連載 GOLF Atmosphere No.130 / 新春特集号
新年明けましておめでとうございます。本年度も連載「GOLF Atmosphere」を通して、ゴルフコース及び世界のゴルフ情報をお伝えしていきますので、宜しくお願い申し上げます。メンバーの皆様がゴルフコースについて更なる見識を深め、ゴルフ文化論に精通していく上でお役に立てれば幸いでございます。
さて新春号の第一弾としては、オーガスタナショナルGCが造成中に計画された幻の19番PAR3ホールの話から始めたく思います。昨年Golf Club AtlasやFried Eggコース研究家グループによって更に深く検証されました。
そして今、コース研究家達はそれを「Hole Zero」0番ホールと呼んでいます。


歴史に秘められた19番PAR3
オーガスタ・ナショナルゴルフクラブの創設者であるボビー・ジョーンズとクリフォード・ロバーツは、コース設計者アリスター・マッケンジーは9番と18番グリーンの奥に19番ホールのグリーンを造ることを提案しました。マッケンジーの図面によるとそれは90ヤードのショートのPAR3で、ティボックスはこの二つのグリーンの手前、18番グリーンのすぐ左側になります。メンバー達が賭けゴルフをした時、負けの分を帳消しに出来るチャンスを与えるが、もし負けかイーブンならば、ダブルを払う「*ダブル又はクイーツ(Double or Quits)」日本でよく言うプッシュのチャンスを与えるプレーオフホールでした。
*AIからの解説
“Double or quits”(または “double or nothing”)は、賭けやゲームにおいて、負けを帳消しにするか、借金を倍にするかの二者択一を迫る、「倍か、やめるか」という意味の表現です。主にイギリス英語で使われ、前回の賭けに負けた際に、その損失を取り戻す最後のチャンスとして提示されます。
それが以下の水彩画のレンダリング図に描かれています。
図のホール番号は現在のものと同じように書き直されていますが、開設当時はアウトとインは逆で、現在の1番は10番、10番が1番のスタートホールでした。従って今の9番グリーンが当時の18番グリーンでした。
この19番ホールの存在は2005年に出版されたByrdy Stan氏による著「The Augusta National Golf Club Alister Mackenzie’s Masterpiece」の中で紹介されている1931年当時のスケッチにも描かれていましたが、ボビー・ジョーンズ・インビテーショナル(後にマスターズ)が開催予定され、その時のギャラリーの観戦箇所が無くなるなどを理由に造成には至らず、幻のプレーオフホールとなりました。しかしここで歴史上、大変重要な事があります。以前、GOLF Atmosphereでもご紹介したボビー・ジョーンズとクリフォード・ロバーツが描いた壮大なオーガスタナショナル計画が、当時ウォール街を襲った大恐慌の流れから募集したメンバーもその数に至らず、オーガスタ・ナショナルGC自体が破産状態にあったことです。オーガスタ・ナショナルは、今日私たちが考えるほど常に繁栄しているクラブではありませんでした。
1934年からのボビー・ジョーンズ・インビテーショナルも再生への望みをかけて開催されたとの噂もあります。もしそうであったならば、大恐慌なくしてマスターズ大会は開催されず、オーガスタナショナルGCは東部の富裕層だけが集い、愉しむプライベートクラブだけの存在であったのかも知れません。


しかしこのアリスター・マッケンジーに描かせた19番ホールの図面は、最初のインビテーショナル開催時には別の目的として活用される事となります。グリーンは試合前のパッティング練習グリーンに。ティボックスの箇所全体は図の中央にも記載されている「PRACTICE GROUND」の方向に向きを換えて活用される事になります。つまりオーガスタナショナル最初の練習場のティイングエリアとなったわけです。そのスタート前のウォームアップエリアは、後にマスターズが注目を集める頃には、早朝にトッププロたちのゴルフクリニックとドライビングコンテストの舞台としても機能するようになります。この企画はパトロンの子供達やクラブから招待された要人たちも参加できるイベントとして長く人気を誇って参ります。その光景が以下の写真です。その後、本格的ドライビングレンジは正面入り口のマグノリアレーン脇の用地に造られます。


マッケンジーの19番グリーン、それは一体どのようなグリーンだったのか。


アリスター・マッケンジー研究家たちの検証では、1932年、アメリカン・ゴルファー ニューヨークの中で、理想的な内陸のゴルフコース計画として、ボビー・ジョーンズとのオーガスタナショナルについて語り、その中で不可欠なビジョンとして19番ホールの存在について語っています。
マッケンジー自身、それまで見てきた数多くのゴルフコースの中で、19番ホールを持つクラブは、ニューヨークのノールウッド(Kollwood)とデトロイトのタム・オ・シャンタークラブ(Tam-O-Shanter Club)の2つしか知らなかったと述べています。
90ヤード程度のホールにしか出来なかったわけではなく、ティを下げれば距離は伸ばせが、マッケンジーはロサンゼルスのレイクサイド(Lakeside)の6番をモデルに、距離ではなく、グリーン面だけでリスクと報酬が演出出来る戦略的ホールを生み出そうと考えていました。
「この19番ホールは魅力的なプラトーグリーン(Plateau or Elevated)で、右側の端は狭く、通常はそこにピンが切られますが、もう一方の左端は広く、それはピンデッドにグリーンの狭い右端を狙い打つ勇気やスキルを持たないプレーヤーに安全なルートを提供します。」とその内容をボビー・ジョーズへの手紙の中で詳しく説明しています。
つまりマッケンジーは、ハイステークスプレイのための狭くてトリッキーなホールロケーションを特徴とする設計図を描いていたわけです。
アリスター・マッケンジーがオーガスタの大地を訪れる前、アルゼンチンのジョッキーズクラブのプロジェクトを訪問した際、そこで知り合ったアンチョレーナ男爵のために描き上げたエル・ボケロンのダブルグリーンのPAR3コースのスケッチのお話はGOLF Atmosphere No.119でもご紹介しました。
このダブルグリーンのPAR3コースはオーガスタナショナルでも計画に入れるようにマッケンジーはクリフォード・ロバーツに伝え、図面をプレゼントします。しかしそれも当時の財政難から造られることはありませんでした。
この19番「Double or Quits」のプレーオフホールも含め、マッケンジーの設計家としてのスピリッツは、1958年にクリフォード・ロバーツと設計家ジョージ・コップ(George Cobb)によって造成された9つのPAR3ホールに繋がり、それらはマスターズウィーク水曜日のパー3コンテストのファミリーイベントとしても大会前日を盛り上げています。

*マッケンジーがクリフォード・ロバーツにプレゼントしたダブルグリーンのPAR3コースのスケッチ図面
オーガスタナショナルGCの地形の高低差を表した断面図
マスターズ大会を観戦に行かれた方がまず驚かれるのはオーガスタナショナルのそのヒーリーな地形です。
最近はドローンからの映像も映し出され、視聴者の方にもその独特な地形の高低差がご理解されるようになりましたが、GOLF.comでは18ホールの高低差の流れを下記の図で表しています。こちらもTV観戦の際の参考資料としてお役立て下さい。
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Text by Masa Nishijima
Photo & Sketch & Diagram credit by “The Augusta National GC Alister Mackenzie’s Masterpiece”, The Masters, GOLF.com, Alister Mackenzie Institute, Fried Egg Golf.