2022年、オーガスタナショナルGC12番ホールに隣接するオーガスタカントリークラブの土地の一部を購入し、13番ホールのティーインググランドを35ヤード後方に延長し、更にクラブ施設と私道を作った話は以前、お話させて頂きましたが、オーガスタナショナルはマスターズ用の駐車場の拡張を中心にそれに伴い、大会用の新しい施設などの建設を続けています。マスターズ大会は45年振りとおっしゃるパトロン(ギャラリー)の方にとって、オーガスタナショナルの周辺の環境の変化にもきっと驚かれるかも知れません。
GOLF.comのエディターの一人、Sean Zak氏は、公にされないそれらの計画を調査し、オーガスタナショナルの将来あるクラブの進化をリポートしました。今回は彼のそのリポートを翻訳し皆様にご紹介したいと思います。そしてそれらの計画は、GOLF Atmosphere連載 No.110号「名門ゴルフクラブの秘話」オーガスタナショナルに秘められたボビー・ジョーンズとクリフォード・ロバーツの壮大な計画で、女性メンバー用の第2コース計画と厩舎とブライドルパスの建設など、大恐慌の不況が長引き、完成に至らなかった秘話を
ご紹介しましたが、それをぜひ再読されてからSean Zak氏のリポートを読んで頂くと、彼が伝えたいオーガスタナショナルの将来像がご理解出来るかと思います。毎年マスターズ大会で莫大な収益を得ているオーガスタナショナルGC、かつて創設者二人が夢見た空想の世界を描こうとしているのかも知れません。

それではSean Zak氏のリポートをご紹介します。

 

*1930年幻となったオーガスタナショナル第2コース計画の予定地

 

オーガスタ・ナショナルの秘密の5億ドル規模の不動産帝国の内情。

(GOLF.com)

 マスターズが開催されるオーガスタ・ナショナルに目を向けると、誰もがこの世界で最も有名なゴルフクラブは厳格で不変なものだと感じます。その伝統は揺るがず、2604ワシントン・ロードの門の内側にあるすべては変わらないように思えます。 

しかし現実にオーガスタ・ナショナルが所有するすべての所有権は、基本的に毎月のように変化しており、過去25年間、静かながら大きく変化し続けてきました。オーガスタ・ナショナルの所有地は、新たな不動産取得に28000万ドル以上を投じたことで、およそ5億ドル規模の帝国へと進化し続けています。しかしマスターズ大会で莫大な利益を作り出すこの厳格なプライベートクラブからすればおそらく驚くことではありません。しかしこれらの購入は不動産取引の秘密のベールの下で行われているという点に注目です。それらは登記上、分かりにくい名前のLLC(合同会社)を通じて行われており、GOLF.comはそれらを追跡・整理し、この地図に纏めています。 

 

 

その始まりは、マスターズの観客(以下、パトロン)を念頭に置いた目的からでした。
マスターズは何十年にもわたって来場者特典として無料駐車場を提供してきましたが、1980年代から90年代にかけては、その駐車スペースには限りがありました。駐車場は先着順のため早い段階で満車となり、遅れて到着した人々はワシントン・ロードを挟んだ近隣の住宅地で駐車場所を探さざるを得なかったのです。
今世紀に入ると、来場者用の駐車場の大半は当時の敷地の北西角にあり、写真に示されている場所でした。現在はドライビングレンジとメディアセンターが建っています。
オーガスタナショナルがいつ駐車場の拡張が必要だと判断したのかは不明ですが、その頃が転機だったように思えます。200173日、「Berckman Residential Properties(バークマン・レジデンシャル・プロパティーズ)」という名のLLCの州の法人記録によれば、設立以来、オーガスタ・ナショナル周辺の土地を買い集め続けているようです。

 

 

オーガスタ・ナショナルの歴史をご存知でない方に「バークマン・レジデンシャル」という名前は少し不思議に思えるかもしれませんが、オーガスタナショナルの誕生についてご存知の方は「えっあのバークマン家?」とお気づきになられるでしょう。1800年代後半から1900年代初頭にかけて、バークマン家は現在のオーガスタ・ナショナルが建つ土地を所有し、この丘で園芸苗木場を営んでいたベルギー出身の旧男爵家一族です。

 

*Berkman’s Family        Augusta Magazine

 

彼らはアメリカ南部に多くの植物種を導入し、その中には世界で最も有名なゴルフトーナメント、マスターズのホール名の花のインスピレーションになっているものもあります。
バークマンズ・プレイスは、クラブの南西角にあるマスターズVIPのための高級ホスピタリティエリアである。また、バークマンズ・ロードはクラブ西側に沿って付け替えられた道路で、その周辺には2010年代に新たな駐車場が整備されました。

バークマン・レジデンシャル・プロパティーズはクラブ西側の多くの住宅や土地を購入し、それらを商業用途に用途変更した上で、市当局の許可を得てマスターズ用の駐車場として再利用しました。それ以外の年間51週間は、その土地の大半はほぼ空き地のままです。芝は刈られ整えられています。しかし、これらの土地が正式に駐車場として使われるようになるまでは、購入者がオーガスタ・ナショナルであることは明らかではなかったのです。なぜならクラブは購入時に自らの名前を出していなかったからです。
しかし記されていた所有者の住所でそれが解明されるようになります。
クラブ周辺で購入されたほとんどの区画の不動産売買記録には、その土地の真の所有者を示すほぼ一貫した記載が埋もれています。
多くの場合、所有者の住所は「2604 Washington Road」とされており、これはオーガスタ・ナショナルの正式住所です。また別の場合には、オーガスタ・ナショナルの商用私書箱である「P.O. Box 2086」と記載されています。
長年にわたり、多くの分かりにくい名前のLLCが、ジョージア州法人部に提出された公式記録の中でそれらの住所を使用してきました。年月が経ち、特定の買収についてのほこりが落ち着くのを待つ中で、それらのLLCBerckman Residential Propertiesに統合され、その後オーガスタ・ナショナルによる新たな存在へと姿を変えていきました。 

Big Tree LLC」や「The Greens on Washington Road Ventures LLC」を例に取ると、これらは合計で1,600万ドル以上を投じ、かつてIHOPやストリップモールがあった場所を立ち退かせ、マスターズの壮大なグローバル放送センター施設及び、コンテンツセンターを建設しました。その規模は全米中で話題となり、トーナメント業界をリードするものでしたが、それはあくまで始まりに過ぎませんでした。 
これらの土地の一部は2000年に購入されており、それはクラブが反対側の境界沿いで駐車場拡張に動き出した時期と重なります。コース西側の住宅区画の大半は過去15年間で買収されており、GOLF.comが調査した数百件の売買記録によると、その価格帯は多くが30万ドルから50万ドルでした。売却価格はしばしば評価額の2倍から3倍に達するものもありましたが、中にはさらに高額で取引された物件もあり、例えばBerckmans Placeの通り向かいにあった最後まで残っていた区画がその例の一つとして挙げられます。2012年時点ではその土地は私有のままで、周囲の土地は次々と買収され整地されていきます。そして2013年、その土地は356万ドルで売却された。そして2015年にはかつてプールがあった裏庭を貫くように新しい私道が舗装された。

 

 

 

ある住宅所有者で、バークマン・レジデンシャルへの売却を断固として拒否したことで有名な夫婦がいました。スタンレー・ロード1112番地の家は、周囲のほとんどの住宅がマスターズの駐車場用地として取り壊されていく中、この家だけが残されたのです。長年の所有者であり、現在は故人となったハーマン・タッカーとエリザベス・タッカーが、オーガスタ・ナショナルからのあらゆる買収の申し出を拒んだからです。

「私たちはどこへ行けばいいんだ?」2019年に亡くなったハーマンは、2017年のGOLF.comのインタビューでそう語りました。

「ここは私たちの家だ。ここが大好きなのです。」

それでも、オーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブ(ANGC)の不動産戦略には「時の流れ」という要素があります。このゴルフクラブは、どの隣人よりも長くここに存在し続けなければなりません。

エリザベス・タッカーは昨夏に亡くなるまでこの家を所有していました。タッカー夫妻が土地と家を誰に引き継いだのか、また今後どうなるのかは不明です。しかし、この地域の多くの住宅は信託や遺産として引き継がれ、元の所有者の死後数年以内に売却されることが多いのです。中には、所有者の死去と同時にオーガスタ・ナショナルへ譲渡される契約もありました。2026年のマスターズ時点で、コース南西にある物件のうち、バークマン・レジデンシャルが所有していないものはわずかしか残っていません。

GOLF.comは、その数少ない「売らない側」の一人であるジョージ・ランサムに話を聞きました。彼は近くのマーゲート・ドライブに住んでいます。ランサムは長年に渡りこの地域におけるマスターズ大会の意義とその目的を見てきました。かつては「巨大なパーティー」だったが、今では「ディズニーランドのような巨大なアトラクションのようだ」と彼は語ります。この変化にはクラブ側も多額の費用を費やしてきたが、ランサムは「どの点においても非常に理にかなった良い隣人だった」と述べています。

しかし彼は、重要なことも仄めかしました。
「彼らには50年計画がある」とランサムは言います。「そして私たちはその中のほんの小さな一部にすぎないのです。」
大まかに言えば、オーガスタ・ナショナルのいわゆる「計画」とは、外側へ拡張していくことだと説明出来ます。ゴルフ・ダイジェストの記者ジョエル・ビールが2024年に詳しく報じた一件があります。ビールはクラブ会員や元従業員に取材し、30年から40年先にクラブとその象徴的なトーナメントがどのような姿になっているかを探った。要するに、それはあらゆる方向にさらに多くの土地を取得することを意味します。

クラブは2024年、東側の境界に沿った公共公園を購入し、そのほぼすべての隣接地も取得しました。WSQ, LLCを通じて、ワシントン・ロードを挟んだナショナル・ヒルズ・ショッピングセンターを取得し、その一角を「マップ・アンド・フラッグ」という新しい企業向けホスピタリティ施設に改装しました。さらにワシントン・ロード沿いでは、UberLyftといった配車アプリの降車場所の近くにあるPublixが入る土地も購入しています。現時点ではPublixはまだ撤退していないが、結論は明白です。マスターズ運営は、たとえ年に1週間だけであっても、こうした土地取得と密接に連動しているのです。
かつてワシントン・ロードには、WSQ, LLCが所有する土地にHootersがありました。しかし2025年初頭、アメリカのHootersが破産を申請し、全国規模の縮小を決定したことで状況は一変しました。8ケ月後、そのHootersは取り壊され、跡地は砂利で覆われました。もし何も建てられなくても誰も気にしないだろうし、何かが建てられるなら、それはオーガスタ・ナショナルの判断によるものです。世界で最も有名なクラブの周辺では、多くのことがそのように進んでいきます。メディアとしてそれらすべてを追い続けるには、常に注意を払い続ける必要があります。そしてデータ管理できるスマートフォンの電卓も必要でしょう。ゴルフ・ダイジェストの報道の中で、特に印象的な一文があります。
それらの費用に関して、ある会員はこう語った。「どんな額を想像しても、それはきっと外れるでしょう。それほど膨大なものです。」
   by Sean Zak.

 

 

 

Text by Sean Zak, Masa Nishijima  対訳編集 Masa Nishijima

Photo Credit by GOLF.com, Augusta National, Augusta Museum of History.