しいハザード地帯(グレートハザード)をカムズイン(プレールートに絡ませる)させ、ゴルファーに自然へのイマジネーションを抱かせる等、ショットの価値にもバライティーさを要求しました。これが後のモダンコース時代の設計家たちに多大な影響をもたらす事となります。ティリングハーストの理論をモダンゴルフの舞台作りに最も活かした人物は、ロバート・トレント・ジョーンズSrです。

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ティリングハーストの設計理論は、後に用地の広さに制限が出てきたモダンコースの時代において、レイアウトの取り方にも大変役立つ事となります。

しかし、クラシック時代に定義されたコース設計の基本では、ドッグレッグホールのティーショットにブラインドのショートカットできるルートプランは、けしてその呼名に相応しいとは言えないとあります。この点だけは注意されてください。

ティリングハーストはティーショットにヒロイックというアドバンテージを持たせ、アプローチに攻略ルートに、イマジネーションを含むバライティーさを生み出した偉大なる設計家でした。

このティリングハーストのアイデアは後に、名門シネコックヒルズの改造にも大変役立ちます。その代表的ホールがクラブハウスに向かって緩やかに打ち上げていく16番パー5です。ティーからグリーンまではほぼストレートに計られたホールですが、いくつものバンカー群によってフェアウェイは蛇行し、ダブルドッグレッグを形成しているのです。多くのコース専門家たちはこの16番を世界のベストパー5、ベストバンカリングホールと称賛しています。

Shinnecock Hills #16 PAR5 Double Dogleg

Shinnecock Hills #16 PAR5 Double Dogleg

 

東京クラシックにもダブルドッグレッグホールはある。

さて東京クラシックの8番パー5は、ティーショットを蛇行したフェアウェイルートに沿って攻めるか、又は、左サイドのバンカーをターゲットに、果敢にそれを超えるヒロイックルートを選択するダブルドッグレッグホールの理論にあります。つまり確実にフェアウェイルートを3ショットとして攻略するダブルドッグレッグの設計理論と、バンカー群を超えるショートカットルートによって、2オンを可能にする攻略ルートになっています。但し、後者の2ショットルートを選択すると、セカンドショットは、距離のあるブラインドのイマジネーションショットが要求されます。今日でも多くの設計家たちが、パー5でよく用いる手法で、ニクラウスもこの東京クラシックでは、ゴージャスな地形にある8番にそれを持ってきました。

 

Photo & Text by MASA NISHIJIMA