Golf Atmosphere No. 94/正しいランドスケープとホールレイアウトの構成によって生まれるゴルフコースのオーラ Part.2
新設のモダンクラシックコースでもオーラは出せるのか。
日本の風情を漂わせる松を被写体のフレームにした日本の古き名門コース、コースの質はともあれ、「一番ティに立つとその景観に長い歴史を感じる。」とコメントされる方たちが多くいらっしゃいます。それも一つのゴルフコースが放すオーラなのかも知れません。
戦前からの名門とて日本のゴルフコースの用地は米国に比べ、縦のスケールはともかくも横のスケールが足りない例が多く見られます。それを補っているのが樹木をランドスケープに取り入れた設計手法だったのでしょう。
英国ではパークランドタイプと呼ばれるそれらのコースも日本のゴルフジャーナリストの中には世界レベルにない「箱庭コース」とやや皮肉る人もいます。
今世紀に入り、米国では僻地でも砂質が良く、かつては放牧地としても活用されていた大地を再生し、造成コストを低く押さえるモダンクラシック設計がブームを呼んでいます。高額な造成費をかけて建設されたモダンコースに代わり、現在全米 TOP 100 コースの 20 % 以上をそれらの新しいコースが占めているのですから驚きです。そして高い100選の壁を超えた名作には新しいながらもコースに伝統の輝き、オーラを感じさせるコースも少なくありません。それらは樹木による景観フレームではなく、自然の大地のスロープをランドスケープにフェスキー芝やハリエニシダなどの低木、その中にグリーンとバンカーのコンプレックスをデザインした作品になっています。
しかし日本ではバブル崩壊以降に建設されたゴルフコースは僅かで、今世紀に入り新たに造られた新設コースも10程度であります。土地条件も決して優れているとは言えず、限られた用地の中にレイアウトされた18ホール、そのティーインググランドからグリーンを眺めれば、樹木のフレームが必要に感じることは致し方ないことでしょう。
もし米国のように伐採によって全体のスケールを大きく見せ戦略的ルートを多様化しようと考えるならば、たとえ丘陵地であってもゼネコン指導でフラットな段々畑のようにして造られたTerrace the Holeではスケルトンな広場に化してしまう危険もあります。
つまり自然のスロープラインをランドスケープに活かしていないルーティング、レイアウトでは視界の一部に樹木によるフレームが必要になってきます。但し、グリーンまでのフェアウェイ上におけるプレーラインに樹木があることは設計上正しいとは言えません。樹木を空間のハザードに使うのはプロのトーナメント会場ならまだしも、一般では空間には風という最大のハザードがあると考えるべきだからです。
Part 1でも解説致しましたが、日本はコース用地のスケールが近い欧州大陸の古き名門コースを参考にされるべきです。コースの外周は樹木で覆われ、各ホールにおいてもオリジナル設計に沿った樹木の植栽、伐採をしています。ホール幅を無意味に広げてもそれは逆に自然の景観性とコースのマッチバランスを損なうと考え。そして何よりも異常気象に対する環境保全を第一のテーマにしています。
ドローン撮影にコースのオーラは写し出されるか。
上記の写真は2年前にRosapenna Golf Resortの第3コースとしてオープンされたアイルランドのSt.Patrick Golf Linksです。最近はドローンによるこのような空撮が主流となってきました。ゴルフコースを専門的に解説する筆者のような立場の者にとっては、プロのゴルフコースフォトグラファーによる空撮は、読者にコース解説を理解して戴くのにまたとない味方ともなります。
ここで一人の男をご紹介しましょう。オーストラリア・メルボルン在住のコースフォトグラファー&コメンテーター、Gary Lisbon 氏です。
彼はGOLF Magazineのパネリストの一人でもありますが、世界中を旅する彼の視察及び撮影したコース数はフォトグラファーの中でもダントツのトップです。そしていち早くドローンを取り入れ、コースの空撮に成功した人物でもあります。
ドローンによる空撮は名コースが持つオーロの空間を写し出せるかどうか、これは彼にとっても一つのテーマだったでしょう。
これまで脚立の上に立ち撮影していたアングルが、ドローンにより斜め上空へと階段を上がるかのようにして撮影していきます。ホールの特徴、全体のスケールをどのように伝えることができるか、彼が紹介する写真の一枚一枚を拝見していくと彼はその中でコースがオーラを放すその瞬間を写し出そうとしているかのようにも感じます。
グランドレベルでは本当に限られた早朝、夕暮れ前の時間帯もドローンでは更に長く光を追い続け、大地のオーラにゴルフコースを染めるかのような一枚を映し出すことにも成功しています。
Tokyo Classic Clubについて。
4年前(令和元年)の9月、台風15号によってコースの内に植栽されていた数千本にも及ぶ杉の木が倒木の被害にあったのはご記憶に新しい事でしょう。
スタートの1番ホールなど両サイドに杉のTree Lineがホールのフレームを形成し、伝統美とまではいかなくとも名コースの雰囲気を醸し出していました。現在はフェアウェイ左サイド、練習場との間の杉が倒木となり、ややスケルトンな状態ですが、これも再度植栽し時間が経てば元に戻る事です。
逆に倒木によってホールの正しいスケールが視界に入るようになったのは6番ホールです。
それまでは左バンカーサイドの樹木は、攻略ルートを1本に定めたようなトリッキーにも写るホールでしたが、今年度 Tokyo Classic Clubを視察に訪れた海外からのコース専門家たちの中にはこの6番ホールがベストパー4だと評価した人もいました。
台風は米国ではハリケーンになりますが、異常気象の度合いが増す今日、南部フロリダやカロライナなどでは、大量の倒木はもちろん、フェアウェイの芝が巻かれた絨毯かのようにされたコースもあれば、被害の大きさによってはクラブを丸一年クローズし再生にかけたコースもありました。海抜 0メートル地帯が広がるルイジアナやテキサスの一部では、水害によって閉鎖に追い込まれた市営のバブリックコースもありました。
Tokyo Classic Clubも自然環境の変化、異常気象にコースがまたダメージを受ける時が来るかも知れませんが、コース管理する側は常に先を行く徹底した研究を、そしてプレーする側はコースを大事に扱っていくことが何よりも大事でしょう。
それにはプレーファストを常に心がけることです。人は余裕を持てば周りに気配りできるようにホームコースへの愛着も増すはずです。
数年前、コース設計家 Tom Doak がTokyo Classic Club を訪問した際、彼はニクラウスデザイン社のトータル設計の特徴を以下のように述べていました。
「ニクラウスはレジェンドプレーヤーだけにレンジ(練習場)に最高のロケーションを選ぶ癖がある。クラシックもそうです。けして広大とは思えないコース用地なのに彼は最高のスロープを持ったスポットに最高のレンジを設定した。私ならば絶対にホールの一つにしたでしょう。笑」
筆者はTom Doakに問いかけました。「このレンジを Pitch & Putt のショートコースに兼用できないものか ?」
すると彼はレンジに行き、誰もいないのを確認すると歩き始め、頭の中で6つのグリーンを活用した様々なアイデアを話し出しました。
「ドライビングレンジとショートコースを兼用するのは大学付随のコースでよく見かける。それは選手たちがショートアプローチの練習を様々な角度から練習する事から始まったらしい。」
ジャック・ニクラウスが設計の中で拘った練習場、この素晴らしい環境を活かさない手はないと想います。欧米で子供たちはパッティングから始まり、グリーン周りのPitch & Puttでゲームをします。ゴルフは 300 ヤードのドライブも 30 ヤードのチップショットも同じ一打です。
さて忙しい師走は走馬灯のように通り過ぎていきます。今年も連載「GOLF Atmosphere」をご愛読頂き深く感謝申し上げます。ありがとうございました。
皆様達の19番ホール、ロッカールームトークのゴルフネタの一つになってくれたら幸いです。来年も引き続きアカデミックな内容に拘った記事を掲載させて頂きますので、宜しくお願い申し上げます。
昨今、戦前からの日本の名門と称されるクラブでは、先代から引き継いだコースの歴史を誤った方向に向けてしまったクラブがあるようにも感じます。
名門ゴルフクラブとはゴルフを知る名士達の集うクラブです。けして歴史だけではないはずです。メンバー達が集うクラブハウスの片隅の空間はもちろん、コースへのアカデミックな見識は必要です。
そこには自己の見栄や欲によって超えてはならないゴルフのクラシックな定義があるはずです。
素晴らしいクリスマス、そして輝ける新年をお迎えください。
Best Regards
Masa Nishijima
Text by Masa Nishijima
Photo credit by Masa Nishijima, Larry Lambrecht, Gary Lisbon, Golf.com , Golf de Hardelot.