続いて、もう一つ競馬の話題。

ギャンブルは好きでも競馬場には行かないのがフランス流。

ギャンブルも好きで、競馬場にも行くのが日本流。

そして、ギャンブルをするために競馬場へ行くのがイギリス流。

これぞ、お国柄?!

7,000件を超えるPMU(=馬券の販売所)が点在するフランス。大都市・パリでも、田舎町でも、PMUの看板を掲げたカフェに入れば、誰でも簡単に馬券を購入することができます。となれば、遠路遥々競馬場に足を運ぶ必要もなく、気心の知れた仲間とお酒を酌み交わしながら、レースに一喜一憂して競馬を楽しむのがフレンチスタイル。実際、伸び悩む競馬場の入場者数を他所に、運営は上々なのだそうです。

日本はと言えば、減った減ったと言われる売上も入場者数も、世界的に見れば、まだまだ桁違い。特にJRA(=日本中央競馬会)では、競馬のイメージアップ作戦も功を奏し、女性や家族連れのファンの姿も増え、今や競馬場はテーマパーク。2018年の売上は2兆7,950億円にも達し、入場者は620万人超えと、いずれも世界第一位です。

これに対し、一味違うのがイギリス。近代競馬発祥の地で今も活躍するのは伝統のブックメーカー。日本ではノミ行為とみなされ違法ですが、イギリスでは政府公認。そのため、ブックメーカーによる売上が、なんと全体の95%以上を占めているのだそうです。

そもそも、ブックメーカーとは賭け屋。予め配当率(オッズ)を設定し、その配当に価値を見出した者が購入する、言わば賭け屋と購入者の真っ向勝負。そして、世界で最初にこれを始めたのが、イリギス・ニューマーケット競馬場のハリー・オグデン=Harry Ogdenだったと言われています。

もちろん、それ以前からも「賭け」は行われていましたが、当時はマッチレース(=一騎打ち)やヒートレース(=同じ相手との競走を繰り返す勝負)が主流。レースは勝つか負けるかの二つにひとつ、賭けの勝負も単純明解でした。

ところが、1700年代に入ると、複数の馬主同士が「賭け金=Stakes」を出し合い、順位に応じて分配するステークスが急増します。また、馬を酷使する長距離レースではなく、成長著しい若馬によるスピードレースが好まれるようになると、馬主たちは挙って競走馬の品種改良に乗り出します。そして、遂に競馬はサラブレッドの時代を迎えたのです。

この時流に逸早く乗ったのが、世界初のブックメーカー、ハリー・オグデン。これまでの直感的な競馬から統計学的な競馬へと進化する中、自らもあらゆるデータを駆使し、出走する全ての馬にオッズを掲げ、購入者に選択肢を与えました。

この画期的な方法は、瞬く間にイギリス中の競馬場へと広がります。そして、オッズこそがブックメーカーの腕の見せ所。同じ馬でもオッズが異なれば、どのブックメーカーから買うかは購入者次第。つまり、ブックメーカーを見定めるところから勝負が始まっているのです。

ハリーが初めてオッズを掲げてから200年以上を経た今も、ブックメーカーが立ち並ぶ風景は、イギリス競馬の象徴です。もちろん、時代に合わせてオンラインでの販売も行われていますが、贔屓のブックメーカーとの競馬談議を楽しみに、競馬場へと足を運ぶのが、伝統のブリティッシュスタイルに違いありません。

 

MILKY KORA

馬ジャーナリスト / Maraque編集長。京都生まれ。
幼い頃から馬術を嗜み、乗馬専門誌の編集を経て馬ジャーナリストとして独立。2010年に世界最高峰のホーススポーツを伝えるEquine Journal Maraqueを、さらに2014年にはより専門性の高いMaraque for Professionalを創刊。現在は日本で唯一のホーススポーツ専門誌として発行を続ける傍ら、ライダーのマネジメントや馬イベントの開催など馬に関する幅広い活動を行っている。