No.57 Racing Clydesdale
広く世界の競馬を見渡せば、走る馬はサラブレッドばかりではありません。
雄大な身体で力強く大地を駆けるクライスデール(Clydesdale)のレースをご存知でしょうか。
ロンドンから南西へ約300キロ。中世イギリスの面影を今に残すデヴォン州・エクセターの町の小さな競馬場(Exeter Racecourse)では、毎年11月にクライスデールによる競馬が行われています。
クライスデールと言えば、アメリカのビールメーカー・バドワイザーのコマーシャルが有名。仔犬との友情を描いた物語には思わず涙がこぼれ、賢明で温厚、時に勇敢なクライスデールの姿は、数々の名場面を生み出してきました。
彼らの姿を言葉で表現すれば、俊敏というよりは愚鈍。
それでも、頼り甲斐があるじゃないか!・・・などと、決めつけてはいけません。
ターフを疾走する彼らの姿を一目観れば、想像を超えるそのスピードに驚き、「速っ!」という言葉が口を突いて出てしまいます。
クライスデールの原産はスコットランド。1826年、グラスゴーの展示会で初めて「Clydesdale」と記録されたのが始まりだとされています。
以来、大英帝国の名の下、植民地を中心に世界中に広がったクライスデールでしたが、機械化の流れには逆えず、他の重種馬たちと同様にその数は減少の一途を辿りました。
一時は絶滅も心配されるほどのクライスデールでしたが、その危機を救う一助となったのがこの競馬でした。
彼らの溢れる魅力を世に伝えようと、クライスデールの保護団体・Adventure Clydesdaleが発案し、それを引き受けたのがエセクター競馬場。そして、誰もが馬券を購入できるようにと地元のブックメーカーも協力を惜しまず、さらには、馬券の収益をDevon Air Ambulance Trustに寄付することを決め、今もなおクライスデールが人々の生活に寄与することをアピールしたのです。
レースが行われるのは、華やかなサラブレッドのフラットレースがひと段落したシーズンオフ。太陽から見放されたような11月下旬のイギリス。果てしなく続く曇天の下、泥だらけになりながら2ハロン(約400m)を疾走するクライスデールの姿は、真面目で健気な彼らの心を鮮明に映し出し、多くの人を魅了しています。
2019年、資金難から一時は中止を余儀なくされたレースでしたが、2020年には復活。普段は競馬に興味のない人たちも、この日ばかりは!と競馬場に足を運び、エクセターの名物レースとして不動の人気を獲得しているのだそうです。
Racing TVより
MILKY KORA
馬ジャーナリスト / Maraque編集長。京都生まれ。
幼い頃から馬術を嗜み、乗馬専門誌の編集を経て馬ジャーナリストとして独立。2010年に世界最高峰のホーススポーツを伝えるEquine Journal Maraqueを、さらに2014年にはより専門性の高いMaraque for Professionalを創刊。現在は日本で唯一のホーススポーツ専門誌として発行を続ける傍ら、ライダーのマネジメントや馬イベントの開催など馬に関する幅広い活動を行っている。