No12. Horse Sports
競馬はスポーツかギャンブルか。
という議論はさておき、皆さんは「ホーススポーツ」と聞いて、どんなスポーツを思い浮かべますか。
ゴルフの装いからはポロでしょうか。それとも、2年後に迫ったオリンピックの花形・ジャンプでしょうか。はたまた東京クラシックの馬たちが最も得意とするレイニングでしょうか。
実は、全世界には数十、数百と数え切れないほどのホーススポーツが存在します。ただ、驚くことなかれ。それらは人と馬との長い歴史の中で、自然的に発生し、親しまれてきました。
呼び名は異なるものの似た競技も多く、その歴史や風土や馬の特徴に合わせてルールや服装もそれぞれ。その僅かな違いこそが、彼らのアイデンティティでもあるのです。特に騎馬を得意とする民族にとっては、我こそはと高い技術を競い合い、勝利を挙げれば一躍英雄。今でも数多く国で、伝統のホーススポーツを国技として奨励しています。
けれども、地域性に富んだホーススポーツの中には、今、岐路に立たされているものも少なくありません。
たとえば、イギリスを象徴するホーススポーツの一つフォックスハンティングですが、現在ではスコットランドをはじめ、ウェールズやイングランドでも全面的に禁止されています。
本来は、畑の作物を荒らすキツネの駆除を目的とし、犬にキツネを仕留めさるのですが、野生動物の減少や動物愛護の観点から、2000年代に入り一気に禁止志向が広がりました。
とはいえ、農村部では合理的に続けられ、年中行事の一つとして親しまれてきた背景を辿れば、フォックスハンティングが人々の生活から直ぐに姿を消すものでもありません。
実際にはキツネを狩らず、特定の匂いを追わせる「ドラッグハンティング」が広まったり、地域や時期等の条件を付けた禁止解除を求めるなど、20年近く経った今でも議論が繰り返されています。
また、アフガニスタンの国技・ブズカシ(Buzkashi)のように、馬に乗ってヤギを奪い合うという、一見すると残酷であり儀式的な行事も、公式ルールが定められ、スポーツとして盛んに行われてきました。
多民族国家だったアフガニスタンでは、諍いを防ぎ、秩序を保つためには、民族間で堂々と戦い、勝敗を決めるブズカシが不可欠だったのでしょう。厳しい自然を生きる周辺国ではも、呼び名の異なる同様のスポーツが数多くの残っています。
ところが、近年のアフガニスタンでは、人気のブズカシを見ることができなくなりまりました。これは決して、動物愛護や残虐性が問われたのではありません。
1989年のソ連軍完全撤退後に台頭したタリバンによる実質支配によって、アフガニスタンの伝統文化や娯楽がことごとく禁止されました。その後も、戦争やテロ、政権交代を繰り返すアフガニスタンでは、世界中が和平に向けた取り組みを模索していますが、以前のように多くの人々がブズカシを楽しむまでには、まだしばらく時間がかかりそうなのです。
もちろん日本でも、かつての武士たちは戦時に備え、騎乗や騎射技術の鍛錬を重ね、その技を競っていました。
けれども何事も「神聖化」したいのが日本。流鏑馬に代表される武士たちの技術は、残念ながらスポーツとしての発展には至らず、神社等への奉納として、儀式的に行われているのが一般的です。
それでも、乗馬の広がりと同時に、日本ならではのホーススポーツにも注目が高まり、騎射を取り入れたスポーツ流鏑馬も広がり始めています。
地球を一周見渡せば、まだまだ続くマニアックなホーススポーツシリーズは一先ず完結。
次回は4年に1度の馬の祭典WEG-World Equestrian Gamesをご紹介します。
MILKY KORA
馬ジャーナリスト / Maraque編集長。京都生まれ。
幼い頃から馬術を嗜み、乗馬専門誌の編集を経て馬ジャーナリストとして独立。2010年に世界最高峰のホーススポーツを伝えるEquine Journal Maraqueを、さらに2014年にはより専門性の高いMaraque for Professionalを創刊。現在は日本で唯一のホーススポーツ専門誌として発行を続ける傍ら、ライダーのマネジメントや馬イベントの開催など馬に関する幅広い活動を行っている。