馬もお米も、健全に育てる為にはきれいな水が欠かせません。

幸いにも、東京クラシッククラブがある和泉町は、その名の通り、きれいな水が豊富です。

 

ゴルフ場と放牧場の間には谷があり、沢が流れています。

3番4番コース辺りからしみ出た水は小さな流れになって、谷を通り、10番のグリーン近くで堰き止められて、大きな水を湛えます。

その堰の水は農業用水として溜められており、私達の田んぼにも注がれます。

その水系は、たくさんの動植物を育んでいます。

田んぼ脇の用水路には、シジミがいます。

流れが穏やかで生息に適した環境のせいか、大きなサイズの個体も多く見られます。

 

夜、放牧地を訪れると、静寂どころか、たくさんの音が聞こえてきます。

暗い森の中から馬達の鼻息や枯れ枝を踏み潰す音、草を食む音が、そこかしこから聞こえます。たまに、フクロウが思い出したかのように「ホーッ、ホーッ」と鳴きます。

 

森から沢へ続く道を降りていくと、眼下に小さな流れがあり、まるで尾瀬のように、白みがかった葉をもつハンゲショウが谷いっぱい覆っています。

泉地区で生まれ育ち、詩人であり、ネイチャーガイドでもある大島健夫氏には、東京クラシックの生物について定期的に調査してもらっています。

 

 「ハンゲショウは、日当たりの良い湿地に群生し、最大で1mほどの高さに成長するドクダミ科の植物です。

7月の初め頃、ハンゲショウの葉はその半分ほどが白く染まりはじめ、遠くから見ると、まるで水辺にたくさんの白い大きな花が咲いているかのような不思議な姿をあらわします。 これが、漢字で書くと「半夏生」あるいは「半化粧」という、その名の由来です。これは、受粉のために虫をおびき寄せるためと考えられています。

 残念ながら、その生育に適した湿地環境は、近年、全国的にどんどん少なくなっています。

東京クラシックの沢にあるハンゲショウ群落は、千葉市内に残存する中では最大規模のもので、その意味でも貴重です。

 白く染まったハンゲショウの葉は、8月には何事もなかったように元の緑色に戻ってゆきます。ハンゲショウが、多くの人が思い浮かべるハンゲショウらしい姿をしているのは、実は一年のうちのほんのわずかな期間でしかないのです。」

 

6月下旬から7月上旬。

一つの緑がかった黄色い光がフラフラと飛んでいます。

下の沢から迷い込んできたのでしょうか。

沢では、ハンゲショウの半白の葉の陰で、ひっそりと明滅を繰り返すものと、ふわふわと樹上まで飛んで光の筋を残すものがいます。

ヘイケボタルです。

「ちょうどハンゲショウの葉が白く染まり出す夏の初め、陽が落ちると、東京クラシックの沢にはホタルが舞う様子が見られます。

 よく比較されるゲンジボタルよりも体が小さく、チカチカとまたたくように緑色の光を点滅させます。ヘイケボタルのような夜行性のホタルが光りながら飛ぶのは交尾の相手を見つけるためと考えられておりますから、ハンゲショウの葉が白く染まるのと同じく、子孫を次代に残すためです。幼虫時代を水中で小さな貝を食べて暮らし、成虫となったヘイケボタルは、わずか1、2週間の寿命の中で配偶者を求めて飛び続けるのです。

東京クラシッククラブのフィールドでは、これまでのところゲンジボタルは見つかっていません。しかし、もしかするとこの土地にはヘイケボタルの方がよりふさわしいかもしれません。なぜなら、東京クラシッククラブがある千葉市の泉地区には、平将門の落人伝説が残っているからです。将門の乱が起こった1000年の昔、このあたりはさぞや秘境のようなところであったに違いありません。」

(語り:大島健夫氏)

 

こうして、東京クラシッククラブの「甘い水」が、そこに住む動植物を健やかに育て、谷津田に植えた苗も、これからの夏の光を浴びて、ますます大きく成長していきます。

谷津田にシジミがいるということは、蛍のエサであるカワニナも生息している可能性があるということです。

近い将来、東京クラシッククラブの谷津田にも蛍が舞う日が来るかもしれません。