「馬の耳って本当によく動くんですね!」

以前、初めて馬を撮影されたフォトグラファーが、興味深そうに驚いておられたのが印象的でした。

そうなんです!馬の耳はとてもよく動くのです。

「あっ、馬だ!」

と馬を見つけて近づいて行くと、多くの場合は両耳をピンと立てて、私たちの方に向けているのではないでしょうか。

抜き足差し足忍び足、見つからないと思っていても、わずかな気配を感じ取るのは馬の得意技。そんな時ほど、耳先まで張り詰めて、こちらを見ていることでしょう

中には耳を伏せて、じっと睨んでいるような馬もいるかもしれません。

ご存知の通り、馬が耳を伏せているのは「怒」の表れであり、広義には「不快感」を表していると言えます。

まさに、耳は口ほどに物を言う。

馬の耳は、物言わぬ彼らの心を探る、大事な情報源なのです。

馬の耳の機能は主に2つ。物音を聞くための聴覚と平衡感覚。

頭を動かさずに、左右の耳をそれぞれ別々に動かすことができ、人間より多く、複雑な筋肉を駆使して、前後左右180度も自由に動かすことができるのです。

馬が音を検知できる距離は約4km、可聴域は55~33,500ヘルツ。20~20,000ヘルツとされる人間の可聴域と比較すると、低域ではやや劣るものの、高域では優れています。

私たちが気づかない「何か」に気づき、驚いたり、反応したりしているのは、私たちには聞こえない音が聞こえているからでしょう。

また、低域については、地面からの振動を歯や蹄がキャッチし、骨を通して耳に伝えることによりカバーしています。

馬にとって最も聞き取りやすいとされるのは、1,000~16,000ヘルツ。

ちなみに、犬は45,000ヘルツ以上も聞くことができ、象は上限が約10,000ヘルツであるかわりに、低域に広いのだそうです。

とはいえ、実際に想像し難いヘルツですので、ご参考までに、ピアノの真ん中の「ド」の音が約1,000ヘルツとのこと。

また、三半規管によって平衡感覚をコントロールしているのは、私たち人間と共通しています。

ただ、350度の視野をもつ馬は、どこで、何の音がしたのか、大まかな方角さえわかれば、後は視覚で状況を把握しようと試みます。その意味では、馬は聴覚よりも視覚を頼りに、身の安全を守っていると言えるかもしれません。

さらに、馬の耳が180度回転するのは、その方角を調べるためだとも考えられています。特別に優秀な聴覚では無いからこそ、突然の音に顔をあげて、耳を器用に動かし、音の方角を探すのだそうです。

身体の機能とは別にもう一つ、馬の耳には大切な役割があります。

それが、コミュニケーションツールとしての耳です。

耳を立てていれば、興味津々。

「なんだ?!なんだ?!」と注意を払い、警戒していることもありますが、目の前のりんごに釘付け!という時もこの表情。「早く頂戴!」と目を輝かせながら、ブブブブっと鼻を鳴らされると、ついつい甘やかしてしまいます。

耳を伏せて(絞って)いれば、ご機嫌斜め。

時によっては、相手を脅したり、噛んだり、蹴ったりと攻撃する可能性もあります。そんな時は、まず原因究明。ただし、人馬ともに安全確保が第一です。

耳を横には、リラックスの証。

穏やかな陽だまりの中で、うたた寝をしているような気分でしょうか。

反面、体調が優れず、発熱などにより元気のない状態も考えられるので、見落とさない注意も大切です。

こうして、馬たちの表情を思い浮かべならが例を挙げ始めるとキリがありません。器用に動く姿に感心しつつ、僅かな心の変化を読み取ることができれば、愛おしさも増すばかりです。

ぜひ次回は、馬の耳に注目して、名前を呼んでみてください。どんな表情を見せてくれるでしょうか。

 

 
 

MILKY KORA

馬ジャーナリスト / Maraque編集長。京都生まれ。
幼い頃から馬術を嗜み、乗馬専門誌の編集を経て馬ジャーナリストとして独立。2010年に世界最高峰のホーススポーツを伝えるEquine Journal Maraqueを、さらに2014年にはより専門性の高いMaraque for Professionalを創刊。現在は日本で唯一のホーススポーツ専門誌として発行を続ける傍ら、ライダーのマネジメントや馬イベントの開催など馬に関する幅広い活動を行っている。