No.49 The Essence of a Golf Course Part 2
名門とは、ゴルフコースよりもメンバーたちが名士でなければならない。
メンバーたちがゴルフコースに深い見識を持つならば、常に正しい進化を遂げ、ゴルフクラブは永遠に輝き続ける。
MASA NISHIJIMA
新春のおよろこびを申し上げます。
本年度も昨年度同様に、GOLF Atmosphereをご愛読ください。
さて新春の第一弾は昨年末に引き続き、The Essence of Golf Courseパート2として、東京クラシッククラブバック9( IN )の解説に入ります。
Chapter 10 ランドスケープとエステティックス(Aesthetics)
#10 BARBARA’S LANE
384/330/314/271
インのスタートは、東京クラシックの最大の魅力である厩舎と一体となるパノラマの光景があり、左手の池の畔には、15番のティーボックス*(Tee Box)を眺める雄大なランドスケープが広がります。ティショットのIP(ランディングエリア)は、4本の杉の木とバンカー群の間になりますが、ここはその4本の杉の木のツリーライン(配列)をターゲットにフェードで攻めていくことが無難でしょう。東京クラシックにはこのような方向性を示すためのターゲットとなるツリーライン(Tree-Line)が数カ所見られます。グリーンは後方に流れるフォールアウェイグリーン*(Fall-away green)で、短いアプローチとは言え、ホールロケーションによっては様々な技術が要求されます。ティーインググランドから見たホールのイメージはやや狭さを感じさせても、その美しいランドスケープは、東京クラシックを象徴するその光景から、ニクラウス夫人のお名前を拝借して、「バーバラの小径」と致しました。
次にエステティックスについて説明しましょう。エステティックスという言葉は初めて聞いた方が多いかと思いますが、設計理論に合ったフェアウェイのラインなど、ゴルフコースの査定では大変重要な項目の一つでもあります。いわゆる「コース設計の美学」、集大成なる仕上げの部分です。
たとえばバンカーエッジ、つまりバンカーの入口にハザードの価値を持たせることができているかもエステティックスの一つです。日本のコースではバンカーの入口にラフが設定されていることが多々あります。しかし、それではバンカーに入りづらくしてしまい、ハザードとしてのバンカーの価値が半減してしまいます。せっかく戦略的な意図をもってデザインしても、その意図が充分に発揮されないことになってしまうわけです。コースを造るにあたって、いわゆるフェアウェイライン(専門的にはラフライン)、フェアウェイ両サイドのラインについては、バンカーなどのハザードを活かし、蛇行及び幅の変化を持たすかが重要なポイントです。このエステティックスの基本ラインは設計家が描いたレイアウト図に描かれていますが、作業はスーパーインテンデント(ヘッドグリーンキーパー)の仕事です。彼ら管理スタッフとメンバーたちが、コースに見識を持ち、エステティックスを構築していく事が名門コースへの第一歩となります。
*Scotland’s Gift
*ティーボックスとティーインググランドの違い。
全英オープンが行われた1860年代の頃、ホールアウトしたグリーンから次のティは、グリーン周りから1クラブレングス以内の箇所に、プレーヤー自らがティの場所を選択し、打てるルールでした。つまり当時のリンクスではティの場所は定められていなかったのです。現在この原始的ルールを採用しているクラブでは、コロラド州とネブラスカの州境にあるバリーニールゴルフ&ハントクラブ(Ballyneal Golf & Hunt Club)が有名です。後に、グリーンから僅かの場所をティーインググランドと定めるようになりました。あるがままの土地の上にティマーカーを置き、定められたレングス内で打ちます。したがってそこはティーインググランドと呼ばれたのです。
後に、ティーインググランドは、グランドレベルよりも高く、箱型の形状に造られて行きます。そしてティがHCによって、それの位置が変えられることから、ティーボックスと呼ばれるようになります。日本の大半のゴルフコースで、雛壇のようなティが並んでいますので、それらはティーボックスと呼ぶのが正しいでしょう。
東京クラシックの系列クラブ、北海道クラシックの数ホールには、グランドレベルの高さで定められた一つの場所に、全てのティマークが置かれているホールがありますが、それらはティーインググランドと呼ぶことができます。
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コース設計へのエッセンス④
フォールアウェイグリーンとは。
グリーン面の中央部から後方にダウンスロープしているグリーンをそう呼びます。グリーンが受け状で、手前から攻めることが、マストとされる例とは逆に、あえてプレールートを遡り、易しいアップスロープのパッティングラインで攻める攻略ルートなど、欧米の名コースでは当たり前のようにあります。飛距離が伸びた今日、フォールアウェイラインは、仮にグリーンセンターまでが500ヤードならば、プラス10~15ヤードのトータルレングスになり、戦略性においても大変重要なグリーンの形状となっています。
フェールアウェイグリーンは、英国などのオールドリンクス時代から存在していました。その代表的なものがノースベリックGC#15番、有名なレダンタイプ*と呼ばれるパー3です。レダンとはそのターゲットラインからグリーンがほぼ45度角で配置され、グリーンサイドバンカーガードの形状によっては、あたかもグリーン全体がこちらに向いているかのような錯覚を与えた、距離感に錯覚を与えます。リンクス時代は弾道の高い球を打つ用具も技術も無く、ランの計算を常に考えたプレーが余儀なくされた時代でした。パー3におけるこのレダンタイプは、トッププロとて難攻不落な存在であったのです。
戦後のモダンコース時代になると設計家達は、パー5やロングパー4において、グリーンを狙うアプローチショットに、長い距離が要求される時の縦長グリーンにこのフォールアウェイを活用するようになります。特にPGAトーナメントが開催されるコースにおいて、フォールアウェイ状のグリーンはそのショットの価値観を明確にするひとつのファクターともなりました。
パー5の場合は、2ndショットで攻めても、ひとつ落とし場所を間違えれば、ボールはグリーン後方の傾斜に沿って転がり落ちていきます。
フォールアウェイグリーンの基本とされる事項で忘れてはならない事があります。それはプレーゾーンからグリーン面が見えなくてはその意味が成さず、逆にアンフェアと解釈されるでしょう。フォールアウェイをある程度は意識させて打たせる、これがホールの印象度を深いものにします。
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Chapter 11 恐怖のカァズム
#11 Chasm
451/404/381/313
グリーンに向けて浅いアップヒルラインに打っていくこのホールは、東京クラシックで、トリッキーな一面を持ったタフなホールでしょう。フェアウェイ左サイドのバンカー群を超えるか、その手前に留めるかの選択するのがベストルートで、フェアウェイ右サイドはスペースに余裕があるとは言え、そこからグリーンは樹木群によって、セミブラインドか100%ブラインドになります。イマジネーションで2オンにトライされるも良いですが、手前の沢からの土手の裂け目(Chasm)はO.Bになりますので、クラブ選択に悩まれるでしょう。もっとも確実なルートは視界に見えるグリーン左手のコレクションエリアに向けて打ち、3オン+1パットの攻略でパーセーブするかです。いずれにしても将来的には、樹木の伐採などの改良が必要とされるホールでしょう。
*Scotland’s Gift
Chasm HoleからBiarritz Holeへの変化。
縦長で中央に深い溝(Swale)を持つビアリッツグリーン。そのオリジナルはウィリー・ダンがフランスの避寒地ビアリッツで設計したゴルフ・ド・ビアリッツ(Golf de Biarritz)の3番カァズムホール(Chasm Hole)でした。ダンはこのクリフ越えのロングパー3で、オールドコース18番グリーンの左手前にある罪の谷(Valley of Sin)を演出しました。グリーンにわずかでも届かないならばスロープで球は転がり落ちていく設計です。後にこのアイデアは、C.Bマクドナルドによって、米国に伝わり、その後、マクドナルドの設計パートナーであったセス・レイノーによって、罪の谷の部分もすべてグリーンになり、縦長のグリーンの中央に深い溝(Swale)を持つホールに変化していきました。このアイデアはNorth Berwickのダブルプラトーのグリーン形状をインスパイアしたとも言われています。
Chapter 12 パンチボウルとデルホール
#12 PUNCHBOWL
221/194/171/152
リンクスの砂丘と砂丘との窪地、又はその歪に配置されたグリーンは、それを囲む砂丘からのスロープラインの流れが、そのままグリーンのアンジュレーションとなり、四方のグリーンエッジはその中央部よりも高い位置にある為、擂鉢状のようなグリーン面を形成します。これをパンチボールグリーンと呼んでいます。またこれらのコンター(Contour=等高線)ラインは、グリーンサイドバンカーの中に吸い流れるかのように落ち、グリーンとバンカーの一体感の美観性をも生み出す効果があります。
では戦後のモダンコース時代において、このパンチボールグリーンがどれだけ普及したかと言うと、それはけして高いものではありませんでした。戦後の高速グリーンの開発で、パンチボールグリーンに見られる四方面の強い勾配も必要なくなったのも原因の一つでした。また日本などでは雨量が重なると周辺からの水の流れがすべてグリーン面へ注がれるという管理上の難点が指摘され、設計家たちはあえてパンチボールグリーンへの冒険は避けていたのです。しかしグリーンとバンカーの一体感を作り出すパンチボールグリーンはリンクスを愛する設計家達のロマンであり、モダンクラシック時代になって砂質の良い用地において、このパンチボールグリーンがブームとなりました。 パンチボウルの名称には、グリーン面がすり鉢状になるパンチボウルグリーンと、グリーンの周りを土手で囲み、グリーン面は縦の起伏が入り、サーフェイス(表面)の一部に歪みを持つパンチボウルホールとがあります。東京クラシックのパンチボウルはその後者の部類に近い造形でしょう。欧米の名門にはかならず登場してくるホールのひとつです。通常、グリーン面全体が見えないセミブラインドなホールが多いですが、これが土手に囲まれ、ほぼ100%ブラインドのホールになると、スコットランドではデルホール(Dell 渓谷の間)と呼びます。パー3ホールは、ティからグリーン全体の景観が見渡せる事から、コースのメモラビリティ(印象度)を高める意味でも大変重要な役割を果たします。それだけに攻略法、距離、グリーンの形状など異なったキャラクターが求められます。
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コース設計のエッセンス⑤
パー3のトータルヤーデージ
用具の進化から飛距離が伸びる昨今、パー3のヤーデージを伸ばすコースも多くなりました。それらはダウンヒルやアップヒルなど地形の条件によって様々ですが、PGAツアー開催コースはもちろん、メジャー大会でもその傾向にあるようです。日本でもタフに設定したいが為に、4つのパー3のうち、3ホールは200ヤード前後又はそれを超えるようなコースも登場しています。しかしこれらの傾向は1ショットホールというパー3の本質を正しく捉えているとは言い難いものです。ゴルフコースを評価する場合、バー3, 4, 5それぞれのコレクション査定という項目があります。例えばコレクションパー3ならば、パー3ホールすべての評価をアベレージで表すものです。仮にパー3が4ホールあるならば、そのトータルヤーデージに注目してみると良いでしょう。下記の表をご覧ください。米国の名コースにあるトーナメント時のホールヤーデージとそのトータルです。マスターズ時のオーガスタナショナルは、240, 180, 155, 170でトータル745ヤードで、パー3でもショート、ミドル、ロングを設定した見事なヤーデージバランスを整えています。ペブルビーチ、TPCソーグラスも同様でしょう。ペブルビーチの7番は僅か106ヤードの距離でありながら風の計算をひとつ間違えればボギー覚悟のホールです。TPCソーグラスの17番アイランドグリーンも137ヤードの距離ながら大会中に何人のプレーヤーが池にボールを打ち込んだことでしょうか。当然これらのパー3は印象度が高いものになるでしょう。オークモントでの全米オープンでは8番パー3が288ヤードの距離で話題を呼びました。パー3のトータルヤーデージはなんと896ヤードでした。しかしながら一般のバックティからは757ヤードであり、オープン時との差は140ヤードです。これらを考えてみるとパー3のトータルヤーデージは700前後、長くとも750前後が1ショットホールとして最もプレーヤービリティ高い、距離にもバライティを持たせられる設計にあると理解できるはずです。
4ホールの合計 バックティ-トーナメント時 ( ) ホール番号 トータルヤーデージ
オーガスタナショナル
170-240(4), 165-180(6),145-155(12), 145-170(16) =625-745
ペブルビーチ
142-192(5), 98-106(7),187- 201(12), 170-177(17) =597-676
シネコックヒルズ
193-221(2), 173-184(7), 150-158(11), 149-169(17) =665-732
オークモント
168-194(6), 225-288(8), 153-183(13), 211-231(16)=757-896
TPCソーグラス
160-177(3), 193-237(8), 156-181(13),128-137(17)=637-732
パインヴァレー
181-198(3), 219-235(5), 142-161(10), 187-220(14) =729-814
注 1ショットホールとは一打でグリーンを狙えるホールのこと。
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Chapter 13 ケープとレダンの法則
#13 CAPE
358/306/262/229
ニクラウスが悩み抜いて、幾度も設計変更を繰り返したホール。その結果、東京クラシックで、最もクラシック設計の哲学に満ちたホールとなりました。ティショットの攻略ルートと、グリーン周りのハザードセッティングは、クラシック設計のケープホール(Cape Hole)の理論にあり、更にアプローチから見るグリーンの形状は、フェアウェイセンターから45度角に配置され、グリーン後部がフォールアウェイしていくレダンホール(Redan)の要素を兼ね備えています。つまり、皆様たちはこの13番で、クラッシック設計の定義であるケープホールとレダンホールの両方を同時に楽しむことができるわけです。もしトーナメントでフォワードティを使うならば、当然リスクと報酬を兼ねたドライバブルパー4のホールに変貌します。しかし仮にティショットがグリーンを捉えても、スピン量が足りなければ、打球はレダングリーンの形状によって、後方のラフ、又はバンカーへと転がり落ちていくでしょう。ホール全体のスケールは小さいかも知れませんが、ニクラウスが日本で描いたベストホールのひとつになるでしょう。
*Scotland Gift
クラシックケープの戦略的法則
ティからフェアウェイを斜め対角線(ダイアゴナル=Diagonal)に捉えるホールレイアウトから、砲台状にやや高くされたグリーン周りの三方をハザードで囲むのが、クラシックなケープホールの理論で、この発案者であるC.Bマクドナルドは、ニューヨークの名門ナショナルゴルフリンクスオブアメリカの14番ホールで、開設当時、1オン可能なドライバブルパー4に設計しました。しかしこれは2番のサハラホールが、ドライバブルホールとして全く同じ攻略理論だった事から、ティを移動し、1オンを不可能にした2ショットホールに変更しました。
Chapter 14 ショートホールの意味
#14 SHORT
171/153/136/113
クラシック設計の定義の中に、ショートホール(SHORT)の理論があります。日本では一般にショートホールと言えば、すべてのパー3を指す用語として使われていますが、同じパー3にも、距離の長いホール、短いホールがあるわけで、正しく伝えるならば、ロングパー3, ショートパー3などと言います。このショートの理論は、距離は短く(最大でも150〜160ヤード辺りまで)、グリーンの周りはバンカーなどのハザードで囲まれている。又、グリーンを捉えても、場所によっては3パットの危険もある。確実なアプローチショットとパッティングの技を披露させる舞台。これがショートホールの理論となります。戦後のモダン時代になるとショートホールの理論は、距離が短い分、グリーンは小さくし、ショットバリューを高める理論が生まれました。その極めつけがTPCソウグラスの17番アイランドグリーンでしょう。
450平米足らずの小さなグリーンの周りはウォーターハザードで、オール・オア・ナッシング(all or nothing)を演出した設計は、トーナメントで大観衆から喝采とため息を誘う舞台となりました。
Chapter 15 ロングホールの真意
#15 TREE LINE
537/510/487/402
ツリーライン(Tree Line)とは、攻略ルートの中において、並列する樹木がショットの方向性を指示することを言います。この15番は左サイドの池が視界に強く入ってきます。更に右手のバンカー群の存在は、フェアウェイを実際よりも狭く感じさせるでしょう。しかしこのホールではそのツリーラインが、ゴルファー達の強い味方となって、打つべき方向を指示しています。まず池に沿って左サイドに並列する樹木が視界に入りますが、この配列に沿ってフェードを打つと、セカンドショットを打つ上で、ベストなランディングエリアを得ることができます。次に前方右手の樹木の右側をターゲットに打つと、グリーンを正面に捉えられるアプローチエリアを確保できます。ティーからグリーンまでプレールートは狭いストレートに見えても、ハザードによってフェアウェイを広く蛇行させ、正しいターゲットラインを定め、3ショットホールを完成させたホールを、パー5におけるネローズホール(Narrows Hole)と呼んでいます。
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コース設計のエッセンス⑥
ツリーラインとは。
最近トーナメントの実況解説でツリーラインという言葉を耳にされるかと思います。単純に訳せば樹木のライン(列)となりますが、しかしツリーラインとは攻略ルートに対してそれが深く関わるケースに使います。それらの多くはドッグレッグ及び扇状にカーブを描くホールに存在します。日本にも多く見られるストレートにレイアウトされたホールで、左右に樹木が配列する例は、攻略ルートに関わりを持たないことからツリーラインとは呼びません。オリムピッククラブオーシャンコースで開催された全米オープンを思い出して下さい。16番ホールはオープン史上最長距離のパー5と謳われた扇状のホールです。このホールのベストな攻略ルートは左にカーブを描く樹木の配列に沿うかのようにティショットを打ち、2打目には向かい側に並ぶツリーライン付近をターゲットに打つと3打目でグリーンが捉えやすくなります。しかしツリーラインはひとつ間違えるとレイアップが必要なペナルにもなります。ライダーカップが開催されたメダイナ#3コースでは改造されたドッグレッグの16番ホールのツリーラインは話題を提供しました。この500ヤード近いロングパー4では、2打目が登り斜面になることから、ティショットでは左ドッグレッグポイントに配列されるツリーラインをターゲットに距離を稼ぐのがベストルートです。仮にそれを避けてセンターから右に打てば2打目に距離が残ります。全米プロが行われたキアワオーシャンの3番ホールで、マキロイが打ったビッグドライブはグリーン手前フェアウェイセンターにある木に乗ってしまいアンプレアブル宣言をした後、見事にパーセーブをしたことは記憶に新しいところです。しかしこのようなフェアウェイのプレールート上に存在する樹木は、例え数本が配列されていてもツリーラインとは呼びません。あくまで空間上の攻略ルートを阻むハザードであり、けして高い評価には至りません
樹木のツリーラインもエステティックスのひとつである。攻略のターゲットとなるツリーラインのある側に、フェアウェイは寄らなければならない。
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Chapter 16. 小説のタイトルが村の名称に。
#16 WESTWARD HO !
478/431/369/339
イングランド南西部、ディボン州の名門ロイヤル・ノース・ディボンGC(Royal North Devon GC)のある村は、1855年出版された歴史海洋小説「Westward Ho ! 西へ向え!」の舞台となったことから、そのタイトル、ウェストワードホー!を村の名にし、村興しをしたことで知られています。従って、ロイヤル・リバプール(ホイレークGC)、ロイヤル・セント・ジョージス(サンドウィッチGC)など、ロイヤルの称号が与えられる前は、その地名がゴルフクラブの名称でした。従って、ロイヤル・ノース・デボンもウェストワードホー!と呼んでいます。又、最後に感嘆符! が付く町や村は世界でも珍しいでしょう。東京クラシックの16番ロングのパー4は、真西に向かっていくストレートホールです。バンカーの右、張り出したツリーラインにドローで攻めていくと、グリーンを縦に捉えられるベストな攻略ルートとなります。
東京クラシックの16番は西に向かい、17番は逆に東に向かいます。そしてこの二つのホールのグリーンは、バッグ9を飾るに相応しい内容にあります。
16番グリーンは、センター手前に2%の勾配度を超えるスウェール(溝)がグリーンフロント手前のスロープに流れていることから、一見、二段グリーンかのようにも見えますが、浅い*ダブルプラトーグリーン(Double Plateau Green)の形状になっています。グリーンの左右両端に立つと、センターのスウェールは我々に錯覚を与えます。例えば右サイドに立つと、二段グリーンかのように見えますが、左サイドに立つと、スウェールにより、実際はふたこぶラクダのような形状にあることがわかります。この16番のグリーンは、4番グリーンと同様に、東京クラシックで最も高い評価を得るでしょう。その共通点は、横長のダブルプラトー状(Double Plateau*)のグリーンの形状にあります。
*Scotland’s Gift
ダブルプラトーグリーン(Double Plateau Green)
英国リンクスで砂丘の高いに位置、またはプレーゾーンから同じレベルで、アップヒルなルート上に置かれたグリーンの中に、表面の中心部から左右又は前後大きく二つに分かれるような砲台状のグリーンを、米国ではダブルプラトーグリーンと呼んでいます。
これは米国コース設計界の父C.B.マクドナルドが名称したもので、彼は自身の作品であるナショナルリンクス11番、シカゴゴルフクラブ6番、フィッシャーアイランドの18番にこのダブルプラトーを造成しています。ご記憶にある中では、全英が開催されたロイヤル・セント・ジョージスの瓢箪型の8番グリーンが、グランドレベルに配置されていながらも、ややこのダブルプラトーに近い形状です。ロングパー4又は2打目地点からドックレッグになるホールに、マクドナルドはよくこれを活用しました。
ロイヤル・セント・ジョージスの8番は右にややドックレッグしているホールですが、ティショットをセンターやや左手に打つとグリーンは瓢箪型の縦長グリーンに捕えられますが、右サイドに打った場合、グリーンをやや横から捕らえる為、縦長は活用できず、中央に歪がある事から、攻略として二つの小さなグリーンを想定しなくてはなりません。全英で最もタフなホールで二人に一人がボギー以上のスコアでした。
ダブルプラトーは英国では、けして特別なものではなく、ごくあたり前に見られるものですが、砂丘同士の歪によって擂鉢状に形状されるパンチボールグリーンが、砂丘の上部を活用して二つのマウンドによって造られていると解釈されても宜しいかと思います。グリーンの中央部はフラットに近いレベルとなり、左右又は前後が砲台状に高く設定されています。マクドナルドはまたグリーンの左右に砲台を設定した場合、その前後のどちらかに小さなマウンドを設けたりもしました。これはアプローチの距離によってそのマウンドを前後にするか定めていました。短いものはグリーンフロント、長いものは後方部にそれを形状したのです。彼はグリーンが、砲台状に盛り上がる周辺(エプロンやエッジではない)から全体を計り、約1200平米位の大きさが最もこのダブルプラトーを楽しめると判断していました。二つの砲台部分の上と、中央の低い場所にもそれぞれピンが切れなくてはならないからです。また中央にピンを切らない、まったく二つの砲台を繋げるだけの意味しかないグリーンでは、フロントの勾配を強め、手前に深いバンカーを配置したりしました。砲台部分に行かずにセンター手前に落ちたボールは、その勾配でバンカーに流れ落ちるグリーン上でのぺナルです。
80年代、日米のコース評論では、1000平米を越えるような大きさのグリーンはショットバリューを無くすとよく言われました。たしかに表面がフラットで、ただ大きいだけのグリーンでは問題でしょう。しかし形状によっては、必ずしもそうとは言い切れない事が、リンクスから得たこのダブルプラトーのアイデアからもご理解戴けるかと存じます。
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コース設計のエッセンス⑦
ダブルパンチボウルグリーン
ダブルパンチボウルグリーンとは、ダブルプラトーグリーンの凹凸部分がまったく逆になったもので、グリーン周辺四方から流れる自然のコンターにより、パンチボウル状の歪んだ表面が二つ出来た形状のグリーンで、オーガスタの設計者アリスター・マッケンジーの造成パートナーで、マッケンジー亡き後、彼の設計コンセプトを受け継いだペリー・マクスウェルが発案したものでした。マクスウェルはオーガスタのグリーンの改修で、四方の地形ラインからグリーン面に流れるオリジナルのコンターに加え、更に強い人工的アンジュレーションのラインをグリーン中央部に設けました。するとグリーン面の前後又は左右二箇所に溝が形成され、これが後にマクスウェルズロールと名称される複雑なグリーンのアンジュレーションを形成したのです。「まるでパンチボウルグリーンが二つ重なったかのようだ。」と創設者のひとり球聖ボビー・ジョーンズが述べた事から、ダブルパンチボウルグリーンの名称が生まれました。
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Chapter 17 英米のゴルフ紳士協定
#17 EASTWARD HO !
444/405/358/316
17番ホールは、16番を折り返すように真東に向っていきます。米国ボストン近郊のケープコッドは、北アメリカで最初にヨーロッパ人が入った歴史ある岬のひとつであり、その半島の先端に1920年に設立されたChatham CCは、アウトのホールが、真東に向く岬の先端にレイアウトされている事から、英国の名門ウェストワードホー(ロイヤル・ノース・デボンGC=Royal North Devon GC)に対等し、イーストワードホーゴルフリンクス(Eastward Ho! GL)の名で親しまれてきた。現在はそのイーストワードホーがカントリークラブの正式な名称となっている。海を渡り米国の大地に辿り着いた先人たちの歴史に因んだ英米の名門クラブの紳士協定なのでしょうか。さて東京クラシックの#17番イーストワードホー!は、林間コースの特徴を活かしたゴージャスさと静けさが感じられるホールでしょう。又、フェアウェイ幅もインでは最も広いホールとなります。左右をバンカーでガードされた縦長のグリーンは、中央部を横に流れる起伏(コンターライン)によって、グリーン前部のスロープは左手前に、後部は逆に右に流れる複雑なアンジュレーションを形成しています。このようなグリーンの形状を英国女王の戴冠式に使われる王冠の型に似ていることから、クラウンドグリーン(英クラウネッド=Crowned Green)と呼んでいます
*Scotland’s Gift
Crowned Green
17番グリーンは、18ホールの中で最も大きなサイズでしょう。グリーンセンターからの緩やかなスロープはフロント左手前のハロー(窪み)部分に流れていき、センターから左右奥への複雑なスロープは、右奥へ急激に落ちていく、フォールアウェイの形状になっています。センター付近がさらに盛り上がった形状になると、ピンを切れる箇所は極端に少なくなりますが、ロイヤル・ドーノッホ(Royal Dornoch)の14番グリーンをオリジナルとし、ドナルド・ロスが丹精込めて作り上げたパインハーストNo.2コース(Pinehurst#2コース)の12, 14番に代表されるクラウンドグリーン(クラウネッドグリーン=Crowned Green *戴冠式にかぶる王冠に似たグリーンの形状)のクラシックな形状に近いものになっています。トッププロたちを悩ませるグリーンとして、トーナメントでは最高の舞台を演出するでしょう。
ニクラウスは、東京クラシックがプライベートクラブであることから、クラウンドグリーンのタフさを抑えているように見えますが、ホールロケーションを縦のラインで計った時、手前から攻める基本パターンと後方から攻める逆パターンの二つの攻略法を伝えています。最後のカップインまでEastward Ho!で攻めるか、それとも西日に向かってWestward Ho!を選択するか、大人のゴルファー達を愉しませるユニークなグリーンです。
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コース設計のエッセンス⑧
グリーンのサイズと形状
戦後、重機が活用され、コースが造られていくモダンコース時代において、その先駆者ロバート・トレント・ジョーンズ・シニア(R.T.Jones Sr 1906-2000)は、グリーンのサイズはそのアプローチの距離によって異なることが、ショットバリュー(ショットの価値)を生む設計の定義しました。
1.距離の短い場合、グリーンは小さく、ピンデッドに価値を持します。
2.中間の距離にある場合、ショットに対し、ピンへの方向性を重視します。
- ロングな距離にある場合、方向性よりも距離出すことを重視し、ウッド又はロングアイアンでスピンがかけられないことからグリーンは縦長に設定されました。
これらはパー3における距離への定義として、パー4やパー5のホールにおいても、アプローチの距離によって活用されるようになります。しかし、理論はグリーン面が整地、アプローチエリアが整地された条件の中から計られた理論であり、ペブルルビーチの小さなグリーンを例に、すべてのグリーンが小さければ、アプローチへのショットバリューは高くなるという極端な解釈も生まれました。しかしグリーン面へのショットバリューというのはサイズではなく、グリーンの形状、コンター&アンジュレーションによって、ショットの価値は大きく変化します。そこに戦前のクラシックコース理論への回帰が唱えられました。
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Chapter 18 英国紳士たちの家路
#18 HOME
582/553/530/446
欧米の名門の大半が、18番ホールの名称をホーム(Home)としています。しかしこのホームは、家族のいるご自宅を指すのではなく、あくまで仲間が集うクラブハウスに帰ることを意味します。最終の18番がパー5であることは、トーナメントで、イーグルによる大逆転を演じる舞台ともなるでしょう。しかし東京クラシックの最終18番は、攻略ルートをひとつでも誤れば、ボギーの結果を招く、リスクと報酬のホールとなりますもしロングヒッターが、2オン狙いで攻めるならば、グリーン中央の起伏が、グリーン全体を前後分割するかのようなスロープで形成していることから、もしピンが左に切られた時は、トッププロであっても、池のリスクを覚悟しなければなりません。
Scotland’s Gift
クラブハウスとゴルフコースの関係
産業革命によって英国全土に広がった鉄道網は、ゴルフ普及の歴史においても多大な貢献を果たしました。鉄道の発達によって、ゴルファー達は気ままに各地を訪問し、それは俱楽部対抗の歴史へと繋がっていきます。そして「我が街のリンクスランドにもゴルフコースを造ろうではないか!」そんなゴルファーたちのこの熱い思いが、リンクスランドにいくつもの芸術作品を誕生させていくことになります。今でもリンクスコースのすぐ側に鉄道駅があるのは、それも理由のひとつです。あのセント・アンドリューズも、かつてはオールドコースの脇を鉄道が走り、駅舎と倉庫が現在のオールドコースホテルの場所にあったのです。ゴルフコースの所有権利はその地方の協議会が持つ例が通常でした。つまり紳士協定の俱楽部ソサイティでがあろうとも、コースはパブリック、俱楽部はプライベートとなる。又、コースは特定の俱楽部が所有、管理するものと認められるならば、俱楽部もコースもプライベートになりました。しかしコースをプライベートにプレーする権利を与えられただけで、誰もがそのリンクスランドに立ち入る権利を持っていました。現在もどの名門コースであれ、コース内にパブリックフットパス(公共の遊歩道)が設けられているのはそれが理由です。
エジンバラから東へ車で小一時間ほどのリンクスランドに、ノースベーリックGCウェストコースがあります。このリンクスコースは、オールドコース同様、後に誕生するクラシックコース設計の定義に多大なる影響を与えたホールがいくつも存在しています。15番パー3のレダンホールはその代表でしょう。ノースベーリックGCは1832年に貴族階級のゴルファーたちによって俱楽部が設立されました。しかし街の経済を担う商人たちは、1853年に自分たちもここでゴルフを楽しむ権利を主張し、タンタヨンGC(Tantallon)を設立し、市の協議会にプレーの権利を求めます。更に1873年には教職者、行商人などの一般人たちもがプレーの権利を主張し、バスロックGC(Bass Rock)を設立、市はそれぞれに権利を認めました。そしてこのリンクスがあるイーストロジアン県の協議会は、それぞれの俱楽部のグリーン委員会にコースを維持、管理するよう指示します。すると今度は奥様方が立ち上がり、自分たちにもゴルフを楽しむ権利を与えるよう訴えを起こし、1888年にはレディーズクラブを、現在のマクドナルドマリーンホテルの一室に設けました。レディースソサイティは、現在、ノースベーリックGCに属しています。ひとつのリンクスコースを3つの俱楽部ソサイティが共有する一例です。ゴルフ史において、ゴルフコース以上に、その俱楽部ソサイティの存在がより価値があり、重要であることが理解できるでしょう。そこはゴルフ好きな男たちが集う集会所であり、酒を分かち合う、そして、彼らはここをいかなる身分であれど、ジェントルマンの場として、ジャケット、タイで入館を義務付けていたのです。昔のゴルフ風景画や写真に、ジャケット、タイでゴルフをしている人々が描かれていますが、この風習はなんと戦前まで続きます。つまりここに、ゴルフは紳士のスポーツと言われる由縁があるのです
Text by MASA NISHIJIMA
Photo credit by Larry Lambrecht, Ben Cowen Dower & Evan Schiller, Bailey Lauerman, Gary Lisbon, Masa Nishijima, Tom Doak,
参考資料 The Evangelist of Golf by George Bahto, Scotland’s Gift by C.B.Macdonald. The Course Beautiful by A.W.Tillinghast