No.37 東京クラシッククラブに望むべきこと。
関東の名門に向けてスタートした東京クラシッククラブが、今後どのようにして世界からも注目をされるカントリークラブに成長していくか、それにはまだ幾つもの課題が残されています。ゴルフコースだけを捉えるならば、グランドオープンから1年が過ぎても、このコースはまだ完成の域に達していないことです。
東京クラシッククラブの最大の特徴は前項でも述べたように、厩舎との併合です。10番ティに立てば、右に厩舎が見え、馬たちの姿も見える。乗馬のトレイルがコースを外周している点なども含め、それを強調する必要があるはずです。その一つが牧場でよく見かける木柵を活用したランドスケープの構成です。
昔からゴルフコースには木柵が景観性のポイントとして重要視されてきました。しかしながら日本のゴルフ場では意外にもここに注意点が置かれず、何故かその発想が生まれてきませんでした。又、山岳地にリンクスまがいのコースを造るなど、日本人はその土地の特徴を活かしたランドスケープに対し、向いている方向が欧米人とはやや違うようにも感じます。
バンカーエッジの造形は、ニクラウスの作品では初めて拝見するほど、エッジの幅が短く、幾つかのバンカーにおいて、砂の流出は懸念材料の一つになるでしょう。この改善にはかなりの時間を要するかと思いますが、今後の課題の一つです。
3番、11番の沢に存在する樹木は、環境アセスの問題もあり、多くの伐採は望めませんが、プレーラインにかかり、グリーンをブラインドにするその存在は、厄介なものです。もしこれらが伐採され、地形に相応しいランドスケープが構築できるならば、東京クラシックはもっと高い評価を受けれるはずです。
東京クラシックにおけるニクラウスの主眼。
80年代、設計家としても全盛を迎えたニクラウスは、当時流行だったトーナメントコース、パブリック&リゾートコース、そしてプライベートコースへの設計コンセプトを区別する設計家の一人でした。例えば、彼の大作であるミュアフィールドビレッジは、住宅販売を目的としたプライベートクラブではありますが、コースはPGAツアー開催(現在のメモリアルトーナメント)をテーマに設計されています。
カリフォルニアのPGA Westにはニクラウスのリゾートコースとプライベートコースがありますが、その設計手法の違いは、プライベートコースではランドスケープのゴージャスさを強調し、リゾートコースでは、どのレベルのゲストゴルファーもフェアに満足できるプレーヤービリティをテーマにした設計をコンセプトに置きながら、PGAツアー用には、難度を上げるティボックスの配置を考案しました。
リゾートコースにおけるニクラウスチームの発想の極め付けは、メキシコ、ロスカボスのコーストラインに造成したQuivia GCでしょう。広大な用地をフルに活用し、ゲスト客にはコーストラインの岸壁でのショットを少しでも多く楽しませようと、何とグリーンからネクストティまで、乗用カートで何百メートルも走らすなど、プロのトーナメントコースではありえないコーストラインの景観を重視した18ホールのレイアウトをひいています。
しかし専門家たちからは、このコースは決して高い評価にありません。その原因はグリーンからネクストティまでの長い距離にあるようです。つまり18ホールのルーティングが、ゴルフコースで最も大事な要素であるウォールカビリティ(Walkability)、どれだけ歩行可能なレイアウトとルーティングの匠さにあるかです。残念ながらQuiviraは、この分野では評価外の0点に近いものになります。
ちなみに地形の高低差が55mもあるオーガスタナショナルや川奈富士コースは、ゴルフの聖地セントアンドリュース・オールドコースと共に、ウォーカビリティの項目でも満点に近い評価を得ています。それは歩行プレーしなければ、コースの良さ、格式、戦略性を理解できないことを意味しています。
東京クラシックにおけるウォーカビリティの採点は、バブル期以降に完成されたコースではダントツに高く、それは戦前に誕生した名門のウォーカビリティの高さと肩を並べる程です。
日本のメディアではなく、世界のメディアに注目されるその重要性。
東京クラシックは、英国発信のTOP100 Golf Course of the Worldにおいて、今年度日本で12位、アジアでは31位にランクされました。同系の北海道クラシックは44位ですから、なかなかの高評価です。
しかし世界のトップレベルと正しく評価されるには、まずはアジアでTOP10~12位に入る必要があるでしょう。ランクを20程上げなければなりません。それには何が必要か、メンバー一人一人がアジア、世界のトップコースを訪問し、そして比較していく中で、何が東京クラシックに可能であるか、必要であるかを考えていくことが大事ではないでしょうか。
Text by Masa Nishijima
Photo by Masa Nishijima, Brian Morgan, Joann Dost, ㈲MOVE.