No18. Fox Hunting
新年、明けましておめでとうございます。2019年も、皆さまにとりまして幸多い年となりますことを、心よりお祈り致しますと共に、本連載「Life with Horses」もどうぞよろしくお願い致します。
今年の第一回目はFox Huntingの醍醐味とは何か。年を跨いでの続編・Hunting最終回です。
寒い中、馬に乗り、犬を連れて、大勢で繰り出しては小さな狐を追いかけるハンティング。これは、朝早くから、幾つもクラブを抱えて、仲間と共に、小さなボールを小さな穴を目掛けて打ち続けるゴルフと、どこか似ているように思いませんか。
広い野原を舞台に、定められた目標はミニサイズ。ダイナミックな姿勢とデリケートなセンスが求められ、一人でも出来るようで楽しめない。そう、ハンティングもまた仲間と共に時を過ごすからこそ楽しいのです。
ハンティングが「仕事」であった時代と異なり、今となっては娯楽。笑いと喜び、そして心の慰めなのです。もちろん、村を挙げてのイベントですから、中心となるのは地域の人々ですが、日頃は都会暮らしをしながら、休日を共に過ごすための馬を郊外で飼っているという人も少なくありません。
そして、気の合う仲間と趣味に興すれば、待っているのは「後の祭り」。その日のハンティングを振り返り、あーだこーだと話し始めれば、お酒は進む一方。日が暮れる頃には、冷えた身体もすっかり温まり、至極の休日となるのです。
例えば、ハンティングにおいて「落馬」は失敗ではありません。むしろ、酒の席では恰好のネタ。もちろん、ワザと落馬する人はいませんが、足場が悪かったり、馬が怖がったり、時には危険だと判断し馬を降りれば、それもまた話題になります。
実際、威勢良く「付いてらっしゃい!」と私に言い残し、愛馬と共に颯爽と駈け出したおば様は、その直後に1.3メートル程のフェンス前で急停止&落馬。それに続いていた私は、思わず急ブレーキ。馬術競技を追いかけてきた私にとって「落馬」は失敗ですから、先導してくださるはずのおば様の落馬に右往左往。どう声をかけて良いのやらとモジモジしていると、「あなたは落ちてないわね、GOOD!!」とまさかの褒められた!!
さらにおば様は、運よくその場に居合わせた人に足を持ち上げてもらい、再び馬上の人となると、私を振り返り「行くわよ!」と一言。助走もそこそこに、今度は見事にフェンスを飛び越えます。
私はというと、一度止まってしまってからの再スタートは難易度「高」。できる限り長く助走を取り、後は祈るばかり。相棒・ブッチーを信じて目を瞑り、飛んだ!とほくそ笑んだのも束の間、目を開けるとそのおば様が待っていて下さったのです。
「Good job!!」
まるでドラマのように親指を立て、満面の笑みで私を迎えてくださると、今度は並走しながらお喋りの始まり。「ハンティングは初めて?」「日本から来たの?」「幾つなの?」「いつから馬に乗ってるの?」などなど。
そしてお待ちかね、後の祭りが始まると、彼女の落馬話も絶好調。しかも、珍しい日本人ゲストが一緒に居たのですから周囲も興味津々。そのおかげで「落ちなかった日本人」として僅かな時間スポットライトを浴び、「あなた、来年もいらっしゃい!」とお誘い頂いたのでした。
見ず知らずの間柄でも、コースを一回りすれば仲良くなれるのも醍醐味の一つ。日常では巡り会えない喜びがそこにあるのです。
最後にただ一つ、私がハンティングを通して抵抗感を否めなかったのがスキットル!
芯から冷える冬のハンティング。身体を温めるためにもお酒好きには欠かせないアイテムなのですが、全員が持っているわけではありません。そこで、一人のおじ様が一口飲むと「お前も飲むか!」と隣の人にも勧め、当然のように皆んなで回し飲みを始めます。
そして、遂に私にも回ってきました。飲み口はペットボトルより小さく、貴重なお酒ですからこぼす訳にもいきません。さらに馬上で飲むのですから、咥えるしかないのです。アルコールの力を信じ、一気に口に含みました・・・人生、何事も経験!
MILKY KORA
馬ジャーナリスト / Maraque編集長。京都生まれ。
幼い頃から馬術を嗜み、乗馬専門誌の編集を経て馬ジャーナリストとして独立。2010年に世界最高峰のホーススポーツを伝えるEquine Journal Maraqueを、さらに2014年にはより専門性の高いMaraque for Professionalを創刊。現在は日本で唯一のホーススポーツ専門誌として発行を続ける傍ら、ライダーのマネジメントや馬イベントの開催など馬に関する幅広い活動を行っている。