Esel

 

「あれはドンキーだな!」

馬を楽しむ人たちの間で、しばしば耳にする言葉「ドンキー」。

ドンキー(=Donkey)とはもちろん、英語のロバ。

つまり「あれは鈍臭い馬だな!」という意味合い。

 

では、実際にロバは馬より鈍臭い?!のでしょうか。

動物の分類からみれば、馬とロバは近しい間柄。

哺乳綱の中でも奇蹄目のウマ科、ウマ属。このウマの中の5亜属9種に馬もロバも、そしてシマウマも含まれます。

とは言え、人類からみれば、彼らの発展は大きく異なります。

 

ウマの中の馬が、「人類最高のパートナー」として華々しい活躍を遂げたのに対し、ロバは「小さな背にに大きな荷物を乗せ、荒野を歩く姿」でしょうか。どこか哀愁漂う表情が思い浮かびます。さらに、シマウマはと言えば野生。他の草食動物と共に、サバナで草を食む姿が一般的なのではないでしょうか。

ロバとシマウマは、分類的には馬よりも互いに近い関係にあり、人との距離が遠い理由には、彼らの性格が影響していると考えられています。

ロバは比較的大人しく、粗食にも耐え、乾燥や不整地にも強く、優秀な家畜であありましたが、馬と比較すると、従順性や集団性に乏しく、頑固な一面が人との距離を必要としました。

シマウマに至っては、年齢を重ねると共に荒くなると言われる気性が一番の課題です。それでも、20世紀前半には、動物研究に私財を注ぎ込んだことでも知られるイギリスの貴族、第2代ロスチャイルド男爵(=ウォルター・ロスチャイルド)が、4頭立てのシマウマの馬車をハイドパークで走らせたり、近年では、アメリカ・ミネソタ州のカンタベリーパーク競馬場(Canterbury Park)でラクダやダチョウレースに加えて、ゼブラレースも実施されていますが、どちらも話題になるほど特別な出来事でした。

 

そこで、本題。ロバは馬より鈍臭いのか。

人の評する鈍臭いは、つまり「人とのコミュニケーションが下手」なのです。従順で学習能力にも恵まれた馬は、私たちと上手にコミュニケーション取ることができます。だからこそ、人は馬に惹かれ、パートナーに選んだのです。

反対にウマたち側からみれば、馬こそ「人に手名付けられた鈍臭いウマ」なのかも知れませんが、それでもやはり、人にとってロバは馬より鈍臭いのです。

蛇足ですが、私はドンキーと聞くとやはり鈍臭い馬を思い浮かべますが、英語に堪能な方であれば、もっと頻繁に使われているのかも知れません。もちろん、小馬鹿にしたり、茶化したりとあまり良い意味では使われないのだと思いますが、話題作「ダウントン・アビー」の中で、第7代グランサム伯爵であるロバート・クローリーを、孫娘が「ドンキー」と親しみを込めて呼びます。これに対して、伯爵が「ドンキーと呼ばないで!」と懇願したり、「ドンキーにキスを!」と抱き上げる姿は、思わず微笑んでしまうチャーミングなシーンでした。

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MILKY KORA

馬ジャーナリスト / Maraque編集長。京都生まれ。
幼い頃から馬術を嗜み、乗馬専門誌の編集を経て馬ジャーナリストとして独立。2010年に世界最高峰のホーススポーツを伝えるEquine Journal Maraqueを、さらに2014年にはより専門性の高いMaraque for Professionalを創刊。現在は日本で唯一のホーススポーツ専門誌として発行を続ける傍ら、ライダーのマネジメントや馬イベントの開催など馬に関する幅広い活動を行っている。