前回に引き続き、馬の心を読み解く小話をもう一つ。

馬にとって耳と同じくらい心理状態を表すと言われているのが、尻尾。

けれども、「馬の後ろには立つな!」と言われことの多い日本では、馬の尻尾に注目する機会も少ないのが現実です。容易に思い浮かぶのは、身体に纏わり付く虫を追い払おうと、尻尾をパタパタさせる様子でしょうか。

馬の尻尾には、3つの大きな役割があると考えられています。

その一つはもちろん、「虫を追い払う」こと。

二つ目は「バランスを取る」こと。

「バランスを取る」という表現が的確かどうかは分かりませんが、歩くリズムに合わせて左右に振ってみたり、動作を始める瞬間にクイッと振り上げてみたりと、最大限のパワーを発揮しようと勢い良く振り下ろしてみたり、馬の尻尾は身体の動きに合わせて、とてもよく動きます。

人が何らかの動作を始める時に、「よいしょ!」と反動を付けるのに似ているでしょうか。

そして三つ目が「感情を表す」こと。

一つ目の「虫を追い払う」というのも、実は感情表現の一つだと言えます。

身体に虫が止まる→不快感→尻尾で追い払う。

馬が不快に感じなければ、追い払うこともないのです。

また、尻尾を高く持ち上げている時は、首も高く起こし、耳までピンと立てていることも珍しくありません。これは、興奮状態を表します。パワーが漲っていたり、何かに強い興味を示していたり、時には挑戦的な精神状態であるとも考えられます。

反対に、尻尾を後肢の間に強く仕舞い込んでいる時もあります。何かに怯えていたり、拒絶していたり、まさに「尻込み」した心の内を体現しているようです。

馬の尻尾は「Dock=ドック」と「Skirt=スカート」と呼ばれる部分に別れ、ドックは骨と筋肉、そして皮膚で構成され、ドッグの先に生えた長くて太い毛がスカートに当たります。そして、このドックを使い、尻尾全体を上下左右に、強弱を付けて器用に動かしています。

ちなみに、このドックの裏側はツルツル。長い毛は表面と側面にしか生えないのです。

一度、馬の尻尾を手にとって、裏側までじっくりとご覧ください。馬は、身体の構造上、尻尾を上げた状態では「蹴れない」そうですから、手でしっかりと支えるのが、安全確保のポイントです。

 
 

MILKY KORA

馬ジャーナリスト / Maraque編集長。京都生まれ。
幼い頃から馬術を嗜み、乗馬専門誌の編集を経て馬ジャーナリストとして独立。2010年に世界最高峰のホーススポーツを伝えるEquine Journal Maraqueを、さらに2014年にはより専門性の高いMaraque for Professionalを創刊。現在は日本で唯一のホーススポーツ専門誌として発行を続ける傍ら、ライダーのマネジメントや馬イベントの開催など馬に関する幅広い活動を行っている。