No. 23 ゴルフ史を飾るWESTWARD HO ! EASTWARD HO !のホール名称。
Westward Ho!(西へ向かえ!)は、チャールズ・キングスレイの海洋冒険小説のタイトルで、その舞台となった村が、村興しとして村名にしました。その海岸線にあるリンクスがRoyal North Devon GCで、その地名にならって通称Westward Ho!と呼ばれています。ちなみに、「!」のような感嘆符がついた町村は、イングランドではここだけでしょう。
米国ボストン郊外、プリマスはイギリスから清教徒たちを乗せたメイフラワー号が着岸したところで知られていますが、この近郊の丘陵地帯に1922年設立されたゴルフクラブが、英国のRoyal North Devonに敬意を表して、Eastward Ho!(東に向かえ!)の名称を付けています。歴史を重んじるゴルファーズジェントルメンたちの友情の証でしょうか。
2017年度現在、どちらも両国でのTOP100コースにランクされる名コースです。
英国の名門リンクスや米国のアーリーアメリカン時代のクラシックコースには、ホールごとに名称、つまりそのホールの特徴を表すニックネームを付けていますが、真西に向かうホールにWestward Ho! 真東に向かうホールにEastward Ho!のニックネームをつけるコースも少なくありません。
又、日本でも戦前に、JGAの発起人メンバーの一人として、ルールの父とも称され、東京GCや川奈大島コース、大箱根、名古屋和合などを設計された大谷光明氏が、ホールにニックネームをつけるのを得意としました。川奈大島コースのSOSやGood-Byeは有名ですが、最もユニークなのは、打ち下ろしのドライバブル4(1オン可能なPAR4)に、シーザーがゼラの戦いでの勝利をローマの元老院に伝えたVeni Vidi Vici(我、來り、観たり、勝利したり。古典ライン語)の名言を付けたことでしょう。シーザーのこの名言、実は大手煙草メーカー、フィリップモリス社のエンブレムにも使われています。つまりゴルファーにとって、そのホール名だけでもメモラビリティー(印象度)は高くなります。
東京クラシックにもWestward Ho! とEastward Ho!はある。
東京クラシックの16番は西に向かい、17番は逆に東に向かいます。そしてこの二つのホールのグリーンは、バッグ9を飾るに相応しい内容にあります。
まず16番グリーンは、僅か455平米足らずの小さなサイズに、センター手前に2%の勾配度を超えるスウェール(溝)がグリーンフロント手前のスロープに流れていることから、一見、二段グリーンかのようにも見えますが、浅いダブルプラトーグリーン(Double Plateau Green)の形状になっています。
グリーンの左右両端に立つと、センターのスウェールは我々に錯覚を与えます。例えば右サイドに立つと、二段グリーンかのように見えますが、左サイドに立つと、スウェールにより、実際はふたこぶラクダのような形状にあることがわかります。
トッププロは、ピンが立てられるどちらかのサイドに、デッドに攻めていけることから、バーディマストのホールになるでしょう。しかしもし逆サイドに打球が流たり、スウェールにはまり、グリーン手前に打球が流れ落ちるならば、その勾配度の強さからボギーを覚悟しなくてはならないケースも生まれるでしょう。東京クラシックのWestward Ho!は、セントアンドリューズオールドコース18番グリーンと同じように、陣地手前に「罪の谷間」Valley of Sinを設けているかのようです。
次に東に向かう17番のグリーンは、18ホールの中で最も大きなサイズでしょう。
グリーンセンターからの緩やかなスロープはフロント左手前のハロー部分に流れていき、センターから左右奥への複雑なスロープは、右奥へ急激に落ちていく、フォールアウェイの形状になっています。
センター付近がさらに盛り上がった形状になると、ピンを切れる箇所は極端に少なくなりますが、Royal Dornochの14番グリーンをオリジナルとし、ドナルド・ロスが丹精込めて作り上げたPinehurst#2の14番に代表されるCrowned Green(戴冠式にかぶる王冠に似たグリーンの形状)になり、トッププロたちを悩ませるグリーンとして、トーナメントでは最高の舞台を演出するでしょう。
ニクラウスは、東京クラシックがプライベートクラブであることから、少しタフさを抑えたのかも知れませんが、ホールロケーションを縦のラインで計った時、手前から攻める基本パターンと後方から攻める逆パターンの二つの攻略法を伝えています。最後のカップインまでEastward Ho!で攻めるか、それとも西日に向かってWestward Ho!を選択するか、大人のゴルファーを愉しませるユニークなグリーンです。
MASA NISHIJIMA