連載 GOLF Atmosphere No.117 / ゴルフコースランキング、時代ごとの変化。Part 2
80年代、リンクス回帰論から生まれたスコティッシュアメリカンコース
米国ゴルフ界の父C.B.マクドナルド(C.B.Macdonald)と彼の設計パートナーだったセス・レイノー(Seth Raynor)が築いたクラシックコース設計の定義を現代のゴルフのレングスに合わせ、見事に蘇らせたピート・ダイ(Pete Dye)の登場からリンクス回帰論が話題を呼びます。しかしそれらはダイのクラシック回帰の思考とはやや異なるものでした。バンカーの壁に枕木を使用、ラフには幾つもの奇妙なマウンドが並び、フェアウェイを意味もなくローリングさせたデザインまで登場してきます。80年代は本場リンクスを遠くから見たその光景を派手に表現したデザインがブームとなった時期でした。これらの作品を日本のゴルフメディアや設計家たちはスコティシュアメリカンコースと表現されていました。このマンメイドなデザイン手法にこれまでモダンコース設計の戦略の一つに活用された池が絡まり、その攻略法はターゲットが一本に絞られました。これはセーフティゾーンへの確実性が重視され、ゴルファーからドライバーを取り上げるレイアップゴルフが攻略法のスキルとなったのです。しかしそれらは専門家達から診て、コース設計理論としてけして正しいとはいえない、評価の低い作品ばかりでした。当時それらの新作が発表されると必ず登場するのが「14本のクラブをフルに使うコース設計」「本場リンクスの香り漂う空間」等のキャッチコピーでした。しかしながらスコティッシュアメリカン設計の火つけ役となったはずのピート・ダイの作品はそれらの誤ったコース理論の作品とは大きく異なり、C.B.マクドナルドのクラシックコースの定義とされるその戦略性と攻略ルートの愉しさを現代のスケールに合わせたもので、そこにダイのPGAツアープロをターゲットにしたトーナメント思考の哲学が入り込んでいました。事実、多大なコース評価を得ていたダイの作品と比べ、スコティシュアメリカンの作品は全く評価されませんでした。
モダンコース時代の先駆者ロバート・トレント・ジョーンズSr(R.T.JonesSr)やディック・ウィルソン(Dick Wilson)の時代を経て、ピート・ダイと共にコースランキングで高い評価を得ていたのがジョージ・ファジオの甥トム・ファジオ(Tom Fazio)でした。ジョージのもとでコース設計を学んだ彼は、Wade Hamptonなどの大作を誕生させる中、その独創的な美しいグリーンコンプレックスのデザインバランスから、人は彼を「グリーン上のダイヤモンドカッター」とも称しました。90年代後半からミレニアム年号にかけて全米TOP100コースのうち、ピート・ダイとトム・ファジオの作品が何と全体の15%を占めていたのです。この年代でニクラウス設計チームの作品はMuirfield Village, Shoal Creek, Cabo del Solの3作品が世界TOP100コースに君臨していましたが、現在はMuirfiled Villageだけとなっています。
不況の時代に生まれたモダンクラシック設計理論。
80年代後半、日本がバブル期の絶頂を迎えた頃、米国経済は不況の中にありました。日本企業がニューヨークマンハッタンのビルを買い漁り、その中にはティファニービルやロッカフェラーセンターまでありました。更にゴルフ場の買収は旅行客の90%を日本人が占めたハワイやグァムだけでなく、何と米国ゴルフ界の至宝コース、ペブルビーチゴルフリンクスまで及びました。豪州やグァムのリゾート開発だけでなく、ニューヨークやニュージャージー州でも日本のディベロッパーが開発し、メンバーシップを日本企業側に売り付けるゴルフ場まで登場した時代でした。これらの最大の目的は当時日本で乱開発された新設のゴルフ場がステータスを上げる為に行った買収であり、姉妹クラブとして海外のゴルフ場を持つ事はメンバーを募るのに重要と考えられたのでしょう。会員権としてメンバーから集められた金が乱用されていた時代でした。90年代に入りバブルが崩壊し、米国では日本企業が買収したゴルフ場が清算の時を迎えます。それらのゴルフ場の中には経済の状況を見据え、長く放置されたものもありましたが、新たに再開発されたクラブもあれば、コースの質が悪いものはロストリンクスとして住宅地など他の事業に用地転換されるものも多く見られました。そんな中、90年代半ば、クリントン政権発足に併せるかのようにして起こったIT革命により、米国経済は一気に上昇をしていきます。そしてゴルフ場開発は建設に贅沢極まりなく予算を注ぎ込んだモダンコース時代の反省から、低コストのゴルフコース造成が注目される事となります。それは僻地であっても開発資金があまりかからない砂質豊かな大地、戦前のクラシックコースに近い造成法が可能な用地を探し出す事から始まりました。
その極め付けの作品がネブラスカの僻地に建設されたSand Hills GCです。95年、最寄りのノースプラトー空港から更に100kmは車を走らせる内陸の砂丘地帯に建設されました。プライベートゴルフクラブとして発足し、周辺には宿も少ないことからメンバー用のロッジとレストランが併設されています。設計はCoore and Crenshawのコンビによるもので、97年にいきなり世界TOP100コース17位に登場し、以降もトップ10前後のランキングをキープしています。彼らがここで行ったのがグリーンの床をUSGA規定の三層構造にせず、クラシック時代のように良質な土砂を固めただけのPushed Up Greenの造成法を用いたことです。この成功が多くのディベロッパーやコース設計家たちに勇気を与え、1999年にオレゴンの砂丘地帯に開設されたBandon Dunes Golf Resortでは、すべてのコースがこのPushed Up方式を用いて、低予算でコースを完成させています。Sand Hills, Bandon Dunesの砂丘地帯はまさにそこにゴルフコースを低予算で造るよう神からのお告げでもあったかのように、土地の素材に恵まれたまさにゴルフのPromised Land(約束の地)だったのです。贅沢なモダンコース時代は終焉を迎え、モダンクラシックコースの時代の幕開けとなりました。
ランドスケープ、ルーティング、ホールレイアウトはコース設計の三位一体。
モダンクラシックの時代に入り、ゴルフ設計の基本となるランドスケーピング(景観性造園学)と18ホールのルーティング、それにおけるPAR3,4,5のレイアウト構成がいかに自然の等高線(Contour Line)が作り出すスロープを生かしているかが評価上の重要なポイントとなってきました。つまりPAR72や72~7300ヤード以上に拘ったが為に、コース設計におけるランドスケープ、ルーティング、レイアウトの三位一体構造を構築できない作品も数多く見られます。また地形の高低差はコースに最も適したものは30~35m(100 fts)と言われています。これをいかにレイアウトに含めるかが重要なポイントになりますが、バブル期の頃、日本の丘陵地帯に建設された多くの作品は、開発規制上の問題から盛土、切土でレイアウトされなければならないとはいえ、アベレージゴルファーを考慮してか、フェアウェイをよりフラットにし地形のスロープラインを活かさない設計が主流していました。その段々畑のようなホール構成をテラス・ザ・ホールと呼び、評価の対象外にする厳しい専門家たちもいます。彼ら曰く「これほど自然のスロープを壊す設計ならば、高低差10mに満たない土地条件で造られた作品でもその内容によっては優れたケースも生まれる。」と述べます。これは日本だけでなく、米国やカナダのコースにも数多く見られます。
モダンクラシックコースの低コストな基本造成を行う場合、その土地条件が良質な土砂の土壌が絶対条件になります。とは言え、昨今その良質な土壌をヴェストエリアとしてやたら露出するデザイン性が流行りましたが、その露出度が高くなるにつれ、自然の環境を見せる発想は逆にわざとらしい人工的景観にも映ってしまうものです。80年代に流行った池やクリークが意味もなく攻略ルートに絡んでくるチープな設計アイデアと同じではないか?と評する厳しいコース論説家たちもいます。
ではオリジナルの土壌が良質な砂地である事をどのように見せるべきか、この最高の見本となる作品は、Coore & Crenshawの設計コンビがPinehurst #2コースのリノベーションで見せた手法ではないでしょうか。オリジナル設計家ドナルド・ロスの時代に戻り、それまでのラフエリアを削り、砂地を露出させそこに昔からこの地に生息していたWire Grassを再プラントする事でそれまでの戦略性、攻略ルートを一変させました。理にかなった砂地の見せ方と言えるでしょう。
またクラシック時代の名匠Albert.W.Tillinghastのフェアウェイを分断するかのようなグレードハザード理論を持って砂地を露出させる手法を用いたホールも人気を呼びましたが、それらは各ショットのランディングエリアをしっかりと確保した上でのハザード地帯なのか、または高低差を活用し、ハザードエリアをしっかりと確認させているかが評価ポイントとして問われる事となります。
クラシックの定義、テンプレートホールへのノスタルジー
Bill Coore & Ben Crenshaw, Tom Doak, Gil Hanse、モダンクラシックをベースにしたその作品の素晴らしさ高評価から彼らはコース設計界におけるTOP3でしょう。そこにUS オープンやPGA Championshipのコースリノベーションで高い評価を得ている造成家Andrew Greenが加わります。かつてPete DyeとTom Fazioがコースランキングで話題を独占したように現在の世界TOP100コースではCoore & Crenshaw(7作), Tom Doak(8作)の作品が全体の15%を占めています。Gil Hanseの作品も3作品ランクアップされています。以前に連載の中でも解説致しましたクラシックコース設計の定義となったC.B.Macdonaldのテンプレートホールの形状理論やその戦略性をあらゆる型で示したプロトタイプホールの設計理論などモダンクラシックコースがブームを迎える中、戦前のクラシックコース理論を極めようとするゴルフコース愛好家たちが増えました。C.B.Macdonald/Seth Raynorの作品ならばどれも高い評価をするコースレイター(Rater)達もいるほどです。戦時中にロストリンクスとなり、幻の名コース、ゴルフコース界のアトランティスとも称されたThe Lido GCを100%同じに再現しようとウィスコンシンのSand Valley Golf Resortで計画され、Tom Doakと彼の造成パートナーのBrian Schneiderが残されている貴重な資料や写真からレングスを除いてはコースの高低差、ルーティングなどほぼ100%オリジナルと完璧に近いコースを造り上げました。レダンやビアリッツ、プラトーなどの名称を持つテンプレートホールが話題を呼んだこの時期だけに、Sand Valley Golf Resort The Lidoはグランドオープンしたその年の世界ランキングでなんとTOP68位にランクアップされました。このコースは見識を深めたレイター達がステップアップする為のクラシックコースの定義、バイブルを示したかのような作品であり、今後どのような評価をされていくのか注目したいところです。そして今、砂地をやたら露出したり、完成当時のオリジナルのランドスケープを復元しようと樹木をやたらに伐採しスケルトンにされたコースが多い中、あのTom Fazioの美しいグリーンコンプレックス、ツリーライン(Tree Line)を活かしたモダンコースの作品が再注目されています。時代のAtmosphereは繰り返します。
さて本年もGOLF Atmosphereをご愛読して頂き有難うございました。
私、Masa Nishijimaは皆様にゴルフコースの見識を深めて頂きたくまだまだお伝えしなければならない事、設計理論のChapterがあります。来年度もそれをお伝えしていきますので何卒宜しくお願い申し上げます。
それでは素敵な Christmas Holiday, そしてNew Yearをお迎えください。
Text by Masa Nishijima
Photo by Masa Nishijima, Tom Doak, Sand Valley Golf Resort, GOLF.