※東京クラシックのライブラリー ジャックニクラウスルームの書籍を含めるとゴルフを中心に200もの専門書が置かれている。

世界中の歴史ある名門及び名コースを訪ねると、クラブハウスで最も落ち着ける部屋に多くの書籍が置かれたライブラリーがあります。
メンバーたちはたとえプレーせずともそこでグラス片手に雑談や読書に耽たりしています。まさにメンバーだけが得られる重厚なAtmosphereな空間です。
名門クラブのライブラリーは通常が2階の1室を活用し、そこはクラブにとって大事な資料室へと繋がっています。日本のクラブですとそれを管理するのは支配人をはじめとする事務方のお仕事になっておりますが、欧米ではクラブの中堅若手メンバーの中から見識を持った者が歴史の継承役を担当していることが多く、彼らはクラブの広報委員としてWebsiteの構成なども手伝っています。

※米国東部の名門Merion GCのライブラリーはステップフロアーとなっている。

ここで米国東部の名門のライブラリーを紹介しましょう。
2013年全米オープンも開催された名門メリオンGC(Merion GC)のラィブラリーは2階の談話室からステップフロアーで繋がっています。そこには壁両面に何百ものゴルフ書籍が置かれ、まさに図書館のゴルフコーナーかのような雰囲気です。ここでメンバーたちは本場スコットランドリンクスから伝えられた米国クラシックコースのルーツを学ぶことが出来ます。

そのライブラリーから更にステップを上がるとクラブハウスの屋根裏部屋につながり、そこは110年の歴史を誇るクラブの資料室となっています。
そこはメンバーとて支配人又は広報委員の許可がなければ立ち入ることは出来ません。
このような環境でゴルフへの見識を育まれたメンバーたちは、ホームコースのオリジナル、伝統をいかに守りながらどのように進化させていくべきかを考えます。メリオンは一昨年変わりゆく気候変動から、グリーンの床にクーリング、ヒーティングを完備したサブエアシステムを導入する事を決定しました。
そのリノベーションを東部のクラシックコースの修復改造をいくつも担当した実績を持つギル・ハンスに依頼しました。これは一部専門家たちの間では話題になったのですが、クラブ側は名匠ハンスの名をあえて表に出さず、我がクラブはあくまでグリーンの床を改良するだけとメディアに伝えたのです。
リオのオリムピックコースの設計、名門LAカントリーやウィングドフートのリノベーションでも名声を得たハンスの名はコマーシャリズムと捉え、あえてメディアの前では自らのコースは自らの責任のもと、その歴史を継承していることを強調されたのです。ここにコース見識を持ったクラブ委員たちの誇りが感じられます。実はメリオンだけでなく、米国東部の古き名門クラブはこのような例は多いのです。

※ Merionの現場風景。右側に見えるボックスがサブエアシステムのコントローラー機材。
注)コピー厳禁。

現存する欧州大陸最古ゴルフクラブ、PAU GC(ポーゴルフクラブ)

19世紀半ば、英国から欧州大陸へと伝えられたゴルフは、王侯貴族のためのレジャーが始まりでした。政略結婚から東欧までも血統の勢力を伸ばしていたハプスブルク家がチェコのプラハの丘に造った6ホールコースが最初と言われています。現在のゴルフクラブプラハはその跡地に1926年再建された9ホールコースです。プラハから数年後、フランスピレネー山脈の避暑地。ポーの街に1856年Pau GC(ポーゴルフクラブ)が誕生しました。現存する欧州大陸のゴルフクラブでは最古のクラブです。

クラブハウスはフランスではよく見かけるいくつかの住宅が連なるかのような荘園風建築で、その中の一つにクラブの歴史を伝えるライブラリーと歴史資料館が設けられています。ゴルフ文化が英国からフランスにどのように伝授されてきたかが学べるまさにGolf Atmosphereの空間です。
面白いのは貴族・華族たちの夏の避暑地として栄えたポーの歴史を散策するツアーにこのゴルフクラブの資料館が含まれていることです。
資料館長がゴルフを知らない者にもその歴史を愉しく伝えてくれます。

※Pau GCのライブラリー、階段を上がると歴史資料室となる。ゴルフを知らない方が興味を持つのは19世紀の絵画でその中にはゴルフされている光景を描いたものもあります。

※ ジョセフ・ロイドは英国リバプール郊外、ホイレイクの村で生まれ、ロイヤルリバプールでゴルフを学び、後にクラブ修理師となるが、1883年にポーゴルフクラブに派遣され、フランスで最初のプロゴルファーとなった。そして1897年彼は全米オープンの覇者となる。その時の受賞メダルと愛用していたクラブが今もフランス、ポーゴルフクラブの資料館に飾られている。

フランスでありながら英国人によって設立されたポーゴルフクラブの歴史。通常ならばクラブの名称はGolf de Pauとなるところだが、R&Aから承認された名門クラブとしての誇りを持ってPau Golf Clubと名称されています。

※Pau GC 創設者が飾られたクラブハウスの一室

 

世界のゴルフライブラリーの数々

フランスで最初のプロゴルファーとなった英国人ジョセフ・ロイドが育ったロイヤルリバプールGCの資料展示室は有名ですが、ライブラリーの一室が役員たちの会議室になっているのは意外に知られていない。しかしメンバーたちはこのライブラリーには自由に出入りでき、歴史的文献からゴルフを学ぶことができます。

ロイヤルリバプールは世界TOP100コースに入る名門ですが、コースよりもその伝統的ジェントルマンたちのクラブ史にゴルフ史家たちは憧れを抱きます。但し、ジャック・ニクラウスはプロゴルファーとして観点が違ったようです。彼がジ・オープンから引退を決意した時、彼はセントアンドリュースオールドコースを最後の花道にしたかった。当時R&A会長がニクラウスの為に2005年のジ・オープンの開催コースをリバプールからセントアンドリュースに入れ替えたのは有名な話です。

イタリア北部コモ湖を望む丘に戦前からの歴史を誇るゴルフクラブメナッジィオ&カデナビア(Golf Club Menaggio and Cadenabbia)、ゴルフコースはもとより、重厚な趣のラウンジの片隅にひっそりと設けられているライブラリーが有名なゴルフクラブです。クラブハウスはこの地方特有のビッラ風の建築様式で、中に入ればそこは貴族の館を思わすような雰囲気です。ライブラリーに置かれた書物はゴルフだけで480冊、その中には歴史的文献も数多く含まれています。
ここを訪れるゲストは必ずこのライブラリーの席に腰かけ、写真撮影されるそうです。

※ゴルフ史家たちにはたまらない文献、資料の数々、ゴルフをせずともライブラリーに1日中座っていた英国人ゲストもいたとか。

東京クラシックのライブラリーも捨てたものではない。

暖炉のラウンジとレストランが一体となった壮大な建築のクラブハウス。コースへ出向くドアの左端にライブラリーはあります。仕切りがない事からやや落ち着きには欠けますが、置いてある書物の多くはゴルフに関するもので、読み応えのある書物が揃っています。
棚から本を取り、ソファに腰かけるのは気恥ずかしいと感じられる方もいらっしゃるかもしれませんが、ライブラリーはアクセサリーではありませんので、将来的には格子か何かで仕切りを設けていただき、落ち着ける空間を演出してもらいたいと願う次第です。

※ 米国ゴルフ界の父と称えられたC.B.マクドナルドがカバーに描かれた初版が30年前の一冊。米国のゴルフ史を学べる貴重な文献

※名コースにPar3の駄作はないと言われる。Par3を知ることはPar4, Par5のあり方を学ぶその第一歩である。

 

※世界中に名コースが誕生した1920年代黄金期の作品を当時の写真とオリジナル図面で紹介している貴重な一冊。

 

※英米の名門のクラブハウスとはどんなものかちょっと学んでみよう。

 

※ Missing Links, Lost Links 世界で失われた名コースが紹介された一冊もある。

 

※ライブラリーのソファよりこちらの方が落ち着くかも。読書にはオススメです。

Text by Masa Nishijima
Photo Credit by Masa Nishijima, Pau GC, Royal Liverpool GC,
Golf Club Menaggio and Cadenabbia, Golf Magazine.