No.25 マスターズウィーク特集
オーガスタナショナルの9番グリーン
オーガスタナショナルの設計者アリスター・マッケンジーのグリーンは、できる限り地形のラインをそのままに活かしたグランドレベル状の中に造成されました。グリーンの配置場所からそれが砲台状に造られたかのように見えますが、オーガスタとて自然の等高線をしっかりと守り、バンカーで掘り出した土砂をその周辺のマウンドに活用し、それがグリーンをあたかも盛土した砲台の形状に見せたりします。マッケンジーのグリーン造成の基本はセントアンドリューズのオールドコースにありました。オールドコースのグリーンはすべてのホールがグランドレベルにあり、周辺からの等高線がグリーン面に入っているのです。マッケンジーはこれこそが自然と人工的作風との接点であると考えたのでしょう。
英米のマッケンジーのグリーンの中で、唯一改造されてきた形状があります。それはHorseshoe Green(ホースシュアグリーン=馬蹄型グリーン)です。馬の蹄鉄に似ている事からその名称が付けられましたが、地形のスロープの変化が多い箇所にグリーンを配置するマッケンジーはこれをよく用いた設計家のひとりでした。実はオーガスタの9番グリーンは、実はHorseshoe Greenでした。
開設当時は今のアウト、インが逆だったのでマッケンジーのオリジナルルーティングでは18番グリーンでした。マッケンジーのHorseshoe Greenに対する考え方はその作品の中から、ややアップヒルな地形に置かれたグリーンにそれを活用しました。センターに配置した厳しい形状のガードバンカーを囲むかのように設計し、グリーン後方部の一部が確認できるような配置だったのでしょう。
ここで大事なのはグリーンが二つに分かれる箇所にはピンを切る発想は無かった事です。つまりその箇所はどのような奇跡が起ころうとワンパットラインにはならないからで、はっきりとしたアンピナブルエリア(ピンを切れない箇所)でした。
マッケンジーがアイデアしたオーガスタナショナルのHorseshoe Greenは、アップヒルでグリーン面がはっきりと確認できない分、グリーンのキャパシティをしっかり取る事によってそれをカバーし、更にピンポジションによっては左右どちらかにアドバンテージを齎すアイデアでした。
グリーンの真ん中にバンカーがあるRiviera CC(リビエラCC)の6番ホールの元祖たる形状も、実はHorseshoe Greenだった。
英米の古くから名門に行くと、そのコースにしかない特徴を持ったホールがあるものです。米国西海岸の名門リビエラCCでは、6番のPAR3がまさにそれでしょう。何とグリーンの中央にバンカーがあるのです。名物ホールには違いありませんが、専門家たちの眼から見るとアンフェアにもとられる疑問??のホールです。
元々は中央にグリーンサイドバンカーを持つHorseshoe Green(馬蹄型のグリーン)だったそうで、それが後に、フロント部分までもグリーンにした事から現在の形になりました。設計家のジョージ・トーマスJRという人は設計に多少のお遊びを入れる事でも知られていました。例えばバンカーの砂面がまるでベースボールグラブのような見える造形を考えたり、またグリーン近くに小さな尖がったマウンドをいくつも作り、当時の人はそれをチョコレートドロップと名称したりしました。これは後に、巨匠ドナルド・ロスも自らの設計で導入したりしました。
リビエラの6番ホールを調べてみると、このバンカーもしっかりオリジナルの図面に描かれていました。もちろんそれは現在のものよりも遥かに小さなものでしたが、それを見て、Horseshoe Greenに改良させたのは、実はトーマスJRからアドバイスを求められたアリスター・マッケンジーでした。マッケンジーはオーガスタナショナルの9番でHorseshoe Greenを設計する数年前に、リビエラでそれを試みたのです。しかしメンバー数が増えるに従い、グリーンの拡張は必要となり、手前までもグリーンにして、今日のグリーンの中央にバンカーが存在するユニークな形状になっていきます。
当時「グリーンの中にハザードがあって何がおかしいのか?」と、設計家のトーマスJRはメンバーたちに述べたそうです。
さて厩舎とのコラボレーションで話題を呼んでいる東京クラシッククラブ、馬がコースの外周を走る光景を見れば、Horseshoe Greenが一つぐらいあっても・・とつい想ってみたりもします。それに近いグリーンとして、6番、7番辺りはわずかな改良で、Horseshoe Greenの戦略性を見出せるかも知れません。
MASA NISHIJIMA