名門とは、ゴルフコースよりもメンバーたちが名士でなければならない。
メンバーたちがゴルフコースに深い見識を持つならば、常に正しい進化を遂げ、ゴルフクラブは永遠に輝き続ける。

MASA NISHIJIMA

                

* 根岸ニッポンレースクラブゴルフアソシェーション

* 根岸ニッポンレースクラブゴルフアソシェーション

 

2016年に開設された東京クラシックも早いもので2周年を迎え、ゴルフコースは視界の中で、やっと落ち着きあるランドスケープを魅せてきました。
日本のゴルフ史も欧米と同様に競馬場と共に発展していった事は、この連載の中でもお話しさせて頂きましたが、関東で初のゴルフコースは横浜山手、根岸の競馬場のレーストラック内に造られました。1906年に日本で初の芝のグリーンを持つ9ホールコースで、名称はニッポンレースクラブゴルフアソシェーションでした。その後、競馬場とコラボしてゴルフコースは千葉、埼玉、兵庫などにも造られましたが、戦時中に馬とゴルフを結びつけたジェントルメンの文化は消滅してしまいます。競馬場ではありませんが、東京クラシッククラブは日本にもう一度馬とゴルフを愛するジェントルマンたちの熱いハートを繋げるカントリークラブとして誕生したわけです。メンバーはここに強いプライドを持たなくてはなりません。
そして名門クラブへのスタート台に立ったばかりの東京クラシックを、大人たちのソサイティークラブとして名士たちによる名門クラブに成るためにも、メンバーの皆様たちは迎えるゲストたちに、ホームコースの素晴らしさ、その特徴を語れる東京クラシックの名士たちになって頂きたいと願う次第です。
それでは今回、フロント9の1番から9番ホールまでの解説をして参りたいと思います。途中、スコットランドギフトと題したコーナーは、東京クラシックの設計にもやや関連する20世紀初頭本場スコットランドリンクスから受け継がれたクラシックコース設計や歴史のエッセンスを解説しています。

Back 9は来春早々に解説致します。

 

Chapter 1  スターティングホールについて

 #1番ホール名称 JACK’S GATE

448/393/373/316

芝から打てる練習場のすぐ隣にスターティングホールのティーボックスがあるなど、この一画は、東京クラシックらしいゴージャスなプライベートコースの空間を醸し出しています。フェアウェイ右手に見える高い一本の樹木は、プレーヤーに打ち出しのターゲットラインをどこに置くかを伝えます。若かりし頃、ニクラウスはこの設計手法をピート・ダイから学び、以降、よく用いるようになります。ここをターゲットにドローボールで攻めていけば、右から左へ流れるスロープラインを活用して、打球をよりグリーンに近づけることができるでしょう。
 80年代のバブル期、どのゴルフ場もスターティングホールは、プレーをスムーズに流す為に、パー5に設定することが流行っていました。しかしそれはスターティングホールとして、ティ及びセカンド地点からグリーンを確認できないケースも生まれ、ホールの印象度、メモラビリティーとしては決して高い評価には繋がりませんでした。ニクラウスは当時から、レギュラーティからドライブ&ピッチの易しいパー4を理想としていました。例えば彼の作品のショール・クリーク(Shoal Creek  GOLF Magazine 世界Top100コース1983-1999)などがその例です。ミュアフィルード・ビレッジ(Muirfield Village GOLF Magazine 世界Top100コース1983-2017)も、プロ及びロングヒッター用に、アプローチエリアには幾つものバンカーが配置されていますが、一般のランディングエリア(IP)付近には厳しいハザードは設けていません。
スターティングホールには様々な考えがあります。例えば、その開発プロジェクトがクラブハウスのロケーションを優先するのか、コースの用地を優先にするのかによって大きく異なります。けして広いとは言えない用地の中、最もゴージャスな高台などの場所へ優先的にクラブハウスを建てるならば、スターティングホールは素晴らしい景観が楽しめるかも知れません。しかし用地で最もゴージャスな場所をクラブハウスに使われている為、18ホールのレイアウト、ルーティングに歪みが生まれるケースが多々あります。欧米の古き名門の中には、クラブハウスはコースに相応しくない箇所にひっそりと佇ませ、その分、コースのレイアウトを優先しているゴルフクラブもあります。それらのコースはスターティングホールはけしてゴージャスではない、18章のストーリーのプロローグかのような内容にして、2番、3番へと進むにつれ、その自然の大地はゴルファーたちを魅惑の世界に引きずり込むかのような舞台を演出していきます。アイルランドの名門、世界TOP10コースに君臨するロイヤルカウンティダウン(Royal County Down)や、同じく世界TOP100コースに君臨するウォルトンヒース(Walton Heath Old Course)などもその例でしょう。

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Chapter 2     ドライバブルホールとは

#2番 ホール名称 ATMOSPHERE

330/291/266/233

このホールのティーインググランドに立つと、Atmosphere (静けさの空間)が感じられます。この短いショートパー4は、巧みに配置された左右のバンカー群が威圧感を漂わせ、フェアウェイセンターから、右斜め45度角にセットされたグリーンは、中央の起伏が馬の背の形状で、打球を前後に転がす複雑なパッティングスロープを創り出しています。PGAのトーナメントでは、ロングヒッターにとって、リスクを賭けた1オン可能なドライバブルホール(Drivable Hole)を演出する事も可能でしょう。
 1980~90年代のモダンコース時代、距離の短いショートパー4では、フェアウェイにバンカーなどのハザードを数多く点在させ、プレーヤーからドライバーの選択権を奪い取るプレイスメントショットの戦略性が流行りました。しかしトッププレーヤーとしてメジャー18冠を誇るニクラウスにとって、それはゴルファーとしての大きなベクトルの違いでした。彼はドライバーを手にするもしないも、それはプレーヤーの判断に委ねるのが当然であり、風を計算しない設計理論ほど愚かなことはないという考えにありました。昨今のメジャー大会はもちろんの事、ケープ・ウィッカム(Cape Wickham オーストラリア)などの新設の名コースでも、必ずと言って良いほどリスクと報酬を兼ねたドライバブルパー4が登場します。果敢に攻めるも、ステディに攻略するも、それはゴルフというドラマの主人公である貴方自身が判断することなのです。
古くから1オン可能なドライバブルホールとして有名なのは、カリフォルニアの名門リビエラ(Riviera CC 米国)10番ホールで、イーグルの喝采もあれば、僅かなミスショットで、ダブルボギーの悲劇も与えます。ニクラウスはリビエラの10番を世界のベストショートパー4と絶賛しています。

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*世界のドライバブルホール

Cape Wickham GC King Island, Tasmania, AUS

Cape Wickham GC King Island, Tasmania, AUS

Riviera CC CA ,USA

Riviera CC CA ,USA

 

* Scotland’s Gift

ドライバブルパー4は、その国によってドライブエーブル4=Drive-able4とも言いますが、日本では、ティショットでワンオン可能なホールとの説明で、その用語はまだ定着していないようです。バブル期前後に開発されたコースでは、サービスホールとしてあえてドライバブルなショートパー4を取り入れたコースも多く見かけましたが、それとは逆に、14本のクラブを使用させる等、意味不明なキャッチフレーズで、ゴルファーからドライバーの選択権を奪い取るレイアップホールも生まれました。
かつて日本オープンが行われた某ゴルフ倶楽部で、320ヤードほどのショートパー4がありました。グリーンは砲台になっていても、飛ばすプレーヤーならばワンオンを狙えるホールでした。そのホールを見た時、思わずJGAのコースセッターに「ワンオンさせたいのか、させたくないのかどちらですか?」とお尋ねしたことがあります。彼らはグリーンのフロントを狭く締めて、両サイドを深いラフにしていたのです。担当者は「ワンオンを狙いたい者は狙えば良い」と申していましたが、これでは賢いプレーヤーはその締めた花道の手前をターゲットにし、短いアプローチで寄せてバーディを狙いにくるでしょう。つまり無理にワンオンを狙う必要がなくなり、コース攻略の愉しみを奪い取る設定だったのです。トーナメントの流れを楽しませる為にも、むしろ花道をグリーンの幅ぐらい広めてワンオンを狙わせ、厳しいリスクも当然設定するべきです。そこに「リスクと報償」の理論が生まれます。ゴルフトーナメントの面白さです。

 

Chapter 3     罪の谷( Valley of Sin)とフォクシー(Foxy)

 #3番 ホール名称VALLEY

594/536/517/440

  このパー5の特徴は、環境アセスメントの観点から開発に手を加えることが出来なかった沢地帯が、ハザード効果として攻略ルートを演出していることです。2打目は谷越えした地点から、グリーンは右に90度ドッグレッグしていることから、レイアップをするか、果敢にグリーンを狙うかの二つの選択が考えられます。ニクラウスはここで、クラシック時代の設計理論にあるヴァレーホール(Valley Hole)の戦略的特徴を、フラットな地形の東京クラシックに強調することから、あえてバンカーが存在しないホールにしたようです。

 

*Scotland’s Gift

世界中の名門コースには、バンカーのない名ホールは幾つもあります。世界で最も有名なバンカーのないホールは、セント・アンドリューズ・オールドコース(St.Andrews Old Course )18番でしょう。ここではグリーン左手前の歪んだ一帯(専門的にはハロー、又はスウェールと表現します。)、通称「罪の谷(Valley of Sin)」の自然の罠にかかるとグリーンと罪の谷を何度となく行き来する危険もあります。時にそれはバンカーよりも厄介なものです。又、スコットランドの名門、コース設計家ドナルド・ロスの故郷でもあるロイヤル・ドーノッホ(Royal Dornoch)14番もバンカーがありません。しかしフェアウェイの攻略ルートを一つ間違えると斜めに配置された王冠状のグリーン(Crowned Green)を捉えるのが難しく、やはりここもグリーン手前のスロープに引っかかる罠が待ち受けています。このホールの名称はフォクシー(Foxy)で、「ホールの美しさに酔うと騙されますぞ」の意味が含まれています。王冠状グリーンについては17番ホール「Eastward Ho!」で、詳しく解説しております。

 

17番グリーンから捉えた18番ホール St.Andrews Old Course

17番グリーンから捉えた18番ホール St.Andrews Old Course

Royal Dornoch GC 14番 Foxy

Royal Dornoch GC 14番 Foxy

Chapter 4    ロードホールの攻略理論

#4番ホール名称 Road

422/385/358/326

  谷越えのティショットは、ターゲット効果とハザード効果の両面を持つバンカーの右を狙いますが、注意しなくてはならないのは谷間に沿ってダイアゴナル(Diagonal 斜め対角線)にフェアウェイがレイアウトされていることです。しかも右から左へ下るスロープラインはその幅を狭く感じさせる事でしょう。ティショットのベストなランディングエリアはフェアウェイ右側に続く僅かな平地部分で、僅かのミスで、つま先上がりのライになるケースが多いでしょう。このホールの攻略のキーポイントは、フェアウェイセンターから斜め45度角に配置されたセンターに窪みを持ったダブルプラトータイプ(Double Plateau Green)のグリーンをどう攻略するかにあります。グリーンサイドバンカーは、脱出にはけしてタフではないが、セント・アンドリューズ・オールドコースのロードバンカー(別名トミーズバンカー)がその攻略ルートを明確に示すように、このホールもグリーン右サイドからパッティングラインを捉える事が、パーセーブをするためのベストな条件であることを伝えています。ニクラウスチームは、距離はけして長くなくとも、風などの条件によっては、グリーン右手前にレイアップし、3オン+1パット=ナイスパーセーブのセント・アンドリューズ・オールドコース(St.Andrews Old course)17番ロードホールの攻略理論をここで伝えているかのようです。ニューヨーク州、ヤンキースタジアムがあるブロンクス地区から北に車で30分あまりのヘイスティングス・オン・ハドソンに、米国では歴史上4番目に古いセントアンドリューズGCがあります。設立は1888年、スコットランド出身の移民ジョン・リードとその仲間たちがヨンカーズの放牧地に、手作りのゴルフコースを建設、後に隣接するりんご農園も買収し、そこをゴルフ場にしたことから、彼らはアップルツリーギャングと呼ばれた。ゴルフ史では崇められても、大事なリンゴ園をゴルフコースに変えた事から、当時世間からのその呼び名は道楽者を意味していました。1983年、この歴史あるセント・アンドリューズGC(St.Andrews GC)のコース改造を担ったのが、設計家としても大成していたジャック・ニクラウスと彼の設計チームで、彼らは2年の歳月をかけてコースを完成させました。その8番ホールが管理道路に沿ったニクラウスのロードホールです。姿形は本場オールドコースのロードホールとは程遠いが、その攻略性の理論はしっかりとインスパイアされています。東京クラシックの4番も同様の内容にあり、ロードホールの名称を付けるに至りました。

 *St.Andrews GC #8 Road Hole

       *St.Andrews GC #8 Road Hole

* Scotland’s Gift

米国で最初に誕生したゴルフクラブは南北戦争が始まったサウスカロライナ州のチャールストンにあったサウスカロライナGCで、その設立は1786年とされているが、残念ながら確かなデータは存在しない。米国では次のジョージア州サバンナに誕生したサバンナGC(Savannah GC)が、設立1794年で、米国最古のゴルフクラブと記述されている。しかしながら現存する最古のゴルフコースとなると1884年に、ウェストバージニアの山岳地に、僅か30エーカーの土地に造られたオークハーストリンクス(Oakhurst Links)で、現在は復元されたクラブハウスがゴルフ博物館として、コースはヒッコリークラブとガタパーチャボール、砂を入れるティペックで、130年前のスタイルでゴルフを楽しめるリゾートになっています。

図 St.Andrews Old Course 17番 Road Hole(上), National Golf Links of America 7番 Road Hole(下)

図 St.Andrews Old Course 17番 Road Hole(上), National Golf Links of America 7番 Road Hole(下)

St.Andrews Old Cse 17番

St.Andrews Old Cse 17番

 Chapter 5      サハラの誕生

#5番ホール名称 SAHARA   

227/209/188/159

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グリーン手前のコレクションエリアまで、フェスキューのラフに囲まれたサハラ砂漠のようなヴェストエリアが広がります。ピンがグリーンセンターより左サイドに切られた時、ティからグリーンが斜め45度角に配置されていることを忘れてはなりません。左に行けば行くほど距離が必要となります。僅かでもショートすれば、深い整地されていないヴェストエリアが待っています。
ゴルフコースで、サハラの名称が初めて付けられたのは、イングランドの名門ロイヤル・セント・ジョージス(SandwichサンドウィッチGC)の3番パー3の砂丘地帯と言われています。スコットランズギフトの著者であり、クラシックコース設計の定義を完成させたC.B.マクドナルドが訪問した19世紀末期、このホールは、芝も生え揃わない巨大な砂丘地帯を超えるブラインドのパー3で、砂丘を越えた打球はランをしてグリーンへ乗っていきました。打球の行方が見えないまさにイマジネーションショットの世界でした。この砂丘地帯を当時横断不可能と言われたサハラ砂漠に因んで、サハラと名称したのが始まりです。これが発端となって、当時英国やアイルランドのリンクスコースでは、巨大な砂地が広がるエリアをよくサハラと呼ぶようになります。ロイヤル・セント・ジョージスの3番は、1975年、オランダ生まれの英国人コース設計家フランク・ペニングによって、サハラ砂丘を越えない場所にティが移動され、その代わりに距離も200ヤードを超えるロングパー3に改造されました。
サハラ砂丘はあれども、残念ながら私たちはプレールート上でその上を歩くことはなくなりましたが、かつての自然のハザードを称え、人工的なバンカーを配置しておりません。世界でも有数のバンカーのないパー3ホールになっています。

 

*Scotland’s Gift

サハラの名称を持つ砂丘地帯は、米国に渡ると、1オン可能なショートパー4のサハラホールのドライバブル攻略理論と同時に、巨大なバンカー群、及びヴェストエリア地帯にその名称が付けられていきます。
まず世界ナンバー1コース、パインヴァレーGC(Pine Valley GC)は、まだ樹木が多く植栽されていなかった頃、7番パー5の2ndから3rd地点の間と、ホールを折り返す8番のティからフェアウェイまでの間は芝がはられていない砂地のヴェストエリアが繋がっていました。それらはその規模の大きさから地獄のハーフエーカー&サハラ(Hell’s Half Acre & Sahara)と名称がつき、戦後、樹木によってホールがはっきりと分かれてからは、7番のそれを地獄のハーフエーカーと呼び、8番に砂地にサハラの名称が付きました。パインヴァレーの設計にも関与した名匠アルバート・W.ティリングハスト(英.ティリンガスト=Albert W Tillinghast)は、パインヴァレーで自らがアイデアを出したフェアウェイを分離させるステレオタイプのレイアウト構想から、たまたま生まれたこの地獄のハーフエーカーとサハラの存在に強い印象を持ち、後に自らの作品であるバルタスロールGC #17番(Baltusrol GC Lower #17)、ボルチモアCCファイブ・ファームス#14番(Baltimore CC Five Farms)、フェンウェイGC#3番(Fenway GC)では、セカンドからサード地点に向かう間に、フェアウェイを分離する巨大なバンカー群を設け、それらを「サハラバンカー」と名称しました。このティリングハストは、このサハラバンカー群を、かつてC.B.マクドナルドが定義した3ショットルートを明確するパー5のクラシック設計理論「ロング=Long」を用いる時に活用しました。
「サハラ」、それが巨大な砂丘を示すものなのか、又はコースの攻略ルートに絡むハザードなのか。リンクスマニアにとって、サハラの名称は、歴史への永遠のロマンを感じさせる一帯なのです。

Baltusrol GC lower course 17番

Baltusrol GC lower course 17番

Pine Valley GC 8番

Pine Valley GC 8番

Royal St.George’s 3番

Royal St.George’s 3番

 

 

Chapter 6.   ボトルホールにおける二つの攻略ルート

#6 ホール名称 BOTTLE

412/362/338/294

  縦斜めに配置された3つのバンカーの存在から、視覚的にはフロント9で最もタフなホールに映るでしょう。しかしこのホールの戦略性は、ゴルファーに様々な攻略法を模索させるはずです。名ホールとは、設計家が強制的に攻略ルートを提供し、クラブ選択させるものではありません。ティショットのIP(ランディングエリア)は、フェアウェイが左から右に流れるスロープラインに位置し、センターには、その縦の傾斜を活用したシープズカットバンカー(羊が斜面に掘る穴に似ていることから、この名称がついた)が存在します。ティショットはこのシープズカットバンカーに対し、狭い左右のルートを果敢に攻めていかなければなりません。もし、それがリスクだと思われるならば、視界に見える右サイドのフェアウェイにレイアップします。しかしセカンドにはかなりの距離が残される事となります。ベストルートの左バンカー越えのティショットを成功させた者には、セカンドにグリーンサイドバンカーのプレッシャーが来ないアドバンテージが与えられます。

 

*Scotland’s Gift.

このホールは、セント・アンドリューズ・オールドコース16番からインスパイアされた2 ウェイズ(2 ways)の設計理論に類似しています。2ウェイズとは、はっきりとした2つの攻略ルートを持つホールのことを言います。つまりここのシープズカットバンカーは、オールドコースの有名な名称プリンシパルノーズのバンカーと同じ役割をはたしている事になります。オールドコースの16番ホールは、イングランドの名門サニングデールオールドコースの12番の設計に継承され、後に、C.B マクドナルド設計のナショナル・ゴルフ・リンクス・オブ・アメリカの8番ホールにて、クラシック設計のボトルホールの定義とされました。本場オールドコースの16番ホールやナショナルリンクスのボトルホールと比べ、ホールの横幅のスケールは狭く、トリッキーなホールと評される事もあるでしょう。しかしゴルフの達人になるならば、視界の狭いこのホールを攻撃的に攻めることに喜びを感じられるかもしれません。

 

National Golf Links of America 8番

National Golf Links of America 8番

Essex County Country Club West 10番

Essex County Country Club West 10番

 

ナショナルゴルフリンクスオブアメリカ 8番

ナショナルゴルフリンクスオブアメリカ 8番

 

 

Chapter 7   オールドコースの極め

#7 EDEN

211/188/167/144   

セント・アンドリューズ・オールドコースの中で、11番パー3、ホール名ハイホールイン(High Hole-In *)ほど、後のクラシックコース、及びモダンコースに影響を与えたリンクスホールはありません。それは米国ではUSGA創設者のひとり、C.B.マクドナルドによって、イーデンホール(エデン=Eden Hole)の名称で、形は変われどその攻略理論は継承されていきました。
現在、最も有名なものではアリスター・マッケンジーが設計したオーガスタナショナルの4番ホールがあります。
ニクラウスも同様です。これまでいくつかのイーデンホールの理論を持つホールを造ってきました。東京クラシックではこの7PAR3が、イーデンホールの理論にややインスパイアされた感が致します。グリーン手前のバンカーはストラスバンカー、左のバンカーは、若かりし頃のボビー・ジョーンズにスコアカードを破らせたヒルバンカーをイメージしたものでしょう。そしてグリーンの傾斜はローリングするかのように、フロントラインへと流れます。グリーンにおけるベストポジションは、オーガスタナショナル同様に、この二つのバンカーの中間点になります。 

* Scotland’s Gift.
オールドコースは一つの巨大なグリーンをアウト、インのホールで共有するダブルグリーンが、1, 9, 17, 18番ホールを除く、14ホールに構成されています。
その理由は開設当初、1番をスタートしたら、そのまま西北方向に向かって、砂丘の中を蛇行しながらもイーデン河沿いまで直線的に12ホールがレイアウトされていました。出て行ったら、スタート地点までは戻ってこない牧歌的文化のリンクスコースでした。セント・アンドリューズのライバルであったプレスウィックGCは、円形に近い用地に12ホールが構成され、そのループはクラブハウスにも戻るルーティングに構成されていました。ゴルフ創世記、コースによってホール数はまちまちでした。その中で、7ホールを三日間21ホールで争う競技ルールなどが誕生しました。それがプレストウィックGCとセント・アンドリューズによって、12ホールを三日間36ホールで競うことが望ましいとされるようになります。それを決定したのが、1860年プレストウィックGCで最初に開催された第一回全英オープン(The Open Golf)で、12ホールを三日間かけて36ホールのスクラッチプレーで行われた事でした。プレストウィックでの全英オープンは、1872年まで計9回も開催されています。
余談ですが、2009年、リーマンショックから、全米のゴルフ場が軒並み閉鎖に追い込まれた時、ジャック・ニクラウスは、減少しつつあるゴルフ人口を戻すために、ゴルフにかかる拘束時間を2時間半内に抑えられる12ホール構成へコース改造する事を提案され、競技でも3ラウンド36ホールにすれば良い事だと述べ話題を呼びました。ニクラウスのこのアイデアは、150年前のスコットランドの時代を再現するのであるから、R&Aからも何ら否定される事はないだろうと考えたのかも知れません。
さて話をオールドコースに戻しましょう。12ホール時代、スタート地点に戻れないルーティングは、競技上望ましいものではないと、イーデン河畔から折り返して戻ってくる22ホールコースに改造されます。その時に同じグリーンを活用したのがダブルグリーンの始まりでした。しかし36ホール競技を厳守するためには22ホールはあまりにも中途半端な数であり、そこで4ホールを削り、18ホールにする事で、2ラウンド36ホールを成立させたのです。この事から、ダブルグリーンのホールナンバーは、例えば、2番は16番とグリーンを併用するなど、その合計が18になるようになります。つまり、スタートと最終のホールは、ループ上、グリーンを同じに出来ない理由などから、1, 9, 17,18番の4ホールのみがシングルグリーンとなったわけです。スタートし(Going Out)、そして折り返し、スタート地点に戻る(Coming In)1ループの構成から、アウト、インの用語が誕生しました。オールドコースのイーデン河畔に位置するハイホールのグリーンは、7番と11番が併用し、ホール名もそれぞれに、7番を「High Hole Out,11番を「High Hole In」と名称しています。

図. St.Andrews Old Course High Hole In(11番)とHigh Hole Out(7番)

図. St.Andrews Old Course High Hole In(11番)とHigh Hole Out(7番)

St. Andrews Old Course #11番

St. Andrews Old Course #11番

 

Chapter 8    ダブルドッグレッグホール

#8 DOUBLE DOGLEG

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このホールはドッグレッグポイントを二つ持つ、パー5におけるダブルドッグレッグホールのクラシック理論にあります。ダブルドッグレッグの設計理論とは、堅実にフェアウェイルート上からの3打で攻める3ショットルートと、ショートカット可能なブラインドのイマジネーションショットによって、2オンの可能性を示したホールがあります。この設計理論は、1920年代所謂クラシックコース黄金期を支えた巨匠アルバート・W・ティリングハストによって誕生し、クラシック設計の定義のひとつともなりました。リンクス志向の強かったその時代、彼の設計理論は一風変った趣が隠されていました。そしてそれが戦後のモダンコース時代への進化に大いに役立っていきます。サハラホールでもご紹介しましたが、彼は世界ナンバー1コースで知られるパインヴァレーのステレオタイプのフェアウェイルートを提案した人物の一人でもあります。7番のフェアウェイを跨ぐ地獄のハーフエーカーと呼ばれる自然のハザード地帯はその代表的なもので、又、13番ではレダンタイプのグリーンをパー4で活用するアイデアを提供した人物でした。彼は自然のハザードの活用方法がプレーヤーの挑戦意欲と攻略の的確さをいかに生むものであるか、またそのルートが、ショットにイマジネーションを作り出せるものであるならば、自然美のハザードと人工的ルートプランのあり方がゴルフゲームをより楽しいものに出来る事を証明したのです。ダブルドッグレッグ手法はその代表的なものでした。
今日でも多くの設計家たちが、パー5でよく用いる手法で、ニクラウスもこの東京クラシックでは、最もゴージャスな地形にある8番に、そのアイデアを持ってきたようです。ティショットが左サイドのバンカー群を超えると、ダウンスロープによって、打球は転がり、2打目はやや打ち上げになるとはいえ、2オン可能なダブルドッグレッグのパー5に仕上げています。
これまでのメジャートーナメント開催コースの中で、最もタフなダブルドッグレッグホールは、ニューヨーク州ロングアイランドの名門シネコックヒルズGC16番と言われています。図(SH)をご覧頂ければ、そこには一般のゴルファーでさえ、あらゆる攻略ルートが描かれることが理解できるでしょう。

 

図 シネコックヒルズのダブルドッグレッグホール

Shinnecock Hills GC #16  544yrds PAR5

アップヒルなラインにフェアウェイラインを蛇行させ、そこにバンカー群を巧みに絡ませて見事なビューバランスを誇っています。ダブルドッグレッグに思えても、実はティとグリーンはストレートに測られています。    

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*Scotland’s Gift

名匠アルバート・W・ティリングハストのダブルドッグレッグ理論 

設計上はパー5であることから、IP(打球のランディングエリア)2地点による3ショットルート(3オン)が描かれています。ここで注意してもらいたいのは3打目のグリーンへのアプローチショットが短い事から、ショットの飛距離に方向性の的確を要求する事から、グリーン周りをバンカーなどのハザードで囲むクラシック設計の定義の一つ「ショート=Short」のパー3ホールの理論を用いていることです。もし2打でグリーンを狙うならば、グリーンを囲むグリーンサイドバンカー(.ガードバンカーは俗語。)に捕まるリスクも高くなるでしょう。つまり2番ホールでも解説しましたパー4におけるドライバブルホールのリスクと報酬の設計理論が、このパー52打目地点から戦略的に重なる事がご理解できるでしょう。

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 コース設計へのエッセンス③

バンカリングについて

バンカーには、主にペナル効果、ハザード効果、ターゲット効果の三つの要素がある。

  1. ペナルバンカーとは、リンクスに多く見られるソッドウォール・タイプの脱出だけが精一杯のものを指す。
  1. ハザードバンカーとは、戦略的に効用力を持ち、プレーヤーにその技術を要求するものを指す。グリーンサイドバンカーがその例。但し、地形の高低差を活かすレイアウトの場合、ハザードバンカーは、配置次第ではアンフェアと捉えられる。つまり用地の条件によっては、バンカーの数が多ければ、バンカリングの数値が高いというものではない。ちなみに、オーガスタナショナルは、開設時は27個 現在も44個のバンカーしかない。
  1. ターゲットバンカー(英国ではディレクショナルバンカーとも呼ぶ)とは、プレーヤーに打つべき方向を指示するものを指し、設計は、それを越えるショットに対し、アドバンテージを与えるものでなければならない。仮にバンカーまで距離を持たせ、その手前にラフや池などのハザードエリアがある場合、そのバンカーを越えるショットをヒロイックという言葉をもって、ホールの内容を表現する事もある。

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Chapter 9    ボグスバックの設計理論

#9  HOG’S BACK

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  英国では雄豚の背のように丸みをもつ起伏な地形をホグスバック(Hog’s Back)と呼びます。そのようなことからリンクスコースでも尾根のような起伏を持つホールや、丸みを帯びた形状のグリーンに、ホグスバックの名称をよく付けます。日本では馬の背グリーンと表現しますが、米国では亀の甲羅、タートルバックにそれを例えます。米国コース設計の父C.B.マクドナルドはリンクスに多く見られるホグスバックホールの特徴を彼の代表作ナショナルゴルフリンクスオブアメリカの5番ホールで設計しました。それは広いフェアウェイに尾根のようにのびるマウンドを超えると起伏あるダウンスロープによってボールは様々な転がりをみせ、次のショットに大きな影響を与えるものです。まさにリンクスの固い土壌にみられる打球のランの度合いをマンメイドの世界で表現したマクドナルドのアイデアで、後に彼の設計パートナーであったセス・レイノーやチャリー・バンクスによって、ホグスバックホールは地形を活かした様々な設計に取り入れられていき、本場リンクスのテイストとして全米中に広められていきます。但し、80年代にブームを呼んだスコティシュアメリカンタイプのコースに多く見られた奇抜な人工的マウンドでローリングしたフェアウェイはホグスバックの設計理論とは異なるもので、その多くはリンクスのルックスだけをモチーフした作品に過ぎません。マクドナルドと同じくクラシック時代の巨匠と称えられたドナルド・ロスは、フェアウェイではなく、ホグスバックをグリーン上で表現しました。但し、これも日本の馬の背とは異なり、二つの起伏を組み合わせた形状で、彼の名作パインハースト#2コースのグリーンにもそれをみることができます。それらは縦の起伏によってグリーン奥がフォールアウェイの傾斜にあることから、全米オープンでも多くの選手たちがグリーンには乗せたがボールは左右又は奥に転がりおちていく悲劇にあったことは記憶に新しいことです。これらのグリーンは 米国では、王冠状グリーン(Crowned Green)、又は亀の甲羅グリーン(Turtle’s back Green)とも呼ばれています。
日本では川奈富士コース7番のショートパー4のフェアウェイのランディングエリアが、まさにホグスバックの理論で完成された名ホールでしょう。まるで雄豚の背のように丸く狭いフェアウェイにティショットを置ければ、グリーンはフェアウェイと同じ高さのレベルになり、最大のアドバンテージを与えられます。川奈の7番ショートパー4は、世界のベスト500ホールの一つに選ばれています。
東京クラシックの9番ホールは、フェアウェイ右サイドのヴェストエリアが、ホールをトリッキーに見せていますが、ティショットのターゲットとなる小丘のマウンドがホグスバックの理論を演出しているかのようです。それを超えると両サイドのバンカー群に挟まれたフェアウェイは、まず左から右へ流れるスロープラインにあり、グリーンの手前は、右サイドからの強い傾斜が加わっています。将来的に、ティボックスの位置を今よりも池の後方となる右方向に移動するならば、このホールはホグスバックの威圧感を更に強く感じさせる名ホールになるでしょう。

 スクリーンショット 2018-12-24 10.55.49

National Golf Links of America #5 Hogsback

National Golf Links of America #5 Hogsback

川奈富士コース7番

川奈富士コース7番

 

 

Text by MASA NISHIJIMA

Photo credit by Larry Lambrecht, Ben Cowen Dower & Evan Schiller, Bailey Lauerman, Gary Lisbon, Masa Nishijima, Tom Doak,

参考資料 The Evangelist of Golf  by George Bahto, Scotland’s Gift by C.B.Macdonald.