No. 37 Social Distancing
COVID-19の影響により、世界中が非常事態となる昨今、「馬にも感染するのか」と尋ねられることもしばしば。残念ながら、私は獣医師でも科学者でもないので、断定することはできませんが、馬と人との関係に基づいて、馬の病気のことを少しお伝えできればと思います。
馬にも様々な感染症があります。ウイルスによるもの、細菌によるもの、真菌や原虫によるものなどがあり、中には人獣共通感染症=人と人以外の動物の両方に感染するものもあります。そして、馬に携わる人々にとって、最も身近なのが「白癬症」。人の足白癬といえば水虫のことです。
これを「感染る」と考え、時に人間の水虫の薬を馬の蹄の病気に使うように勧められることもあるのですが、実際にはその症状も異なり、身体の大きさも違えば、その薬の効果が必ずしも期待通りに発揮されるとは限りません。
人同士であっても、その症状には個人差があるですから、異種間であれば尚更のこと。つい先日、アメリカ、ニューヨークのBronx Zooで、トラやライオンにCOVID-19の症状がみられると報道され、大きな話題となりましたが、実際には、ウイルスが動物の体内でどのように変化し、症状として現れるかは種ごとに異なるのだそうです。また、今回のケースはいずれも軽症で、回復傾向にあると伝えられました。
それでも、このニュースが世界を驚かせた理由の一つは、人から動物への感染だと考えられたことでした。この新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を含め、野生動物から人への感染症については、これまでにも様々な観点から注視されてきましたが、Bronx Zooのケースでは、SARS-CoV-2に感染し、無症状だった飼育員から飼養動物への感染とされたのです。
野生動物から人へ、そして人から人へと広がり、パンデミックと言われる現在、これがさらに人から動物へも感染するとなれば、事態はますます複雑化するでしょう。ただ、今のところ人から動物への感染については、事例も限定的で、決して深刻な状況ではありません。
国立感染症研究所によると、人に蔓延するコロナウイルスとして知られているのは4種類。流行期で35%、通常は10-15%の風邪の原因が、これらのコロナウイルスなのだそうです。
加えて、2002年のSARS-CoVはコウモリのコロナウィルス、2012年のMERS-CoVはヒトコブラクダのコロナウィルスが、種を越えて人に感染すると重症肺炎の症状を引き起こすと考えられられるようになり、今回はまた新たに、コウモリ第二のコロナウィルスSARS-CoV-2が人に猛威を振るうことになったのですが、肝心の馬は?
もちろん、馬にもコロナウイルスは存在します。ただ、本来コロナウイルスの種特異性は非常に高く、種の壁を超えて感染することはほとんど無いのだそうです。
また、一般的に私たちの馬の多くは、人の手で飼養管理されています。運動中は怪我一つしないように注意を払い、万一、熱が出たり、お腹が痛いと言えば直ぐに獣医師の治療が始まります。
それが直接的に感染を防ぐとは言い切れませんが、ペットの犬や猫ほど生活を共にせず、少なからずとも、馬の体調の変化には逸早く気付くという距離感は、実は人と動物の適性距離なのかもしれません。
MILKY KORA
馬ジャーナリスト / Maraque編集長。京都生まれ。
幼い頃から馬術を嗜み、乗馬専門誌の編集を経て馬ジャーナリストとして独立。2010年に世界最高峰のホーススポーツを伝えるEquine Journal Maraqueを、さらに2014年にはより専門性の高いMaraque for Professionalを創刊。現在は日本で唯一のホーススポーツ専門誌として発行を続ける傍ら、ライダーのマネジメントや馬イベントの開催など馬に関する幅広い活動を行っている。