*オーラに包まれていたかつての広野GC      Photo by Masa Nishijima

 

  1990年代半ば、低予算でゴルフコースを造成する事をテーマに、戦前のクラシックコース設計の定義とその造成法を回帰させる事がトレンド化し、モダンクラシックコース時代が幕を開けました。ディベロッパーの多くは、造成予算が低く抑えられる土地の素材を求め、クラシック理論に長けたコース設計家達にプロジェクトを任せる時代へと入っていきます。そしてUS Openなどトーナメントの舞台となる戦前からの名門コースのオリジナルへの復元作業(Restoration)もブームを呼ぶことになります。
それら名門コースの古きセピアカラーの写真を見ると、コース内に樹木がない広大な大地の写真が登場してきます。その用地は元々樹木など生えていないムーアランドのような台地の地形だったのか、又は大陸横断鉄道の枕木や住宅などに活用する為、樹木を大量に伐採し、レイアウトを構成していったのか、記録が残されていない場合、コース用地となったその場所の周辺の景観から判断することも出来ます。
これらの写真やオリジナルの図面を検証していくと、開設された当時のコースの戦略性が今とは明らかに違い、それらは樹木の植栽が長きに渡り行われ、ホール幅が狭くなった事から生まれたりもしました。つまりグリーンを多角的に捉えた攻略ルートが単純化されてしまったのです。下記の写真の名門オークモントCCが良い例で、戦後はホール間に植栽が行われ、攻略ルートが一本のターゲットコースになり、クラシックの特徴を失くしていました。1994年のUS Open開催を機に、樹木が伐採され、現在ではオリジナルに近い状態に戻っています。

 

*1920年代のOakmont CC, 戦後ホール間に植栽が行われたが、1990年代から2000年代にかけて、オリジナルへの復元をテーマに10,000本もの樹木が伐採された。   Photo Credit by Oakmont CC

 

今世紀以降に発表されたモダンクラシックコースは、これらオリジナル復元の理念をもとに、樹木は開発規制上の問題などからコースの外周のみとし、コース内に樹木をあまり配列しない作品の方が高い評価を受けやすいという風潮が広がりました。ウィスコンシンのサンドヴァレーリゾート(Sand Valley Golf Resort)、テキサスのトリニティフォレスト(Trinity Forest)やオムニPGAフリスコ(Omni PGA Frisco Golf Resort)、サウスカロライナのオールドバーンウェル(Old Barnwell)などはその代表的なものでしょう。
モダンクラシック時代を築いたクラシック派のコース設計家たちの中には、樹木とホールのバランスをランドスケープに取り入れたモダンコース時代のトレンドを否定する人たちも少なくありません。

 

* Trinity Forest GCダラス郊外のCoore & Crnshaw設計の作品、コースの外周は森林で覆われているが、 コース内にはほとんど樹木が植えられていない。 Photo credit by Trinity Forest GC

 

しかし昨今の気象の変化は、洪水を引き起こすほどの大量の雨や、逆に雨が降らず、干ばつから起こる乾燥した空気が山火事を多発させるなど、それまで経験したことのない自然災害が起こっています。環境問題を考えた時、ゴルフコースはこのままの状態で良いのでしょうか。樹木を植栽する義務はないのでしょうか。

 様々な意見が出る中、モダンコース時代のForest Course(林間コース)回帰論が登場してきます。
ではそのモダンコース時代のコースと樹木の関わりとはどのようなものだったのか、その一部を解説しましょう。
その作品の特徴は、樹木でホールをセパレートする美観性、それをフォトグラファー達は樹木がホールの額縁を形成していたと語ります。モダンコース時代を築いた著名設計家たちの中で、リース・ジョーンズ(Rees Jones),ジャック・ニクラウス(Jack Nicklaus),トム・ファジオ(Tom Fazio)は、*Tree Lineの形成など、樹木を巧みにコースの戦略性に取り入れる天才肌の持ち主でした。
ニクラウスなどは造成前の樹木が茂る用地に入ると、設計スタッフたちに「この木とあの木は伐採せずに残せ」等の指示を出し、コースが完成するとそれらの木がプレーのターゲットラインを示すものとなる例が多くありました。リース・ジョーンズはドッグレッグラインの外周に樹木を並べ、それをターゲットにドロー、フェイドのスーパーショットを要求する*Tree Lineを巧みに戦略に取り入れました。ファジオはグリーンコンプレックスの周りに樹木を活用し、その視界の焦点となる「ダイヤモンドカッター」とも称された美しいグリーンとそのサイドバンカーの美観性を引き立たせました。

 

*Rees JonesがリノベーションしたHamilton G&CC(カナダ)  Photo by Larry Lambrecht

 

 

樹木とコースのランドスケープを重視している豪州と欧州の名門。

 

*Royal Melbourne  East Course #16    Photo credit by Gary Lisbon  

 

モダンコース時代の1950〜80年代、難易度を上げる為や美観性を重視する傾向から、大量の外来樹木や木々を意図的に植樹しました。しかし数十年が経ち、それらの樹木は大きく成長し、グリーンやティーインググラウンドに影を作り、日照不足や風通しの悪化を招き、更に木々の根が水や養分を吸い上げてしまう事から、芝生の病気や枯死を引き起こす原因とも言われました。それはオリジナル設計への復元、回帰作業がブームとなる理由の一つでもありました。
世界的な傾向として米国だけでなく欧州や豪州でも、コース戦略や芝の健康のために不要な樹木の伐採(Tree Removal)が進められています。
しかしながら欧州や豪州の内陸部のコースでは、樹木がより厳格に保全・尊重される印象が強く、大規模な伐採が行われる米国とはやや異なる傾向にあるように感じます。
この点については、ゴルフコースの誕生背景、コース設計への思想、そして先ほど述べた気候・生態系の違いに明確な理由があるように思われます。

 

*Utrechtse GC “De Pan”  #10 ホール  オランダ   設計H Colt & C.H.Alison Phto Credit by Frank Pont

 

欧州・豪州で木が大事にされているのは、もともとは原生林が作り出す自然の景観性の中に、ゴルフコースを溶け込ませるかのように一体化させる事を重点に置いている事です。環境保護の観点や生息する動物達の為にも必要以上に伐採・植樹を行わない傾向が強くあります。
しかし現在彼らのゴルフ場でも、芝の健康を損なう外来種や大きくなりすぎた雑木の伐採は盛んに行われており、必要な木々を残し、有害な木を取り除く選択的伐採がトレンドとなっているようです。
トーナメントにおけるゴルフコースでの樹木伐採は、コース管理やトーナメント運営側にとって、芝の健康とトーナメントに必要なコース戦略、ギャラリーのためという理由が正当化されますが、プライベートクラブの場合、景観破壊やコースの伝統を重んじ、運営側と激しい衝突の上、開催を断るクラブもいくつかありました。例えば日本の龍ヶ崎CCがそれを理由に日本オープン開催を断っています。ユニークなところでは、関東の某名門で数本の樹齢本を伐採するのにメンバーの弁護士や医師たちが裁判を起こすと反対する騒ぎがあった事を耳にしたことがあります。

 

*開設してまもない頃の川奈ホテル富士コース。

 

世界的に樹木の伐採は環境保護団体からの批判として、野鳥や小動物の生息地(バイオトープ)を壊している。温室効果ガス削減に逆行している。として、ローカルな環境NGOや自然保護団体から抗議を受けている例が多く見られます。つまりゴルフコースだけが特別ではないという主張が彼らから出てもおかしくはないのです。
特に「公営のゴルフコース」や「歴史的価値のある土地」での伐採は、裁判や行政問題にまで発展することがあります。
この連載でもお伝えしましたワシントンD.Cのイーストポトマックゴルフリンクスにおける伐採停止命令。トランプ大統領によるコース改造プロジェクトにおいて、何百本もの樹木が伐採された際、環境保護団体や住民が反発し、連邦裁判所が伐採停止命令を出す事態に発展しました。それでも政府側は伐採を止めず、既に桜の木も含め、430本が伐採されました。
欧州や豪州では例え敷地内の樹木であっても行政の事前許可なしに伐採することが法律で禁止されている地域が多く存在します。勝手に切ると高額な罰金が科されるため、コース側が伐採したくても行政や住民審査を通すのに何年もかかり、結局反対多数で断念するケースも少なくありません。
今世紀に入っての気象状況の変化、ゴルフコースの置かれている立場も、ゴルファー目線だけでの判断では許されない時が来ているのかも知れません。
モダンクラシックコースからモダンコース時代への回帰論?  時代は常に繰り返します。

 

 

 

Text by Masa Nishijima

Photo by Masa Nishijima, Larry Lambrecht, Gary Lisbon, Trinity Forest GC, Oakmont CC,

Frank Pont, Kawana Hotel.