ロシアによるウクライナ侵攻が始まって1ヶ月。
国際社会はロシアに対してウクライナからの撤退を求め次々と制裁を科す一方で、
ウクライナに対する支援を続けています。

そして、侵攻による影響はスポーツの世界へも波及し、オリンピックをはじめ、
各競技の国際機関がロシアやロシア側国に対する参加停止等の制限とウクライナ
への擁護策を発表しています。勿論それは、馬術界も例外ではありません。

2月24日の侵攻開始の4日後には、IOC(国際オリンピック委員会)の声明に従い、
FEI(国際馬術連盟)が、ロシアとベラルーシで開催される予定の国際馬術大会や
オフィシャル会議等の全てのイベントのキャンセルや変更を決定。
同時に、ウクライナには100万スイスフラン(約1億3千万円)の支援を約束し、
近隣国とも連携を取りながら、人だけでなく馬の安全にも配慮することを求めました。

加えて、3月6日からはロシアとベラルーシに属する選手、馬、役員、審判員等が
他国で開催される大会等に参加することについても禁止と定め、いかなる中立的な
立場での参加も認めない厳しい措置をとることになりました。

ところで、そもそもロシアやウクライナの馬術事情とは?
「強豪国」に名を連ねるのは主に西側。では、東欧の国々の馬術事情とは如何に?

実際のところ、世界の馬術界をリードする西ヨーロッパ諸国と比較すると東欧諸国は
「一歩後退」。特に、スポーツとして発展し、生産から育成、馬の売買、さらには大会
までが自由市場となった今では、その差を埋めることは容易ではありません。
ただ、歴史的には馬への造詣も深く、馬産にも積極的に取り組んでいます。
特に、Coldblood(=冷血種)の生産も多く、今も人々の生活に根付いています。

さらに、ロシアと言えばコサック騎兵隊。かつては世界最強と謳われ、日露戦争では
日本がその大隊を破ったことに世界中が驚きました。
また、近年のウクライナでは、馬術競技の強化に力を注ぎ、近隣国のトップライダーを
招聘すると国籍を変更し「チーム・ウクライナ」を結成。オリンピックでは厳しい
グループ予選を勝ち抜き、2008年の北京から2016年のリオまでの3大会連続出場を
果たした他、世界選手権やヨーロッパ選手権でも好成績を残してきました。

加えて、ウクライナは今をトキメク「種牡馬」を繋養していることでも知られています。
中でも、Cornet Obolensky(コルネット・オブレンスキー)とその後継者
Comme IL Faut(コム・イル・ファウ)は特別。
共にオーナーはウクライナ人でありながら、現役時代はドイツのスーパースター選手を
背に国際大会を席捲。競技引退後は、オーナーの母国・ウクライナに渡り、繁殖生活を
続けていました。

現役時代は自らのパフォーマンスで馬術ファンを魅了し、引退後は「血脈」として
ホーススポーツの醍醐味を味合わせてくれる彼らは、まさに馬術界の宝。
そんな彼らに戦火が迫ってきたのですから、世界中のファンや関係者が黙っていません!

侵攻開始のその日から、SNSでは彼らの安否を気遣う声が上がり、それらを追う形で
メディアサイトでも報道を開始。2週間に及ぶ脱出劇が始まりました。
水はあるのか、草は足りているのか、安全は確保できているのか・・・情報が錯綜し、
誰かが制しては、また混乱するというのを繰り返しながら、ようやく彼らが出国できた
のが3月9日のこと。
ウクライナからポーランド、そしてドイツに渡り、無事に平穏を取り戻したのだそうです。

けれども、馬はこの2頭だけではありません。この2頭は特別な2頭なのです。
今も、数多くの馬たちがウクライナに閉じ込められ、身動きが取れない状態にいる
ことでしょう。もちろん、人命第一。動物も馬ばかりではありません。
それでも、馬たちのことが気に掛かるのです。
燃料も枯渇し、避難経路も絶たれ、水も草も不足しているかもしれません。
どうか、戦争のために馬の命が奪われませんように・・・。

何かできることはないかと、トップライダーたちはネットオークションを開催。
レッスンチケットや記念品を出品し、オークションで得た利益をウクライナ支援に
充てています。
また、ドイツの元オリンピックライダーで、現在、日本の障害馬術チームの
ジェネラルマネージャーを務めるPaul Schockemöhle(ポール・ショッケメーレ)
氏は、ウクライナ難民の受け入れを発表。

日本からは遠い地での戦争ですが、馬を通してみれば、身近に感じます。
人の犠牲になる馬を減らすためにできることを!
まずは、ライダーたちのオークションに参加したいと思います。
https://equbreeding.auction/auction/

MILKY KORA

馬ジャーナリスト / Maraque編集長。京都生まれ。
幼い頃から馬術を嗜み、乗馬専門誌の編集を経て馬ジャーナリストとして独立。2010年に世界最高峰のホーススポーツを伝えるEquine Journal Maraqueを、さらに2014年にはより専門性の高いMaraque for Professionalを創刊。現在は日本で唯一のホーススポーツ専門誌として発行を続ける傍ら、ライダーのマネジメントや馬イベントの開催など馬に関する幅広い活動を行っている。