GOLF Atmosphere No.52 メジャートーナメント特集①
世界最強ゴルファーとマスターズチャンピオン
2019年度マスターズ大会はタイガーウッズが見事5度目のグリーンジャケットを手にし、世界中がその復活劇に沸いています。翌週ハーバータウンリンクスでRBCヘリテージが開催されても、タイガー余波は収まる事はなく、未だにタイガー特集の記事が続いています。ジャック・ニクラウスは、43歳になったタイガーの優勝に、「あのパッティング技術、グリーンへの感性がある限り、彼はまだ向こう10年はグリーンジャッケットに挑戦できるだろう。私の7回のマスターズ記録はもちろん、18回のメジャーチャンプの記録にも再度挑戦し続けて欲しい。」と述べています。
タイガーにまたグリーンジャケットを手にするチャンスは来るのでしょうか。
ニクラウスのメジャー18冠の記録を破る日は訪れるのでしょうか。 四大メジャーで常に本命とされた頃のタイガーと今とでは彼を取り巻くその環境は大きく異なります。メジャーの常連となったブルックス・ケプカやダスティン・ジョンソン達の飛距離はタイガーをオーバードライブしていますし、パッティングがゾーンに入った時のジョーダン・スピースは相手を寄せ付けないオーラすら発します。誰もが全盛期のタイガーを目指し、タイガーを超えようとしてきた昨今、タイガーが彼らに勝てる要因を探すならば、それは今回のマスターズのように、コースへのマネージメント能力が発揮できるコースではないでしょうか。
※タイガーやニクラウスが知り尽くしたオーガスタのグランドレベルグリーン。ピンデッドに攻めれば無抵抗のままに3パットを余儀なくされることすらある。
全米オープン(US Open)
米国では全米オープンに勝利した者をその年の最強ゴルファーと称えます。特定の飛距離、ショートゲーム、パッティングの技術、それらの要素が誰よりも優れた者が勝つ厳しいコースセッティングになっています。ゴルフは7割がリカバリーのゲームと言われています。彼らのビッグプレーを魅せる舞台を用意すると同時に、用具の進化で伸び続ける飛距離に対抗するには、いかにプレーヤーのミスを引き出すかがセッティングのポイントになっています。果たしてタイガーは全米オープンの舞台でも復活できるでしょうか? 今年は彼にとって相性が良いとされるペブルビーチでの開催ですが、コースは全米用に更に進化され、かつてタイガーに標準を合わせたように、大会二連覇を果たした怪物ケプカに対抗する意識を持っているでしょう。そこにタイガーは入り込めるでしょうか。
※ニクラウスもベストホールと絶賛するペブルビーチ8番。ケープホールのセオリーに包まれている。
全米プロ(PGA Championship)
全米プロ(PGA Championship)は今年から5月にスケジュールが変更されました。今年はニューヨークのベスページステートパーク・ブラックコースで開催されます。ここで初めてのメジャー大会開催は2002年の全米オープンでした。当時USGAはタイガーをターゲットにコース改造とセッティングを行いました。しかし当時のタイガーは彼らの思惑を遥かに超えるパワーと技術を見せつけ、悪天候の中、—3アンダーで優勝したのです。アンダーパーを出したのはタイガー一人でした。USGAはタイガーに完敗したのです。
イーブンパーから−5アンダーパー位までを優勝スコアの基準に考える全米オープンに比べ、全米プロはトッププロたちの華麗な技術を魅せる舞台作りを大会のテーマとしてきました。バーディ合戦、それはミスショットによるパーでの逆転ではなく、バーディでの逆転劇を演じさせるものでした。しかしそれらはけしてヤーデージを易しくセッティングするものではなく、むしろ全米オープン並のトータルヤーデージで、スーパードライブをヒロイックに演出、観衆を魅了させることでした。ホールロケーションもそれに合わせたセッティングにしています。昨年タイガーはケプカに敗れたとは言え、この大会で復活への兆しを見せました。トータル7,436ヤード、パー70での今大会、タイガーはこのモンスターコースをどのように攻略していくのでしょうか。
※Bethpage State Park Black Course
全英オープン(The Open)
今年の全英オープンは、1951年大会以来となる北アイルランドのロイヤルポートラッシュ・ダンルースコースで開催されます。この大会に備え、コースはアウトの一部をレイアウトから大きく改造し、インの改造も含めルーティングも大幅に変更しました。
世界のベストパー3の一つとされるCalamity Cornerは14番から16番ホールになった。トータルヤーデージは最大で7,337ヤード、しかしロングヒッター達を最も悩ますのは数あるドッグレッグポイントへの風の計算でしょう。このコースはリンクスでも珍しいほどはっきりとしたドッグレッグホールが多い。タイガーがもし勝つとすればここがポイントになるかも知れない。
※大改造により生まれ変わったRoyal Portrush GC
タイガーはニクラウスを超えられるか。
タイガーが11年ぶりのメジャー制覇を達成したその瞬間から、メディアは「タイガー・ウッズ、ニクラウスへの再挑戦」と謳い出しました。しかし仮にタイガーがニクラウスの7度のグリーンジャケット、18度のメジャー制覇を超えたとしても、タイガーが帝王ニクラウスを超えた史上最強のゴルファーと称されるのでしょうか。
まず二人のマスターズの戦歴を比較してみましょう。
■タイガー・ウッズ ※( )トータルスコア
1995: 72-72-77-72—293 (+5), T41位 アマ
1996: 75-75—150 (+6), 予選落ち アマ
1997: 70-66-65-69—270 (-18), 優勝
1998: 71-72-72-70—285 (-3), T8位
1999: 72-72-70-75—289 (+1), T18位
2000: 75-72-68-69—284 (-4), 5位
2001: 70-66-68-68—272 (-16), 優勝
2002: 70-69-66-71—276 (-12), 優勝
2003: 76-73-66-75—290 (+2), T15位
2004: 75-69-75-71—290 (+2), T22位
2005: 74-66-65-71—276 (-12), 優勝
2006: 72-71-71-70—284 (-4), T3位
2007: 73-74-72-72—291 (+3), T2位
2008: 72-71-68-72—283 (-5), 2位
2009: 70-72-70-68—280 (-8), T6位
2010: 68-70-70-69—277 (-11), T4位
2011: 71-66-74-67—278 (-10), T4位
2012: 72-75-72-74—293 (+5), T40位
2013: 70-73-70-70—283 (-5), T4位
2014: did not play (injury) 不参戦
2015: 73-69-68-73—283 (-5), T17位
2016: did not play (injury) 不参戦
2017: did not play (injury) 不参戦
2018: 73-75-72-69—289 (+1), T32位
2019: 70-68-67-70—275 (-13), 優勝
優勝5回 2位2回 TOP10入り 14回
■ジャック・ニクラウス (1940年1月21日− )
1959: 76-74—150, 予選落ち アマ
1960: 75-71-72-75—293, T13位 アマ
1961: 70-75-70-72—287, T7位 アマ
1962: 74-75-70-72—291, T15位
1963: 74-66-74-72—286, 優勝
1964: 71-73-71-67—282, T2位
1965: 67-71-64-69—271, 優勝
1966: 68-76-72-72—288, 優勝 (プレーオフ)
1967: 72-79—151, 予選落ち
1968: 69-71-74-67—281, T5位
1969: 68-75-72-76—291, T24位
1970: 71-75-69-69—284, T8位
1971: 70-71-68-72—281, T2位
1972: 68-71-73-74—286, 優勝
1973: 69-77-73-66—285, T3位
1974: 69-71-72-69—281, T4位
1975: 68-67-73-68—276, 優勝
1976: 67-69-73-73—282, T3位
1977: 72-70-70-66—278, 2位
1978: 72-73-69-67—281, 7位
1979: 69-71-72-69—281, 4位
1980: 74-71-73-73—291, T33位
1981: 70-65-75-72—282, T2位
1982: 69-77-71-75—292, T15位
1983: 73, 棄権
1984: 73-73-70-70—286, T18位
1985: 71-74-72-69—286, T6位
1986: 74-71-69-65—279 優勝
1987: 74-72-73-70—289, T7位
1988: 75-73-72-72—292, T21位
1989: 73-74-73-71—291, T18位
1990: 72-70-69-74—285, T6位
1991: 68-72-72-76—288, T35位
1992: 69-75-69-74—287, T42位
1993: 67-75-76-71—289, T27位
1994: 78-74—152, 予選落ち
1995: 67-78-70-75—290, T35位
1996: 70-73-76-78—297, T41位
1997: 77-70-74-78—299, T39位
1998: 73-72-70-68—283, T6位
1999: Did not play 不参戦
2000: 74-70-81-78—303, T54位
2001: 73-75–148, 予選落ち
2002: Did not play 不参戦
2003: 85-77—162, 予選落ち
2004: 75-75—150, 予選落ち
2005: 77-76—153, 予選落ち
優勝7回 2位4回 TOP10入り23回
43歳時まで 優勝6回 2位4回 TOP10入り18回
ニクラウスの43歳時までの記録を見ると、タイガーは故障やスキャンダルから3度の不参戦があったにせよ、帝王とほぼ互角の成績を残していると言えるでしょう。ニクラウスが最後にTOP10入り(−5アンダー 6位)を果たしたのは98年、58歳の時です。つまりニクラウスが期待するように、43歳のタイガーが向こう10年でグリーンジャケット獲得の新記録を作る可能性はないとは言えないのです。
ちなみにグリーンジャケット4度制覇のアーノルド・パーマーのマスターズにおける 戦歴は以下のようになります。
■アーノルド・パーマー(1929年9月10日 – 2016年9月25日)
1955: 76-76-72-69—293, T10位
1956: 73-75-74-79—301, 21位
1957: 73-73-69-76—291, T7位
1958: 70-73-68-73—284, 優勝
1959: 71-70-71-74—286, 3位
1960: 67-73-72-70—282 優勝
1961: 68-69-73-71—281 T2位
1962: 70-66-69-75-280 優勝(プレーオフ 68)
1963: 74-73-73-71—291, T9位
1964: 69-68-69-70—276, 優勝
1965: 70-68-72-70—280, T2位
1966: 74-70-74-72—290, T4位
1967: 73-73-70-69—285, 4位
1968: 72-79—151, 予選落ち
1969: 73-75-70-74—292, 27位
1970: 75-73-74-73—295, T36位
1971: 73-72-71-73—289, T18位
1972: 70-75-74-81—300, T33位
1973: 77-72-76-70—295, T24位
1974: 76-71-70-67—284, T11位
1975: 69-71-75-72—287, T13位
1976: 74-81—155, 予選落ち
1977: 76-71-71-70—288, T24位
1978: 73-69-74-77—293, T37位
1979: 74-72—146, 予選落ち
1980: 73-73-73-69—288, T24位
1981: 75-78—153, 予選落ち
1982: 75-76-78-80—309, 47位
1983: 68-74-76-78—296, T36位
1984 -2004 予選落ち 43歳時まで 優勝4回 2位2回 TOP10入り12回
1958年、パーマーがマスターズ初優勝を果たしたのは28歳の時、それから67年までの10年間、彼は4度の優勝と2度の2位を含むすべての年でTOP10入りを果たし、まさに全盛期でした。ニクラウスが23歳の若さで初めてグリーンジャッケットを手にした時、前年覇者のパーマーがニクラウスにグリーンジャケットを着せ、翌年パーマーが優勝をすると今度はニクラウスがパーマーにグリーンジャケットを渡し、更に次の年にはニクラウスがリベンジを果たし、パーマーがまたニクラウスにグリーンジャケットを着せる、そんなシーンに全米中が湧いた米国の良き時代でもありました。
さてタイガーが今後メジャー大会でどれだけの活躍を見せるか、腰がまだ完璧な状態ではなく、無理のないローテーションで挑むという彼のコメントから、徹底したコース分析とそのマネージメント能力の高さを武器に挑戦してくるでしょう。つまり勝てる大会と勝てない可能性の高いコースの分析も同時に行ってくるならば、タイガーは故障に悩まされずニクラウスのメジャー18度の記録を破る可能性は十分に生まれると思います。 ただ一つ、タイガーが今後どれだけの活躍を魅せようが帝王の地位を揺るがせないものがあります。それは4大メジャーにおけるRunner Up(2位)の数、ニクラウスは何と18度の優勝を果たしながら、19度も2位を記録していることです。その中でニクラウスは何故かリー・トレビノにプレーオフも含め4度も敗れています。
※メキシコ移民の貧しい家庭からトッププロに這い上がっていたトレビノ。その独特なスウィングと愛らしいキャラクターはファンを魅了し続けた。彼も偉大なるレジェンドである。
※マスターズの偉大なるHonorary Golfer達の若かかりし頃。1960年から66年までグリーンジャケットはこの3人が手にしていた。
※2019年マスターズ、クラブハウスから。
Text by Masa Nishijima
Photo credit by Larry Lambrecht, Jon Cavalier, Joann Dost, GOLF Magazine,
Royal Portrush, GOLF.com