No. 36 Horse Manure
馬が人の暮らしから姿を消した現代社会。
けれども、再生可能エネルギーの世界では、今改めて「馬力」に大きな注目が集まっています。
この馬力とは、馬糞。
その実力はなかなかのもので、僅か20mlの馬糞で携帯電話を充電できるのだそうです。
そして、その実用性を証明したのが、フィンランド・ヘルシンキで行われた馬術大会。4日間の大会期間に消費される電力を馬糞発電で賄ったのです。
煌びやかな馬術大会において、大会主催者と地元企業が協力し、「馬糞」で成功したこの取り組みは、世界中で大きな話題となりました。
以下、馬糞を可愛らしい業界用語で「ボロ」と称します。
馬を生産、飼養する国々にとってボロの処理は悩ましい課題の一つ。かつては田畑の肥として重宝されたボロも、時代の移り変わりと共に過剰供給。今ではその始末に頭を悩ませる事態となり、当然ならが、バイオマス資源としての研究開発も世界各地で進められてきました。
当初からボロは、優秀な資源ではありましたが、実用化に向け、課題となったのが「質」と「量」。ただ回収するだけでは、安定的な電力供給には至らなかったのです。
このエコエネルギーの開発に積極的に取り組んだのが、フィンランド南部、ヘルシンキの隣町・エスボーに本社を置く世界有数の電力会社・フォータム。そして、彼らを成功へと導いたのが徹底した資源の管理でした。
通常、土に還らない多くのボロは、馬房から回収されます。けれども、馬房に敷かれた敷料(=おが粉や藁などの馬のベッド)の素材は飼養施設ごとに異なり、ボロに付着した様々な敷料が資源の質低下を招きました。
また、ボロは多すぎても少なすぎても困ります。
そこで、彼らは不純物の少ないボロを安定的に確保することができれば、自ずと成功は見えてくると考えたのです。
彼らはまず、フィンランドの国内で林業を営む企業に声をかけ、木を切る過程で発生するおが粉を確保。それらを開発に協力する厩舎や酪農家に販売し、その特定の施設からボロを回収することで、質と量の安定を図りました。
他方、施設側ではボロの廃棄を心配することが無くなり、まさにWin-Win。
資源の確保ができれば、あとはそれらを発電所へと運び、送電網へ届けるまでのシステムを構築するのみ。ただし、そこは電力会社のお仕事。その名も「Fortum Horse Power」という専門部署を設け、実用化を目指し、一気に走り出しました。
実践の舞台に選ばれたヘルシンキ国際馬術大会では、屋内競技場内の照明からスコアボードに至るまで、大会運営に止まらず、地域社会への供給にも貢献。彼らの取り組みは、環境への配慮、地域ビジネスの発展、そしてサスティナブルなスポーツイベントとして最高の成功をおさめたのです。
さらに、研究によるとボロは他のバイオマス資源と比較して、堆肥1トンあたり約200kgの二酸化炭素排出量を削減。他の化石燃料と比較すれば、これ以上の成果を上げることは間違いありません。
思わぬ活路を得たボロ。
実は今、世界屈指の競走馬生産を誇る日本でも実用化に向けた取り組みが、馬都市を中心に進められています。
MILKY KORA
馬ジャーナリスト / Maraque編集長。京都生まれ。
幼い頃から馬術を嗜み、乗馬専門誌の編集を経て馬ジャーナリストとして独立。2010年に世界最高峰のホーススポーツを伝えるEquine Journal Maraqueを、さらに2014年にはより専門性の高いMaraque for Professionalを創刊。現在は日本で唯一のホーススポーツ専門誌として発行を続ける傍ら、ライダーのマネジメントや馬イベントの開催など馬に関する幅広い活動を行っている。