Covid-19の蔓延からメジャー4大会は全英オープンが中止、全米プロ、全米オープン、マスターズが、8月、9月、11月に延期となりました。そして今週、世界一のトップゴルファーを決めると言われる全米オープンがニューヨーク州の名門Winged Foot GC West Courseで開催されています。

名匠Albert W Tillinghastの設計で1923年にWest, East36ホールが開設され、以降、Westコースは全米オープンはもちろんの事、これまで多くのメジャー大会が開催されてきました。全米オープンをホストするのは今回が6回目、前回は2006年でPAR70, 7,264ヤードの設定で行われ、最終日に最終組の一つ前をプレーしていたオーストラリアのジェフ・オギルビーが+5オーバーパーの285でホールアウト、+4オーバーでトップにいた最終組のフィル・ミケルソンの結果を待っていました。

ところがミケルソンは誰もがフェアウェイセンターを確実にキープできる番手を選ぶだろうと想う中、ティショットにドライバーを選択し、左にプッシュアウト、周囲が唖然とする中、何とダブルボギーを叩き、オギルビーの逆転優勝となりました。以降、ミケルソンはグランドスラムに必要な全米オープンのタイトルだけは手にできていません。

 

 

Winged Foot2016,17年にリオオリンピックコースの設計や東京GCのリノベーションでも知られる設計家Gil HanseによってEast, West Courseをオリジナルへの復元をテーマにリノベーションし、今大会はPar 70  前回よりトータルで213ヤード長い最大7,477ヤードでセッティングされています。

 

Winged Footはリオオリムピックコースの設計や東京GCのリノベーションでも知られる設計家Gil HanseによってEast, West Courseをオリジナルへの復元をテーマにリノベーションし、East16年にWest17年にそれぞれ完了しました。今大会はPar 70  前回よりトータルで213ヤード長い最大7,477ヤードでセッティングされています。

 

 

設計家Albert Warren Tillinghast(1876-1942)について解説しましょう。

ペンシルベニア州フィラデルフィアの裕福な家庭で育った彼は、Kelly Street Gangと呼ばれた不良グループの仲間となり数々のスキャンダラスな事件を起こします。しかし心を改めて社交界のサークルに参加、そこで富豪の令嬢と恋に落ち結婚。スコットランドの旅で球聖Old Tom Morrisとの出会い、ゴルフの指導を受け、後にトップアマチュアゴルファーとして名声を得ます。しかし彼はプロへの道は選ばず、1907年ペンシルベニアの知人のゴルフコース造成に関わり、これを機に1910年以降に起こったゴルフ場開発ブームに乗り、コース設計家への道を志します。

 

当時フィラデルフィアにはコース設計に携わる者たちが集う通称フィラデルフィアスクールというソサイティがあり、彼らはそこで自らの設計アイデアを伝えたり、本場リンクスから継承されたクラシック設計理論を学びました。Tillinghastはその中心的存在で、これが後に世界ナンバー1コース、Pine Valley GCの設計チームに参加するキッカケともなります。

S字にレイアウトしたダブルドッグレッグホールや予算の付かなかったPine Valleyの開発ではフェアウェイを分離させるステレオタイプのホールのアイデアを提供しました。湿地帯での開発にも挑戦した最初のゴルフコース設計家でもあり、設計のアイデアとその造成方法をマニュアル化し、幾つもの造成チームを編成し全米にTillinghastの名は知られる事となります。人は画期的なデザイン性と設計への果敢な挑戦意欲から恐怖のTillie”と呼びました。

同時期に活躍したDonald Rossの作品とTillinghastの作品の大きな違いは、リンクスからのクラシック設計のルーツを守るRossに比べ、Tillinghastはそれを常に進化させ、与えられたコース用地の条件によって変化を加えていく手法でした。従って彼の作品の多くはクラシックの定義は持ちながらもそれぞれに異なった趣きがあります。

 

*Quaker Ridge GC

 

 

例えばWinged Footと道路を隔てたところにユダヤのソサイティがクラブを運営するQuaker Ridge GCがあります。これもTillinghastの作品ですが、設計の思考は大きく異なり、バンカーの数はWinged Footのほぼ倍、Greenの造形もあらゆるパターンを用いています。しかしトーナメントコースとしてはとてもWinged Footの比になりません。

 

全米TOP100コースに名を連ねる彼の他の作品、名門Baltusrol GCSan Francisco GCSomerset Hillsなどありますが、そのどれもがクラシックの攻略法は同じであってもデザイン性の趣きが異なり、同じ設計家の作品か?の印象を与えます。その中でもWinged Foot GC West Courseはダントツに高い評価で、その違いを検索するならば、高低差21mのほぼフラットに近い用地の中、地形の変化に富んだ箇所をティショットのドライブゾーン(ランディングエリア一帯)やグリーンの配置箇所にしている点です。そして12のグリーンが盛土して造られたElevated Green(日本でいう砲台グリーン)の形状にあり、グリーンのサーフェイス(面一帯)にペナル箇所を幾つも設けていることです。

 

* Winged Foot Wst #15

 

 

オーガスタナショナルを設計したAlister Mackenzieとの違い。

 

以前にこのコーナーでも解説致しましたが、Alister Mackenzieの設計哲学はSt. Andrews Old Courseのグランドレベルグリーンにあり、リンクスとは同じ土地条件にない英国のインランドやヒーリーなオーガスタの地形では彼はそのスロープの勾配をグリーン面に活用し、パッティングの転がりを楽しませるアイデアを用いました。当時はまだ芝を3~4㎜カットする技術はなく、現在のフェアウェイの刈高と同じレベルが精一杯でした。凹凸のある斜面を活用することでグリーン面を蛇行する下りのパッティングラインを楽しませ、手前からの攻めはランでより果敢にピンに近づけさせるアイデアです。オーガスタナショナルの設計には英国時代に挑戦した「スローピンググリーン」がありました。それが下の写真のSitwell GCで描いたスローピンググリーンです。

 

 

Mackenzieはこのグリーン面に左右の地形のコンターをマウンドとして絡ませ、三つの歪み( Punchbowl Zone)を設けました。つまりピンが切られたゾーンに行けば1パット圏内になり、そうでなければ上り下りの2パットラインを形成するものでした。仮にもしこのマウンドがなければ上からのパッティングはグリーンを転がり落ちてしまうかも知れない。

そしてこのスローピンググリーンを進化させたのがオーガスタナショナルのオリジナルグリーンなのです。彼はグリーンを縦のストレートラインだけで捉えさすのではなく、グリーン面に流れるグリーン周りのマウンドのスロープを活用して左右どちらかからホールロケーションのグリーン面に転がすアイデアを考えました。これはオールドコース同様にアプローチエリアからのスロープが流れるグランドレベルでグリーンが造成されなければ出来ない業。Mackenzieがこだわり続けたグランドレベルグリーンの哲学です。

 

 

上の図はオーガスタナショナルのグリーンをイメージして伝えるものです。グリーンによってはグリーン前頭部に厳しいスロープがあり、弱い打球を返してしまうオールドコース18番のThe Valley of Sin(罪の谷)をモデルにFalse Frontを演出しています。

 

TillinghastWinged Footで設計したElevated Green(段差を持つ砲台グリーン)はあくまで縦のラインの攻めで、左右の深いグリーンサイドバンカーはグリーン面でペナルを演出させます。つまりMackenzieの左右からグリーン面に転がす攻略ルートはなく、プレーラインに対し、縦のラインに位置するバンカーは入れても良いが横のラインのバンカーはペナルになります。

 

 

二つの図を対比してイメージしてください。Mackenzieのグランドレベルグリーンはグリーン前頭部のFalse Frontを避けて左右の攻略ポイントからピンを攻める事も可能ですが、TillinghastElevated Greenはホールロケーションや風などの条件によっては、False Frontを超えるか、またはその手前にレイアップしてパーセーブの戦略に出るかの縦の攻略ポイントとなります。

 

 

 

ホール解説

 

Winged Foot West Courseの特徴として、

左ドッグレッグホールが7ホール(1,4,5,12,14,16,18)

右ドッグレッグホールが3ホール(2,8,17)

この為、ドローヒッターが有利と言われてきた。しかし各ホールの距離の延長からドッグレッグポイントが奥に下がり、必ずしもそうとは言い切れなくなった。USGAのコースセッターもその辺りを考慮して厳しくともフェアなラフラインを構成しています。

グリーンの形状は大半が長方形で、奥からの強い傾斜はグリーン面を横切る幾つかのコンターで段差が作られています。

 

ホールナンバー/Par/ ホールのニックネーム

最大ヤーデージ

 

Hole 1  Par 4  Genesis

451 yrds

スターティングホールは左へ緩やかなドッグレッグラインを描き、そのポイントからフェアウェイは狭く絞られていきます。 1974年の全米オープンでジャック・ニクラウスは2打目をあえてグリーン手前にレイアップし、そこからパターでパーセーブの攻略法を考えました。

 

Hole 2  Par 4  Elm

484 yrds

ティショットの狙いはフェアウェイ左サイドのドッグレッグラインで、そこからのアプローチアングルがストレートに花道を捉えることになります。適切に配置されたバンカーによって保護されています。 グリーン左サイドの高さ110フィートの樹木は、風によってはアプローチショットに影響を与えます。 グリーンの起伏はパッティング面を分割する為、的確な距離感が求められます。両サイドのグリーンサイドバンカーはグリーンの傾斜から左より右がペナル的要素が強いです。

 

Hole 3  Par3  Pinnacle

243 yrds

1959年の覇者ビリー・キャスパーは厳しいバンカーとグリーン面の強いスロープを警戒し、4日間通して全てグリーン手前にレイアップし、そこからパーセーブに出る戦略を図りました。

 

Hole 4  Par 4  Sound View

467 yrds

フェアウェイを挟む二つのバンカーの地点から浅く左にドッグレッグするホールで、プレーヤーはこのバンカー手前のポイントにレイアップするか、300ヤードキャリーでバンカーを超えた狭いフェアウェイに打つ二つの選択があります。2016年にリノベーションされたグリーンはスクウェアな形状で奥からのスロープの中、複雑なアンジュレーションを持っています。

 

Hole 5  Par4  Long Lane

502 yrds

このホールは2006年の大会ではパー5でした。今回9番のパー4をパー5にした為、502ヤードのロングパー4の設定になりました。

ドライブでのランディングエリアはティからは確認できませんが、ツリーラインをターゲットにドッグレッグラインを果敢に攻めるプレーヤーも多く出てくるでしょう。グリーンサイドバンカーは深く改良されており、特に左サイドのバンカーからのリカバリーは、グリーンのスロープが左から右に流れている為、厳しいものになります。

 

Hole 6  Par 4  El

321 yrds

ウェストコースで最も距離の短いこのショートパー4はロングヒッターにドライバブルを演出させるでしょう。260ヤード地点の狭いフェアウェイにレイアップし確実にパーを拾いに行く方法もありますが、深いラフに入るとアプローチは厳しいものになります。

 

Hole 7  Par 3  Babe in the Woods

162 yrds

最も短いパー3ですが、左右のバンカーは深く改良され注意が必要、グリーンセンターへのショットが望まれます。

 

Hole 8  Par4  Arena

490 yrds

右へのドッグレッグホール。フェアウェイ左サイドのバンカー手前がターゲットになります。左右のグリーンサイドバンカーのグリーンのスロープから右から左に流れている為、右サイドのバンカーには注意が必要です。

 

 

Hole 9  Par 5  Meadow

565 yrds

前大会ではパー4でプレーされていました。グリーンのセンターラインに縦の尾根を持ちスロープは左右手前へと流れます。2オンを狙うか、バンカーを避けて確実に3オンでいくか。その選択はトーナメントの流れが左右します。

 

 

Hole 10  Par3  Pulpit

214 yrds

浅いダウンスロープのロングパー3ホール、コースで最も深いグリーンサイドバンカーは厳しいスロープのグリーンに対しペナルとなります。

 

 

Hole 11  Par 4  Billows

384 yrds

コースで400ヤード未満のパー4は6番とこのホールだけです。ティショットのランディングエリアは右から左へ強いスロープが流れ、ラフに転がる危険もあります。

 

Hole 12  Par 5  Cape

633 yrds

ウエストコースでは最も距離の長いクラシック設計のケープ理論のホール。グリーン手前160ヤード地点から左にドッグレッグするホールです。仮に2オンを狙う場合、ドッグレッグポイントに立つ80フィートの高さの樹木を超えなければなりません。グリーン奥はパンチボウル状のサーフェイスになっています。

 

Hole 13  Par 3  White Mule

212 yrds

グリーン奥にプラトー状のマウンドがあり、そこからの強いスロープとセンターのコンターが厳しいパッティングラインを演出しています。

 

Hole 14   Par4  Shamrock

452 yrds

280ヤード地点から浅く左にドッグレッグするホール。

フェアウェイは200ヤード地点が盛り上がっており、ティから二つのフェアウェイバンカーはエッジの部分しか見えません。グリーン前頭部は厳しいFalse Frontの壁となっています。

 

Hole 15  Par 4  Pyramid

426 yrds

緩やかなダウンスロープのフェアウェイの先には横切るクリークが流れている。その低い地点からグリーン面はブラインドになる為、手前にレイアップするか果敢にそれを超えるショットを打つかの選択となる。最もゴージャスなElevated Greenの造形からホール名はピラミッドと名称された。

 

Hole 16  Par 4  Hells-Bells

498 yrds

左ドッグレッグのこのホールはツリーラインの並びからアプローチを攻めやすくする為にフェアウェイ右サイドを狙う必要があります。仮に左サイドだとグリーン手前の高い樹木が空間のハザードとなるケースが生まれます。

 

Hole 17  Par 4   Well-Well

504 yrds

浅い右ドッグレッグのこのホールは右サイドのフェアウェイバンカーをターゲットにロングドライブを要求するヒロイックホールの一つです。グリーンは2016年に拡張されました。前大会の最終日に優勝したオギルビーはここでチップインパーを演出し会場を沸かせました。

 

Hole 18  Par 4  Revelations

469 yrds

300ヤード地点のフェアウェイ右サイドのバンカーをターゲットにホールは左ドッグレッグしていきます。グリーン前頭部は最大6フィートの壁となるFalse Frontが待ち構えています。左サイドのバンカーに入れるとその厳しいスロープからピンに寄せることは困難です。

 

 

 

Text by Masa Nishijima

Photo Credit by USGA, Golf.com, The Spirit of St.Andrews