「騎手」と聞いて真っ先に思い浮かぶのは競馬。

けれども、「騎手」を辞書で調べると「馬の乗り手」とあります。

となれば当然、馬術競技やトレッキングでも、馬に跨がれば「騎手」?かと思いきや、「馬術の選手も騎手って呼ぶの?」という尋ねられることもしばしば。

実は馬術競技の世界では、馬の背に乗せた鞍に跨る場合は「ライダー」、ポロなどのチーム競技では「プレイヤー」、跨がらずに馬の背の上でパフォーマンスをするような場合は「ヴォルター」、「馬車のように馬を操縦する場合は「ドライバー」など、種目や状況に合わせてその呼び名も変わります。そしてもちろん、競馬は「ジョッキー」です。

ジョッキーという言葉の語源は「ジョック」(=Jock)。16世紀中頃、小さなと言う意味を含んだジョックが始まりだと言われています。当初は、見た目よりも存在感を表現していたとされていて、普通の人や若者などを表す言葉として使われていたようです。

また、英語圏では男性の名前ジャック(=Jack)がポピュラーだったことも、普通の人という概念に当てはまったのでしょう。

一説には、ジャックがスコットランド訛りのジョックになり、「よう、そこの若者!(=Hey, Jockey)」的な呼びかけがジョッキーという言葉の最初だとも言われています。

その後、馬に乗って物を運ぶ仕事をしている若者や馬商人を「ジョッキー」と呼んでいたようですが、競馬の発展と共に、小柄で馬を巧みに操る若者が重宝されるようになり、17世紀後半にはレースで馬に乗る人を特別にジョッキーと呼ぶようになりました。

現在、ジョッキー=競馬=騎手と容易に連想できるのは世界共通ですが、それ以外にも種目や状況に応じて様々な「馬の乗り手」を表現する英語の言葉が残るのは、豊かな馬文化の名残りなのかもしれません。

 

蛇足ですが、同じように尋ねられる中でも多いのが「馬術選手も小柄なの?」という質問。答えは、いいえ。

むしろ、競馬でこそ小柄であることはアドバンテージですが、それ以外の種目では身体的特徴はアドバンテージにもハンディキャップにもなりません。人馬の特徴を上手に組み合わせてこその人馬一体。これぞホーススポーツの醍醐味なのです。

 

MILKY KORA

馬ジャーナリスト / Maraque編集長。京都生まれ。
幼い頃から馬術を嗜み、乗馬専門誌の編集を経て馬ジャーナリストとして独立。2010年に世界最高峰のホーススポーツを伝えるEquine Journal Maraqueを、さらに2014年にはより専門性の高いMaraque for Professionalを創刊。現在は日本で唯一のホーススポーツ専門誌として発行を続ける傍ら、ライダーのマネジメントや馬イベントの開催など馬に関する幅広い活動を行っている。