Golf Atmosphere No. 95/ドイツで遭遇した真のメンバーズクラブ。
大変遅くなりましたが、皆様新年明けましておめでとうございます。本年度も連載GOLF Atmosphereはアカデミックなライブラリーコーナーとして参る所存でございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。
新年の第一弾は真のメンバーズクラブとは?について、ドイツのとあるゴルフクラブを紹介したく思います。
ドイツに行けばきっと誰もが訪れたいと願う中世の城壁都市ローテンブルク( Rothenburg ob der Tauber)、北はヴュルツブルクから南はノイシュヴァンショタイン城のあるフュッセンまで古代ローマの痕跡が残る町や村を辿るロマンテック街道と東はマインハイムから西はチェコのプラハまでを結ぶ古城街道が交差するドイツ最大の観光地でしょう。
夏のハイシーズン、12月のクリスマスマーケットの時期になると小さな町だけにホテルはどこも満室状態になります。
宿泊ホテルを確保出来なかった旅行者には観光案内所で近郊のホテルを紹介してくれます。1991年夏、ドイツのゴルフコース調査でローテンブルクに立ち寄った筆者もその一人で、車で20分ほどの距離にあるコルムベルク(Burg Colmberg)の古城ホテルを紹介して頂きました。
コルムベルク城の歴史は12世紀ニュルンベルクを守る近郊の要塞として築かれ、1318年にはフリードリッヒ4世が城主となり、長くホーエンツォレルン家、ブランデンブルク選帝侯の要塞としてありました。
プロイセン時代を経て19世紀にはバイエルン王の城となり、1927年からは何と大日本帝国のドイツ領事館の一つとして、東京五輪が開催された1964年までその管理下にありました。その後、コルムベルク出身のウンベハウエン家(Unbehauen)が城を購入し、古城ホテルとしてスタート、現在まで3代に渡り引き継がれています。
アンスバッハGC(Ansbach GC)との歴史的繋がり。
筆者が高台に建つ城に向かう途中、その敷地にゴルフコースがあることに一瞬の喜びを感じました。ドイツではよく古城が持っていたかつての敷地をゴルフコースにしているのでコルムベルクも同じかと思いました。
訪問当時クラブハウスが建設途中で小さなスターティングハウスが全てをオペレーションしていました。ドイツではイギリス同様にその街や村の名称がゴルフクラブ名になるだけに、コルムベルクも同じかと思えば、ハウスにはアンスバッハGC(Ansbach)と表記された看板が立っていました。
筆者がそれを見て感じたのは在米軍基地が所有するゴルフコースなのか?と思ったことです。大戦敗戦国のドイツには日本同様に米軍の駐留基地があらゆる箇所に点在していました。
コルムベルクの南東25kmほどの距離にアンスバッハという街があり、バイエルンの渓谷に囲まれたその地に1935年にヒットラーの秘密空軍基地が完成したのです。ドイツが誇る爆撃機メッサーシュミットがフランスやイギリスに飛び立って行った事でも知られています。戦後基地は閉鎖され、1970年にバイエルンにおけるカッターバッハ米軍基地(Katterbach)が新たに作られました。基地周辺一帯を米軍が管轄にしていた事から、コルムベルクのゴルフコースもその名称から米軍が所有するゴルフコースかと思った理由です。
しかしゴルフコースに行けば米軍兵士がいるどころか、英語の会話すらも聴こえてきません。運良くクラブ創設者のお一人だった方のお孫さんがクラブセクレタリーをされていたので、アンスバッハゴルフクラブの誕生の歴史についてお話しを頂戴できました。
真のメンバーズクラブへの歩み
1960年、閉鎖されていた軍用地の跡地にゴルフ好きなアンスバッハの名士たち13名がこの地方では初のゴルフクラブとなるAnsbach GCを設立し、土木技師を雇っては自らの手でゴルフコースを造成しました。当時まだバイエルン州でも10コース、ドイツ全体でも62コースしかない時代でした。しかし数年後、彼らの夢の舞台は米軍によって接収されてしまいます。
70年には新たな米軍の航空隊駐屯基地、現在のカッターバッハ空軍基地となり、ゴルフ場は破壊され、代わりに野球場やフットボール場、駐在兵の家族が住む長屋の住居が造られていきます。ゴルフに関わる者にとって、ドイツも日本と同じ敗戦国である事を改めて認識する場所の一つでした。
しかしアンスバッハの名士たちはそれに負けず地方からのソサイティーメンバーを33名に増やし、コルムベルク城の用地を間借りして自分たちの手によって新しい6ホールのコースの造成をします。そしてその努力に賛同した地元名士達も加わり、メンバーは50名となって1976年には城を囲むヒーリーな地形に9ホールのコースが完成します。つまり50名のメンバー全員がゴルフを愛する地元のファンダーメンバーで形成されているわけです。
東西の壁が消え去り、ドイツ統一から数年後の1993年、スタートハウス(プロがいてもけしてプロショップとは言えない)からわずか離れた場所にクラブハウスは建設され、次世代のゴルファーを育成しようと練習場の建設も計画されます。
2007年には街道を隔てたフラットな農地を買い取り、Pitch & Puttの6ホールのショートコースを完成させます。それは大人から子供までもがゴルフに和めるAtmosphereな場所でした。そして2013年に更に農地を買い取り、18ホールコースへの拡張が計画され、その夢は2017年に成し遂げられます。
フラットな農地に作られた9ホールをフロント9とし、ヒーリーな地形の城を囲む用地の9ホールがバック9となっています。私が初めて訪問した91年には城の周りにはハンドメイドな9ホールしかなく、クラブハウスもありませんでした。でも彼らメンバー達のゴルフ愛は毎年送られてくるクリスマスカードに掲載されていました。
18ホール完成式典に招待を受けた時、設立当時からクラブを継承してきたその想いを振り返るチェアマンのスピーチには目頭が熱くなりました。
Ansbach GCの設計者名はUnknowです。ゴルフと平和を愛するドイツ人が造ったゴルフ魂の賜物なのです。
ローテンブルクに行かれる方、ぜひコルムベルクの城に泊まり、手作りのゴルフコースを堪能してほしいと願います。
Text by Masa Nishijima
Photo credit by Burg Hotel Colmberg, Ansbach GC, Masa Nishijima.