東京クラシッククラブ(TCC) の沢向こうの森には、大鷹の巣が見つかり、開発中止になった幻のコースが約15haあります。

その森を整備し、馬を放牧し、生物多様性豊かな楽園にしようというのが、オープン当初からの私の夢でした。

約4年前…、その「森の放牧地」は、長年放置されていたために、固くて背の高い篠竹が立錐の余地もなく地面を覆っていました。

長年放置された杉林には竹林が侵入し、そこにツタが絡まり、日の差さぬ地面にはアオキやまむし草やドクダミばかりが鬱蒼と生い茂っていました。

自然を守ることと放置することは違います。森は放置すると、ジャングルのようになってしまいます。人の手が入ることで、森には光と風が入ります。人にも動物にも心地よい環境になり、今まで土の中で眠っていた種子も目を覚まします。

とはいえ、簡単な作業ではありません。下草や篠竹を刈り払い機で刈り、混みすぎた木を間伐し、倒した木を玉切りにし…と作業に終わりはありません。

倒した木の幹は、重機で一カ所に集積して木チップ業者に持って行ってもらいますが、一部は薪にし、ゆくゆくは製材して材として使います。枝葉は、自走式のチッパーで砕き、そのチップが少しずつ馬道をつくっていきます。

人の手だけでは拉致があかないので、大型の機械を入れることもありますが、自然の回復速度を考えると、仕上げにはやはり人の手が必要になります。

森の整備は、ただ開拓していけば良いというわけではありません。

周辺環境やそこにすむ動植物達の住み処をつくっていくという意味では、環境や生態系に詳しい人も必要です。

幸い、そういった専門家の友人達が近隣でも活動していましたので、協力をお願いすることにしました。

センサーカメラを仕掛けてもらい、継続的に動物の生態調査もしてもらうようになりました。

映っているのはオシドリ、バン等の鴨類、大鷹、サシバ、フクロウ等の猛禽類、キジ、サギ、狸、アライグマ、アナグマ、日本リス、野ウサギが多く、イノシシや鹿は近隣まで来てはいるものの、TCC内には、まだ入っていないようでした。

ゴルフ場と放牧地に挟まれた調整池には、オシドリの営巣地があることもわかりました。冬になると、100羽あまりの色鮮やかなオシドリ達が、きらめく日の光に泳いでいます。

6月には、調整池に注ぐ沢で、無数のホタルを見ることもできました。そこには、尾瀬のような希少な水生動植物の生態系がありました。

山の斜面のクヌギ林にはカブトムシやクワガタが潜んでいます。

生態系の頂点に立つ大鷹の鳴き声はたまに聞こえますが、用心深い彼らは、人にその姿を見せることは滅多にありません。

 

2020年の2月には強力な開拓の援軍がやってきました。

岩手県遠野の岩間さんと彼の連れてきた馬達です。

木曽馬と、ペルシュロンと寒立馬の血を引いた重種「はたらく馬」達です。

彼らは、電気柵で仕切られたエリアの中、篠竹を踏みつぶしては食べ、雑草を食べることで開拓という仕事を黙々と休むことなくこなしていきます。

最初は、人力によってできた馬道を中心に、開拓地はみるみるうちに広がっていきました。

けれども、人跡未踏の地をいくのです。さすがの彼らでも怪我をすることもあります。

固くて大きな蹄も、笹が突き刺さることもあります。

びっこを引いている馬の足を上げさせて、突き刺さっている笹の幹をラジオペンチで引き抜き、傷口を焼鏝で焼いて治療します。

昼夜放牧に慣れている彼らの回復力は凄まじいものがあります。ほんの数日で元通り歩くことができるようになります。

電気柵でいくつにも仕切られた放牧地内を移動しながら、彼らの開拓はまだまだ続きます。

森の整備が進めば、クラブの馬達や、さらには引退競争馬等のデリケートな馬達も放牧できるようになります。木立を透かして、馬達が草を食む姿がゴルフフィールドからも望めるようになるでしょう。

完全メンバー制である東京クラシッククラブは、メンバーの権利やプライバシーのみならず、限られた生態系を守る生き物達の聖域(サンクチュアリ)となり得ます。

そこには、森があり、草原があり、水辺があり、その境界線が無限のグラデーションを生み、多種多様な動植物に住み処や狩り場を提供しています。

 

日本には2400ものゴルフ場があるといわれています。

森の中を、馬が歩き、子ども達が裸足で遊び、自然の中で遊び学べる場所にすることで、単なるゴルフ場や乗馬クラブだけでなく、生物多様性や環境問題を啓蒙する場所にすることができます。

簡単なことではありませんが、それは、現代のフロンティアであり、サンクチュアリでもあります。

それこそが、TCCが目指す真のカントリークラブの姿だと言えるでしょう。

TCC馬主クラブ

三成 拓也